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25 困惑するカスパル師匠
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収穫を終え、税金を払った祖父母達とアシュレイは荷馬車に家財道具を乗せている。
牛と山羊はこの家に住むバリーに売った。
「この飾り棚も乗せるんだね」
アシュレイは魔法でどんどん乗せていく。
「ベッドは、本当に有るのかい?」
ベッドまで運べないし、小さな家にもベッドはあった。
「あったよ。先週、見てきたんだもん。でも、鍋や皿は無いし、布団も持っていかなきゃね」
前にも言ったと思うけど、アシュレイは自分のせいでマディソン村からヨークドシャーへと引っ越すのだから、何回でも説明する。
「鍬とかも持って行った方が良いかな?」
祖母だけでなく祖父まで同じ質問をしてくる。
「うん、小さいけど庭があるから、菜園を作ったら良いと思うよ。だから、畑仕事をする道具は持って行けば良いよ」
何やかんやと荷物は多くなるけど、今の家よりヨークドシャーの家の方が少し大きい。何とかなるだろう。
アシュレイは最後に桜の枝を一本切った。
『ついて来てくれるか?』
切った一枝を持つと、アシュレイは荷馬車の御者席に座る。
「マシュー、メアリー! 元気で暮らせよ」
マディソン村で産まれて年寄りになるまで実直に暮らしていた老夫婦を村民が見送ってくれた。
「達者でなぁ!」と言われる度に、祖父や祖母は手を振って応える。
アシュレイは、こんなに慕われている祖父母をマディソン村から引き離すのだと顔を上げられない。
「アシュレイ、元気でな! たまには遊びに来いよ!」
ガキ大将のアンガスが大きな声を掛けた。ふと顔を上げるとジムや村の友だちが手を振っている。
「また遊びに来るよ!」
アシュレイは手を大きく振った。こうして、アシュレイはマディソン村から出て行った。
これまでもマクドガル館で修行していたが、週末は帰って来ていたし、アシュレイにとって家は祖父母がいる場所だった。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ごめんね」
何度目かの謝罪に、祖父は頭をぱふっと軽く叩く。
「もう言うな。それに新しい暮らしに俺はわくわくしているぞ。街暮らしなんて初めてだからな」
アシュレイに手綱を持たさず、自分で荷馬車を御す祖父はからからと笑う。
荷馬車は昼前にはヨークドシャーに着いた。
「お祖父ちゃん、壁沿いの道を進んで」
ヨーク伯爵がアシュレイの祖父母に用意してくれた小さな家は、壁に近い所にあった。メイン通りでもなく、高級住宅街でも無いが、近くには小さな雑貨屋や飲み屋などがある下町だ。
「ここだよ」
アシュレイの言葉で、祖父は荷馬車を止める。
「良い家じゃ無いか」
マディソン村の農家よりは少し大きな家だった。表には小さな花壇がある。
「馬は、横の馬小屋に入れておけるよ。それと裏庭には菜園も作れる筈だ」
アシュレイは重い荷馬車を引いた馬を馬小屋に入れたり、荷物を魔法で新しい家に入れたりと忙しい。
祖父母の家の横から切り取ってきた桜の枝を裏庭に植える。
「アシュレイ、そろそろお前はヨーク伯爵の所へ行かないと駄目なんじゃあないか?」
まだ引っ越しは終わっては無いが、後は自分達で片付けると祖父母はアシュレイに言う。
「でも……どうせ、カスパル師匠と修行するだけだろうから、1日遅くなったて平気だよ」
祖父は厳しく言い聞かせる。
「師匠に付いたら、ちゃんと言う事を聞かなくてはいけない。お前はまだ挨拶に行って無いのだろう。ちゃんとしなさい」
確かにヨークドシャーに着いたけど、カスパル師匠に挨拶もしていない。
「じゃあ、挨拶してから引っ越しを手伝って良いか聞いてくるよ」
アシュレイは仕方なくヨークドシャー城へととぼとぼと向かう。
できればベケット師匠のところで修行していたかったので、足取りは重い。
城の前には門番が2人も立っている。
アシュレイは回れ右して帰りたくなったが、祖父母は許してくれないだろうと腹をくくる。
「カスパル師匠のところで修行するアシュレイです」
門番は聞いていたのか通してくれた。
アシュレイもベケット師匠とあれから何度かヨークドシャー城には来ていたので、カスパル師匠の部屋は知っている。
「カスパル師匠、アシュレイです」
ノックして「入りなさい」と声がしたので、入る。
ベケット師匠のマクドガル館の部屋より大きくて窓も大きいから明るい部屋だ。それに本がいっぱいある。
「アシュレイ、遅かったな」
収穫が終わってから引っ越してくるとは聞いていたが、なかなか来ないので困惑していたのだ。
「マディソン村はヨークドシャー付近より、収穫する時期も遅いから……あのカスパル師匠、祖父母の引っ越しの途中なんだけど、手伝って良いですか?」
カスパルはアシュレイが魔法使いの弟子としての心構えがなっていないのに気づいた。
自分がヒューゴ師匠についたのは同じ年頃だったが、家族の事などで修行を休むなんて考えた事は無かった。
「いや、祖父母に会うのは日曜だけにしなさい」
これでもカスパルとしては、とても譲歩したのだ。
離れたく無いとヨークドシャーまで引っ越させたから、週に一回は会わせてやろうと考えたのだ。
「ええっ、ベケット師匠は土日休みをくれたのに」
カスパルはカチンときた。
「ベケット師匠はマディソン村まで行かなくてはいけないから、土日を休ませてくれていたのだろうが、同じ町に住んでいるのだから、一日で十分だ」
