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第十三章 ユーリ王妃
2 お茶会で噂話
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ユーリは久し振りに王宮に訪ねて来たテレーズとアルフォンスに、優雅な仕草でお茶を勧める。その様子を見て、テレーズは少しは王妃として落ち着いてきたようねと安心する。
王宮に残ったマリー・ルイーズは、公務で忙しいユーリの子育てを助けている。
「マリー・ルイーズには、苦労をかけてばっかりだわ。6人もの孫の世話は大変でしょう。たまにはストレーゼンの離宮で、骨休めしなさいね」
「私はグレゴリウスしか産んであげれず、寂しい思いをさせてしまいましたから、賑やかな暮らしを楽しんでますの。特に、アリエナ、ロザリー、キャシーのおしゃまさん達と話していると、笑って皺が増えそうで困りますわ」
晴れ晴れと笑うマリー・ルイーズが、祖母としての日々を楽しんでいる様子に、テレーズは心の底からホッとする。グレゴリウスの父親のフィリップは病弱で、その妃として看病の日々を暮らし、若くして寡婦になったマリー・ルイーズを、テレーズはずっと気にかけていたのだ。
「マリー・ルイーズ様には、頭が下がりますわ。我が子ながら、あの三人には手を焼いていますの。特に、アリエナは男勝りで困ってます。今日もフィリップに剣で勝負しようと言い出す始末ですのよ。リューデンハイムの制服に嫉妬したのでしょうけど、お淑やかだったと聞いているアリエナ様の名前が気の毒に思えますわ」
ユーリは女の子に厳しい母親で、王女達には必要が無さそうな料理や針仕事も仕込んでいたが、アリエナは剣や槍を振り回す方が好きで反発していた。
「まぁ、元気で良いじゃないですか。心臓の弱かったアリエナが、元気になって生まれ変わってきたようで、とても嬉しく思ってますのよ」
アリエナのきっぱりとした気性と、絶世の美女になりそうな容貌が、テレーズの好みにバッチリだった。
「アリエナは、勉強も武術も優等生ですわ。ただ、ピアノはもう少し頑張らなくてはいけませんね」
未だにピアノの苦手なユーリは、あらまぁと首を竦める。グレゴリウスはピアノなんてどうでも良いと笑い飛ばしかけたが、ハッと考え直して、そうですねと母親に同意する。ユーリは、日頃は王女達に甘いグレゴリウスの態度にピンときた。
「グレゴリウス様、アリエナをカザリア王国に嫁がせるつもりですのね」
しまった! と、グレゴリウスは先程の話の再現だと後悔したが、援軍が居る時に話し合っておこうと腹をくくる。
「ユーリ、カザリア王国は同盟国だし、大事な貿易相手だ。スチュワート王子とアリエナなら年も丁度良いだろう」
ユーリは聞きたくないとぷいと顔を背けて、和やかなお茶の席が夫婦喧嘩の場になりかけたが、アルフォンスが仲裁に入る。
「スチュワート王子は何才だったのかな? 8才かぁ、未だ先の話ではないか。ユーリもグレゴリウスも、先のことで喧嘩などよしなさい」
ユーリも後数年は大丈夫そうねと溜め息をついて、せっかくフィリップのお祝いに来て下さったのにと詫びる。
「それはそうと、ユーリは今年はキャベツ畑を作るのかしら? もう、子どもは充分でしょうが、頼まれて困ってますの」
ユーリは6人の子どもに振り回される日々をおくっているので、もう良いかなと思っていた。でも、今日、リューデンハイムの制服を着たフィリップを見ると寂しくなっていた。
「そうなんですよね。来年はアリーもリューデンハイムに行ってしまうし、再来年はロザリーも行ってしまうわ。キャシーとウィリーとレオだけになるのよ、寂しいわ」
グレゴリウスは子ども達は大好きだし愛しているが、もう少しユーリと二人の時間を持ちたいと思う。
