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第28話 つい本心が出てしまう元魔王
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さて、デビュタントが無事に終わってからというもの、アリエスの生活に何か変化が起きるようなことはなかった。
ただ、サンカサス王国に誕生した聖女を巡って、我先にと手に入れようとする貴族からの手紙が増えた程度である。そんな手紙もアリエスの元に届くことはなかった。
「牧師様、聖女様への手紙は、本当に届けなくていいのですか?」
「はい、ここに置いていって下さい。アリエスに悪い虫がついて困りますからね。わしたちが見て、大丈夫だと思ったもの以外は、ここで処分させていただきます」
牧師からの返答に困惑しながらも、神父たちは届いた手紙を置いていく。
その一通一通に目を通す牧師だったが、そのすべてを破り捨ててしまっていた。
「やれやれ、本当に困ったものですね。聖女というものを甘く見てもらっては困ります」
「本当にお渡ししなくていいのでしょうか」
「いいのですよ。アリエスが望まぬ限り、わしたちがその生活を縛り付けるわけにはいきません。ただでさえ聖女という立場で教会に縛り付けているのです。貴族たちのしがらみの中に放り出すつもりはありませんよ」
牧師は、アリエスのことを考えて、貴族からの要請を全部突っぱねていた。なにせすべてが婚姻の申し込みだったのだから。
牧師はアリエスの育ての親として、必死にアリエスを守り抜こうとしているのだ。
牧師という立場は本来弱いものだが、彼はアリエスを拾い育てたことで、一般的な神父たちと比べて立場が逆転している。
だが、それでも彼はおごることなく、教会の一牧師として今日も振る舞い続けている。彼の行動基準はアリエスを中心にしているのだ。アリエスに悪影響があると考えているからこそ、その行動に人一倍気を付けているのだ。
さて、そのアリエスだが、今日もカプリナの家に出かけていた。
単純に友人として、お茶を楽しむためである。
「ようこそいらっしゃいました、アリエスさん」
「お招きいただきありがとうございます、カプリナ様」
互いに丁寧に挨拶を交わすと、庭に用意されたお茶会のテーブルを囲む。
デビュタントを済ませたとはいえども、二人は聖女と聖騎士としての勉強が忙しい。今日はその勉強の合間の日に当たるのだ。
なので、普段の勉強を忘れてのんびりを過ごしているというわけである。
「どうでしょうか、デビュタントから何か変わりましたでしょうか」
「私の生活は特に変わりませんね。ただ勉強が以前より少々難しくなった程度です」
アリエスの答えを聞いて、カプリナはちょっと驚いたような表情を見せている。
どうしたのだろうかと、きょとんとしてみせるアリエスである。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、私のところには貴族たちからあれこれ手紙が届くようになりましてね。対応をお父様たちと話し合っているところなのですよ」
「まあ、どのような手紙ですか?」
アリエスは興味津々のようだった。
「大したものではありませんわ。自分のところの子どもと結婚させろとかいう手紙でして、確認したお父様が全部破り捨てていました」
「まあ、それは酷いですね。カプリナ様はどうなさるおつもりなのですか?」
「私も受けるつもりはございません。聖騎士として、アリエス様とご一緒させて頂くつもりですから」
「あら、そうなのですね。嬉しいですけれど、私としましては、カプリナ様ご自身のお幸せを模索して頂きたく思います」
アリエスはカプリナの覚悟を聞いて感心しているが、あまり自分に依存してほしくないとも伝えておいた。
それは魔王時代の経験を踏まえてのことだった。
聖女との戦いにおいて、多くの部下たちが自分のために命を散らしていった。その部下たちの中には家族を持つ者もいて、残された家族が嘆き悲しむ姿には、魔王ながらにも心を痛めたものである。
部下を鍛えてきたことには自信があった魔王だが、聖女の登場によって戦況をひっくり返され始めると、部下の犠牲を減らすためにあっさりと魔王城へと攻め入れさせたのだ。
そして、防御の陣を敷いて迎え撃ったのだが、あっさりと突破されていった。
敗色濃厚と考えた魔王は部下を逃がそうとしたものの、命令に背き、結果として聖女の手にかかって死んでいった部下のことを今でも忘れられないでいる。
その時の後悔の念が、カプリナに対して気遣いとして現れているのだ。
「アリエス様は本当にお優しいのでございますね。ですが、私は聖騎士でございます。聖女様の剣であり盾であります。もしもの時は、聖女様と運命を共にすることをお誓いいたしますわ」
「カプリナ様……」
だが、カプリナの決意は固かった。もしもの時は自分と運命を共にするとはっきり言ってのけたのだ。
十歳にしてこの覚悟である。人間たちの聖女に対する考えというものを見せつけられたような気がするアリエスなのであった。
「すらりーも、いる。かぷりな、かんたんにしなせない。ありえすさま、あんしんする」
「……そうですね。ただ、私としては自分のために誰かが犠牲になることをよしとしません。私は必ずあなたを守ってみせます」
「……分かりましたわ、アリエスさん。けして、そうならないことを願っております」
しんと静まり返ってしまう。
「重い話になってしまい、申し訳ありません。せっかくのお茶会なのです、楽しく参りましょう」
「そうですね。私も申し訳ございませんでした」
笑いながらどうにか雰囲気を変えようとする二人である。
なぜこんな話をしてしまったのか、アリエスはその日激しく後悔する。
