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第七章 忙しい夏休み
25 パーラー開店
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ハンナの結婚式も終わり、新しく雇ったリリィ、マリナ、ナターシャ、ルーシー達も、仕事の内容を把握したので、ユーリはパーラーを開店する。
「まだまだ準備不足の点もあるけど、アイスクリームは暑いうちが売れ行きが良いから、夏の間に早く開店したいの。皆が気づいた点は、自由に言い合って改良していきましょう。接客はマリー、製造とお金の管理はローズに責任者になって貰うわ。明日は開店だから、ゆっくり今晩は休んでね」
少しずつ夏休みの休暇を終えてストレーゼンの別荘地から帰ってきた人達が、パンフレットで見たパーラーの前で開店はいつかと質問する人もいたので、ユーリは明日開店とポスターを書いて貼る。
開店準備中も、何件かのパーティーへのデリバリーを求められて、ユーリはアイスクリームの保存器を何個も作る。アイスクリームを入れた容器の周りを一回り大きな保存器で囲い、間に砕いた氷を詰めると、パーティーの間は溶けないのだ。
出席したパーティで味わった客から、自宅のパーティーや、晩餐会への注文がかなり入っていた。中には可愛い制服姿の従業員ごと貸してくれとの注文もあったが、アイスクリームの販売のみと断る。夜遅くまで働かせたく無かったのと、アルコールの入った客の相手は御免だったからだ。
ユーリは出資をしてくれた人々に、パーラー開店のお知らせを送る。
アンリに外で食べる屋台感覚のアイスクリームと、パーラーの中で食べるアイスクリームの差別化をはかった方が良いとアドバイスを受けたので、値段を考え直した。メニューと値段を見直したのと、思いがけずパーティーへの注文が好調なので、経営的には客さえ入れば大丈夫だとの自信もついた。
「お祖父様も、パーラーに来て下さらない? 一番初めに出資して下さったのですもの」
ユーリはマキシウス祖父様にパーラー開店を見て欲しかった。王族の方々もユングフラウに帰還されて、行政府も休暇を順に終えた官僚達がそろってきていたので、マキシウスも短い休暇を取ろうと思っていたので快諾する。
「ユーリは夏休みにゆっくり出来なかったのではないか? まだ、成長期なのだから、身体を休めることも必要だぞ」
ユーリ自身も、例年はフォン・フォレストで夏休みはのんびり過ごしていたので、少し疲れを感じていたが、自分より年寄りのお祖父様には言えない。
「開店のゴタゴタが終わったら、2、3日でも良いから、フォン・フォレストに帰るつもりよ」
マキシウスは自分と一緒にフォン・アリストの領地で過ごさないかという言葉を飲み込んだ。ユーリがモガーナを慕っているのを知っていたし、リューデンハイムに在籍しているユーリとは会う機会が多いので遠慮したのだ。
パーラー開店の当日、まだまだユングフラウは暑く、ストレーゼンの屋台でアイスクリームを楽しんだ人達や、話を聞いた人達が、開店時間前から行列を作るぐらいの人出だ。
「セントラルガーデンに野外用のテーブルと、椅子を置かして貰って良かったわ。パーラーに入れる人は限られて居るもの」
ローズ達は屋台で少しは慣れているが、新しく雇った女の子達はたくさんのお客に驚く。開店と同時にパーラーは満席になり、パーラーに入れなかった客は屋台のアイスクリームを買って、セントラルガーデンに置いた椅子に座って食べる。
パーラーではアイスクリームにフルーツをのせたり、チョコレートをかけたサンデーとして出していたので、お洒落な令嬢達は可愛いパーラーで楽しい時間を過ごした。