「今年は、少し考えてみます。やっと予算がおりそうですし、助産院ももう何カ所か開きたいから」
「ユーリったら、私との時間より、仕事なのかぁ」
国王としては立派に職務を果たしているグレゴリウスが、相変わらずユーリの件になると駄々を捏ねるのを、マリー・ルイーズは笑いながら見る。
「ユーリ、少しはグレゴリウスの相手もしてあげなさい。国王の職務は責任が重く、辛い決断を下す時もあるのですからね」
テレーズに諭されて、素直にはいと返事は良いユーリだ。6人の子どもを産んだとは思えない、結婚した時の姿を保っているユーリを、グレゴリウスは新婚の時よりも愛している。色々と喧嘩も絶えない二人だが、王女達の結婚以外は話し合って解決してきたのだ。
「早いものね、あのフィリップがリューデンハイムに入学する年になったのですねぇ。あの子は難産で心配しましたけど、立派に育ちましたね。皇太子としての自覚もあるみたいで、安心しましたわ」
テレーズは訪問の本来の目的である、フィリップの入学祝いの話題にかえした。
「フィリップと一緒にリューデンハイムに入学するのは、誰だったかな。ラリック、マキューショ、ベンジャミンは2級年上だったか、あの時にはメルローズとシェリルは女の子を産んだのだな」
アルフォンスは、孫や曾孫がごちゃごちゃになっていた。
「フィリップと同じ年に産まれた子で、リューデンハイムに入学するのは、シュミット卿の息子ライナスと、ジークフリート卿の息子アンドリューですよ」
テレーズの方が、子ども関係は詳しかった。
「ライナスとアンドリューが同級生なのか。フィリップのリューデンハイム生活は波瀾万丈だな。ガチガチのライナスと、華やかなアンドリューが学友とはねぇ」
シュミット卿の奥方のジョージィナは子どもが欲しくて、夫に黙ってユーリにキャベツを願ったのだ。
「子どもがいなくても、良いではないか」
シュミット卿は地方貴族だし、跡取りなどいなくても親戚の誰かが古びた屋敷を継ぐだろうと考えていたが、日頃はおとなしいジョージィナが結婚して初めて夫に逆らった。
「私は、愛する夫の子どもを産みたいのです」
指導していたユーリにキャベツを貰うなんて恥ずかしくて言えるかとシュミット卿は怒ったが、ジョージィナは自分で頼みますと後に退かなかったのだ。ジョージィナが産んだライナスは、容姿も性格もシュミット卿そっくりで、ガチガチの石頭だった。
一方のジークフリート卿のアンドリューは、こちらも親に似て華やかな甘いマスクと一見軽薄に思える程の優雅な物腰の少年に育っていた。ラリック、マキューショ、ベンジャミンと共に、ライナス、アンドリューは離宮や王宮で、フィリップの遊び友達として一緒に過ごすことが多かった。
「アンドリューには、弟もいた筈だな? フランシスだったか」
「ええ、確かウィリーと同じ年だったわ。そうね、ウィリーには友達が必要だわ。フランシスに王宮に遊びに来て貰いましょう。フェリシティ夫人に頼んでおきますわ。フィリップが寮に行ったら、姉達と幼いレオだけになりますもの。他にも、ウィリーの同級生を呼びましょう」
グレゴリウスは、ウィリアムが兄のフィリップを補佐するようにたくましく育てたいと思っていたので、一人で遊ぶ姿を見る度に心配していた。
「それは良い考えだ。ウィリーと同じ年には、ユージーン卿のチャールズがいる。フランシスが兄のアンドリューに似た性格なら、ウィリーとは合わないかもしれないが、チャールズなら大丈夫だろう」
テーレーズとアルフォンスは、知り合いの子どもが同級生に多いのはキャベツ畑のせいだと苦笑した。
「そう言えば、ジークフリート卿はキャベツ畑組ではなかったな。まあ、イルバニア王国一の色男にはキャベツは必要無いのだろう」
ジークフリート卿は親に結婚相手を押し付けられるぐらいならと、コンスタンス姫を救出して、竜騎士隊に入隊した直後にフェリシティと電撃結婚してユングフラウを驚かせた。
