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5 アシュレイの秘密
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アシュレイが村で暮らしてから四年が経った。すっかり農家の少年になった。
十歳になったアシュレイだが、身長はまだ伸びていない。三年上の組で勉強しているが、元の同じ年の少年と比べてもチビの方だ。先生には上の学校に行くことを勧められているが、アシュレイはこの村で満足していた。
ある冬の日、アシュレイは森に薪を拾いに来た。くるくるの茶色の巻き毛を押さえるようにかぶっていた毛糸の帽子が、冷たい風にとばされそうになった。
「あっ! 帽子をなくしたら大変だ」
アシュレイは拾った枯れ枝を片方の手にまとめると、毛糸の帽子をギュッと耳の下まで下げて、風に吹き飛ばされないように深くかぶりなおした。
日が翳るまで拾ったアシュレイの手袋をはめた手には、枯れ枝がいっぱい抱えられていた。
両親を早くに亡くしたアシュレイは、祖父母の農家に引き取られた。年老いた祖父母は、アシュレイに優しくしてくれた。
畑仕事を手伝ったり、こうして枯れ枝を集めたりと働くのは、農家の少年としては普通のことだ。
ただし、この巻き毛がくるくると落ち着かない、緑の瞳を煌めかしているアシュレイは、普通の農家の少年ではなかった。
アシュレイは集めた枯れ木を一ヶ所にまとめて置くと、縄でしっかりと結んだ。どう見ても、チビのアシュレイには運ぶのは無理だと思える大きな束になった。
『家の軒の下へ移動しろ!』
アシュレイは台所の横の出口の下を思い浮かべると、枯れ木の束を魔法で移動させた。
チビのアシュレイが魔法が使えるようになったのは、この夏からだ。
両親を亡くして祖父母の家に引き取られる前から、アシュレイは自分が他の人とは違うと感じていたが、幼かったので、それが何なのか突き止めては考えていなかった。
アシュレイは両親に風の流れが見えると幼い声で何度か伝えたが、可愛い幼児の言葉を微笑ましく聞いてくれただけだった。
しかし、この夏に祖父が腰を傷めた。
「これでは、干し草も作れないなぁ」
夏場の農家には、仕事がいっぱいある。
十歳だがチビなアシュレイでは、畑仕事や干し草作りは無理だろうと、祖父母は困り果てた。
「ねぇ、俺がお祖父ちゃんの代わりにするから、しなきゃいけないことを教えて」
無理だろうと思われたが、畑仕事をほったらかしたら雑草だらけになるし、地代を納められないのだ。
「わしの腰がなおるまで、干し草を刈っておくれ」
祖父の言葉に、アシュレイは力強くうなずいた。
「大丈夫! お祖父ちゃんは寝ていて」
牧草地にやってきたアシュレイは、草刈りカマを構えて、何回か振ってみる。
ザクッ、ザクッ、と草が刈れた。
お祖父ちゃんが刈るのを見ていたので、やり方は知っている。
しかし、真夏の日差しの下で、自分の背よりも長い柄を振るのは大変だ。
汗だくになった額をシャツで拭うと、地面に座り込んだ。
『風で草が刈れないかな?』
指先につまんだ草を風で切ってみる。
アシュレイは大きく深呼吸して、草地に風の刃を送り込んだ。
ざざざざざ………と、草は根元で風の刃に刈り取られた。
『あとは、時々ひっくり返したら良いんだよね~』
身体を使って草を刈ったのではないけど、アシュレイは疲れたので木陰で一休みする。
『魔法って、疲れるね……』
傍目からは木陰でのんびり草笛を吹いているように見えたが、時々アシュレイは風で干し草をひっくり返して、上手く乾かしていた。
「これなら、完全に乾いているな」
夏のお日様で乾かすと、家から荷馬車を持ってきて、干し草を木枠に詰めてギュッと長四角の形にする。
魔法を使って干し草の塊を何個も荷馬車に乗せて、家に帰り着いた。