ユーリは、マキシウス祖父様や、マウリッツ公爵家の人達や、他の出資者の方々の為に、パーラーの席を一つリザーブ席にしておいた。マキシウスは開店時間は混乱するだろうと、少し時間を置いて店に来たが、テイクアウトのアイスクリームを買うパーラーの外の長い行列に驚いてしまう。
パーラーに入る客は小さなメモ帳に名前を書いて、セントラルガーデンを散歩しては、時折、順番がきたかと見にくる。
「お祖父様、いらして下さったのね。丁度、私も新商品を試食しようと思っていたの。ご一緒して良いかしら?」
お祖父様が可愛らしいパーラーの店内と、若い令嬢達が多い客層に、少しひいているのを感じてユーリは一緒に席に着く。
「ユージーン、フランツも、来てくれたのね」
席につくや否や、開店の祝いにユージーンとフランツがやってきた。
「おめでとう! ユーリ、大盛況だね」
フランツにお祝いの花籠を渡されて礼を言っていたユーリは、パーラーの客がざわめいているのに気づいた。グレゴリウスがジークフリートと開店のお祝いに来たのだ。
「皇太子殿下、ご来店ありがとうございます」
ユーリはグレゴリウスとジークフリートを、祖父とユージーンとフランツの席に案内する。
「凄い人出だね、ユーリ、開店おめでとう」
ユーリは全員にメニューを渡して、お勧めは開店のスペシャルメニューだと教える。
「スペシャルメニューって、何なの? フルーツサンデー、チョコレートサンデー、ストロベリーサンデー、ワッフルサンデー……前に言っていたのは、メニューにあるよね?」
フランツはストレーゼンの別荘でメニュー作りに協力したので、スペシャルって何だろうと首を捻る。
「普通のサンデーは1クローネなのに、4クローネか? まぁ、そのスペシャルメニューを頼んでみよう」
ユージーンの言葉にユーリは喜んだ。
「良かったわ! 値段が高いから、ユージーンが初めての注文よ。馬鹿げた企画かと、ガックリきていたの」
ユーリの言葉に何か不安は感じたが、全員がスペシャルメニューを注文する。
「ローズ、スペシャルメニューよ」
ユーリが嬉しそうに注文を厨房に言いにいくのを、グレゴリウスとジークフリートはスペシャルメニューとは何だろうと話し合う。可愛らしい制服を着た従業員が、スペシャルメニューを全員にサービスしたが、唖然として驚いて一瞬食べるのを躊躇する。
「ユーリ、まさかコレは……」
冷たく冷やしたガラスの器に盛られたアイスクリームには、黒っぽいソースがかかっていて、上に極薄にスライスされたトリュフがちょこんと飾ってある。
「さぁ、溶けないうちに召し上がってみて」
トリュフは高級食材だし、全員の好物でもあったが、アイスクリームにかけるのは如何なものかと、恐る恐る一口食べると、う~んとうなり声が自然ともれる程の美味だ。
「こんな贅沢ないよ~凄く美味しいよ」
グレゴリウスの声に全員が賛同する。
「ユーリ、スペシャルメニューなんて書くから注文が無いんだよ。トリュフアイスクリームと書けば、馬鹿売れだよ! トリュフなら4クローネどころか、10クローネで出せるよ」
フランツの言葉にユーリはそんなの高過ぎよと抗議する。
「試食して美味しいと思ってたけど、注文が無いから少し奇をてらい過ぎたかなと不安だったの。そうか、スペシャルじゃなくて、トリュフアイスクリームと書けば良かったのかな? でも、明日のスペシャルはトリフじゃ無いのよね~」
考え込んでいるユーリに、混雑している店内を気にしたメンバーは、美味しかったよと挨拶して席をたつ。ユーリはパーラーの前まで皇太子殿下をお見送りする。
「ユーリはずっとパーラーに居るつもりなの?」
混雑したパーラーの中での長居は避けたが、心配で王宮に帰るのを躊躇うグレゴリウスだった。しかし、ユーリは全く気づかずに開店3日間は詰めると答える。