ユーリとグレゴリウスは、フェリシティ夫人を見た時にアッと独身時代を思い出した。ユーリとデートしたいと悩んでいたグレゴリウスを、パーラーに連れて行ったジークフリートが、店内で揉めていた貴婦人だったのだ。
フェリシティは優雅な貴婦人で、ジークフリートと並ぶと華やかなカップルだったが、ビクトリアと対抗できる毒舌を秘めていた。ユーリの側近としてビクトリアとフェリシティはムチの役目を果たし、助産院を設立したり、ミシンの習練所を増やしたりと精力的に働いてくれている。
セリーナ、メルローズ、シェリルは暴走しがちなユーリとビクトリアとフェリシティを止めるブレーキ役で、エリザベスやミッシェル達は華やかなパーティーとかの付き添い役などが得意だ。ユーリが側近達と王妃として、母として立派にやっているのを見て、テレーズは安心してストレーゼンの離宮に帰っていった。
フィリップがリューデンハイムに入学すると、ルナも一緒に寮で過ごすことが多くなり、ウィリアムは少し寂しく感じていた。ソリスも遊んでくれるが、姉のアリエナに付き添う時間が多い。
弟のレオは未だ一緒に遊ぶというには幼すぎたし、姉のキャサリンは2才しか違わないのにレオと同じ赤ちゃん扱いしかしてくれない。
「ウィリー、こちらにいらっしゃい。これから、一緒に遊んだり勉強してくれる、お友達を紹介するわね。こちらが、フランシス、チャールズよ。ウィリーよ、仲良くしてね」
フランシスは凄く綺麗な顔の王子様に驚いたが、持ち前の愛想の良さではきはきと挨拶する。
「ウィリアム王子様、フランシスです。以後、お見知りおきを」
優雅な物腰はジークフリート卿そっくりねと、ユーリは笑いを押し殺す。ユージーンの息子のチャールズはこれまた真面目を絵に書いたような子どもで、躾られた通りに礼儀正しく挨拶する。
「ウィリアム王子様、チャールズです。よろしくお願いします」
ウィリアムは最初はフランシスやチャールズと遠慮がちに話したりしていたが、ソリスが誰だろうと近づいて来たのをきっかけに打ち解けて話し出す。
「私のことは、ウィリーと呼んでよ」
フランシスとチャールズは顔をみあわせたが、親から王子様と友達になるようにと言われていたので、ウィリー様と呼ぶことにする。
三人がソリスを追いかけて遊んでいるのを、ユーリはフェリシティとユージーンの奥方のダイアナと見ながらお茶をしていた。
「ダイアナ様は、今度エドアルド王の即位式にユージーン卿と列席されるのですか」
仕事中毒のヘンリー国王陛下は、長年の無理が祟って体調を崩す事が多くなり、32才になったエドアルドに譲位する事にしたのだ。
「ええ、同盟国の王が交代されるのですから。夫はニューパロマの大使館に、若い頃に滞在した事があると言っておりました」
ユーリは同盟締結の為にニューパロマに滞在した時の思い出が蘇った。
「セリーナ夫人が駐カザリア王国大使夫人だったのよ。ハロルド様や、ジェラルド様、ユリアン様達にお会いしたいわ」
その当時の事情を詳しく知らないダイアナだったが、エドアルドとグレゴリウスがユーリを巡って三角関係だとかの噂は耳にした事があったので、外交官の妻らしく微笑んでスルーする。
「王妃様、お会いしたいのはエドアルド様ではないのですか?」
二人の恋のバトルに巻き込まれて、ジークフリートとのデートを何度となくドタキャンされたフェリシティは、チクリと毒舌でさす。
「まぁ、フェリシティ様ったら酷いわ。グレゴリウス様に聞かれたら大変な事になるわ」
「何が大変な事になるのかな?」
タイミング悪く、グレゴリウスがウィリアムの学友に興味を持って公務の間に顔を見せた。
「国王陛下が浮気をされたら、大変な事になると話していたのです。ジークフリートからも目が離せませんわ」
