ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

文字の大きさ
29 / 200

第29話 ラッシュバードのいる生活

しおりを挟む
「あははは、可愛いですね」

 アマリス様が笑っていらっしゃいます。
 ラッシュバードのヒナが無事にかえりまして、私とアマリス様はかえったばかりのヒナを抱きかかえています。もちろん、べたべたは魔法できれいに取り除きましたよ。そのままでは触れませんからね。

「すっかり懐かれてしまっていますね、お二方とも」

「はい、鳥類に多く見られる刷り込みという現象です。生まれて最初に見た動くものを親として認識するというものですね」

「そのようなことがあるのですね。ラッシュバードは人に懐かない魔物で有名ですが、このような方法があるとは思いませんでした」

 私たちの姿に、イリスもハンナも驚きを隠せない様子です。
 ちなみにですが、私たちに懐くラッシュバードたちは、ちょうどオスメスが一羽ずつになっています。もちろん鑑定魔法にかけてそうなるように仕向けたのですが、狙い通りになるとつい笑ってしまいますね。
 これで成鳥となって繁殖の時期を迎えると、無事に増やすことができそうです。
 問題があるとすれば、アマリス様に懐かれた二羽の方でしょうね。このままですとアマリス様と一緒に城に戻ることになりますから、いろいろとお世話が大変そうです。せめて、ハンナにだけでも懐かせておきませんとね。

「ハンナも抱えてみますか?」

 私がいろいろと気になっている中、アマリス様がハンナに自分の抱えているラッシュバードを抱かせようとしています。これはナイスです。

「よ、よろしいのでしょうか」

「はい、私が学園に通う様になれば、世話を任せることになるかもしれませんからね。もしこの子たちが私についてくれば、そうなる可能性が高いんです」

「畏まりました。それでは、失礼致します」

 ハンナはおそるおそるラッシュバードのヒナをアマリス様から受け取ります。
 まだ小さなヒナとあってか、思った以上におとなしいですね。
 抱きかかえたハンナの顔が一瞬で緩んでいますね。

「これが魔物だなんて、信じられませんね」

「はい、本当にです」

 私たちがラッシュバードに構っていると、ノームたちがやって来る。

『無事にかえったようだね』

『餌なら僕たちに任せる』

 餌、そういえば忘れていました。
 小さい頃は地中の虫なんかを食べるんでしたっけか。どうにも記憶が曖昧過ぎてはっきりとは分かりませんね。

『小さな虫で合ってる。土の中は僕たちの領域、任せるー』

 言うことだけ言うと、ノームたちはさっさと部屋から出て行ってしまいました。まったく、慌ただしいですね。
 ふっとため息をついた私は、じっと見つめる視線に気が付きます。

「イリス?」

「はっ! な、なんでしょうか、レチェ様」

 私が声をかけると、慌てたように姿勢を正していますね。
 そのおかげで、何を考えていたのか、手に取るように分かりますよ。自分も抱きたいのですよね、そうですよね?

「イリスもどうですか?」

「よ、よろしいのでしょうか」

「はい、どうぞ」

「そ、それでは抱かせて頂きます」

 私がそっと手渡すと、イリスはおそるおそる受け取っています。

「可愛い……」

 イリスの顔も、いつにもなく緩みきっていますね。
 魔物であっても、子どもなら可愛いのですよ。
 さて、この子たちですけれど、どのくらいで成鳥になるのでしょうかね。
 普通のダチョウと同じだとするならば、大きくなるのはそう時間がかからないでしょうが、繁殖はまだまだ先になります。
 まあ、この子たちは魔物なので同じと考えてはいけないのでしょうが、参考にはできます。

 アマリス様が王都に戻られるまではまだ五か月ほどの日数がありますから、その時のことはその時に考えましょう。
 勉強を教える時になったら、私かイリスかハンナの誰かが面倒を見るようにすればいいでしょうね。
 ギルバートですか?
 彼でしたら、ラッシュバードのヒナたちから嫌われたようですので、近寄らせないことに決まりましたよ。
 巣の襲撃を受けた時は卵だったというのに、分かっているみたいです。これも動物の神秘というものでしょうか。

「さて、将来的には私たちから離さなければなりませんから、今から小屋の改良をしてきましょう」

「何をなさるおつもりですか、お姉様」

 私が小屋から出て行こうとすると、アマリス様に呼び止められます。
 くるりと振り返った私は、笑顔でにっこりと微笑みます。

「この子たちが将来的に住むことになる小屋に、寝床となる小部屋を作ってくるんです」

「見せて頂いてもよろしいですか?」

「もちろんですよ。ヒナたちも連れて行きましょう」

 私たちは小屋を出て、建てたばかりの鳥小屋へと移動していきます。
 ここには囲いだけのスペースと私たち用の屋根付きの作業スペースだけしかありません。すっかり寝床のことを忘れていたんですよ。
 それで、今思い出して追加しに来たというわけです。

「ここら辺でいいでしょうか」

 私は私たちの作業用スペースの横に寝床用のスペースをあっという間に作り上げます。
 魔法を使えば一瞬ですからね。すっごく便利ですよ。

「お姉様の魔法って、本当にすごいですね。普通はこんな一瞬で完成しませんよ……」

「これを見せられると、理由は分かっていても落ちた現実に納得できませんね……」

 アマリス様もハンナも呆れていました。

 とにもかくにも、こうして私たちとラッシュバードの生活が始まったのです。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

転生してきた令嬢、婚約破棄されたけど、冷酷だった世界が私にだけ優しすぎる話

タマ マコト
ファンタジー
前世の記憶を持って貴族令嬢として生きるセレフィーナは、感情を見せない“冷たい令嬢”として王都で誤解されていた。 王太子クラウスとの婚約も役割として受け入れていたが、舞踏会の夜、正義を掲げたクラウスの婚約破棄宣言によって彼女は一方的に切り捨てられる。 王都のクラウスに対する拍手と聖女マリアへの祝福に包まれる中、何も求めなかった彼女の沈黙が、王都という冷酷な世界の歪みを静かに揺らし始め、追放先の辺境での運命が動き出す。

処理中です...