「開店してみて、あれこれ改良点も見つかったの。今日のスペシャルメニューも、その一つね。明日はブランデーのフランベをテーブルサービスするつもりだったけど、アルコールの苦手な方もいらっしゃるものね。スペシャルメニューの内容を書いてメニューとだすわ」
グレゴリウスのご来店の意味も理解していないユーリに、全員が溜め息をつきたい気持ちだ。
「店内の氷柱も綺麗でしたね。あれは初めて見ましたが、ユーリ嬢が考案されたのですか?」
ジークフリートはパーラーの店内の隅に置かれた、薔薇の花びらを氷に閉じ込めた氷柱に気づいて誉める。
「ええ、パーティーとかで会場は人いきれで暑いでしよ。ただの氷より、花びらや、ハーブを閉じ込めた氷柱の方が付加価値が付くかなと思ったの。氷屋には氷室を使わせて貰ってるし、ヒースヒルの人達にも、良い収入になるかなと考えたの」
グレゴリウスやフランツは、愛しいユーリやお洒落な令嬢達に見とれていて、氷柱には気づいてなかったので、改めて店内を見直して綺麗だねと誉めたが皆に笑われてしまった。
スペシャルメニューがトリュフアイスクリームと知った客達は、次々と注文し、早々に売り切れてしまった。
アンリや他の出資者も、来て大盛況な店内を見て喜んだ。
「お疲れ様、開店が無事に出来たのは、皆さんのお陰よ」
初日の大繁盛に全員が疲れていたが、心地の良い疲れでもあった。
「ユーリ、明日のスペシャルメニューのブランデーのフランベは少し練習が必要ね。あと、公園の周りの掃除に時間がかかるわ。テーブルの側にゴミ箱を置いて置かなきゃ」
接客の責任者のマリーの提案にユーリは、ゴミ箱を忘れていたわと頭を振った。
「あと、保冷器を使わせて。開店してからも、アイスクリームを作るけど、間に合わないかと焦ったの。パーティーは夜が多いし、保冷器を使わせて欲しいわ。ワッフルコーンも、明日は2000個以上用意しなきゃ。夜の内に1000個は焼いておきたいわ」
ワッフルコーンを焼く型や、アイスクリームの保冷器の大きいのも作らないといけないと、ユーリは改良点をメモ帳に書く。
「やはり、やってみると色々と問題が出るわね。お昼も寮に帰って休憩を取りながら食べたかったけど、この調子じゃあ無理ね。簡単に食べれるランチボックスを、落ち着くまで作って貰うわ。皆も疲れていると思うけど、頑張りましょうね」
ローズとマリーは、ユーリこそ接待で疲れていると思っていたので、ワッフルコーンを焼くのを手伝うと言うのを、明日もあるからと帰した。
「ローズさん、ユーリ様は皇太子妃になるのですか?」
リリィは後から雇われた女の子達から押し出されて、お客様の令嬢達が話していたことを耳にしてから気になって仕方無かったのと代表で質問する。
「リリィ、ナターシャ、マリナ、ルーシー! お客様の噂話なんかに聞き耳を立てては駄目よ。ユーリは竜騎士になるまで、結婚しないと言ってるわ。皇太子殿下はリューデンハイムの御学友なのよ……本人はそう言ってるわ」
寮母のダルドリー夫人は、マリーの言葉を微笑みながら聞いていたが、初めて家に訪ねて来た時も皇太子殿下が付き添われていたわと、クスクス笑ってしまう。
『皇太子殿下は気兼ねなく話せるように名乗られなかったけど、指導の竜騎士であるジークフリート卿を伴われている態度からバレバレだったわ。ユーリ様の御気性を考えると、皇太子妃としては苦労されるだろうと思うけど、イルバニア王国の民としては、是非になって頂きたいわ。皇太子殿下を支えていく能力と、弱い立場の人達に対する思い遣り、行動力に溢れたユーリ様が妃殿下になられたら良いのに……でも、もう少し落ち着かれないと、皇太子殿下の思いに気がつかないかしら』
