ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第58話 正式雇用

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 新しい従業員が三人増えました。
 女性はキサラさん、男性はマックスさんとハーベイさんです。
 そんなわけで、キサラさんは私たちと同じ小屋で済みますが、男性用の小屋は足りなくなりました。

「新しく建てます」

 私はまだミサエラさんがいる時にこんなことを言い放ちます。

「建てるって、今からか?」

「その通りです。私の後ろにいて下さいね」

 強くけん制しながら、私は魔法を使います。

「ラ・ギア・ルド!」

 土魔法であっという間に一軒家を建ててしまいます。
 ちなみに内装は私たち女性陣の住む小屋と同じで、食堂と倉庫のある小屋を挟んだ反対側に建てました。
 あまりにも一瞬で家が建ってしまったので、キサラさんたちはもちろんですが、ミサエラさんもあんぐりと大口を開けています。

「いやいやいや、こんなに簡単に家は建ちませんよ?」

 我に返ったミサエラさんが、慌てて私に詰め寄ってきます。
 とはいえ、実演してみせた通り、家は一瞬で建ってしまいましたよ?

「ミサエラ様、レチェ様は私どもの考える範疇で収まるような方ではないようです。お諦め下さい」

 イリスが私とミサエラさんとの間に入って、ミサエラさんを落ち着かせようとします。

「そ、そうですね。ボールペンのことといい、今度ゆっくりお話をお伺いしたいところですね」

 さすがは商業ギルドの副マスターです。すぐに冷静さを取り戻しています。
 ひとまず、小屋の内装を確認した後、再び食堂へと戻ります。

「はあ……。あの薬草や野菜のこともありますし、ただ者ではないとは思っておりましたが……」

 食堂に戻ったところで、ミサエラさんは大きなため息をついています。
 どうやら驚きすぎてしまって、冷静さを欠いているように思えますね。

「契約が終わったところで戻らずに正解でしたね」

 書類をまとめながら、ミサエラさんはつぶやいています。

「それに、私以外来なくて正解でした。あれを見せてしまっては、翌日には街中に噂が広まっています。人というのは噂が大好きですからね」

 ミサエラさんは私に振り返って困惑した笑顔を見せています。なんとも初めて見るような表情ですね。

「あなたたちも、今日のことは口外しないこと。レチェさんの魔法のことが知られれば、きっとあちこちから人が押し寄せてきます」

「は、はい! も、もちろん口外致しません!」

 ミサエラさんの言葉に、キサラさんが大声で宣誓しています。
 このようなやり取りが行われるということは、私の魔法ってやっぱりおかしいんですかね。
 ちらりとイリスの方を見ます。イリスは私の視線に気が付くと、困惑した表情でこくりと頷いていました。
 やっぱりおかしいんですか……。これは自重しないといけませんね。

「えっと、お給金に関してはどうしましょうか」

 お金の話を出したということは、おそらく話はこれで終わりなのでしょう。
 口外するなという風に仰ってられましたので、流れからすると、普通の雇用よりも高くする感じでいいのでしょうかね。

「そうですね。でしたら……」

 私は紙とボールペンを取って、さらさらと金額の提示をします。
 一応、大体のお給金の相場は調べておきましたので、それに少々ばかり上乗せした金額を設定しておきます。
 そしたら、ミサエラさんにはまた怪訝な表情をされてしまいました。おかしかったですか?

「レチェ様……。この金額は私たちよりもいい金額ですよ」

「えっ?」

 イリスに指摘されてしまいます。
 よく見てみれば、キサラさんたち三人も目を見開いてみていますね。

「数か月分ですか?」

「いえ、ひと月ですけれど?」

「……女神だ」

「はい?」

 提示した金額はひと月のお給金だと答えると、男性二人が揃ってそんな声を漏らします。

「レチェ様、これ、護衛である俺とほぼ同等なんですが?」

「えっ?!」

 ギルバートからも言われてしまいます。

「わ、私、お屋敷の庭師を参考にして、それに口止め料を乗せただけなんですけど?」

「レチェさん、それはいくらなんでもよすぎますよ。一般的な平民は、これの半分よりも少ないですからね」

「え、ええ……?」

 ミサエラさんからもダメ出しがなされます。
 あれれ、もしかしてやっちゃいましたかね。

「とはいえ、レチェさんの持ち込むものはどれも高品質です。このくらいの給金であれば余裕でお支払いできるでしょうね」

 余裕で払えるという風に言われまして、私はほっと胸を撫で下ろしています。
 とはいえど、ここで働く以上は私の秘密はいろいろと守ってもらわないと困りますから、金額を変えるつもりはありません。よし、これでいきましょう。

「では、このお給金と、こちらの制約内容を確認してもらって、了承するのならサインをしてもらいます。これが済めば、この三人は正式にレチェさんの農園の従業員ですよ」

「あれっ、それじゃさっきの契約書は?」

「あれは、商業ギルドとの取り決めに関する書類です。あの時点では、商業ギルドから人手を出すという内容に同意しただけです。つまり、彼らの雇用主は商業ギルドという状況だったんです」

「あ、ああ……。納得しました。つまり、今書いていただいている契約書で、正式に私が雇用主となるわけですね」

「そういうことです」

 なるほどなるほど。派遣による間接雇用か、自分で抱える直接雇用かということですね。ようやく理解しました。

「また人手が必要な時は、先程の契約書によって商業ギルドに人手を要求することができます。いつでもご利用下さい」

「ありがとうございます」

 こうして、私と商業ギルドと新しいお三方の間での契約が無事に終わりました。
 さあ、新生レチェ農園のスタートですよ!
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