88 / 415
第五節 分かたれた人と魔人編
第87幕 教えを請うもの
しおりを挟む
しばらく……とは言っても鎧馬で駆けるよりは早くにダティオの町へと到着した。
道中数回宿屋のお世話になったが、流石にエセルカが俺と同室であることに抵抗を感じたようで、そのときはシエラ・エセルカと俺で部屋を分けることになった。
その事についてシエラは文句を言っていたようだが……こればっかりは仕方がないとしか言えないだろう。
道中は出来るだけ危険を排除した旅をしてきたからか、なんの問題もなくダティオに辿り着くことが出来たが……問題はその後。
町に入る少し前に魔方陣の展開を止めて歩いて他の人に魔人だと悟られずに戻ってきたまでは良かったのだが……実際セイルたちと部屋で合流すると、なぜかあいつは恐ろしく落ち込んでいるというか、考え込んでいるようだった。
「あ、戻ってきたの?」
「ただいまー」
俺たちに真っ先に気づいたのはくずはで、エセルカが笑顔を浮かべながら両手を挙げてとことこと歩いていくのが見える。
それをどこか幼い子供でも見るような暖かい目をシエラは向けていた。
「お帰りなさいまし、成果はどうでしたか?」
イギランスの現状が気になるのか、他の奴らの様子など全く目もくれずにルーシーが駆け寄ってきた。
それはいいんだが、そんなに近くに寄ってくるのは止めて欲しい。
「ああ、それも話したいと思うのだけれど……まずあいつはなんであんな風にへたれてるんだ?」
今一番知りたい――ベッドの上で妙に悩んでいるセイルに何があったのかを聞くと、ルーシーは左手を頬に当てて右手でその肘を支えるような仕草を取って深いため息を一つ吐いた。
「ふぅ、それが……」
聞いた話では魔方陣を使うナッチャイスの服装をした男に襲撃を受けたようだった。
くずはとルーシーは周囲に散らばった雑魚を相手にして、セイルは肝心の男に相対したそうだが……そこでそいつとの力の差を思い知ったそうで、悔しくてどうしようかと考えているのだとか。
「よし、決めた! グレリア!」
ようやく俺のことに気付いたセイルは、なにか強く決意を秘めた視線をこっちに向けていた。
これは迂闊な返事は出来ないな……と思って、こっちも身構える。
「どうした?」
「俺に……俺に魔方陣の扱い方を教えてくれっ! 頼むっ!」
あまりの勢いで頭を下げてきたセイルの発言に――一気に場が冷える。
それはエセルカが俺に投げかけてきたそれと同じで違うものだった。
「ちょっと、あんた何言ってんのよ!」
驚きの声を上げたのはくずはだった。
周囲が戸惑いの様相を呈している中、一人だけなんとか言葉を口に出来たようで……あまりの驚きに信じられないものを見るかのような目でセイルを見ていた。
「グレリア……頼むっ!」
「ちょっとセイル!」
「だって……だって悔しいだろ!?」
他にも人が居てこの狭い部屋の中……セイルは誰に聞こえても構わないと大声で叫んだ。
それは心の奥底――魂を絞るような声で。
あんまりにも必死なその懇願に……俺も同じくらいの気持ちで臨むことにした。
「セイル、お前はそれがどんな意味を持つかわかってるのか?
下手をしたら家族も……くずはだって、巻き込むことになるんだぞ?」
「グレリア、俺は強くなりたい。
他のなにものにも変えられないくらい、自分が守りたいって思った奴の為に。
それにさ……もうおせぇって」
セイルは一瞬自分の村の家族のことを思い出したのだろう。
少し寂しいような笑みを浮かべている。
その答えに、俺はゆっくりと首を振って否定した。まだ『遅くはない』と。
「少なくともお前やくずは……エセルカは向こうに戻れるはずだ。
俺を信じてくれる、というお前たちの気持ちは嬉しかった。
だけど今なら……まだあの学園に戻ることだって出来るはずだ」
「……クリムホルン王の独り言を初めて聞いたときから、俺はあの人に上手く言えねぇけど……なんか不安になった。
王様が信用出来ないんだったら、俺にも、その周りにも、何が起こるかわからないだろ。
だから、せめて……もし……もし、自分の本当に大切なものの為に戦うときが来たら……俺は誇りを持って強くなったと、戦えるんだと言い切れる自分でありたい」
くずはの方にちらっと視線を逸らしたセイルだったけど、こいつのまっすぐな気持ちは確かに伝わってきた。
あまりにもまっすぐで清い心に、俺にはただ頷くしか出来なかった。
「わかった。俺に出来る限りの事を教えてやる。それでいいな?」
「ああ、ああ! ありがとう、グレリ――いや、兄貴!」
「そこでなんで兄貴になるのよ……」
「いや、師匠っていうより兄貴の方がしっくり来るかと思って……」
呆れているくずはに言い訳するように頭を軽く掻いてるセイルを見ながら……俺はふと考えてしまう。
セイルは本当にわかっているのだろうか?
