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第八章 見習い実習
34 打倒! シュミット卿!
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お祖母様がユングフラウに来てから、ユーリは前世のことを思いわずらうのは少なくなった。グレゴリウスとエドアルドとの縁談はそのままだし、気を抜いて二人きりになったりすると口説きモードになったりするのが欠点だが、リューデンハイムでの生活を満喫している。
ユーリは寮で生活していたが、一日に一回はお祖母様と会う時間をとる。早めの朝食を食べると、屋敷に行って国務省の見習い実習までの短い時間を、共に過ごすようにしていた。
「そろそろ行かないと。金曜はマウリッツ公爵夫人と、オペラを観に行くの。お祖母様も一緒に如何かしら? お誘いするように、頼まれているのよ」
モガーナもマリアンヌから直接誘われていたが、ユーリの為に苦手な社交界を我慢しているだけなので、公爵家の人達とオペラを観るなら安心だから遠慮する。
「私はオペラはあまり好きじゃないから、遠慮しておきますわ。劇は好きでしたが、歌で劇を進めるのがどうも……週末はタレーラン伯爵家の舞踏会に、グレゴリウス皇太子殿下の舞踏会。二つも舞踏会が有るのね。体調の管理に気をつけなさいね」
お祖母様と一緒にオペラを観に行きたかったが、お好きでないなら仕方ないとユーリは割り切る。
「私は、オペラを観るの初めてなの。好きになれるかしら?」
「ユーリは、歌も好きだから、きっと気に入りますよ。演目は『ライラ』でなくて残念ね。でも、人気の演目だからいつかは観れますわ。『気まぐれな恋人』はコミカルな楽しい演目だから、きっと退屈しなくて良いと思うわ」
お嫌いと言われるわりに詳しいと言うユーリに、一般的な教養として若い頃にオペラも一通り観たと答える。モガーナは本当にオペラはあまり好みではなかったが、娯楽といえば、劇か、オペラか、音楽会しかないので、若い頃は時々観に行ったのだ。
ユーリが外務省へと出勤した後で、モガーナはオペラ鑑賞を断られて良かったとホッとしていた。
「何故、オペラ歌手は太った人が多いのかしら?」
歌で劇が進行する違和感と、モガーナの美意識には太った令嬢と太った恋人のラブシーンは受け入れられなかったので、オペラは本心から遠慮したのだ。これからオペラデビューする孫娘に悪いイメージを持たせたくなかったから、ハッキリとは口にしなかっただけだ。
モガーナはマリアンヌを通して渡された、新しいユーリのスケジュール表を渋々了承した。週末がほとんど社交に当てられているのに不満はあったが、マウリッツ公爵家の舞踏会に招待した家のパーティーを断れないのはモガーナも理解していたし、公式のパーティーも仕方ないと承認したのだ。
今日はシャルロットとお茶会の予定だわと、モガーナは義理の妹のロマンチック大好きな癖は、年をとってもなおらないわねと溜め息をつく。
「ユーリは、どなたが好きなのかしら?」
孫娘の恋愛をウキウキたずねられても、あの恋愛音痴のユーリに新しい展開はそうそうなさそうですわと答えるしか無いのにと、朝から少し憂鬱なモガーナだ。
だが、モガーナは知らなかったが、国務省ではユーリとアンリが一緒にランチをとる姿が噂になっていた。
ユーリは今日もシュミット卿にこき使われていた。新しい予算案は少なくなってきたが、各省庁からの陳情が増えて、仕事の邪魔をされるのが大嫌いなシュミット卿は陳情の窓口をユーリに押しつけたのだ。
「私には、そんなのできません」
予算の陳情窓口なんて無理だと断るユーリに、冷血の金庫番らしい一言がくだされた。
「陳情など元々意味ないのだから、君で充分だ! 私の仕事の邪魔になっている陳情を、引き受けてくれれば良い。ユーリは陳情を聞いて、私に伝えておきますと、追い返せばよいだけだ」
シュミット卿の仕事の邪魔にはならないかもしれないが、ユーリは仕事の邪魔になると抗議する。しかし、所詮は見習い竜騎士の悲しさで、命令には逆らえない。
だが、陳情に来る人達が、見習い竜騎士なんかに聞いて貰って、満足するわけがなかった。アンリはユーリとランチを食べながら、いつもの旺盛な食欲を見せないのを不思議に思う。