「おや? もう干し草を刈ったのかい?」
庭で洗濯物を干していた祖母に不思議がられたが、アシュレイはうなずいて納屋に荷馬車ごと入れる。
『さぁて、干し草を二階に上げなきゃ』
全て魔法でできれば良いのだが、古い干し草を手前に置き換えたりと、手作業も必要だ。
それでも魔法で移動できるので、かなり時間を短縮して干し草を納められた。
「アシュレイ! お前は魔法使いなのか?」
腰が痛いのに、祖母からアシュレイが干し草を積んで帰ってきたと聞いて、納屋の二階に納めるのは無理だろうと顔を出した祖父は、パッと荷馬車の干し草の塊が消えるのを見て驚いた。
「魔法使いなのかな? よく、わかんないや」
祖父は自分の家系には魔法使いなどいないから、きっと亡くなった母親から引き継いだのだろうとうなずいた。
「魔法使いなら、腰をなおしてくれたら良いのに……」
アシュレイはハッとして、お祖父ちゃんの腰を見つめた。
『何となく暗い感じがする。
ううん?……暗いのが無くなれば良いのかな?』
アシュレイは太陽の光を思い浮かべて、お祖父ちゃんの腰の暗い部分に送り込む。
「どう? お祖父ちゃん? 痛みはマシになった?」
長年の重労働で曲がっていた腰が、青年の時のようにシャンと伸びて、痛みもなくなった祖父は、チビの孫がとんでもない魔法使いなのだと悟った。
「お前を首都サリヴァンに行かさなければ! きっと国で一番の魔法使いになれるぞ!」
お祖父ちゃんに抱き上げられて、アシュレイは腰は大丈夫なのかな? と心配で、サリヴァンへ行く気などさらさらならなかった。
「俺が他所に行ったら、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんだけになっちゃうよ」
息子によく似たくるくるの巻き毛を愛しそうに撫でて、そのうち他の人がほっておかないだろうと祖父は溜め息をついた。
しかし、冬まではアシュレイの魔法使いの才能は知られないままで過ごすことになった。
十歳になったアシュレイだが、身長はまだ伸びていない。三年上の組で勉強しているが、元の同じ年の少年と比べてもチビの方だ。先生には上の学校に行くことを勧められているが、アシュレイはこの村で満足していた。
ある冬の日、アシュレイは森に薪を拾いに来た。くるくるの茶色の巻き毛を押さえるようにかぶっていた毛糸の帽子が、冷たい風にとばされそうになった。
「あっ! 帽子をなくしたら大変だ」
アシュレイは拾った枯れ枝を片方の手にまとめると、毛糸の帽子をギュッと耳の下まで下げて、風に吹き飛ばされないように深くかぶりなおした。
日が翳るまで拾ったアシュレイの手袋をはめた手には、枯れ枝がいっぱい抱えられていた。
両親を早くに亡くしたアシュレイは、祖父母の農家に引き取られた。年老いた祖父母は、アシュレイに優しくしてくれた。
畑仕事を手伝ったり、こうして枯れ枝を集めたりと働くのは、農家の少年としては普通のことだ。
ただし、この巻き毛がくるくると落ち着かない、緑の瞳を煌めかしているアシュレイは、普通の農家の少年ではなかった。
アシュレイは集めた枯れ木を一ヶ所にまとめて置くと、縄でしっかりと結んだ。どう見ても、チビのアシュレイには運ぶのは無理だと思える大きな束になった。
『家の軒の下へ移動しろ!』
アシュレイは台所の横の出口の下を思い浮かべると、枯れ木の束を魔法で移動させた。
チビのアシュレイが魔法が使えるようになったのは、この夏からだ。
両親を亡くして祖父母の家に引き取られる前から、アシュレイは自分が他の人とは違うと感じていたが、幼かったので、それが何なのか突き止めては考えていなかった。
アシュレイは両親に風の流れが見えると幼い声で何度か伝えたが、可愛い幼児の言葉を微笑ましく聞いてくれただけだった。
