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第3話 畑の土作りをしていたら、「大きな石(ミスリルゴーレム)」が出てきたので砂利にしました
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魔の森での生活、三日目の朝。
マイホームの窓から差し込む朝日と、遠くで聞こえる怪鳥の絶叫(モーニングコール)で、俺は爽やかに目覚めた。
「うん、今日もいい天気だ」
ドラゴンの皮で作った寝具は通気性が良く、寝汗ひとつかかずに熟睡できた。
俺は伸びをして、リビングへと向かう。
朝食は昨日採取したフルーツと、残り火で炙ったドラゴンの干し肉。
シンプルだが、素材が良いので王侯貴族の食事よりも贅沢な味がする。
「さて、衣食住の『住』は確保した。『食』も狩りでなんとかなるけど……やっぱり安定供給が欲しいよな」
俺は窓の外に広がる、昨日整地したばかりの庭を見渡した。
元々マンイーターの群生地だった場所は、俺が全て『除草』したおかげで、見事な更地になっている。
広さは学校のグラウンドほどもあるだろうか。
「よし、今日はここに畑を作ろう」
俺は決意を固めて、家の外へと飛び出した。
◇
畑作りにおける最重要項目。それは『土作り』だ。
どれだけ良い種を植えても、土が悪ければ作物は育たない。
ましてやここは魔の森。地面は長年の放置によって硬く締まり、得体の知れない岩や木の根が張り巡らされている。
「まずは、邪魔な石ころを取り除くところからだな」
俺は腕まくりをして、地面を見下ろした。
更地になったとはいえ、地面のあちこちに、大小様々な岩が頭を出している。
中には苔むして、地面と一体化しているような古びた岩もある。
「これじゃあ鍬(くわ)が通らない。全部どかさないとな」
俺は手近にあった、子供の背丈ほどある岩に手をかけた。
見た目はただのゴツゴツした岩だが、どこか金属的な光沢を帯びている。
「よい、しょっと」
俺は『草むしり』の派生イメージ、『石拾い』を発動させた。
畑にある邪魔な石を拾って捨てる。農作業の基本中の基本だ。
ズズズズズ……ッ!
岩に手をかけた瞬間、地面が微振動した。
おや? 思ったより根が深いのかな?
「グオオオオオオオ……」
どこからともなく、重低音の呻き声のような音が聞こえる。
風の音が岩の隙間を通っているのだろうか。
まあいい。
俺は気にせず、腰を入れて岩を引き抜く体勢に入った。
「畑に石は不要……! 退いてくれッ!」
手に力を込める。
スキルが発動し、俺の手と岩の接触面から淡い光が溢れ出す。
バキキキキキッ!!!
岩の表面に亀裂が走り、地面が爆ぜた。
俺が引っ張り上げたのは、ただの岩ではなかった。
土の中から現れたのは、岩石で構成された巨大な人型――のような形状をした、全長三メートルはある石の塊だった。
「うわ、でっか! なんだこの石、変な形してるな」
俺は驚いた。
自然の造形とは不思議なものだ。まるで人の手足のような突起がついている。
だが、畑作りにおいて形状など関係ない。邪魔なものは邪魔なのだ。
その時、石の塊がギギギと音を立てて動いた(ような気がした)。
まるで俺の手から逃れようと暴れているかのようだ。
「こら、崩れるなよ。運ぶ時にバラバラになると面倒だろ」
俺は暴れる(崩れそうな)岩をしっかりと抱え込むと、そのまま背負い投げの要領で、敷地の外へと放り投げようとした。
だが、ふと思いつく。
「待てよ。この石、すごく硬そうだな」
触った感触が、普通の石とは違う。
カチカチで、密度が凄い。
これだけ硬い石なら、砕いて敷石にすれば、水はけの良い通路が作れるんじゃないか?
「よし、再利用しよう」
俺は投げようとした岩を、空中で掴み直した。
そして、そのまま地面に叩きつけるのではなく、両手で挟み込むようにして圧力をかけた。
イメージするのは『粉砕』。
土の塊を指でほぐすように、硬い石を砂利に変える。
「ふんッ!!」
メキメキメキメキバキィィィィン!!
