魔王聖女

未羊

文字の大きさ
27 / 156

第27話 魔族に関心を持たれる元魔王

しおりを挟む
 周辺に森が広がる暗い場所。その中で大きな声が突如として響き渡る。

「なんだと、聖女を殺し損ねただと?!」

「申し訳ございません。まだ幼いがゆえにたやすいかと思われたのですが、かなり強い力を持っていたようでございます」

「ぐぬぬぬぬぬ……、言い訳など聞きたくないわ!」

 漆黒のローブをかぶった人物が報告を行い、目の前の屈強な魔族に怒られている。
 どうやらこの漆黒のローブの人物が、魔物やフィシェギルたちにアリエスを襲わせた犯人のようである。なるほど、魔族であるのなら聖女の存在を許せないというのは、納得のいく話である。

「すぐに次の作戦を考えて実行しろ。これ以上聖女が増えては、我々魔族の復権など遠のく夢になってしまうからな」

「はっ、承知致しました。必ずや、我らの悲願、達成してみせましょう」

「いいか、もはやどの聖女でも構わぬ。一人たりとも生かしておくな!」

 魔族の怒号が響く中、ローブの魔族はそそくさと去っていった。

 一人となった魔族は、怒りが収まらないのか膝をトントンと指で叩き続けている。

「くそっ、まだ成長しきっていない未熟な聖女ではなかったのか?」

 魔族はぶつくさと独り言が絶えないようだ。

「サンカサスという国に現れた聖女、前魔王の手によって育てられて屈強なるフィシェギルの猛者どもを蹴散らすとは……。このままでは我らはますます立場がなくなってしまうではないか。どうしたらいいというのだ」

 苛立ちを隠せない魔族は、歯ぎしりが止まらない。凄まじい音が周囲に響き渡る。

「ようやく目の上のたんこぶだった前魔王の影響を取り除いて魔王の座に就いたというのにな……。くそっ」

 まったく落ち着きを取り戻せない魔族は、戻ってきたフィシェギルたちを自分のところに連れてくるように言いつける。
 どうやら、懲罰という名の八つ当たりをするつもりのようだ。

「役に立たずどもがどうなるのか、その身をもって思い知れ。ふはははははっ!」

 魔族の笑い声が、周囲に響き渡るのだった。

 その声がこだまする中、ローブの魔族は小さな小屋へとやって来る。
 小屋の中へと入り、椅子に腰かけて落ち着こうとしているようである。

「やれやれ……。なにゆえ、あんなものが魔王となってしまったのだ。ああ、魔王様、なぜあなたはあんな奴まで助けてしまったのですか。おかげで、今の魔族は以前のようなまとまりを取り戻せずにいます」

 首を左右に振ったかと思うと、天井を見上げて嘆きの言葉を漏らしていた。
 どうやら、二人揃ってアリエスの前世にあたる魔王の部下だった者のようだ。

「あいつが真の魔王だというのなら、今頃はあなた様のような立派な居城を構えていられたはず。それがどうだ。いまだに拠点らしい拠点もなく、ただ威張り散らすのみ。あの頃の栄光には、程遠いのが現実だ……」

 魔族は大きなため息を漏らしている。

「パイシズ様、お疲れ様でございます」

「おお、ライラか。フィシェギルたちからの報告はどうだった」

 ローブの男のところに、ふわふわなウェーブのかかったピンク色の髪の毛の魔族の女性がやって来る。オールバックの渋い感じのパイシズと呼ばれた魔族とは真逆な感じである。

「それが……、一名ほど戻ってきていないのです」

「なに? 誰が戻ってきていない」

「サハーでございます」

「……あやつならそうするか。部下を逃すために自ら残ったのだろう。前魔王様の考えに賛同していた者だ、丁重に葬ってやってくれ」

「はっ。それでは戻る前に報告をお伝えします。あの無能な魔王の手に渡る前に話ができて幸いでした」

 ライラはフィシェギルたちから聞いた話をパイシズに伝える。

「やはり、サハーのやつは自分を犠牲にして部下を逃がしたか。しかし、いくら聖女とはいえ一喝された程度で動けなくなるとは……。なんとも気になる聖女だな」

 パイシズは考え込む。そして、ライラへと顔を上げると、ひとつ命令を出す。

「その聖女が拠点としている街に潜入して、ちょっと調べてもらえないか?」

「聖女のことをですか。畏まりました。では、サハーの処置を丁重に行った後、すぐさま向かおうと思います」

「うむ、頼むぞ。なんだかとても気になるのでな」

 パイシズが声をかけると、ライラは丁寧に頭を下げると、霧のようになって姿を消してしまった。

「……まだ今は十歳のはず。神聖魔力が強かったとしても、使いこなすにはまだ未熟のはず」

 再び天井を見上げるパイシズは、自分の感じ取った状況にフィシェギルたちの報告を重ねながら、いろいろと考え込んでいるようだ。

「私は魔物たちを使役しただけだからよく分からなかったが、不可解な点があるな。一般的な人間の兵士を退けられるだけの力を持つフィシェギルの集団を、一喝するだけで動けなくできるかという点が既におかしい。そんなことができるのは、……まさかな」

 思わず何かが頭にちらついてしまったパイシズだが、すぐさまその考えを否定していた。

「相手は聖女だ。まさかそんなことがあるわけがない。……ただ、魔王様が亡くなられた時期を考えると、あながち否定できる話でもなさそうなのがな」

 何かに思い至ったパイシズは、否定しながらもつい可能性を考えてしまって笑っていた。
 だが、今の自分は思うように動けない。あの暴君である自称魔王の下でただ耐え忍ぶだけの日々が続く。

「ライラの調査をおとなしく待つとしよう。頃合いを見て、あやつに傷つけられたフィシェギルたちを労いに行かねば。まったく、参謀という立場がうらめしすぎる」

 パイシズは、自分の置かれた状況にため息しか出なかった。かつての魔王を失った魔王軍の状況は、かなり悪いようである。
 この状況の打開をできるかどうか、パイシズはライラの報告に期待を寄せるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

処理中です...