ダルドリー夫人は、若いユーリが恋に無頓着なのに溜め息をつく。リリィ達は先輩のローズとマリーも、今日の皇太子がユーリにラブラブだったと気づいていながら、御学友と苦しい答弁をするので、一応は納得したことにする。
ユーリは開店3日はパーラーに詰めて通ったが、後はローズとマリーに任せることにして、フォン・フォレストに帰った。
ユングフラウに居るとつい口も手も出したくなるし、国務省での見習い実習が始まったら通えなくなるので、任せる方が良いと判断したのだ。それにカザリア王国の特使随行からの疲れが積もり、クタクタだった。
フォン・フォレストでは、ほとんどの時間を海辺でぼんやりとしたり、泳いだりして過ごす。
そうはいっても風車が出来上がっていたのを見に行ったり、旧館の図書室に風を通したりはしたが、最終日、夕方まで海岸で過ごしたユーリは、かなり日焼けしていて、モガーナは皮が剥けるのではと心配した。
「子どもでは無いのですから、海辺で寝てしまってはいけませんよ。鼻の先が真っ赤ですわ。皮が剥けるのはみっともないわ。糸瓜水で顔を冷やしなさい」
侍女達に顔や肩の赤くなった日焼けを、糸瓜水で冷やして貰っている間に、ユーリは爆睡してしまう。
「まぁ、本当に疲れきっているのね。図書室なんかほっといて良かったのに、余計なことを言ってしまったわ」
モガーナは、ユーリがアイスクリームのパーラーを開いたり、風車を作ったりと、忙しくし過ぎだと心配する。糸瓜水の染み込んだコットンを取り替えてやりながら、ユーリの寝顔を眺めて、どんな相手と巡り会うのかしらとモガーナは呟く。
ユーリの忙しい夏休みは終わった。パーラーは順調だったし、風車も出来上がった。
疲れきって寝ているユーリは、これからもっと忙しくなるのを知らない。
国務省の冷血の金庫番が指導の竜騎士であることも、エドアルド皇太子の社交相手に指名されたことも、ユージーンが引き続き指導の竜騎士だということも知らず、すやすやとモガーナの庇護の元で休んでいた。
「まだまだ準備不足の点もあるけど、アイスクリームは暑いうちが売れ行きが良いから、夏の間に早く開店したいの。皆が気づいた点は、自由に言い合って改良していきましょう。接客はマリー、製造とお金の管理はローズに責任者になって貰うわ。明日は開店だから、ゆっくり今晩は休んでね」
少しずつ夏休みの休暇を終えてストレーゼンの別荘地から帰ってきた人達が、パンフレットで見たパーラーの前で開店はいつかと質問する人もいたので、ユーリは明日開店とポスターを書いて貼る。
開店準備中も、何件かのパーティーへのデリバリーを求められて、ユーリはアイスクリームの保存器を何個も作る。アイスクリームを入れた容器の周りを一回り大きな保存器で囲い、間に砕いた氷を詰めると、パーティーの間は溶けないのだ。
出席したパーティで味わった客から、自宅のパーティーや、晩餐会への注文がかなり入っていた。中には可愛い制服姿の従業員ごと貸してくれとの注文もあったが、アイスクリームの販売のみと断る。夜遅くまで働かせたく無かったのと、アルコールの入った客の相手は御免だったからだ。
ユーリは出資をしてくれた人々に、パーラー開店のお知らせを送る。
アンリに外で食べる屋台感覚のアイスクリームと、パーラーの中で食べるアイスクリームの差別化をはかった方が良いとアドバイスを受けたので、値段を考え直した。メニューと値段を見直したのと、思いがけずパーティーへの注文が好調なので、経営的には客さえ入れば大丈夫だとの自信もついた。
「お祖父様も、パーラーに来て下さらない? 一番初めに出資して下さったのですもの」
ユーリはマキシウス祖父様にパーラー開店を見て欲しかった。王族の方々もユングフラウに帰還されて、行政府も休暇を順に終えた官僚達がそろってきていたので、マキシウスも短い休暇を取ろうと思っていたので快諾する。