若いカスパル師匠と祖父母をマディソン村から引っ越しさせてしまったと落ち込んでいたアシュレイ。
二人の関係は、初日から躓いた。
牛と山羊はこの家に住むバリーに売った。
「この飾り棚も乗せるんだね」
アシュレイは魔法でどんどん乗せていく。
「ベッドは、本当に有るのかい?」
ベッドまで運べないし、小さな家にもベッドはあった。
「あったよ。先週、見てきたんだもん。でも、鍋や皿は無いし、布団も持っていかなきゃね」
前にも言ったと思うけど、アシュレイは自分のせいでマディソン村からヨークドシャーへと引っ越すのだから、何回でも説明する。
「鍬とかも持って行った方が良いかな?」
祖母だけでなく祖父まで同じ質問をしてくる。
「うん、小さいけど庭があるから、菜園を作ったら良いと思うよ。だから、畑仕事をする道具は持って行けば良いよ」
何やかんやと荷物は多くなるけど、今の家よりヨークドシャーの家の方が少し大きい。何とかなるだろう。
アシュレイは最後に桜の枝を一本切った。
『ついて来てくれるか?』
切った一枝を持つと、アシュレイは荷馬車の御者席に座る。
「マシュー、メアリー! 元気で暮らせよ」
マディソン村で産まれて年寄りになるまで実直に暮らしていた老夫婦を村民が見送ってくれた。
「達者でなぁ!」と言われる度に、祖父や祖母は手を振って応える。
アシュレイは、こんなに慕われている祖父母をマディソン村から引き離すのだと顔を上げられない。
「アシュレイ、元気でな! たまには遊びに来いよ!」
ガキ大将のアンガスが大きな声を掛けた。ふと顔を上げるとジムや村の友だちが手を振っている。
「また遊びに来るよ!」
アシュレイは手を大きく振った。こうして、アシュレイはマディソン村から出て行った。
これまでもマクドガル館で修行していたが、週末は帰って来ていたし、アシュレイにとって家は祖父母がいる場所だった。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ごめんね」
何度目かの謝罪に、祖父は頭をぱふっと軽く叩く。
「もう言うな。それに新しい暮らしに俺はわくわくしているぞ。街暮らしなんて初めてだからな」
アシュレイに手綱を持たさず、自分で荷馬車を御す祖父はからからと笑う。
荷馬車は昼前にはヨークドシャーに着いた。
「お祖父ちゃん、壁沿いの道を進んで」
ヨーク伯爵がアシュレイの祖父母に用意してくれた小さな家は、壁に近い所にあった。メイン通りでもなく、高級住宅街でも無いが、近くには小さな雑貨屋や飲み屋などがある下町だ。
「ここだよ」
アシュレイの言葉で、祖父は荷馬車を止める。
「良い家じゃ無いか」
マディソン村の農家よりは少し大きな家だった。表には小さな花壇がある。
「馬は、横の馬小屋に入れておけるよ。それと裏庭には菜園も作れる筈だ」
アシュレイは重い荷馬車を引いた馬を馬小屋に入れたり、荷物を魔法で新しい家に入れたりと忙しい。
祖父母の家の横から切り取ってきた桜の枝を裏庭に植える。
「アシュレイ、そろそろお前はヨーク伯爵の所へ行かないと駄目なんじゃあないか?」
まだ引っ越しは終わっては無いが、後は自分達で片付けると祖父母はアシュレイに言う。
「でも……どうせ、カスパル師匠と修行するだけだろうから、1日遅くなったて平気だよ」
祖父は厳しく言い聞かせる。
「師匠に付いたら、ちゃんと言う事を聞かなくてはいけない。お前はまだ挨拶に行って無いのだろう。ちゃんとしなさい」
確かにヨークドシャーに着いたけど、カスパル師匠に挨拶もしていない。
「じゃあ、挨拶してから引っ越しを手伝って良いか聞いてくるよ」
アシュレイは仕方なくヨークドシャー城へととぼとぼと向かう。
できればベケット師匠のところで修行していたかったので、足取りは重い。
城の前には門番が2人も立っている。
アシュレイは回れ右して帰りたくなったが、祖父母は許してくれないだろうと腹をくくる。
「カスパル師匠のところで修行するアシュレイです」
門番は聞いていたのか通してくれた。
アシュレイもベケット師匠とあれから何度かヨークドシャー城には来ていたので、カスパル師匠の部屋は知っている。
「カスパル師匠、アシュレイです」
ノックして「入りなさい」と声がしたので、入る。
ベケット師匠のマクドガル館の部屋より大きくて窓も大きいから明るい部屋だ。それに本がいっぱいある。
「アシュレイ、遅かったな」
収穫が終わってから引っ越してくるとは聞いていたが、なかなか来ないので困惑していたのだ。
「マディソン村はヨークドシャー付近より、収穫する時期も遅いから……あのカスパル師匠、祖父母の引っ越しの途中なんだけど、手伝って良いですか?」
カスパルはアシュレイが魔法使いの弟子としての心構えがなっていないのに気づいた。
自分がヒューゴ師匠についたのは同じ年頃だったが、家族の事などで修行を休むなんて考えた事は無かった。
「いや、祖父母に会うのは日曜だけにしなさい」
これでもカスパルとしては、とても譲歩したのだ。
離れたく無いとヨークドシャーまで引っ越させたから、週に一回は会わせてやろうと考えたのだ。
「ええっ、ベケット師匠は土日休みをくれたのに」
カスパルはカチンときた。
「ベケット師匠はマディソン村まで行かなくてはいけないから、土日を休ませてくれていたのだろうが、同じ町に住んでいるのだから、一日で十分だ」
若いカスパル師匠と祖父母をマディソン村から引っ越しさせてしまったと落ち込んでいたアシュレイ。
二人の関係は、初日から躓いた。
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