「グ、グオォォォォォォ……ッ!?」
岩が断末魔のような音を立てて、俺の手の中で粉々に砕け散った。
パラパラと地面に落ちる、銀色に輝く美しい砂利。
太陽の光を反射してキラキラと光っている。
「おお、綺麗な砂利になった! やっぱり良い石だったんだな」
俺は満足げに頷いた。
これなら、雨の日でもぬかるまない最高の農道が作れそうだ。
《対象:ミスリルゴーレム(Aランク)を粉砕・除草しました》
《経験値を獲得しました》
《ドロップアイテム:高純度ミスリルの欠片×50、ゴーレムの核を入手しました》
《スキル『整地』を習得しました》
ん? また頭の中に声が聞こえた気がする。
ミスリル? ゴーレム?
ああ、そういえば昔、祖父ちゃんが言っていた。「畑には時々、お宝が埋まっているもんだ」と。
きっとこの石の中に、希少な金属が含まれていたのだろう。
ラッキーだ。
「よし、この調子でどんどん行くぞ!」
俺は作業を続行した。
畑予定地には、まだまだたくさんの「変な形の岩」が埋まっている。
俺が近づくと、なぜか岩たちがガタガタと震え出した。
「お、地震か? まあいいや」
俺は次々と岩を引っこ抜いては、
「ふんッ!」(粉砕)
「はッ!」(粉砕)
「せいッ!」(粉砕)
と、手際よく砂利に変えていった。
側から見れば、古代遺跡の守護者であるミスリルゴーレムの群れを、素手で握り潰して砂に変えている光景は、まさに悪夢以外の何物でもなかっただろう。
だが、俺にとってはただの「石拾い」だった。
一時間後。
そこには、ミスリルの砂利がきれいに敷き詰められた、美しい農道と外枠が出来上がっていた。
◇
「石拾いは完了。次は『耕し』だな」
邪魔な石がなくなったことで、地面が見やすくなった。
だが、まだ問題がある。
地面の深くに張り巡らされた、太い木の根っこだ。
これがある限り、作物の根が伸びず、栄養も奪われてしまう。
「結構、頑固そうな根っこだな……」
俺は地面からわずかに露出している、黒くて太い根を見つけた。
大蛇のような太さだ。
試しに少し引っ張ってみるが、ビクともしない。
どうやら、森の奥にある巨木と繋がっているらしい。
「よし、本気でいくか」
俺は腰を落とし、両手で根っこをガッチリと掴んだ。
イメージするのは『根絶やし』。
畑の養分を奪う悪い根を、大元から断ち切る。
「ぬんッ!!!」
スキル『草むしり』、フルパワー。
ズズズズズズズズズ……ッ!!!
地面が波打った。
俺が引っ張った根っこに連動して、周囲数十メートルの地面が隆起する。
地中で複雑に絡み合っていた根のネットワークが、俺の力によって無理やり引きずり出されていく。
バキバキバキッ! メリメリメリッ!
「ギョエエエエエエエエエッ!!!」
森の奥から、何か凄まじい悲鳴が聞こえた気がした。
木がきしむ音だろうか?
構わず俺は引っ張り続ける。
「まだまだぁ! 全部抜けてくれよ!」
更に力を込めると、ズボォォォォォン!! という爆音とともに、畑の地下にあった根っこが全て抜け切った。
それどころか、根っこの先には、真っ黒な色をした不気味な巨大樹の残骸のようなものが付着していた。
「うわ、なんだこれ。腐った切り株か?」
引き抜かれたのは、人の顔のような模様が浮かんだ巨大な木の塊だった。
根っこからドス黒い樹液を垂れ流している。
見るからに土に悪そうだ。
「これが埋まってたから、周りの植物が育たなかったのかもな。捨てておこう」
俺はゴミ捨て場(森の外れにある崖)に向かって、その巨大な木の塊を放り投げた。
それは美しい放物線を描いて飛んでいき、やがて視界から消えた。
《対象:カース・トレント(災厄級・Sランク)を根絶やしにしました》
《森の浄化に貢献しました》