グレゴリウスはアレッと何か誤魔化されているような違和感を感じたが、イルバニア王国一の色男の奥方の話術に嵌まる。フェリシティは容姿も優雅な貴婦人だったが、ジークフリートが伴侶に選んだ理由は頭の回転の早さとウィットに富んだ話術に惹かれたからだ。
「殿様は浮気が奥方にバレないと、本気で思っているみたいですわね。親の勧める相手と条件だけで結婚しましたが、新婚の時から浮気ばかりで嫌になってサッサと別れましたのよ。本人は否定してましたが、私が証拠を突きつけると逆ギレして責めてきましたから、離婚届にサインさせるのは楽でしたわ」
グレゴリウスは浮気など考えた事も無かったが、何処で浮気がバレるのかと身を乗り出して聞く。
「先ずは身綺麗になりますし、いそいそと出掛ける後ろ姿に浮気相手と会うと書いてありますわ。面と向かっては仕事だとか厳めしい顔を作って誤魔化せても、殿方が浮気をしに行こうとしている時は背中に表れますわ」
ユーリは思わずグレゴリウスの背中をチェックしなくちゃと呟く。 グレゴリウスは鈍いユーリには背中チェックではわからないのではと笑った。
「失礼ですが、夫の浮気で離婚されたのに、ジークフリート卿をお選びになったのですか?」
ユーリはちょっと失礼だわと、グレゴリウスを咎めたが、フェリシティは微笑んで答えた。
「だって愛していますもの。それに、ジークフリートからプロポーズされて、断る女の人はいませんわ」
どひゃ~と、最大のノロケ話にグレゴリウスはのけぞってしまい、ユーリやダイアナはクスクス笑う。
ウィリアム達は大人達が楽しそうに笑っているのを見て、これなら少しぐらいはやんちゃな事をしても許されるだろうと思った。
「凄く美味しい苺があるんだ。ついておいでよ」
こっそりと温室で苺を食べ放題に食べた三人は、夜中にお腹が痛くなって大騒動になり、盗み食いがバレて叱られたのだった。
「ウィリー、苺を食べ過ぎてはいけませんよ。4才の時に、フランシスとチャールズと温室で苺を盗み食いをして、夜中に侍医を呼び出したり大騒ぎになったのですよ」
大人達は大きくなっても苺事件を時折口に出してはクスクス笑い、ウィリアム達はバツの悪い気分になるのだった。
王宮に残ったマリー・ルイーズは、公務で忙しいユーリの子育てを助けている。
「マリー・ルイーズには、苦労をかけてばっかりだわ。6人もの孫の世話は大変でしょう。たまにはストレーゼンの離宮で、骨休めしなさいね」
「私はグレゴリウスしか産んであげれず、寂しい思いをさせてしまいましたから、賑やかな暮らしを楽しんでますの。特に、アリエナ、ロザリー、キャシーのおしゃまさん達と話していると、笑って皺が増えそうで困りますわ」
晴れ晴れと笑うマリー・ルイーズが、祖母としての日々を楽しんでいる様子に、テレーズは心の底からホッとする。グレゴリウスの父親のフィリップは病弱で、その妃として看病の日々を暮らし、若くして寡婦になったマリー・ルイーズを、テレーズはずっと気にかけていたのだ。
「マリー・ルイーズ様には、頭が下がりますわ。我が子ながら、あの三人には手を焼いていますの。特に、アリエナは男勝りで困ってます。今日もフィリップに剣で勝負しようと言い出す始末ですのよ。リューデンハイムの制服に嫉妬したのでしょうけど、お淑やかだったと聞いているアリエナ様の名前が気の毒に思えますわ」
ユーリは女の子に厳しい母親で、王女達には必要が無さそうな料理や針仕事も仕込んでいたが、アリエナは剣や槍を振り回す方が好きで反発していた。
「まぁ、元気で良いじゃないですか。心臓の弱かったアリエナが、元気になって生まれ変わってきたようで、とても嬉しく思ってますのよ」
アリエナのきっぱりとした気性と、絶世の美女になりそうな容貌が、テレーズの好みにバッチリだった。
「アリエナは、勉強も武術も優等生ですわ。ただ、ピアノはもう少し頑張らなくてはいけませんね」
