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14 崖崩れ
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翌朝は嵐が春の埃を洗い流し、綺麗な青空が広がっていた。
ハーマンは、やはりあのチビのアシュレイは只者では無いと思った。
「おはようございます」
お腹を空かしたアシュレイが宿の階段を走り降りる。ベケットは、この子に行儀作法を教えるのは難問だと苦笑した。
「ハーマン様、サイモン卿と奥方は?」
早く宿を立たないとヨークドシャーに今日中に着けなくなる。
「さっきアンナが部屋に朝食を運んだようだが……」
ハーマンは、従兄弟のサイモン卿が若い嫁に弱いのが可笑しくて、笑いを堪える。
だが、未だ幼い女の子しか恵まれていないので、跡取りも必要なのだ。
そんな会話など興味のないアシュレイは、元気よくパクパクと朝食を口にする。
「師匠、外に行っても良いですか?」
他の人達には田舎町に過ぎないが、ルッツの町に来るのは初めてのアシュレイは見に行きたいとうずうずする。
「いや、早く出発したいから、荷物を馬車に運んだりしなさい」
「はぁい」
「返事ははいだ」
叱られて、肩を竦めたアシュレイはベケット師の言いつけ通り、部屋の荷物を馬車に運ぶ。
「ねぇ、今日も御者席に乗せてね」
愛想のない御者も、隣に子供がいても問題ないので黙って頷く。
「やっとお出ましだ」
ハーマンとベケットも既に馬車に乗っていた。サイモン卿が若い奥方をエスコートして、もう一台の馬車に乗る。侍女のアンナが後から走ってくる。
兵士の2人が大きな荷物を馬車に乗せた。やっと出発だ。
「ねぇ、ヨークドシャーって大きな街なの?」
アシュレイの問いかけに御者は「ああ」とだけ答える。
「ねぇ、おじさんの名前はなんて言うの?」
アシュレイは未だマクドガル館の人の名前を全員は覚えていない。
「ボブだ」と簡単に答える。
「へぇ、ボブさんは子供いるの?」
ボブは話が好きではない。それにおじさんと呼ばれる年でもない。少し腹が立って、馬にピシッと手綱を当てる。
「そっか、未だ独身なんだね。もう1人の御者さんは何て名前なの?」
「ジムだ」とだけ唸った。
アシュレイは、これ以上は話しかけても無駄だと分かり、口笛を吹くことにした。
マディソン村の男の子は牛や山羊を集める為に口笛を吹く。
その高くて響く口笛とは違う歌の口笛も割と皆よく吹く。
つまり、牛や山羊を連れて歩くのは暇だから、練習する時間がたっぷりあるからだ。
「お前、口笛上手いな」
ボブが初めて自分から口をきいた。
「俺の村では口笛ぐらいしか音楽は無いんだもん」
幼い頃のナンツの思い出は薄れてきているが、遊びや音楽は覚えていた。
それをマディソン村で子供達に教えて、アシュレイは一目置かれていたのだ。
アシュレイは口笛を吹きながら、鳥達を集める。
「ねぇ、何か野苺とかなってない?」
鳥達はピチピチピーピーと煩く鳴く。
「ボブさん、もう少し行った所の崖が崩れているんだって。で、馬が倒れているのかな?」
ボブは何を言い出すのかと呆れたが、アシュレイは馬車の前の小窓を開けると、頭を突っ込んでベケット師匠に話す。
「師匠、この先の崖が崩れているみたいなんだ。通れるか分からないよ。それと馬が倒れているみたい。鳥が騒いでいるけど、少しわかりずらいんだ」
ベケットは呆れる。鳥を集めて話をするなんて聞いたことが無かったからだ。
アシュレイが竜に遭ったと言ったのを半分しか信じて居なかったが、本当かもしれないと思い始めた。
「ヨークドシャーへの道はこれだけだ。それに馬が倒れているなら人も崖崩れに巻き込まれているのでは無いか? 救助が必要かもしれない」
アシュレイはベケット師匠の言葉で救助なんて考えてなかったと慌てる。