「何かあったのですか? シュミット卿に叱られたとか?」
フォークでグサリと肉をさすと、大きな塊を口に入れたユーリは真剣に噛んでる風を装って答えない。愚痴を言ったら止まらなくなりそうで、アンリに呆れられたくなかったのだ。
少し怒っている様子に、アンリは苦笑する。シュミット卿と何かあったのだと確信したが、本人はまだ相談したく無いようだと、少し様子を見ることにする。
「金曜に、オペラデビューされるのですね。ユーリ嬢がオペラを気に入られると、良いのですが。私はオペラが好きなので、一緒に楽しめると良いですね」
仕事の話はしたく無さそうなので、アンリはユーリにオペラの話題を提供する。
「オペラは、好きな方と、苦手な方とに別れますのね。お祖母様を誘ったけど、あまり好きではないからと断られてしまったわ。私も、少し不安なんです。フランツが、太めの令嬢のラブシーンは観てられないと言うんですの!」
アンリは、クスクス笑った。
「確かにオペラ歌手は、太めの方が多いですよね。でも、歌は素晴らしいですよ。オペラの世界に入り込めば、気にならないのですけどね」
二人が仲良く食べているのを、噂を聞きつけた国務相は、食堂にチェックしに来て眉をひそめる。
「アンリ卿の直属の上司は誰かな? この忙しい時期に、暇そうだな」
秘書官は昼食を食べている位で、暇とは言えないのではと内心で呟いたが、アンリは激務を命じられるなと同情しながら上司を呼び出す。国務相は、ユーリの指導の竜騎士であるシュミット卿も呼び出した。
「ユーリ嬢の見習い実習の調子はどうなんだ? 外務省からの貸し出しも、平日はかなり減ったと聞いているが、週末はエドアルド皇太子殿下の社交の相手をしているそうだな。ユーリ嬢は、エドアルド皇太子殿下のことを何か話していないか?」
忙しい時期に、禄でもない話で呼び出されたシュミット卿は、苛立ちを隠さなかった。
「ユーリの見習い実習は、順調です。指示してないのに予算案のミスを付箋に書き込んで各省庁に返却した成果か、早めに予算案が集まってますね。今は私に陳情にくる人達の窓口をやらしています。 エドアルド皇太子殿下のことなど話したことありませんね。忙しいのに馬鹿げた事で呼び出さないで下さい」
マキャベリ国務相は部下のシュミット卿の不機嫌そうな顔は無視して話をすすめる。
「ユーリ嬢に陳情の窓口などさせても、相手は満足しないだろ。相手は予算を確保したいのだから、貴卿に会うまでユーリ嬢を困らせるのでは無いのか?」
国務相が一々見習い竜騎士の実習内容に口を出すのは異例だと、シュミット卿は何を言いたいのかハッキリ言って欲しいと切り出す。
「国王陛下がユーリ嬢をグレゴリウス皇太子殿下の妃に望んでおられるのは承知しているな。何故か国王陛下のご意志が通じない者が我が国務省にも居るようなのだ。食堂でユーリ嬢とアンリ・フォン・ロックフォード卿が昼食を取っているのを知っているのか? かなり親密そうに話しながら食べていたぞ! 貴卿は国王陛下の臣下として、またユーリ嬢の指導の竜騎士として、何か手を打つべきではないのかな」
くだらない用件に、シュミット卿はウンザリする。
「では、ユーリ嬢を忙しくして、昼食を食べさせなければ御満足ですか? 馬鹿げた話に、付き合う暇はありません! 彼女が誰と昼食を食べようと、勝手でしょう!」
上司に啖呵をきって席を立ったシュミット卿の剣幕に、隣室で聞き耳を立てていた秘書官は飛び上がった。不機嫌な国務相の面倒をみるのは自分なのにと、トホホな気持ちになって、足音高く去っていくシュミット卿の後ろ姿を恨めしく眺める。
「ユーリ、こちらに来なさい!」
ユーリは、シュミット卿から呼ばれて執務室に入った。
「国務省での見習い実習は、お遊びではない! 外務省みたいに社交がしたいなら、外務省での見習い実習に転属願いを提出しなさい」
シュミット卿は国務相に呼び出された苛立ちをユーリに八つ当たりしたのだが、ユーリも自分のような小娘に陳情しても意味はないと怒鳴られて苛ついていた。
ユーリには、悪い癖がある。強気に出られると、つい強くかえしてしまうのだ。
「私のどこがら遊びなんですか! 社交など大嫌いだし、国務省での見習い実習を元々希望していたのです。具体的に問題点を、指摘して下さい! それと、陳情の受付は御免です! あの人達は予算の陳情にシュミット卿に会いに来られているのですから、私と会っても意味ないのですから」
見習い竜騎士が、指導の竜騎士にケンカを売るなんて、あってはならない事だ。
「不満なのは、お互い様だ! アリスト卿に、指導の竜騎士を変えて貰うのだな」
お祖父様に頼めと言われて、ユーリはキレた。
「国務省に貴方しか指導の竜騎士がいないから、仕方ないじゃない!」
「なら、他の部署で見習い実習をしろ! 外務省なら、喜んで引き受けてくれるだろ」
「結局、外務省への貸し出しが、気に入らないのね。私だって、好きで社交の相手などしてるわけではないわ。私をクビにしたければ、シュミット卿が祖父に言えばいいでしょ。私は、見習い実習を続けます!」
「なら、私の指示に従うのだな。陳情など聞いても時間の無駄なのだから、お前が追い返せ」
子どものケンカのように、ユーリはベーッと舌を出して、部屋から出て行った。
シュミット卿は、国務相が言ったアンリとの昼食をさせないようにという低次元の命令に反発して、より低次元の口喧嘩をしてしまったと頭を抱え込む。
「それにしても、あんな相手と結婚したいなんて、皇太子殿下は変わっておられる。生意気だし、行儀もなっていない! あれが将来の皇太子妃だなんて、イルバニア王国の恥だ!」
大声で怒鳴る声は、隣室のユーリにもまる聞こえだ。
「シュミット卿め! 絶対にギャフンと言わしてやる!」
薄いドアを挟んで、ユーリの怒鳴り声もシュミット卿に届いた。陳情に来た人達は、ドアを通しての怒鳴り合いに怖れをなして、日を改めることにした。
こんな大喧嘩が、噂にならないわけがない。繁忙期でストレスのたまっている国務省の官僚達は、冷血の金庫番とプチ金庫番の喧嘩を、面白可笑しく噂する。
アンリは上司から遠回しにユーリとの昼食について注意を受けたし、あからさまに仕事の量が増やされた。しかし、指導の竜騎士と冷戦中のユーリとのランチは、激務を調整して続ける意志を固める。
書類を運ぶ途中で、シュミット卿とユーリの部屋の前を通りかかったアンリは「打倒! シュミット卿!」という血気盛んな怒鳴り声を耳にして、爆笑してしまう。
その隣室のシュミット卿の執務室からは「外務省へ帰れ!」との怒鳴り声が聞こえて来た。
廊下を通る官僚達は、繁忙期なのに怒鳴る元気がある二人に呆れ果てる。
ユーリは寮で生活していたが、一日に一回はお祖母様と会う時間をとる。早めの朝食を食べると、屋敷に行って国務省の見習い実習までの短い時間を、共に過ごすようにしていた。
「そろそろ行かないと。金曜はマウリッツ公爵夫人と、オペラを観に行くの。お祖母様も一緒に如何かしら? お誘いするように、頼まれているのよ」
モガーナもマリアンヌから直接誘われていたが、ユーリの為に苦手な社交界を我慢しているだけなので、公爵家の人達とオペラを観るなら安心だから遠慮する。
「私はオペラはあまり好きじゃないから、遠慮しておきますわ。劇は好きでしたが、歌で劇を進めるのがどうも……週末はタレーラン伯爵家の舞踏会に、グレゴリウス皇太子殿下の舞踏会。二つも舞踏会が有るのね。体調の管理に気をつけなさいね」
お祖母様と一緒にオペラを観に行きたかったが、お好きでないなら仕方ないとユーリは割り切る。
「私は、オペラを観るの初めてなの。好きになれるかしら?」
「ユーリは、歌も好きだから、きっと気に入りますよ。演目は『ライラ』でなくて残念ね。でも、人気の演目だからいつかは観れますわ。『気まぐれな恋人』はコミカルな楽しい演目だから、きっと退屈しなくて良いと思うわ」
お嫌いと言われるわりに詳しいと言うユーリに、一般的な教養として若い頃にオペラも一通り観たと答える。モガーナは本当にオペラはあまり好みではなかったが、娯楽といえば、劇か、オペラか、音楽会しかないので、若い頃は時々観に行ったのだ。
ユーリが外務省へと出勤した後で、モガーナはオペラ鑑賞を断られて良かったとホッとしていた。
「何故、オペラ歌手は太った人が多いのかしら?」
歌で劇が進行する違和感と、モガーナの美意識には太った令嬢と太った恋人のラブシーンは受け入れられなかったので、オペラは本心から遠慮したのだ。これからオペラデビューする孫娘に悪いイメージを持たせたくなかったから、ハッキリとは口にしなかっただけだ。