「ユーリは夏休みにゆっくり出来なかったのではないか? まだ、成長期なのだから、身体を休めることも必要だぞ」
ユーリ自身も、例年はフォン・フォレストで夏休みはのんびり過ごしていたので、少し疲れを感じていたが、自分より年寄りのお祖父様には言えない。
「開店のゴタゴタが終わったら、2、3日でも良いから、フォン・フォレストに帰るつもりよ」
マキシウスは自分と一緒にフォン・アリストの領地で過ごさないかという言葉を飲み込んだ。ユーリがモガーナを慕っているのを知っていたし、リューデンハイムに在籍しているユーリとは会う機会が多いので遠慮したのだ。
パーラー開店の当日、まだまだユングフラウは暑く、ストレーゼンの屋台でアイスクリームを楽しんだ人達や、話を聞いた人達が、開店時間前から行列を作るぐらいの人出だ。
「セントラルガーデンに野外用のテーブルと、椅子を置かして貰って良かったわ。パーラーに入れる人は限られて居るもの」
ローズ達は屋台で少しは慣れているが、新しく雇った女の子達はたくさんのお客に驚く。開店と同時にパーラーは満席になり、パーラーに入れなかった客は屋台のアイスクリームを買って、セントラルガーデンに置いた椅子に座って食べる。
パーラーではアイスクリームにフルーツをのせたり、チョコレートをかけたサンデーとして出していたので、お洒落な令嬢達は可愛いパーラーで楽しい時間を過ごした。
ユーリは、マキシウス祖父様や、マウリッツ公爵家の人達や、他の出資者の方々の為に、パーラーの席を一つリザーブ席にしておいた。マキシウスは開店時間は混乱するだろうと、少し時間を置いて店に来たが、テイクアウトのアイスクリームを買うパーラーの外の長い行列に驚いてしまう。
パーラーに入る客は小さなメモ帳に名前を書いて、セントラルガーデンを散歩しては、時折、順番がきたかと見にくる。
「お祖父様、いらして下さったのね。丁度、私も新商品を試食しようと思っていたの。ご一緒して良いかしら?」
お祖父様が可愛らしいパーラーの店内と、若い令嬢達が多い客層に、少しひいているのを感じてユーリは一緒に席に着く。
「ユージーン、フランツも、来てくれたのね」
席につくや否や、開店の祝いにユージーンとフランツがやってきた。
「おめでとう! ユーリ、大盛況だね」
フランツにお祝いの花籠を渡されて礼を言っていたユーリは、パーラーの客がざわめいているのに気づいた。グレゴリウスがジークフリートと開店のお祝いに来たのだ。
「皇太子殿下、ご来店ありがとうございます」
ユーリはグレゴリウスとジークフリートを、祖父とユージーンとフランツの席に案内する。
「凄い人出だね、ユーリ、開店おめでとう」
ユーリは全員にメニューを渡して、お勧めは開店のスペシャルメニューだと教える。
「スペシャルメニューって、何なの? フルーツサンデー、チョコレートサンデー、ストロベリーサンデー、ワッフルサンデー……前に言っていたのは、メニューにあるよね?」
フランツはストレーゼンの別荘でメニュー作りに協力したので、スペシャルって何だろうと首を捻る。
「普通のサンデーは1クローネなのに、4クローネか? まぁ、そのスペシャルメニューを頼んでみよう」
ユージーンの言葉にユーリは喜んだ。
「良かったわ! 値段が高いから、ユージーンが初めての注文よ。馬鹿げた企画かと、ガックリきていたの」
ユーリの言葉に何か不安は感じたが、全員がスペシャルメニューを注文する。
「ローズ、スペシャルメニューよ」
ユーリが嬉しそうに注文を厨房に言いにいくのを、グレゴリウスとジークフリートはスペシャルメニューとは何だろうと話し合う。可愛らしい制服を着た従業員が、スペシャルメニューを全員にサービスしたが、唖然として驚いて一瞬食べるのを躊躇する。