「なら、行ってきます!」
ベケットが「待て!」と止める前に、アシュレイは馬車から飛び降りていた。
「風に乗って行こう!」アシュレイは風を捕まえると、ふわぁと空に浮かび、ピュンと飛んでいってしまった。
呆気に取られたベケットとハーマンは暫くアシュレイが消えた空を眺めていた。
「ベケット様、あの子はとんでもない魔法使いになりそうですな」
「私の手に余ります。私の師匠について修行した方があの子の為なのだが……頑固で困る」
マディソン村の祖父母を放っていけないと、王都サリヴァンへ行くのを拒否するのだ。
ベケットは週末ごとにマディソン村まで歩いて往復するのはチビなアシュレイにはキツいだろうと思っていたが、空を飛べるなら楽勝だなと笑いが込み上げてきた。
ベケットは御者のボブに馬を急がせたが、少し進むと山道になり、スピードは落ちた。
「ベケット様、これ以上は進めません」
馬が止まったので、ベケットとハーマンは外に出る。
「昨日の嵐で崖が崩れたのだな。酷い、馬車が道から転がり落ちている」
2人で話していると、そこに馬に乗った兵士2人とサイモン卿がやってきた。
「ベケット、治せるか?」
ベケットは、少し考えて頷く。
「馬車が通る程度には治せますが、後でしっかりと土木工事が必要ですよ」
ここは未だマクドガル家の領地なので、サイモン卿は苦い顔で頷いた。
峠を越えたら、ヨーク伯爵の領地なのだ。その連絡道は整備しておかなくてはならない。
寄子としての義務でもあり、領主としても怠ってはならないのだ。
「土よ、我が意志に従え!」
ベケットは道を塞いでいた土を退けた。でも、このままでは、また崖が道に崩れてくるのは必死だ。
「いつまで道をこのままにできるか分かりません」
全員が魔法使いの力に驚いていたが、ハッと我に返る。崖の下に落ちた馬車はヨークドシャーに着いてから対応するしか無い。
馬車の残骸と馬の死体らしき物が土砂の下に見える。どう見ても乗っていた人は助からないだろう。
「馬車を早く通せ!」サイモン卿の命令で馬車は崩れていた箇所を無事に通り抜けた。
ハーマンは、やはりあのチビのアシュレイは只者では無いと思った。
「おはようございます」
お腹を空かしたアシュレイが宿の階段を走り降りる。ベケットは、この子に行儀作法を教えるのは難問だと苦笑した。
「ハーマン様、サイモン卿と奥方は?」
早く宿を立たないとヨークドシャーに今日中に着けなくなる。
「さっきアンナが部屋に朝食を運んだようだが……」
ハーマンは、従兄弟のサイモン卿が若い嫁に弱いのが可笑しくて、笑いを堪える。
だが、未だ幼い女の子しか恵まれていないので、跡取りも必要なのだ。
そんな会話など興味のないアシュレイは、元気よくパクパクと朝食を口にする。
「師匠、外に行っても良いですか?」
他の人達には田舎町に過ぎないが、ルッツの町に来るのは初めてのアシュレイは見に行きたいとうずうずする。
「いや、早く出発したいから、荷物を馬車に運んだりしなさい」
「はぁい」
「返事ははいだ」
叱られて、肩を竦めたアシュレイはベケット師の言いつけ通り、部屋の荷物を馬車に運ぶ。
「ねぇ、今日も御者席に乗せてね」
愛想のない御者も、隣に子供がいても問題ないので黙って頷く。
「やっとお出ましだ」
ハーマンとベケットも既に馬車に乗っていた。サイモン卿が若い奥方をエスコートして、もう一台の馬車に乗る。侍女のアンナが後から走ってくる。
兵士の2人が大きな荷物を馬車に乗せた。やっと出発だ。
「ねぇ、ヨークドシャーって大きな街なの?」
アシュレイの問いかけに御者は「ああ」とだけ答える。
「ねぇ、おじさんの名前はなんて言うの?」
アシュレイは未だマクドガル館の人の名前を全員は覚えていない。
「ボブだ」と簡単に答える。
「へぇ、ボブさんは子供いるの?」
ボブは話が好きではない。それにおじさんと呼ばれる年でもない。少し腹が立って、馬にピシッと手綱を当てる。
「そっか、未だ独身なんだね。もう1人の御者さんは何て名前なの?」
「ジムだ」とだけ唸った。
アシュレイは、これ以上は話しかけても無駄だと分かり、口笛を吹くことにした。
マディソン村の男の子は牛や山羊を集める為に口笛を吹く。
その高くて響く口笛とは違う歌の口笛も割と皆よく吹く。
つまり、牛や山羊を連れて歩くのは暇だから、練習する時間がたっぷりあるからだ。
「お前、口笛上手いな」
ボブが初めて自分から口をきいた。
「俺の村では口笛ぐらいしか音楽は無いんだもん」
幼い頃のナンツの思い出は薄れてきているが、遊びや音楽は覚えていた。
それをマディソン村で子供達に教えて、アシュレイは一目置かれていたのだ。
アシュレイは口笛を吹きながら、鳥達を集める。
「ねぇ、何か野苺とかなってない?」
鳥達はピチピチピーピーと煩く鳴く。
「ボブさん、もう少し行った所の崖が崩れているんだって。で、馬が倒れているのかな?」
ボブは何を言い出すのかと呆れたが、アシュレイは馬車の前の小窓を開けると、頭を突っ込んでベケット師匠に話す。
「師匠、この先の崖が崩れているみたいなんだ。通れるか分からないよ。それと馬が倒れているみたい。鳥が騒いでいるけど、少しわかりずらいんだ」
ベケットは呆れる。鳥を集めて話をするなんて聞いたことが無かったからだ。
アシュレイが竜に遭ったと言ったのを半分しか信じて居なかったが、本当かもしれないと思い始めた。
「ヨークドシャーへの道はこれだけだ。それに馬が倒れているなら人も崖崩れに巻き込まれているのでは無いか? 救助が必要かもしれない」
アシュレイはベケット師匠の言葉で救助なんて考えてなかったと慌てる。
「なら、行ってきます!」
ベケットが「待て!」と止める前に、アシュレイは馬車から飛び降りていた。
「風に乗って行こう!」アシュレイは風を捕まえると、ふわぁと空に浮かび、ピュンと飛んでいってしまった。
呆気に取られたベケットとハーマンは暫くアシュレイが消えた空を眺めていた。
「ベケット様、あの子はとんでもない魔法使いになりそうですな」
「私の手に余ります。私の師匠について修行した方があの子の為なのだが……頑固で困る」
マディソン村の祖父母を放っていけないと、王都サリヴァンへ行くのを拒否するのだ。
ベケットは週末ごとにマディソン村まで歩いて往復するのはチビなアシュレイにはキツいだろうと思っていたが、空を飛べるなら楽勝だなと笑いが込み上げてきた。
ベケットは御者のボブに馬を急がせたが、少し進むと山道になり、スピードは落ちた。
「ベケット様、これ以上は進めません」
馬が止まったので、ベケットとハーマンは外に出る。
「昨日の嵐で崖が崩れたのだな。酷い、馬車が道から転がり落ちている」
2人で話していると、そこに馬に乗った兵士2人とサイモン卿がやってきた。
「ベケット、治せるか?」
ベケットは、少し考えて頷く。
「馬車が通る程度には治せますが、後でしっかりと土木工事が必要ですよ」
ここは未だマクドガル家の領地なので、サイモン卿は苦い顔で頷いた。
峠を越えたら、ヨーク伯爵の領地なのだ。その連絡道は整備しておかなくてはならない。
寄子としての義務でもあり、領主としても怠ってはならないのだ。
「土よ、我が意志に従え!」
ベケットは道を塞いでいた土を退けた。でも、このままでは、また崖が道に崩れてくるのは必死だ。
「いつまで道をこのままにできるか分かりません」
全員が魔法使いの力に驚いていたが、ハッと我に返る。崖の下に落ちた馬車はヨークドシャーに着いてから対応するしか無い。
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