《経験値を大量に獲得しました》
《称号『森の破壊者』改め『森の救世主』を獲得しました》
《レベルが限界突破しました》
《ドロップアイテム:世界樹の枝(呪い解除済み)、生命の雫を入手しました》
「ふぅ……これでようやく、土がいじれるな」
邪魔者が完全に消えた畑は、ふかふかの黒土が顔を出していた。
俺は仕上げに取り掛かった。
スキル『草むしり』の応用だ。
土の中に含まれる「不純物」「毒素」「害虫の卵」。これらを全て「雑草」と同じカテゴリーとして認識し、除去する。
俺が地面に手を当てると、サーッと波紋のように浄化の光が広がっていった。
毒々しい色をしていた土が、見る見るうちに栄養分たっぷりの、黄金色に輝く極上の腐葉土へと変わっていく。
「できた……!」
完成した畑は、輝いていた。
文字通り、土がほのかに発光しているのだ。
ここに種を植えれば、どんな作物でも瞬く間に育つだろうという確信があった。
「よし、早速植えてみよう」
俺は王都を出る時に、なけなしの金で買っておいた野菜の種を取り出した。
トマト、キュウリ、ナス、カボチャ。
ありふれた野菜の種だ。
俺は指で土に穴を開け、丁寧に種を撒いていった。
「大きくなれよー」
最後に、近くの川から汲んできた水を撒く。
ただの水だが、この黄金の土に触れた瞬間、水が聖水のような輝きを帯びて染み込んでいった。
作業を終えた俺は、泥だらけの手を洗いながら、充実感に満ちたため息をついた。
「いい汗かいたな。農業って、やっぱり楽しい」
俺は知らなかった。
俺が「石拾い」で全滅させたのが、古代魔法文明が遺した防衛装置であるミスリルゴーレムの軍団であったことを。
そして、「根っこ抜き」で引っこ抜いたのが、数百年もの間、この森の養分を吸い尽くして腐らせていた諸悪の根源、カース・トレントであったことを。
結果として、俺の畑は、Sランクの魔物さえも養分に変えた、世界で最も肥沃な『神の菜園』へと進化していたのだった。
◇
一方その頃。
勇者パーティは、ダンジョンの下層エリアに到達していた。
そこは、岩壁に囲まれた無機質な空間だった。
「ハァ……ハァ……魔力切れだ、もう動けない……」
賢者のレオンが杖を支えにして膝をつく。
聖女のミリアも、回復魔法の使いすぎで顔色が青白い。
そして、前衛に立つ勇者のジークは、絶望的な表情で目の前の敵を見上げていた。
「くそっ……! なんでこんな所にゴーレムがいるんだよ!」
彼らの前には、一体のロックゴーレムが立ちはだかっていた。
身長二メートル。
俺が先ほど握り潰したミスリルゴーレム(三メートル)に比べれば、ふた回りほど小さく、材質もただの岩だ。
ランクで言えばCランク。
本来の勇者パーティなら、連携攻撃で数分あれば倒せる相手だ。
だが、今の彼らは違った。
「硬い……! 剣が通らない!」
ジークの聖剣が、ゴーレムの岩肌に弾かれる。
手入れを怠り、刃こぼれした剣では、岩の装甲を貫くことができないのだ。
いつもなら、ノエルが戦闘中に剣の研磨(メンテナンス)を行い、切れ味を常に最大に保っていた。
あるいは、ゴーレムの関節の隙間にある「脆い部分」をノエルが見抜き、そこに攻撃を誘導してくれていた。
「魔法だ! レオン、魔法を撃て!」
「無理だと言ってるだろ! ポーションがないから魔力が回復しないんだ!」
レオンが叫び返す。
魔力回復ポーションは、ノエルが薬草から調合していた特製品だった。市販品よりも効果が高く、副作用も少なかった。
それが尽きた今、彼らはガス欠の車同然だった。
「グオォォン!」
ゴーレムが石の拳を振り上げる。
その動きは鈍重だが、今の疲弊しきった彼らに避ける余裕はなかった。
「きゃあああああっ!」
「しまっ――」
ドゴォッ!