「ユーリ、まさかコレは……」
冷たく冷やしたガラスの器に盛られたアイスクリームには、黒っぽいソースがかかっていて、上に極薄にスライスされたトリュフがちょこんと飾ってある。
「さぁ、溶けないうちに召し上がってみて」
トリュフは高級食材だし、全員の好物でもあったが、アイスクリームにかけるのは如何なものかと、恐る恐る一口食べると、う~んとうなり声が自然ともれる程の美味だ。
「こんな贅沢ないよ~凄く美味しいよ」
グレゴリウスの声に全員が賛同する。
「ユーリ、スペシャルメニューなんて書くから注文が無いんだよ。トリュフアイスクリームと書けば、馬鹿売れだよ! トリュフなら4クローネどころか、10クローネで出せるよ」
フランツの言葉にユーリはそんなの高過ぎよと抗議する。
「試食して美味しいと思ってたけど、注文が無いから少し奇をてらい過ぎたかなと不安だったの。そうか、スペシャルじゃなくて、トリュフアイスクリームと書けば良かったのかな? でも、明日のスペシャルはトリフじゃ無いのよね~」
考え込んでいるユーリに、混雑している店内を気にしたメンバーは、美味しかったよと挨拶して席をたつ。ユーリはパーラーの前まで皇太子殿下をお見送りする。
「ユーリはずっとパーラーに居るつもりなの?」
混雑したパーラーの中での長居は避けたが、心配で王宮に帰るのを躊躇うグレゴリウスだった。しかし、ユーリは全く気づかずに開店3日間は詰めると答える。
「開店してみて、あれこれ改良点も見つかったの。今日のスペシャルメニューも、その一つね。明日はブランデーのフランベをテーブルサービスするつもりだったけど、アルコールの苦手な方もいらっしゃるものね。スペシャルメニューの内容を書いてメニューとだすわ」
グレゴリウスのご来店の意味も理解していないユーリに、全員が溜め息をつきたい気持ちだ。
「店内の氷柱も綺麗でしたね。あれは初めて見ましたが、ユーリ嬢が考案されたのですか?」
ジークフリートはパーラーの店内の隅に置かれた、薔薇の花びらを氷に閉じ込めた氷柱に気づいて誉める。
「ええ、パーティーとかで会場は人いきれで暑いでしよ。ただの氷より、花びらや、ハーブを閉じ込めた氷柱の方が付加価値が付くかなと思ったの。氷屋には氷室を使わせて貰ってるし、ヒースヒルの人達にも、良い収入になるかなと考えたの」
グレゴリウスやフランツは、愛しいユーリやお洒落な令嬢達に見とれていて、氷柱には気づいてなかったので、改めて店内を見直して綺麗だねと誉めたが皆に笑われてしまった。
スペシャルメニューがトリュフアイスクリームと知った客達は、次々と注文し、早々に売り切れてしまった。
アンリや他の出資者も、来て大盛況な店内を見て喜んだ。
「お疲れ様、開店が無事に出来たのは、皆さんのお陰よ」
初日の大繁盛に全員が疲れていたが、心地の良い疲れでもあった。
「ユーリ、明日のスペシャルメニューのブランデーのフランベは少し練習が必要ね。あと、公園の周りの掃除に時間がかかるわ。テーブルの側にゴミ箱を置いて置かなきゃ」
接客の責任者のマリーの提案にユーリは、ゴミ箱を忘れていたわと頭を振った。
「あと、保冷器を使わせて。開店してからも、アイスクリームを作るけど、間に合わないかと焦ったの。パーティーは夜が多いし、保冷器を使わせて欲しいわ。ワッフルコーンも、明日は2000個以上用意しなきゃ。夜の内に1000個は焼いておきたいわ」
ワッフルコーンを焼く型や、アイスクリームの保冷器の大きいのも作らないといけないと、ユーリは改良点をメモ帳に書く。
「やはり、やってみると色々と問題が出るわね。お昼も寮に帰って休憩を取りながら食べたかったけど、この調子じゃあ無理ね。簡単に食べれるランチボックスを、落ち着くまで作って貰うわ。皆も疲れていると思うけど、頑張りましょうね」
