ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第69話 距離を保って

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 ラッシュバードの卵でいくつか料理を作ってみた私は、そのレシピをまとめておきます。
 さすがにアマリス様にだけには共有をしておこうと思いましたから。だって、卵があるのですよ?
 アクエリアスから食べられるとは聞いていても、処理の仕方が分からなければそのまま腐らせてしまうだけです。ですので、そこも含めてお伝えしておかないといけませんからね。
 しかし、困りました。どうやってこれをお伝えすればいいのやら。私は頭を悩ませてしまいます。
 私がお城に直接出向くわけには参りません。なぜなら、アンドリュー殿下がいらっしゃるからです。
 アンドリュー殿下の婚約者は妹のルーチェに変更になりましたが、当人の気持ちが簡単に切り替えられるかは別問題です。私と顔を合わせることで、私への気持ちが再燃しないとは限りません。

「ここは、やはりルーチェに頼むしかありませんかね……」

 誰かに頼んでもいいのですが、やはり私自身が行かなければ説明という点で心配です。なにせ私しか知らない情報ばかりですからね。
 もし他の人に任せた場合、質問されれば答えられるとは到底思えません。これは私の侍女であるイリスでも同様のことです。知らなければ答えないでしょうが、相手方に不安が残ってしまいます。
 まあ、それ以前に質問が出ないようにすべてをきっちりと記しておいたのですけれどね。アマリス様ならきっとしっかり理解して下さるはずです。

「イリス、ギルバート」

「はっ、レチェ様」

「私は数日間留守にします」

「何ゆえでしょうか」

 私が留守を伝えると理由を尋ねてきます。

「ラッシュバードの卵の活用方法ですね。あなた方に頼んでもいいでしょうけれど、私が行った方が一番確実ですので」

「承知致しました。留守の間はお任せ下さい」

「ラッシュバードもキサラがいれば問題ないでしょう。こちらのことは私たちに任せて、レチェ様はご自身のなさりたいようになさって下さい」

「ありがとうございます」

 私は二人にお礼を言うと、今回はスピードに乗って王都を目指します。
 魔法学園への入学の失敗をきっかけに家を出たはずですが、なぜこうも家にしょっちゅう帰っているのでしょうかね、私ってば。
 私も結局は妹たちが心配で仕方がないのでしょうね。自分のやらかしで負担を全部押し付けちゃいましたから。
 しっかり反省しなければなりませんね。
 結局、家を離れてもその責任からは逃れられなかったようです。

 スピードに乗って、私は王都のウィルソン公爵邸に戻ってきました。
 前回の訪問からあまり時間が経っていませんが、驚かれないですよね?

「これは、レイチェルお嬢様。どうぞどうぞ、お入り下さい」

 門番に顔を合わせればこの通りです。何の疑いもなくさっさと中へと案内されてしまいます。家を出ていったというのに、まだ公爵令嬢扱いのようですよ。
 敷地の中に入ると、まずはスピードを馬小屋に預けます。ちなみにですが、スピードもスターも馬とは仲が良いようですよ。
 その足で私は建物の中に入ります。
 中に入ると家令が待ち受けていました。

「お帰りなさいませ、レイチェルお嬢様。ルーチェお嬢様はまだ学園でございますので、奥様のところにご案内致します」

「あ、ありがとう」

 どうやら早く着きすぎてしまったようですね。
 ルーチェが戻ってくるまでの間、私はお母様と話をします。
 どのくらい経ちましたでしょうか、外から走ってくる足音が聞こえてきます。

「お姉様が戻られたって本当ですか?!」

 勢いよくルーチェが姿を見せます。
 魔法学園の制服がよく似合っていますね。

「お姉様!」

 長いローブ風の上着をなびかせながら、ルーチェは私に抱きついてきます。
 本当にこの子ってば、私にべったりですね。

「お姉様、今回はどうしてこちらに?」

「ルーチェたちの手紙を読みましてね。無駄にしてはいけないと思って、ラッシュバードの卵を使った料理のレシピをまとめてきたのですよ」

 私はどこからともなく紙の束を取り出します。
 去年や先日収穫した小麦のわらで作った紙の束ですよ。それにボールペンで書いたレシピ集です。

「まあ、お姉様ありがとうございます」

 なぜかルーチェがお礼を言ってきます。

「ルーチェ、お礼はまだ早いですよ。アマリス様にお渡しして、実際に料理を作って味わってからです」

「はっ、そうですね。私ってば、お姉様に会えて嬉しかったので、つい……」

 まったく、ルーチェってば相変わらず甘えん坊さんですね。
 とりあえず私は、ルーチェにレシピ集を託します。

「ルーチェ」

「はい、お姉様」

「このレシピ集、絶対に城から外に出さないように、アマリス様にお伝え下さいね」

「はい、お任せ下さい、お姉様」

 ルーチェのこの笑顔、本当に安心できますね。

 この日の夜は久しぶりに公爵邸で食事をして泊まっていきます。
 お父様たちからは現在の農園の状況について様々聞かれましたが、従業員も増えて順調だということをお伝えしておきます。
 心配をなさるのはよく分かるのですが、私はお父様たちからの援助はとにかく断り続けます。その代わり、私本人やリキシルおじさまたちを通じて状況は事細かく伝えるということを約束しました。

 これからも、私と実家とのつかず離れずの関係は続きそうです。
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