相手がもし卑怯な――それこそセイルの家族を人質に取るような真似をしてきたら……その時にセイルは、きっと苦渋の決断を強いられることになるだろう。
どちらを選んでも後悔する時が来るかも知れない。
だったら、今俺に出来ることは――セイルに色々と教えてやること……それだけだろう。
道中数回宿屋のお世話になったが、流石にエセルカが俺と同室であることに抵抗を感じたようで、そのときはシエラ・エセルカと俺で部屋を分けることになった。
その事についてシエラは文句を言っていたようだが……こればっかりは仕方がないとしか言えないだろう。
道中は出来るだけ危険を排除した旅をしてきたからか、なんの問題もなくダティオに辿り着くことが出来たが……問題はその後。
町に入る少し前に魔方陣の展開を止めて歩いて他の人に魔人だと悟られずに戻ってきたまでは良かったのだが……実際セイルたちと部屋で合流すると、なぜかあいつは恐ろしく落ち込んでいるというか、考え込んでいるようだった。
「あ、戻ってきたの?」
「ただいまー」
俺たちに真っ先に気づいたのはくずはで、エセルカが笑顔を浮かべながら両手を挙げてとことこと歩いていくのが見える。
それをどこか幼い子供でも見るような暖かい目をシエラは向けていた。
「お帰りなさいまし、成果はどうでしたか?」
イギランスの現状が気になるのか、他の奴らの様子など全く目もくれずにルーシーが駆け寄ってきた。
それはいいんだが、そんなに近くに寄ってくるのは止めて欲しい。
「ああ、それも話したいと思うのだけれど……まずあいつはなんであんな風にへたれてるんだ?」
今一番知りたい――ベッドの上で妙に悩んでいるセイルに何があったのかを聞くと、ルーシーは左手を頬に当てて右手でその肘を支えるような仕草を取って深いため息を一つ吐いた。
「ふぅ、それが……」
聞いた話では魔方陣を使うナッチャイスの服装をした男に襲撃を受けたようだった。
くずはとルーシーは周囲に散らばった雑魚を相手にして、セイルは肝心の男に相対したそうだが……そこでそいつとの力の差を思い知ったそうで、悔しくてどうしようかと考えているのだとか。
「よし、決めた! グレリア!」
ようやく俺のことに気付いたセイルは、なにか強く決意を秘めた視線をこっちに向けていた。
これは迂闊な返事は出来ないな……と思って、こっちも身構える。
「どうした?」
「俺に……俺に魔方陣の扱い方を教えてくれっ! 頼むっ!」
あまりの勢いで頭を下げてきたセイルの発言に――一気に場が冷える。
それはエセルカが俺に投げかけてきたそれと同じで違うものだった。
「ちょっと、あんた何言ってんのよ!」
驚きの声を上げたのはくずはだった。
周囲が戸惑いの様相を呈している中、一人だけなんとか言葉を口に出来たようで……あまりの驚きに信じられないものを見るかのような目でセイルを見ていた。
「グレリア……頼むっ!」
「ちょっとセイル!」
「だって……だって悔しいだろ!?」
他にも人が居てこの狭い部屋の中……セイルは誰に聞こえても構わないと大声で叫んだ。
それは心の奥底――魂を絞るような声で。
あんまりにも必死なその懇願に……俺も同じくらいの気持ちで臨むことにした。
「セイル、お前はそれがどんな意味を持つかわかってるのか?
下手をしたら家族も……くずはだって、巻き込むことになるんだぞ?」
「グレリア、俺は強くなりたい。
他のなにものにも変えられないくらい、自分が守りたいって思った奴の為に。
それにさ……もうおせぇって」
セイルは一瞬自分の村の家族のことを思い出したのだろう。
少し寂しいような笑みを浮かべている。
その答えに、俺はゆっくりと首を振って否定した。まだ『遅くはない』と。
「少なくともお前やくずは……エセルカは向こうに戻れるはずだ。
俺を信じてくれる、というお前たちの気持ちは嬉しかった。
だけど今なら……まだあの学園に戻ることだって出来るはずだ」
「……クリムホルン王の独り言を初めて聞いたときから、俺はあの人に上手く言えねぇけど……なんか不安になった。
王様が信用出来ないんだったら、俺にも、その周りにも、何が起こるかわからないだろ。
だから、せめて……もし……もし、自分の本当に大切なものの為に戦うときが来たら……俺は誇りを持って強くなったと、戦えるんだと言い切れる自分でありたい」
くずはの方にちらっと視線を逸らしたセイルだったけど、こいつのまっすぐな気持ちは確かに伝わってきた。
あまりにもまっすぐで清い心に、俺にはただ頷くしか出来なかった。
「わかった。俺に出来る限りの事を教えてやる。それでいいな?」
「ああ、ああ! ありがとう、グレリ――いや、兄貴!」
「そこでなんで兄貴になるのよ……」
「いや、師匠っていうより兄貴の方がしっくり来るかと思って……」
呆れているくずはに言い訳するように頭を軽く掻いてるセイルを見ながら……俺はふと考えてしまう。
セイルは本当にわかっているのだろうか?
相手がもし卑怯な――それこそセイルの家族を人質に取るような真似をしてきたら……その時にセイルは、きっと苦渋の決断を強いられることになるだろう。
どちらを選んでも後悔する時が来るかも知れない。
だったら、今俺に出来ることは――セイルに色々と教えてやること……それだけだろう。
0
あなたにおすすめの小説
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる