「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~

eringi

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第4話 雑草から採れた素材が、国宝級のドラゴン素材だった件

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魔の森での生活、四日目。
俺は朝から悩んでいた。

「うーん……道具が足りない」

目の前には、昨日開墾したばかりのキラキラと輝く畑が広がっている。
一晩経っただけだが、黄金色の土からは既に生命力が溢れ出しており、撒いた種がポコポコと可愛らしい芽を出していた。
ここまでは順調だ。
だが、これから作物を育てるにあたって、素手だけでは限界がある。
支柱を立てたり、収穫したり、あるいはもっと広い範囲を開拓するには、どうしても『農具』が必要だった。

「王都を出る時に、スコップとクワくらい買っておけばよかったな」

俺はため息をついた。
手元にあるのは、拾った木の枝と、自分の手だけ。
これでは効率が悪い。

「……作るか」

ないなら作る。それが開拓生活の鉄則だ。
幸い、この森には「素材」だけは腐るほど転がっている。
俺は家の裏手に積み上げておいた、ここ数日の『草むしり』の成果物(ドロップアイテム)の山へと向かった。

そこには、ガラクタの山――もとい、宝の山が築かれていた。

まずは、二日目に引っこ抜いたアースドラゴンの残り。
肉は美味しくいただいているが、硬すぎて食べられない『鱗』や『骨』、『皮』が大量に残っている。
次に、昨日畑から拾ったミスリルゴーレムの残骸である『銀色の砂利』。
そして、引き抜いたカース・トレントから落ちた『黒い枝』。

「こいつらを使えば、なんとかなるだろう」

俺は腕まくりをして、DIY(日曜大工)を開始することにした。

   ◇

まずは、農作業に欠かせない『作業着』からだ。
今着ている服は、王都を出た時の旅装束で、だいぶ汚れてきている。
それに、森の中は棘のある植物や、変な汁を飛ばしてくる虫(モンスター)が多い。
頑丈で、汚れに強い服が必要だ。

「このトカゲの皮、使えそうだな」

俺はアースドラゴンの皮を広げた。
赤黒く変色したその皮は、分厚く、表面はザラザラとしている。
普通なら、熟練の革職人がミスリルのナイフを使っても加工に一ヶ月はかかる代物だ。
火竜のブレスさえ防ぐ耐熱性と、ダイヤモンド並みの硬度を誇る最高級素材である。

だが、俺にとっては「ちょっと硬めの布」でしかなかった。

「ここをこうして……余分な部分をカット」

俺は皮の端を指で摘んだ。
イメージするのは『剪定』。
服を作るために必要な形を思い描き、それ以外の部分を「不要な端切れ(雑草)」として認識する。
スキル『草むしり』――応用・『裁断』。

ツーッ。

俺の指がなぞったラインに沿って、ドラゴンの皮が紙のように綺麗に切り取られていく。
ハサミもナイフもいらない。
俺の指先が触れるだけで、素材が「あるべき形」へと整えられていくのだ。

「おお、切れ味抜群」

切り出した皮を、今度はドラゴンの腱(けん)を繊維状にほぐした糸で縫い合わせていく。
針の代わりに、ドラゴンの小さな棘を使う。
サクサクと針が通り、あっという間に形になっていく。

一時間後。
俺の目の前には、深紅の『園芸用エプロン』と『作業用手袋』、そして『長靴』が完成していた。

「できた! ちょっと色が派手だけど、まあ森の中なら目立っていいか」

早速試着してみる。
驚くほど体にフィットし、動きやすい。
ためしに、近くにあった焚き火の中に手袋をした手を入れてみた。

「うん、全然熱くない」

アースドラゴンの皮は、マグマの中でも活動できるほどの耐熱性を持っている。焚き火程度など、ぬるま湯以下だ。
次に、鋭い棘のある茨を握ってみる。
ゴム手袋のように柔軟なのに、棘が全く刺さらない。