未だにピアノの苦手なユーリは、あらまぁと首を竦める。グレゴリウスはピアノなんてどうでも良いと笑い飛ばしかけたが、ハッと考え直して、そうですねと母親に同意する。ユーリは、日頃は王女達に甘いグレゴリウスの態度にピンときた。
「グレゴリウス様、アリエナをカザリア王国に嫁がせるつもりですのね」
しまった! と、グレゴリウスは先程の話の再現だと後悔したが、援軍が居る時に話し合っておこうと腹をくくる。
「ユーリ、カザリア王国は同盟国だし、大事な貿易相手だ。スチュワート王子とアリエナなら年も丁度良いだろう」
ユーリは聞きたくないとぷいと顔を背けて、和やかなお茶の席が夫婦喧嘩の場になりかけたが、アルフォンスが仲裁に入る。
「スチュワート王子は何才だったのかな? 8才かぁ、未だ先の話ではないか。ユーリもグレゴリウスも、先のことで喧嘩などよしなさい」
ユーリも後数年は大丈夫そうねと溜め息をついて、せっかくフィリップのお祝いに来て下さったのにと詫びる。
「それはそうと、ユーリは今年はキャベツ畑を作るのかしら? もう、子どもは充分でしょうが、頼まれて困ってますの」
ユーリは6人の子どもに振り回される日々をおくっているので、もう良いかなと思っていた。でも、今日、リューデンハイムの制服を着たフィリップを見ると寂しくなっていた。
「そうなんですよね。来年はアリーもリューデンハイムに行ってしまうし、再来年はロザリーも行ってしまうわ。キャシーとウィリーとレオだけになるのよ、寂しいわ」
グレゴリウスは子ども達は大好きだし愛しているが、もう少しユーリと二人の時間を持ちたいと思う。
「今年は、少し考えてみます。やっと予算がおりそうですし、助産院ももう何カ所か開きたいから」
「ユーリったら、私との時間より、仕事なのかぁ」
国王としては立派に職務を果たしているグレゴリウスが、相変わらずユーリの件になると駄々を捏ねるのを、マリー・ルイーズは笑いながら見る。
「ユーリ、少しはグレゴリウスの相手もしてあげなさい。国王の職務は責任が重く、辛い決断を下す時もあるのですからね」
テレーズに諭されて、素直にはいと返事は良いユーリだ。6人の子どもを産んだとは思えない、結婚した時の姿を保っているユーリを、グレゴリウスは新婚の時よりも愛している。色々と喧嘩も絶えない二人だが、王女達の結婚以外は話し合って解決してきたのだ。
「早いものね、あのフィリップがリューデンハイムに入学する年になったのですねぇ。あの子は難産で心配しましたけど、立派に育ちましたね。皇太子としての自覚もあるみたいで、安心しましたわ」
テレーズは訪問の本来の目的である、フィリップの入学祝いの話題にかえした。
「フィリップと一緒にリューデンハイムに入学するのは、誰だったかな。ラリック、マキューショ、ベンジャミンは2級年上だったか、あの時にはメルローズとシェリルは女の子を産んだのだな」
アルフォンスは、孫や曾孫がごちゃごちゃになっていた。
「フィリップと同じ年に産まれた子で、リューデンハイムに入学するのは、シュミット卿の息子ライナスと、ジークフリート卿の息子アンドリューですよ」
テレーズの方が、子ども関係は詳しかった。
「ライナスとアンドリューが同級生なのか。フィリップのリューデンハイム生活は波瀾万丈だな。ガチガチのライナスと、華やかなアンドリューが学友とはねぇ」
シュミット卿の奥方のジョージィナは子どもが欲しくて、夫に黙ってユーリにキャベツを願ったのだ。
「子どもがいなくても、良いではないか」
シュミット卿は地方貴族だし、跡取りなどいなくても親戚の誰かが古びた屋敷を継ぐだろうと考えていたが、日頃はおとなしいジョージィナが結婚して初めて夫に逆らった。
「私は、愛する夫の子どもを産みたいのです」