しかし、この夏に祖父が腰を傷めた。
「これでは、干し草も作れないなぁ」
夏場の農家には、仕事がいっぱいある。
十歳だがチビなアシュレイでは、畑仕事や干し草作りは無理だろうと、祖父母は困り果てた。
「ねぇ、俺がお祖父ちゃんの代わりにするから、しなきゃいけないことを教えて」
無理だろうと思われたが、畑仕事をほったらかしたら雑草だらけになるし、地代を納められないのだ。
「わしの腰がなおるまで、干し草を刈っておくれ」
祖父の言葉に、アシュレイは力強くうなずいた。
「大丈夫! お祖父ちゃんは寝ていて」
牧草地にやってきたアシュレイは、草刈りカマを構えて、何回か振ってみる。
ザクッ、ザクッ、と草が刈れた。
お祖父ちゃんが刈るのを見ていたので、やり方は知っている。
しかし、真夏の日差しの下で、自分の背よりも長い柄を振るのは大変だ。
汗だくになった額をシャツで拭うと、地面に座り込んだ。
『風で草が刈れないかな?』
指先につまんだ草を風で切ってみる。
アシュレイは大きく深呼吸して、草地に風の刃を送り込んだ。
ざざざざざ………と、草は根元で風の刃に刈り取られた。
『あとは、時々ひっくり返したら良いんだよね~』
身体を使って草を刈ったのではないけど、アシュレイは疲れたので木陰で一休みする。
『魔法って、疲れるね……』
傍目からは木陰でのんびり草笛を吹いているように見えたが、時々アシュレイは風で干し草をひっくり返して、上手く乾かしていた。
「これなら、完全に乾いているな」
夏のお日様で乾かすと、家から荷馬車を持ってきて、干し草を木枠に詰めてギュッと長四角の形にする。
魔法を使って干し草の塊を何個も荷馬車に乗せて、家に帰り着いた。
「おや? もう干し草を刈ったのかい?」
庭で洗濯物を干していた祖母に不思議がられたが、アシュレイはうなずいて納屋に荷馬車ごと入れる。
『さぁて、干し草を二階に上げなきゃ』
全て魔法でできれば良いのだが、古い干し草を手前に置き換えたりと、手作業も必要だ。
それでも魔法で移動できるので、かなり時間を短縮して干し草を納められた。
「アシュレイ! お前は魔法使いなのか?」
腰が痛いのに、祖母からアシュレイが干し草を積んで帰ってきたと聞いて、納屋の二階に納めるのは無理だろうと顔を出した祖父は、パッと荷馬車の干し草の塊が消えるのを見て驚いた。
「魔法使いなのかな? よく、わかんないや」
祖父は自分の家系には魔法使いなどいないから、きっと亡くなった母親から引き継いだのだろうとうなずいた。
「魔法使いなら、腰をなおしてくれたら良いのに……」
アシュレイはハッとして、お祖父ちゃんの腰を見つめた。
『何となく暗い感じがする。
ううん?……暗いのが無くなれば良いのかな?』
アシュレイは太陽の光を思い浮かべて、お祖父ちゃんの腰の暗い部分に送り込む。
「どう? お祖父ちゃん? 痛みはマシになった?」
長年の重労働で曲がっていた腰が、青年の時のようにシャンと伸びて、痛みもなくなった祖父は、チビの孫がとんでもない魔法使いなのだと悟った。
「お前を首都サリヴァンに行かさなければ! きっと国で一番の魔法使いになれるぞ!」
お祖父ちゃんに抱き上げられて、アシュレイは腰は大丈夫なのかな? と心配で、サリヴァンへ行く気などさらさらならなかった。
「俺が他所に行ったら、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんだけになっちゃうよ」
息子によく似たくるくるの巻き毛を愛しそうに撫でて、そのうち他の人がほっておかないだろうと祖父は溜め息をついた。
しかし、冬まではアシュレイの魔法使いの才能は知られないままで過ごすことになった。
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