アシュレイの桜

梨香

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26 ギクシャク

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 アシュレイは、前の師匠のベケットが恋しくて堪らない。

 カスパルは、ベケットより魔法使いとして優秀だし、性格も明るくて悪い人間ではない。

 アシュレイは祖父母をマディソン村から引っ越させた負目まで、カスパルに八つ当たりしていた。

 それと、家の片付けをしたかったのに、カスパルに修業を優先するようにと言われたのにカチンときたのだ。

「休みも一日だけだし、今度の師匠は厳しくて嫌だ!」

 その休みの日に、祖父母の家に来て愚痴るアシュレイだ。

「アシュレイ、修業中なのだから、師匠の言う事に従わないといけないよ」

 祖母に嗜められらと「うん……そうなんだけど……」と思い直すアシュレイだった。

「裏庭に菜園を作るのを手伝ってくれ!」

 祖父は、アシュレイに気分転換させてくれた。

 マディソン村の家から持ってきたスキやクワで祖父と裏庭に立派な菜園を作る。

「桜もここが気に入ってくれたら良いな」

 ナンツ町の今は無くなった実家から、マディソン村の祖父母の家、そして今はヨークシャーの小さな家。

「桜は根付き難いのに、ここでもちゃんと根付いたんだな。アシュレイ、私達のことは心配しなくても良いよ。隣の家の人達とも仲良くなったからね」

 祖父は、アシュレイが早く今度の師匠と上手くやれるようにと願った。

 でも、祖父母の願いは叶わなかった。


 その原因の一つは、ヨークシャー城だ。
 これまでアシュレイがベケット師匠について修業していたのは、田舎の騎士爵の館だ。

 それでも、マディソン村からきたアシュレイにとっては、凄く大きくて立派なお城に思えたのだが、本当のヨークシャー城での生活になかなか慣れなかった。

 城には、ヨーク伯爵、伯爵夫人、それに伯爵の子ども達がいる。
 それに仕える使用人が山ほど! 

 カスパルは、ヨーク伯爵に仕える魔法使いだけど、使用人ではない。
 使用人達も、王都サリヴァンで上級魔法使いの弟子だったカスパルを尊敬していた。

 カスパルは、若くて明るい性格なので、上級使用人達は、騎士達よりは気安く接していたが、一線を越える事はなかった。
 シラス王国では、魔法使いの地位は高いのだ。

 だけど、カスパルの弟子のアシュレイは? 
 アシュレイの容姿が、もっと魔法使いらしかったら、使用人達も、少しは気を使ったのかも。

 それでも、上級使用人達は、わきまえて接していたのだが、下働きの女や下男は、気楽に仕事を手伝って貰ったりしていた。

 それと、カスパルの部屋とアシュレイの部屋が離れていたのも良くなかった。

 一応、アシュレイも朝一にカスパルの部屋に行くのだけど、カスパルは朝が弱かった。

 夜に魔法の研究をしていたのだけど、そんなことはアシュレイは知らない。

 朝から元気な弟子を煩く感じているカスパルと、田舎暮らしで朝が早いアシュレイ。とことん相性が悪い。

 その上、ヨークシャー城には、他の貴族の息子も仕えていた。
 騎士の従者スクワイヤ小姓ページは、使用人と貴族の中間だ。
 
 特に、小姓ページと同じ年頃のアシュレイは、微妙な関係だった。

 カスパル師匠の雑用をするのも、弟子のアシュレイの仕事だ。
 それと、小姓ページ達との仕事がダブルのが良くなかった。

「ええっと、この手紙をヨーク伯爵に届けるのか?」

 カスパルは、自分が王都サリヴァン育ちなので、地方のヨークシャー城ぐらいすぐに慣れるだろうと考えていた。

 でも、アシュレイは田舎育ちだ。少しの間、ベケットに師事していただけで、こんな大きな城で、誰に伯爵宛の手紙を渡せば良いのかもわからない。

「伯爵に手渡すのかな? 護衛の騎士が通してくれそうにないけど……」

 身分の高い伯爵の執務室に近づくのも、アシュレイには難しかった。

 カスパルは、伯爵自身に届けるのではなく、その部下か、小姓ページに渡せば良い。簡単な雑用だと思っていたのだ。

 手紙を渡す。こんな簡単な雑用すら、アシュレイには難しかった。

「これを伯爵に渡して下さい」

 やっと、伯爵の部下を見つけて渡した頃には、カスパルが手紙で知らせた内容を伯爵と話していた。
 そして、その手紙をまだ受け取っていない様子に驚いた。

「アシュレイ、何故、手紙を渡さなかったのだ!」

 カスパル師匠に叱られて、アシュレイは困惑する。

「えっ、直接渡さなきゃいけなかったの? いつも、伯爵の側にいる人に、さっき渡したんだけど……」

 カスパルは、自分がアシュレイの事をちゃんと面倒見ていないのに、やっと気づいた。

「アシュレイ、これからは小姓ページに渡せば良いんだよ」

「でも、子どもだよ?」

 アシュレイも子どもだと、カスパルは怒鳴りたくなったけど我慢する。

「|小姓〈ページ〉に渡せば、それを小姓頭に渡してくれる。小姓頭が、伯爵の秘書に渡してくれるのさ」

 なんて、面倒臭いんだろう。アシュレイは、この城に慣れる日が来るのだろうかと溜息をついた。

 

 


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