ローズとマリーは、ユーリこそ接待で疲れていると思っていたので、ワッフルコーンを焼くのを手伝うと言うのを、明日もあるからと帰した。
「ローズさん、ユーリ様は皇太子妃になるのですか?」
リリィは後から雇われた女の子達から押し出されて、お客様の令嬢達が話していたことを耳にしてから気になって仕方無かったのと代表で質問する。
「リリィ、ナターシャ、マリナ、ルーシー! お客様の噂話なんかに聞き耳を立てては駄目よ。ユーリは竜騎士になるまで、結婚しないと言ってるわ。皇太子殿下はリューデンハイムの御学友なのよ……本人はそう言ってるわ」
寮母のダルドリー夫人は、マリーの言葉を微笑みながら聞いていたが、初めて家に訪ねて来た時も皇太子殿下が付き添われていたわと、クスクス笑ってしまう。
『皇太子殿下は気兼ねなく話せるように名乗られなかったけど、指導の竜騎士であるジークフリート卿を伴われている態度からバレバレだったわ。ユーリ様の御気性を考えると、皇太子妃としては苦労されるだろうと思うけど、イルバニア王国の民としては、是非になって頂きたいわ。皇太子殿下を支えていく能力と、弱い立場の人達に対する思い遣り、行動力に溢れたユーリ様が妃殿下になられたら良いのに……でも、もう少し落ち着かれないと、皇太子殿下の思いに気がつかないかしら』
ダルドリー夫人は、若いユーリが恋に無頓着なのに溜め息をつく。リリィ達は先輩のローズとマリーも、今日の皇太子がユーリにラブラブだったと気づいていながら、御学友と苦しい答弁をするので、一応は納得したことにする。
ユーリは開店3日はパーラーに詰めて通ったが、後はローズとマリーに任せることにして、フォン・フォレストに帰った。
ユングフラウに居るとつい口も手も出したくなるし、国務省での見習い実習が始まったら通えなくなるので、任せる方が良いと判断したのだ。それにカザリア王国の特使随行からの疲れが積もり、クタクタだった。
フォン・フォレストでは、ほとんどの時間を海辺でぼんやりとしたり、泳いだりして過ごす。
そうはいっても風車が出来上がっていたのを見に行ったり、旧館の図書室に風を通したりはしたが、最終日、夕方まで海岸で過ごしたユーリは、かなり日焼けしていて、モガーナは皮が剥けるのではと心配した。
「子どもでは無いのですから、海辺で寝てしまってはいけませんよ。鼻の先が真っ赤ですわ。皮が剥けるのはみっともないわ。糸瓜水で顔を冷やしなさい」
侍女達に顔や肩の赤くなった日焼けを、糸瓜水で冷やして貰っている間に、ユーリは爆睡してしまう。
「まぁ、本当に疲れきっているのね。図書室なんかほっといて良かったのに、余計なことを言ってしまったわ」
モガーナは、ユーリがアイスクリームのパーラーを開いたり、風車を作ったりと、忙しくし過ぎだと心配する。糸瓜水の染み込んだコットンを取り替えてやりながら、ユーリの寝顔を眺めて、どんな相手と巡り会うのかしらとモガーナは呟く。
ユーリの忙しい夏休みは終わった。パーラーは順調だったし、風車も出来上がった。
疲れきって寝ているユーリは、これからもっと忙しくなるのを知らない。
国務省の冷血の金庫番が指導の竜騎士であることも、エドアルド皇太子の社交相手に指名されたことも、ユージーンが引き続き指導の竜騎士だということも知らず、すやすやとモガーナの庇護の元で休んでいた。
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夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
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