鈍い音が響き、ジークが吹き飛ばされて壁に激突した。
「ガハッ……!」
「ジーク!」
ジークは血を吐きながら崩れ落ちた。
鎧がひしゃげている。
その鎧もまた、ノエルによる『最適化』された補修がなければ、ただの重い鉄屑になりつつあったのだ。
「撤退だ……! ミリア、ジークを連れて逃げろ!」
「で、でも出口はあっちに……!」
「いいから走れ!」
彼らは無様に逃げ惑った。
たった一体の、ただの岩人形相手に。
その頃、俺が畑で「ミスリルゴーレムの軍団」を鼻歌まじりに握り潰し、砂利にしていたことなど、彼らは知る由もなかった。
続く
マイホームの窓から差し込む朝日と、遠くで聞こえる怪鳥の絶叫(モーニングコール)で、俺は爽やかに目覚めた。
「うん、今日もいい天気だ」
ドラゴンの皮で作った寝具は通気性が良く、寝汗ひとつかかずに熟睡できた。
俺は伸びをして、リビングへと向かう。
朝食は昨日採取したフルーツと、残り火で炙ったドラゴンの干し肉。
シンプルだが、素材が良いので王侯貴族の食事よりも贅沢な味がする。
「さて、衣食住の『住』は確保した。『食』も狩りでなんとかなるけど……やっぱり安定供給が欲しいよな」
俺は窓の外に広がる、昨日整地したばかりの庭を見渡した。
元々マンイーターの群生地だった場所は、俺が全て『除草』したおかげで、見事な更地になっている。
広さは学校のグラウンドほどもあるだろうか。
「よし、今日はここに畑を作ろう」
俺は決意を固めて、家の外へと飛び出した。
◇
畑作りにおける最重要項目。それは『土作り』だ。
どれだけ良い種を植えても、土が悪ければ作物は育たない。
ましてやここは魔の森。地面は長年の放置によって硬く締まり、得体の知れない岩や木の根が張り巡らされている。
「まずは、邪魔な石ころを取り除くところからだな」
俺は腕まくりをして、地面を見下ろした。
更地になったとはいえ、地面のあちこちに、大小様々な岩が頭を出している。
中には苔むして、地面と一体化しているような古びた岩もある。
「これじゃあ鍬(くわ)が通らない。全部どかさないとな」
俺は手近にあった、子供の背丈ほどある岩に手をかけた。
見た目はただのゴツゴツした岩だが、どこか金属的な光沢を帯びている。
「よい、しょっと」
俺は『草むしり』の派生イメージ、『石拾い』を発動させた。
畑にある邪魔な石を拾って捨てる。農作業の基本中の基本だ。
ズズズズズ……ッ!
岩に手をかけた瞬間、地面が微振動した。
おや? 思ったより根が深いのかな?
「グオオオオオオオ……」
どこからともなく、重低音の呻き声のような音が聞こえる。
風の音が岩の隙間を通っているのだろうか。
まあいい。
俺は気にせず、腰を入れて岩を引き抜く体勢に入った。
「畑に石は不要……! 退いてくれッ!」
手に力を込める。
スキルが発動し、俺の手と岩の接触面から淡い光が溢れ出す。
バキキキキキッ!!!
岩の表面に亀裂が走り、地面が爆ぜた。
俺が引っ張り上げたのは、ただの岩ではなかった。
土の中から現れたのは、岩石で構成された巨大な人型――のような形状をした、全長三メートルはある石の塊だった。
「うわ、でっか! なんだこの石、変な形してるな」
俺は驚いた。
自然の造形とは不思議なものだ。まるで人の手足のような突起がついている。
だが、畑作りにおいて形状など関係ない。邪魔なものは邪魔なのだ。
その時、石の塊がギギギと音を立てて動いた(ような気がした)。
まるで俺の手から逃れようと暴れているかのようだ。
「こら、崩れるなよ。運ぶ時にバラバラになると面倒だろ」
俺は暴れる(崩れそうな)岩をしっかりと抱え込むと、そのまま背負い投げの要領で、敷地の外へと放り投げようとした。
だが、ふと思いつく。
「待てよ。この石、すごく硬そうだな」
触った感触が、普通の石とは違う。
カチカチで、密度が凄い。
これだけ硬い石なら、砕いて敷石にすれば、水はけの良い通路が作れるんじゃないか?
「よし、再利用しよう」
俺は投げようとした岩を、空中で掴み直した。
そして、そのまま地面に叩きつけるのではなく、両手で挟み込むようにして圧力をかけた。
イメージするのは『粉砕』。
土の塊を指でほぐすように、硬い石を砂利に変える。
「ふんッ!!」
メキメキメキメキバキィィィィン!!
「グ、グオォォォォォォ……ッ!?」
岩が断末魔のような音を立てて、俺の手の中で粉々に砕け散った。
パラパラと地面に落ちる、銀色に輝く美しい砂利。
太陽の光を反射してキラキラと光っている。
「おお、綺麗な砂利になった! やっぱり良い石だったんだな」
俺は満足げに頷いた。
これなら、雨の日でもぬかるまない最高の農道が作れそうだ。
《対象:ミスリルゴーレム(Aランク)を粉砕・除草しました》
《経験値を獲得しました》
《ドロップアイテム:高純度ミスリルの欠片×50、ゴーレムの核を入手しました》
《スキル『整地』を習得しました》
ん? また頭の中に声が聞こえた気がする。
ミスリル? ゴーレム?