「完璧だ。これでバラの剪定も怖くないぞ」

俺は満足げに頷いた。
市場価値にすれば、国家予算並みの『竜鱗の鎧(エプロン)』と『竜皮の籠手(軍手)』が誕生した瞬間だったが、俺は知る由もない。
ただ「丈夫な作業着ができた」としか思っていなかった。

   ◇

次はメインディッシュ、『農具』の作成だ。
狙うは万能農具、クワとスコップ。

「刃の部分には、この砂利を使おう」

俺はミスリルゴーレムから採れた『銀色の砂利』を両手いっぱいに集めた。
これをどうするか。
鍛冶場もハンマーもない。
だが、俺には『草むしり』がある。

俺は砂利を粘土のように一塊にまとめると、両手でギュッと包み込んだ。
イメージするのは『圧縮』と『成形』。
土団子を作る要領だ。
ただし、相手は魔法金属ミスリル。融点は数千度、強度は鉄の数十倍。

「形になれ……形になれ……不要な隙間はいらない……」

俺の手の中で、ジャリジャリと音が鳴る。
砂利同士が融合し、不純物が「雑草」として排出され、純度100%の金属塊へと変化していく。
俺の握力とスキルによる概念干渉が、冷たい金属を飴細工のように変形させていた。

「よし、ここを尖らせて……」

ニューッと金属を伸ばし、平たく鋭利な形に整える。
柄(え)の部分には、カース・トレントの枝(世界樹の枝)を使用することにした。
黒光りするその枝は、鉄よりも硬く、それでいて手に吸い付くように馴染む。

ミスリルの刃と、世界樹の柄。
この二つを組み合わせ、接合部分を再びスキルで「一体化(融合)」させる。

キィィィィィン……!

完成した瞬間、クワから甲高い音が響き、淡い青色の光が放たれた。
まるで神器のような神々しさだ。

「おお、なんか光った。ミスリルって綺麗な金属なんだな」

俺は完成した『ミスリルのクワ』をしげしげと眺めた。
刃渡り三十センチ。
鏡のように磨き上げられた銀色の刃は、触れるもの全てを両断しそうな鋭さを放っている。
柄の黒色とのコントラストが美しい。

「試し切り……いや、試し掘りといこうか」

俺は庭の隅にある、まだ開墾していない岩場に向かった。
そこは巨大な岩盤が露出しており、普通のツルハシでは歯が立たない場所だ。

「えいっ」

軽く振り上げ、岩盤に向かってクワを振り下ろす。
力はほとんど入れていない。
ただ、農作業のフォームでスッと落としただけだ。

ザクッ。

「え?」

手応えがなかった。
豆腐にスプーンを入れたような、あまりにも軽い感触。
だが、目の前の光景は違った。

ズバァァァァァァァァァン!!!

岩盤が、まるで爆発したかのように左右に割れていた。
いや、割れただけではない。
クワが当たった地点から、数百メートル先まで、地面に一直線の深い亀裂が走っていたのだ。
その亀裂は森を抜け、遠くの山肌まで到達しているように見える。

「…………」

俺は冷や汗をかいた。
やばい。ちょっと性能が良すぎたかもしれない。

「切れ味鋭すぎだろ……。これじゃあ、うっかり足を滑らせたら大怪我するな」

俺は慎重にクワを構え直した。
どうやらこの農具、魔力を流すと切れ味が増す仕様らしい。
俺の『草むしり』スキルが無意識に発動し、対象(岩盤)を「耕すべき土」として最適化してしまったようだ。

「まあ、硬い土を耕すにはこれくらいで丁度いいか」

俺はポジティブに捉えることにした。
大は小を兼ねるというし、頑丈なのは良いことだ。
続けて、同じ要領で『ミスリルのスコップ』『ミスリルの剪定バサミ』『ミスリルのジョウロ』を作成した。

これで、俺の農具セット(神器セット)が揃った。

「よし、早速手入れだ!」

俺は新しい道具を手に、畑へと向かった。
ミスリルのジョウロで水を汲む。
このジョウロ、中に入れた水を浄化し、植物の成長を促進する聖水に変える効果があるらしい(作った後に気づいた)。
水を撒くと、作物の芽が嬉しそうに震え、目に見える速度でグングンと背を伸ばしていく。

「すごいすごい! これなら収穫まであっという間だぞ!」

俺は童心に帰って、農作業に没頭した。
ドラゴンレザーのエプロンを着て、世界樹の柄とミスリルの刃を持つクワを振るう少年。
その姿は、傍から見れば「農夫」というよりは、神話に登場する「豊穣と破壊の神」そのものだったが、森の動物たちは賢いので、決して近づこうとはしなかった。

   ◇

一方、その頃。
俺を追放した勇者パーティは、王都の鍛冶屋通りにいた。

「なんだと!? 直せないだと!?」

勇者のジークが、鍛冶職人の親父に食ってかかっていた。
カウンターの上には、ボロボロになった聖剣と、ひしゃげた鎧が置かれている。

「ああ、無理だね。こりゃあ酷い」

頑固そうなドワーフの鍛冶職人は、あきれ顔で首を振った。

「聖剣の刃はガタガタ、重心も狂ってる。鎧に至っては、接続部の留め具が全部イカれてる。どういう使い方をしたらこうなるんだ?」
「うるさい! 魔物と戦っていれば傷つくのは当たり前だろ! 金なら払う、さっさと直せ!」

ジークが金貨袋を叩きつける。
だが、ドワーフは鼻で笑った。

「金の問題じゃねえよ。技術の問題だ。……なあアンタ、これの前回のメンテナンス、誰がやった?」
「は? 誰って……」

ジークが言葉に詰まる。
答えたのは、後ろに控えていた賢者のレオンだった。

「……追い出した、荷物持ちの男だ」
「ほう、荷物持ちか。そいつはとんでもない名工だったみたいだな」

ドワーフは聖剣を手に取り、愛おしそうに撫でた。

「見ろ、この刃の研ぎ跡。ミクロ単位で歪みを修正してやがる。ただ研いだだけじゃねえ、金属の疲労箇所を見抜いて、魔力を通しやすいように『最適化』してあるんだ。神業としか言いようがねえ」

ドワーフの言葉に、ジークたちは絶句した。
ノエルが?
あの、ただの草むしりスキル持ちの無能が?
夜、皆が寝静まった後に、黙々と装備の手入れをしていた姿は覚えていた。
だが、それはただ汚れを拭いているだけだと思っていた。

「そいつがいないなら、もうこの剣は本来の性能の半分も出せねえよ。俺の腕じゃあ、表面を綺麗にするのが精一杯だ」
「なっ……」

ジークの顔が青ざめる。
聖剣の性能が落ちていることは、ダンジョンでの戦闘で嫌というほど実感していた。
だが、それが「ノエルがいなくなったから」だという事実を認めたくなかった。

「ふ、ふん! たかがメンテナンスだろ! 新品を買えばいい!」
「そうねジーク! 王都一番の武器屋に行きましょう!」

聖女のミリアがフォローに入る。
彼らは逃げるように鍛冶屋を出て、高級武器店へと向かった。

しかし、そこで彼らはさらなる現実に直面することになる。

「いらっしゃいませー。おや、勇者様御一行ですね」

武器屋の主人が揉み手で近づいてくる。

「ミスリルの剣をくれ。最高級のやつだ」
「へい。こちらになりますが……金貨五百枚になります」
「ご、五百!?」

ジークが素っ頓狂な声を上げた。
彼らの手持ちは、前回の遠征でほとんど使い果たしていた。
回復薬の浪費、装備の損耗による買い替え、そして報酬の激減。
ノエルがいた頃は、彼が素材を現地調達し、ポーションを自作し、装備を修理していたため、経費はほぼゼロだった。
彼らは「自分たちが稼いでいる」と錯覚していたが、実際は「ノエルが経費を浮かせていただけ」だったのだ。