指導していたユーリにキャベツを貰うなんて恥ずかしくて言えるかとシュミット卿は怒ったが、ジョージィナは自分で頼みますと後に退かなかったのだ。ジョージィナが産んだライナスは、容姿も性格もシュミット卿そっくりで、ガチガチの石頭だった。
一方のジークフリート卿のアンドリューは、こちらも親に似て華やかな甘いマスクと一見軽薄に思える程の優雅な物腰の少年に育っていた。ラリック、マキューショ、ベンジャミンと共に、ライナス、アンドリューは離宮や王宮で、フィリップの遊び友達として一緒に過ごすことが多かった。
「アンドリューには、弟もいた筈だな? フランシスだったか」
「ええ、確かウィリーと同じ年だったわ。そうね、ウィリーには友達が必要だわ。フランシスに王宮に遊びに来て貰いましょう。フェリシティ夫人に頼んでおきますわ。フィリップが寮に行ったら、姉達と幼いレオだけになりますもの。他にも、ウィリーの同級生を呼びましょう」
グレゴリウスは、ウィリアムが兄のフィリップを補佐するようにたくましく育てたいと思っていたので、一人で遊ぶ姿を見る度に心配していた。
「それは良い考えだ。ウィリーと同じ年には、ユージーン卿のチャールズがいる。フランシスが兄のアンドリューに似た性格なら、ウィリーとは合わないかもしれないが、チャールズなら大丈夫だろう」
テーレーズとアルフォンスは、知り合いの子どもが同級生に多いのはキャベツ畑のせいだと苦笑した。
「そう言えば、ジークフリート卿はキャベツ畑組ではなかったな。まあ、イルバニア王国一の色男にはキャベツは必要無いのだろう」
ジークフリート卿は親に結婚相手を押し付けられるぐらいならと、コンスタンス姫を救出して、竜騎士隊に入隊した直後にフェリシティと電撃結婚してユングフラウを驚かせた。
ユーリとグレゴリウスは、フェリシティ夫人を見た時にアッと独身時代を思い出した。ユーリとデートしたいと悩んでいたグレゴリウスを、パーラーに連れて行ったジークフリートが、店内で揉めていた貴婦人だったのだ。
フェリシティは優雅な貴婦人で、ジークフリートと並ぶと華やかなカップルだったが、ビクトリアと対抗できる毒舌を秘めていた。ユーリの側近としてビクトリアとフェリシティはムチの役目を果たし、助産院を設立したり、ミシンの習練所を増やしたりと精力的に働いてくれている。
セリーナ、メルローズ、シェリルは暴走しがちなユーリとビクトリアとフェリシティを止めるブレーキ役で、エリザベスやミッシェル達は華やかなパーティーとかの付き添い役などが得意だ。ユーリが側近達と王妃として、母として立派にやっているのを見て、テレーズは安心してストレーゼンの離宮に帰っていった。
フィリップがリューデンハイムに入学すると、ルナも一緒に寮で過ごすことが多くなり、ウィリアムは少し寂しく感じていた。ソリスも遊んでくれるが、姉のアリエナに付き添う時間が多い。
弟のレオは未だ一緒に遊ぶというには幼すぎたし、姉のキャサリンは2才しか違わないのにレオと同じ赤ちゃん扱いしかしてくれない。
「ウィリー、こちらにいらっしゃい。これから、一緒に遊んだり勉強してくれる、お友達を紹介するわね。こちらが、フランシス、チャールズよ。ウィリーよ、仲良くしてね」
フランシスは凄く綺麗な顔の王子様に驚いたが、持ち前の愛想の良さではきはきと挨拶する。
「ウィリアム王子様、フランシスです。以後、お見知りおきを」
優雅な物腰はジークフリート卿そっくりねと、ユーリは笑いを押し殺す。ユージーンの息子のチャールズはこれまた真面目を絵に書いたような子どもで、躾られた通りに礼儀正しく挨拶する。
「ウィリアム王子様、チャールズです。よろしくお願いします」
ウィリアムは最初はフランシスやチャールズと遠慮がちに話したりしていたが、ソリスが誰だろうと近づいて来たのをきっかけに打ち解けて話し出す。
「私のことは、ウィリーと呼んでよ」