ああ、そういえば昔、祖父ちゃんが言っていた。「畑には時々、お宝が埋まっているもんだ」と。
きっとこの石の中に、希少な金属が含まれていたのだろう。
ラッキーだ。
「よし、この調子でどんどん行くぞ!」
俺は作業を続行した。
畑予定地には、まだまだたくさんの「変な形の岩」が埋まっている。
俺が近づくと、なぜか岩たちがガタガタと震え出した。
「お、地震か? まあいいや」
俺は次々と岩を引っこ抜いては、
「ふんッ!」(粉砕)
「はッ!」(粉砕)
「せいッ!」(粉砕)
と、手際よく砂利に変えていった。
側から見れば、古代遺跡の守護者であるミスリルゴーレムの群れを、素手で握り潰して砂に変えている光景は、まさに悪夢以外の何物でもなかっただろう。
だが、俺にとってはただの「石拾い」だった。
一時間後。
そこには、ミスリルの砂利がきれいに敷き詰められた、美しい農道と外枠が出来上がっていた。
◇
「石拾いは完了。次は『耕し』だな」
邪魔な石がなくなったことで、地面が見やすくなった。
だが、まだ問題がある。
地面の深くに張り巡らされた、太い木の根っこだ。
これがある限り、作物の根が伸びず、栄養も奪われてしまう。
「結構、頑固そうな根っこだな……」
俺は地面からわずかに露出している、黒くて太い根を見つけた。
大蛇のような太さだ。
試しに少し引っ張ってみるが、ビクともしない。
どうやら、森の奥にある巨木と繋がっているらしい。
「よし、本気でいくか」
俺は腰を落とし、両手で根っこをガッチリと掴んだ。
イメージするのは『根絶やし』。
畑の養分を奪う悪い根を、大元から断ち切る。
「ぬんッ!!!」
スキル『草むしり』、フルパワー。
ズズズズズズズズズ……ッ!!!
地面が波打った。
俺が引っ張った根っこに連動して、周囲数十メートルの地面が隆起する。
地中で複雑に絡み合っていた根のネットワークが、俺の力によって無理やり引きずり出されていく。
バキバキバキッ! メリメリメリッ!
「ギョエエエエエエエエエッ!!!」
森の奥から、何か凄まじい悲鳴が聞こえた気がした。
木がきしむ音だろうか?
構わず俺は引っ張り続ける。
「まだまだぁ! 全部抜けてくれよ!」
更に力を込めると、ズボォォォォォン!! という爆音とともに、畑の地下にあった根っこが全て抜け切った。
それどころか、根っこの先には、真っ黒な色をした不気味な巨大樹の残骸のようなものが付着していた。
「うわ、なんだこれ。腐った切り株か?」
引き抜かれたのは、人の顔のような模様が浮かんだ巨大な木の塊だった。
根っこからドス黒い樹液を垂れ流している。
見るからに土に悪そうだ。
「これが埋まってたから、周りの植物が育たなかったのかもな。捨てておこう」
俺はゴミ捨て場(森の外れにある崖)に向かって、その巨大な木の塊を放り投げた。
それは美しい放物線を描いて飛んでいき、やがて視界から消えた。
《対象:カース・トレント(災厄級・Sランク)を根絶やしにしました》
《森の浄化に貢献しました》
《経験値を大量に獲得しました》
《称号『森の破壊者』改め『森の救世主』を獲得しました》
《レベルが限界突破しました》
《ドロップアイテム:世界樹の枝(呪い解除済み)、生命の雫を入手しました》
「ふぅ……これでようやく、土がいじれるな」
邪魔者が完全に消えた畑は、ふかふかの黒土が顔を出していた。
俺は仕上げに取り掛かった。
スキル『草むしり』の応用だ。
土の中に含まれる「不純物」「毒素」「害虫の卵」。これらを全て「雑草」と同じカテゴリーとして認識し、除去する。
俺が地面に手を当てると、サーッと波紋のように浄化の光が広がっていった。
毒々しい色をしていた土が、見る見るうちに栄養分たっぷりの、黄金色に輝く極上の腐葉土へと変わっていく。
「できた……!」
完成した畑は、輝いていた。
文字通り、土がほのかに発光しているのだ。
ここに種を植えれば、どんな作物でも瞬く間に育つだろうという確信があった。
「よし、早速植えてみよう」
俺は王都を出る時に、なけなしの金で買っておいた野菜の種を取り出した。
トマト、キュウリ、ナス、カボチャ。
ありふれた野菜の種だ。
俺は指で土に穴を開け、丁寧に種を撒いていった。
「大きくなれよー」
最後に、近くの川から汲んできた水を撒く。
ただの水だが、この黄金の土に触れた瞬間、水が聖水のような輝きを帯びて染み込んでいった。
作業を終えた俺は、泥だらけの手を洗いながら、充実感に満ちたため息をついた。
「いい汗かいたな。農業って、やっぱり楽しい」
俺は知らなかった。
俺が「石拾い」で全滅させたのが、古代魔法文明が遺した防衛装置であるミスリルゴーレムの軍団であったことを。
そして、「根っこ抜き」で引っこ抜いたのが、数百年もの間、この森の養分を吸い尽くして腐らせていた諸悪の根源、カース・トレントであったことを。
結果として、俺の畑は、Sランクの魔物さえも養分に変えた、世界で最も肥沃な『神の菜園』へと進化していたのだった。
◇
一方その頃。
勇者パーティは、ダンジョンの下層エリアに到達していた。
そこは、岩壁に囲まれた無機質な空間だった。
「ハァ……ハァ……魔力切れだ、もう動けない……」
賢者のレオンが杖を支えにして膝をつく。
聖女のミリアも、回復魔法の使いすぎで顔色が青白い。
そして、前衛に立つ勇者のジークは、絶望的な表情で目の前の敵を見上げていた。
「くそっ……! なんでこんな所にゴーレムがいるんだよ!」
彼らの前には、一体のロックゴーレムが立ちはだかっていた。
身長二メートル。
俺が先ほど握り潰したミスリルゴーレム(三メートル)に比べれば、ふた回りほど小さく、材質もただの岩だ。
ランクで言えばCランク。
本来の勇者パーティなら、連携攻撃で数分あれば倒せる相手だ。
だが、今の彼らは違った。
「硬い……! 剣が通らない!」
ジークの聖剣が、ゴーレムの岩肌に弾かれる。
手入れを怠り、刃こぼれした剣では、岩の装甲を貫くことができないのだ。
いつもなら、ノエルが戦闘中に剣の研磨(メンテナンス)を行い、切れ味を常に最大に保っていた。
あるいは、ゴーレムの関節の隙間にある「脆い部分」をノエルが見抜き、そこに攻撃を誘導してくれていた。
「魔法だ! レオン、魔法を撃て!」
「無理だと言ってるだろ! ポーションがないから魔力が回復しないんだ!」
レオンが叫び返す。
魔力回復ポーションは、ノエルが薬草から調合していた特製品だった。市販品よりも効果が高く、副作用も少なかった。
それが尽きた今、彼らはガス欠の車同然だった。
「グオォォン!」
ゴーレムが石の拳を振り上げる。
その動きは鈍重だが、今の疲弊しきった彼らに避ける余裕はなかった。
「きゃあああああっ!」
「しまっ――」
ドゴォッ!
鈍い音が響き、ジークが吹き飛ばされて壁に激突した。
「ガハッ……!」
「ジーク!」
ジークは血を吐きながら崩れ落ちた。
鎧がひしゃげている。
その鎧もまた、ノエルによる『最適化』された補修がなければ、ただの重い鉄屑になりつつあったのだ。
「撤退だ……! ミリア、ジークを連れて逃げろ!」
「で、でも出口はあっちに……!」
「いいから走れ!」
彼らは無様に逃げ惑った。
たった一体の、ただの岩人形相手に。
その頃、俺が畑で「ミスリルゴーレムの軍団」を鼻歌まじりに握り潰し、砂利にしていたことなど、彼らは知る由もなかった。
続く
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「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件
uzura
ファンタジー
王都で「無能」と蔑まれ、婚約破棄と追放を言い渡された青年リオン。
唯一の取り柄は、古代語でびっしり書かれたボロ本を黙々と読み続けることだけ。
辺境で静かに暮らすはずが、その本が実は「失われた大魔導書」だったことから、世界の常識がひっくり返る。
本人は「ちょっと魔法が得意なだけ」と思っているのに、
・竜を一撃で黙らせ
・災厄級ダンジョンを散歩感覚で踏破し
・国家レベルの結界を片手間で張り直し
気づけば、訳あり美少女たちに囲まれたハーレム状態に。
やがて、かつて彼を笑い、切り捨てた王都の貴族や元仲間たちが、
国家存亡の危機を前に「助けてくれ」と縋りついてくる。
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無自覚最強×追放×ざまぁ×ハーレム。
辺境から始まる、ゆるくて激しいファンタジー無双譚!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
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一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
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