ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第55話 エッグ

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 公爵領での二年目の生活が始まってしばらくすると、私たちに変化が訪れます。
 それは、スピードとスターの様子を見に行った時のことでした。

「あれ、今日はおとなしいですね」

 いつもなら私を見ると駆け寄ってくるはずのスピードとスターが、今日に限って駆け寄って来ないのです。何があったのでしょうか。
 気になる私は奥へと進んでいきます。
 スピードとスターは、自分たちの寝床にいました。

「ああ、よかった。いたのですね」

「ブフェッ!」

 私が声を掛けると、元気よく鳴いてくれます。相変わらず、すごい声ですけれど。
 鳴き声についびっくりしますが、よく見るとスターは立ち上がり、スピードが座っています。これはどういうことでしょうか。
 状況の分からない私が困っていると、ノームがやってきました。

『おはよう、主』

「あら、おはようございます。スピードとスターはどうしたのでしょうか」

 気になりますので、私はノームたちに状況を尋ねます。

『ああ、それなら卵だよ。スターが卵を産んだんだ』

「え、ええ?!」

 私は大声で驚いてしまいます。
 なんということでしょうか。ラッシュバードが卵を産んだのだそうです。一体いつの間になのでしょうか。

『この間帰ってきてからすぐだよ。そのうち卵がかえるだろうから、ここも一気ににぎやかになるだろうね』

 ノームはなんとものんきなことを言っています。
 まさか生まれてから一年で卵を産むまでになるとは思ってもみませんでした。
 スピードとスターの様子を見ながら、私は驚きでしばらく動けません。

『ほとんどは名づけだね。あれで一気に成長速度が速まったからね』

「な、なるほどぉ……」

 そういえば、生まれた時に名づけをしましたね。それで、私の場合はオスにスピード、メスにスターと名付けたのでした。

「ということは、アマリス様の方も」

『うん、卵を産んでいると思うよ。向こうはアクエリアスに任せておけばいいよ。彼女もその辺の知識は持ち合わせているし。僕たちよりも人間と意思疎通ができるからね』

「ふむふむ……」

 私はノームの言うことを信じてみることにします。
 とはいえ、お城も魔物を育てるなんていうのは初めてでしょうから、戸惑っているでしょうね。
 私とノームが話をしていると、ごそごそとスターが動きます。
 頭で突いて卵を一個転がしてきました。

「あら、どうしたのかしら」

『ああ、こいつはただの卵だね。どんなに頑張ってもかえることのない卵みたいだよ』

「……無精卵ですか。分かるのですね、スターってば」

 ノームの説明に驚いて、私はスターの顔を見ます。
 スターは私が顔を向けると、こくりと頷きました。どうやら、彼女は無精卵が判別できるようです。
 それで、生まれない卵を私に渡してきたというわけですね。

『どうしたんだい、もらわないのかい?』

 ノームが声をかけてきたことで、ようやく私は我に返ります。

「はっ、そうでした。でも、いいのですか?」

 私はスターに問いかけます。

「ブェッ」

 スターは首を縦に振りながら鳴きました。どうやら本当にいいようです。

『主が卵を欲しがっていることを知ってるからね。だから、生まれないと感じた卵をすぐさまくれたんだと思うよ。素直に受け取っておこう』

「そうですね。ありがとう、スター」

「ブェブェッ!」

 スターは羽をバタバタとさせています。本当に嬉しそうですね。
 私は卵を受け取る前にスピードとスターを優しく撫でておきます。

「それでは、早速使わせて頂きますね」

 私はしっかりと頭を下げてお礼を言うと、鳥小屋から立ち去ったのでした。

 小屋に戻った私は、早速卵を使って料理をすることにします。

「で、それがラッシュバードの卵というわけですか」

 卵を見たイリスがびっくりした表情を見せています。

「はい。無精卵らしくて、スターが譲ってくれました」

「なんですか、その無精卵というのは」

「いくら頑張って温めても、ヒナが生まれない卵のことです。こういった卵は、おいしくいただくことができるんですよ」

「そうなのですね」

 イリスに説明すると、彼女は一発で理解したようですね。
 さて、料理を始める前に、浄化魔法で表面をきれいにしておきます。
 前世の世界ではサルモネラ菌による食中毒も騒がれていましたからね。この世界にもそういう概念があるかどうかは分かりませんが、きれいにしておいて問題はないはずです。
 さて、スターがくれた貴重な卵ですから、慎重に調理しませんとね。
 それにしても、見れば見るほどダチョウの卵ですよ。ラッシュバードって、やっぱりダチョウなんですね。
 私は土魔法で作ったボウルの上に卵を両手でつかんで固定して、中央から殻を風魔法で切り分けます。
 そのまま両手を離していけば、自然とボウルの中に中身がこぼれます。
 いい感じの黄身ですね。
 そこに塩を混ぜ込み、フライパンで三人分に分けて焼きます。
 とはいえ、この大きさの卵では、三人分のオムレツも一個あたりはかなりの大きさになってしまいます。これは中身に何かを詰めるべきでしたね。
 結局、味付けのないプレーンオムレツをみっつ作ったのですが、それでも珍しい食材を使ったということもあり好評でしたね。
 物珍しがられることは分かっていましたが、ここまで喜んでもらえるとまでは思っていませんでした。
 スピードとスターに感謝ですね。
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