「……そ、素材の持ち込みなら安くなるか?」

ジークが苦し紛れに尋ねる。
先日倒した(と彼らが思っている)魔物の素材があるはずだ。

「ええ、素材があれば加工賃だけで済みますが……何かお持ちで?」
「これだ」

ジークが出したのは、ダンジョンで拾ったいくつかの石ころと、枯れた草のようなものだった。

「……勇者様、冗談はおやめください」
「な、なんだと?」
「これはただの石ころと、雑草です。ゴミです」

店主の冷ややかな視線が突き刺さる。
彼らには『鑑定』スキルを持つ者がいなかった。
いや、正確にはレオンが持っていたが、レベルが低く、詳細な素材価値までは判別できなかったのだ。
今までは、ノエルが「これは使える」「これは売れる」と選別してくれていた。

「そ、そんなはずは……! ノエルはいつも、こういうゴミみたいなものから、高く売れる素材を見つけ出していたぞ!」
「それはその方が、卓越した目利きだったのでしょうな。……でお買い上げは?」
「……出直す」

ジークたちは顔を真っ赤にして店を出た。
王都の賑やかな通りが、彼らには酷く冷たく感じられた。

「くそっ! くそっ! どいつもこいつも!」

ジークが路地裏のゴミ箱を蹴り飛ばす。
そのゴミ箱の中身が散乱する様を見て、彼はふとノエルの言葉を思い出した。

『ジーク、物は大切にしないと、いざという時に裏切られるよ』

「黙れ! 俺は勇者だ! あんな奴がいなくても、世界くらい救ってみせる!」

ジークの虚勢は、誰の耳にも届くことはなかった。

   ◇

一方、魔の森。
俺は完成した最強の農具たちを並べ、満足感に浸っていた。

「よし、道具も揃ったし、本格的に畑を拡張しよう!」

俺が気合を入れたその時だった。

「……おい、人間」

背後から、凛とした、しかしどこか切迫した声が聞こえた。
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
透き通るような金色の髪に、長く尖った耳。
森の緑に溶け込むような薄衣を纏っているが、その体はボロボロに傷つき、今にも倒れそうだ。

エルフだ。
しかも、ただのエルフではない。
その身から溢れ出る高貴なオーラと、尋常ではない魔力量。
彼女は息を切らしながら、俺――ではなく、俺が作った『ミスリルのクワ』と『世界樹の柄』を凝視していた。

「な、なんなのだそれは……。世界樹の枝を加工した柄に、純度100%のミスリルの刃……? それにそのエプロン、まさかアースドラゴンの皮か!?」

彼女は驚愕に目を見開き、震える指で俺を指差した。

「お前は一体何者だ! この森の主(ヌシ)を狩り尽くし、神器を農具として弄ぶ……お前は、邪神の類か!?」

「え? いや、ただの農家だけど」

俺は正直に答えた。
彼女はガクンと膝をつき、絶望したような顔で天を仰いだ。

「農家……だと……? 嘘をつくな! 私の『精霊眼』は誤魔化せんぞ! その体から溢れ出る魔力、そしてその無造作な立ち振る舞い……どう見ても、世界を滅ぼせる魔王クラスの怪物ではないか!」

失礼な人だな。
俺はただ、美味しい野菜を作りたいだけなのに。

「助けて……くれ……」

少女はそのまま、糸が切れたように前に倒れ込んだ。

「おっと!」

俺は慌てて駆け寄り、彼女を抱き留めた。
軽い。羽毛のように軽い体だ。
近くで見ると、その美しさに息を飲む。
整った顔立ち、長い睫毛。
だが、その顔色は土気色で、腹部には深い切り傷があった。
何かに追われていたのだろうか?

「……とりあえず、家に運ぶか」

俺は彼女を抱きかかえ、マイホームへと急いだ。
これが、俺の『ハーレム』――もとい、賑やかすぎる同居人第一号との出会いだった。

続く
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