モガーナはマリアンヌを通して渡された、新しいユーリのスケジュール表を渋々了承した。週末がほとんど社交に当てられているのに不満はあったが、マウリッツ公爵家の舞踏会に招待した家のパーティーを断れないのはモガーナも理解していたし、公式のパーティーも仕方ないと承認したのだ。
今日はシャルロットとお茶会の予定だわと、モガーナは義理の妹のロマンチック大好きな癖は、年をとってもなおらないわねと溜め息をつく。
「ユーリは、どなたが好きなのかしら?」
孫娘の恋愛をウキウキたずねられても、あの恋愛音痴のユーリに新しい展開はそうそうなさそうですわと答えるしか無いのにと、朝から少し憂鬱なモガーナだ。
だが、モガーナは知らなかったが、国務省ではユーリとアンリが一緒にランチをとる姿が噂になっていた。
ユーリは今日もシュミット卿にこき使われていた。新しい予算案は少なくなってきたが、各省庁からの陳情が増えて、仕事の邪魔をされるのが大嫌いなシュミット卿は陳情の窓口をユーリに押しつけたのだ。
「私には、そんなのできません」
予算の陳情窓口なんて無理だと断るユーリに、冷血の金庫番らしい一言がくだされた。
「陳情など元々意味ないのだから、君で充分だ! 私の仕事の邪魔になっている陳情を、引き受けてくれれば良い。ユーリは陳情を聞いて、私に伝えておきますと、追い返せばよいだけだ」
シュミット卿の仕事の邪魔にはならないかもしれないが、ユーリは仕事の邪魔になると抗議する。しかし、所詮は見習い竜騎士の悲しさで、命令には逆らえない。
だが、陳情に来る人達が、見習い竜騎士なんかに聞いて貰って、満足するわけがなかった。アンリはユーリとランチを食べながら、いつもの旺盛な食欲を見せないのを不思議に思う。
「何かあったのですか? シュミット卿に叱られたとか?」
フォークでグサリと肉をさすと、大きな塊を口に入れたユーリは真剣に噛んでる風を装って答えない。愚痴を言ったら止まらなくなりそうで、アンリに呆れられたくなかったのだ。
少し怒っている様子に、アンリは苦笑する。シュミット卿と何かあったのだと確信したが、本人はまだ相談したく無いようだと、少し様子を見ることにする。
「金曜に、オペラデビューされるのですね。ユーリ嬢がオペラを気に入られると、良いのですが。私はオペラが好きなので、一緒に楽しめると良いですね」
仕事の話はしたく無さそうなので、アンリはユーリにオペラの話題を提供する。
「オペラは、好きな方と、苦手な方とに別れますのね。お祖母様を誘ったけど、あまり好きではないからと断られてしまったわ。私も、少し不安なんです。フランツが、太めの令嬢のラブシーンは観てられないと言うんですの!」
アンリは、クスクス笑った。
「確かにオペラ歌手は、太めの方が多いですよね。でも、歌は素晴らしいですよ。オペラの世界に入り込めば、気にならないのですけどね」
二人が仲良く食べているのを、噂を聞きつけた国務相は、食堂にチェックしに来て眉をひそめる。
「アンリ卿の直属の上司は誰かな? この忙しい時期に、暇そうだな」
秘書官は昼食を食べている位で、暇とは言えないのではと内心で呟いたが、アンリは激務を命じられるなと同情しながら上司を呼び出す。国務相は、ユーリの指導の竜騎士であるシュミット卿も呼び出した。
「ユーリ嬢の見習い実習の調子はどうなんだ? 外務省からの貸し出しも、平日はかなり減ったと聞いているが、週末はエドアルド皇太子殿下の社交の相手をしているそうだな。ユーリ嬢は、エドアルド皇太子殿下のことを何か話していないか?」
忙しい時期に、禄でもない話で呼び出されたシュミット卿は、苛立ちを隠さなかった。
「ユーリの見習い実習は、順調です。指示してないのに予算案のミスを付箋に書き込んで各省庁に返却した成果か、早めに予算案が集まってますね。今は私に陳情にくる人達の窓口をやらしています。 エドアルド皇太子殿下のことなど話したことありませんね。忙しいのに馬鹿げた事で呼び出さないで下さい」
マキャベリ国務相は部下のシュミット卿の不機嫌そうな顔は無視して話をすすめる。
「ユーリ嬢に陳情の窓口などさせても、相手は満足しないだろ。相手は予算を確保したいのだから、貴卿に会うまでユーリ嬢を困らせるのでは無いのか?」