フランシスとチャールズは顔をみあわせたが、親から王子様と友達になるようにと言われていたので、ウィリー様と呼ぶことにする。
三人がソリスを追いかけて遊んでいるのを、ユーリはフェリシティとユージーンの奥方のダイアナと見ながらお茶をしていた。
「ダイアナ様は、今度エドアルド王の即位式にユージーン卿と列席されるのですか」
仕事中毒のヘンリー国王陛下は、長年の無理が祟って体調を崩す事が多くなり、32才になったエドアルドに譲位する事にしたのだ。
「ええ、同盟国の王が交代されるのですから。夫はニューパロマの大使館に、若い頃に滞在した事があると言っておりました」
ユーリは同盟締結の為にニューパロマに滞在した時の思い出が蘇った。
「セリーナ夫人が駐カザリア王国大使夫人だったのよ。ハロルド様や、ジェラルド様、ユリアン様達にお会いしたいわ」
その当時の事情を詳しく知らないダイアナだったが、エドアルドとグレゴリウスがユーリを巡って三角関係だとかの噂は耳にした事があったので、外交官の妻らしく微笑んでスルーする。
「王妃様、お会いしたいのはエドアルド様ではないのですか?」
二人の恋のバトルに巻き込まれて、ジークフリートとのデートを何度となくドタキャンされたフェリシティは、チクリと毒舌でさす。
「まぁ、フェリシティ様ったら酷いわ。グレゴリウス様に聞かれたら大変な事になるわ」
「何が大変な事になるのかな?」
タイミング悪く、グレゴリウスがウィリアムの学友に興味を持って公務の間に顔を見せた。
「国王陛下が浮気をされたら、大変な事になると話していたのです。ジークフリートからも目が離せませんわ」
グレゴリウスはアレッと何か誤魔化されているような違和感を感じたが、イルバニア王国一の色男の奥方の話術に嵌まる。フェリシティは容姿も優雅な貴婦人だったが、ジークフリートが伴侶に選んだ理由は頭の回転の早さとウィットに富んだ話術に惹かれたからだ。
「殿様は浮気が奥方にバレないと、本気で思っているみたいですわね。親の勧める相手と条件だけで結婚しましたが、新婚の時から浮気ばかりで嫌になってサッサと別れましたのよ。本人は否定してましたが、私が証拠を突きつけると逆ギレして責めてきましたから、離婚届にサインさせるのは楽でしたわ」
グレゴリウスは浮気など考えた事も無かったが、何処で浮気がバレるのかと身を乗り出して聞く。
「先ずは身綺麗になりますし、いそいそと出掛ける後ろ姿に浮気相手と会うと書いてありますわ。面と向かっては仕事だとか厳めしい顔を作って誤魔化せても、殿方が浮気をしに行こうとしている時は背中に表れますわ」
ユーリは思わずグレゴリウスの背中をチェックしなくちゃと呟く。 グレゴリウスは鈍いユーリには背中チェックではわからないのではと笑った。
「失礼ですが、夫の浮気で離婚されたのに、ジークフリート卿をお選びになったのですか?」
ユーリはちょっと失礼だわと、グレゴリウスを咎めたが、フェリシティは微笑んで答えた。
「だって愛していますもの。それに、ジークフリートからプロポーズされて、断る女の人はいませんわ」
どひゃ~と、最大のノロケ話にグレゴリウスはのけぞってしまい、ユーリやダイアナはクスクス笑う。
ウィリアム達は大人達が楽しそうに笑っているのを見て、これなら少しぐらいはやんちゃな事をしても許されるだろうと思った。
「凄く美味しい苺があるんだ。ついておいでよ」
こっそりと温室で苺を食べ放題に食べた三人は、夜中にお腹が痛くなって大騒動になり、盗み食いがバレて叱られたのだった。
「ウィリー、苺を食べ過ぎてはいけませんよ。4才の時に、フランシスとチャールズと温室で苺を盗み食いをして、夜中に侍医を呼び出したり大騒ぎになったのですよ」
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