だが、それがアリエスの根底にある感情であることは間違いない。
その日の夜は、悶々として眠れなかったアリエスなのだった。
ただ、サンカサス王国に誕生した聖女を巡って、我先にと手に入れようとする貴族からの手紙が増えた程度である。そんな手紙もアリエスの元に届くことはなかった。
「牧師様、聖女様への手紙は、本当に届けなくていいのですか?」
「はい、ここに置いていって下さい。アリエスに悪い虫がついて困りますからね。わしたちが見て、大丈夫だと思ったもの以外は、ここで処分させていただきます」
牧師からの返答に困惑しながらも、神父たちは届いた手紙を置いていく。
その一通一通に目を通す牧師だったが、そのすべてを破り捨ててしまっていた。
「やれやれ、本当に困ったものですね。聖女というものを甘く見てもらっては困ります」
「本当にお渡ししなくていいのでしょうか」
「いいのですよ。アリエスが望まぬ限り、わしたちがその生活を縛り付けるわけにはいきません。ただでさえ聖女という立場で教会に縛り付けているのです。貴族たちのしがらみの中に放り出すつもりはありませんよ」
牧師は、アリエスのことを考えて、貴族からの要請を全部突っぱねていた。なにせすべてが婚姻の申し込みだったのだから。
牧師はアリエスの育ての親として、必死にアリエスを守り抜こうとしているのだ。
牧師という立場は本来弱いものだが、彼はアリエスを拾い育てたことで、一般的な神父たちと比べて立場が逆転している。
だが、それでも彼はおごることなく、教会の一牧師として今日も振る舞い続けている。彼の行動基準はアリエスを中心にしているのだ。アリエスに悪影響があると考えているからこそ、その行動に人一倍気を付けているのだ。
さて、そのアリエスだが、今日もカプリナの家に出かけていた。
単純に友人として、お茶を楽しむためである。
「ようこそいらっしゃいました、アリエスさん」
「お招きいただきありがとうございます、カプリナ様」
互いに丁寧に挨拶を交わすと、庭に用意されたお茶会のテーブルを囲む。
デビュタントを済ませたとはいえども、二人は聖女と聖騎士としての勉強が忙しい。今日はその勉強の合間の日に当たるのだ。
なので、普段の勉強を忘れてのんびりを過ごしているというわけである。
「どうでしょうか、デビュタントから何か変わりましたでしょうか」
「私の生活は特に変わりませんね。ただ勉強が以前より少々難しくなった程度です」
アリエスの答えを聞いて、カプリナはちょっと驚いたような表情を見せている。
どうしたのだろうかと、きょとんとしてみせるアリエスである。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、私のところには貴族たちからあれこれ手紙が届くようになりましてね。対応をお父様たちと話し合っているところなのですよ」
「まあ、どのような手紙ですか?」
アリエスは興味津々のようだった。
「大したものではありませんわ。自分のところの子どもと結婚させろとかいう手紙でして、確認したお父様が全部破り捨てていました」
「まあ、それは酷いですね。カプリナ様はどうなさるおつもりなのですか?」
「私も受けるつもりはございません。聖騎士として、アリエス様とご一緒させて頂くつもりですから」
「あら、そうなのですね。嬉しいですけれど、私としましては、カプリナ様ご自身のお幸せを模索して頂きたく思います」
アリエスはカプリナの覚悟を聞いて感心しているが、あまり自分に依存してほしくないとも伝えておいた。
それは魔王時代の経験を踏まえてのことだった。
聖女との戦いにおいて、多くの部下たちが自分のために命を散らしていった。その部下たちの中には家族を持つ者もいて、残された家族が嘆き悲しむ姿には、魔王ながらにも心を痛めたものである。
部下を鍛えてきたことには自信があった魔王だが、聖女の登場によって戦況をひっくり返され始めると、部下の犠牲を減らすためにあっさりと魔王城へと攻め入れさせたのだ。
そして、防御の陣を敷いて迎え撃ったのだが、あっさりと突破されていった。
敗色濃厚と考えた魔王は部下を逃がそうとしたものの、命令に背き、結果として聖女の手にかかって死んでいった部下のことを今でも忘れられないでいる。
その時の後悔の念が、カプリナに対して気遣いとして現れているのだ。
「アリエス様は本当にお優しいのでございますね。ですが、私は聖騎士でございます。聖女様の剣であり盾であります。もしもの時は、聖女様と運命を共にすることをお誓いいたしますわ」
「カプリナ様……」
だが、カプリナの決意は固かった。もしもの時は自分と運命を共にするとはっきり言ってのけたのだ。
十歳にしてこの覚悟である。人間たちの聖女に対する考えというものを見せつけられたような気がするアリエスなのであった。
「すらりーも、いる。かぷりな、かんたんにしなせない。ありえすさま、あんしんする」
「……そうですね。ただ、私としては自分のために誰かが犠牲になることをよしとしません。私は必ずあなたを守ってみせます」
「……分かりましたわ、アリエスさん。けして、そうならないことを願っております」
しんと静まり返ってしまう。
「重い話になってしまい、申し訳ありません。せっかくのお茶会なのです、楽しく参りましょう」
「そうですね。私も申し訳ございませんでした」
笑いながらどうにか雰囲気を変えようとする二人である。
なぜこんな話をしてしまったのか、アリエスはその日激しく後悔する。
だが、それがアリエスの根底にある感情であることは間違いない。
その日の夜は、悶々として眠れなかったアリエスなのだった。
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