国務相が一々見習い竜騎士の実習内容に口を出すのは異例だと、シュミット卿は何を言いたいのかハッキリ言って欲しいと切り出す。
「国王陛下がユーリ嬢をグレゴリウス皇太子殿下の妃に望んでおられるのは承知しているな。何故か国王陛下のご意志が通じない者が我が国務省にも居るようなのだ。食堂でユーリ嬢とアンリ・フォン・ロックフォード卿が昼食を取っているのを知っているのか? かなり親密そうに話しながら食べていたぞ! 貴卿は国王陛下の臣下として、またユーリ嬢の指導の竜騎士として、何か手を打つべきではないのかな」
くだらない用件に、シュミット卿はウンザリする。
「では、ユーリ嬢を忙しくして、昼食を食べさせなければ御満足ですか? 馬鹿げた話に、付き合う暇はありません! 彼女が誰と昼食を食べようと、勝手でしょう!」
上司に啖呵をきって席を立ったシュミット卿の剣幕に、隣室で聞き耳を立てていた秘書官は飛び上がった。不機嫌な国務相の面倒をみるのは自分なのにと、トホホな気持ちになって、足音高く去っていくシュミット卿の後ろ姿を恨めしく眺める。
「ユーリ、こちらに来なさい!」
ユーリは、シュミット卿から呼ばれて執務室に入った。
「国務省での見習い実習は、お遊びではない! 外務省みたいに社交がしたいなら、外務省での見習い実習に転属願いを提出しなさい」
シュミット卿は国務相に呼び出された苛立ちをユーリに八つ当たりしたのだが、ユーリも自分のような小娘に陳情しても意味はないと怒鳴られて苛ついていた。
ユーリには、悪い癖がある。強気に出られると、つい強くかえしてしまうのだ。
「私のどこがら遊びなんですか! 社交など大嫌いだし、国務省での見習い実習を元々希望していたのです。具体的に問題点を、指摘して下さい! それと、陳情の受付は御免です! あの人達は予算の陳情にシュミット卿に会いに来られているのですから、私と会っても意味ないのですから」
見習い竜騎士が、指導の竜騎士にケンカを売るなんて、あってはならない事だ。
「不満なのは、お互い様だ! アリスト卿に、指導の竜騎士を変えて貰うのだな」
お祖父様に頼めと言われて、ユーリはキレた。
「国務省に貴方しか指導の竜騎士がいないから、仕方ないじゃない!」
「なら、他の部署で見習い実習をしろ! 外務省なら、喜んで引き受けてくれるだろ」
「結局、外務省への貸し出しが、気に入らないのね。私だって、好きで社交の相手などしてるわけではないわ。私をクビにしたければ、シュミット卿が祖父に言えばいいでしょ。私は、見習い実習を続けます!」
「なら、私の指示に従うのだな。陳情など聞いても時間の無駄なのだから、お前が追い返せ」
子どものケンカのように、ユーリはベーッと舌を出して、部屋から出て行った。
シュミット卿は、国務相が言ったアンリとの昼食をさせないようにという低次元の命令に反発して、より低次元の口喧嘩をしてしまったと頭を抱え込む。
「それにしても、あんな相手と結婚したいなんて、皇太子殿下は変わっておられる。生意気だし、行儀もなっていない! あれが将来の皇太子妃だなんて、イルバニア王国の恥だ!」
大声で怒鳴る声は、隣室のユーリにもまる聞こえだ。
「シュミット卿め! 絶対にギャフンと言わしてやる!」
薄いドアを挟んで、ユーリの怒鳴り声もシュミット卿に届いた。陳情に来た人達は、ドアを通しての怒鳴り合いに怖れをなして、日を改めることにした。
こんな大喧嘩が、噂にならないわけがない。繁忙期でストレスのたまっている国務省の官僚達は、冷血の金庫番とプチ金庫番の喧嘩を、面白可笑しく噂する。
アンリは上司から遠回しにユーリとの昼食について注意を受けたし、あからさまに仕事の量が増やされた。しかし、指導の竜騎士と冷戦中のユーリとのランチは、激務を調整して続ける意志を固める。
書類を運ぶ途中で、シュミット卿とユーリの部屋の前を通りかかったアンリは「打倒! シュミット卿!」という血気盛んな怒鳴り声を耳にして、爆笑してしまう。
その隣室のシュミット卿の執務室からは「外務省へ帰れ!」との怒鳴り声が聞こえて来た。
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