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Chapter.60
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都心から少し外れた観光地の繁華街。ホビーショップの店内で撮影を終え次の現場へ行くべく、少し離れた場所に停車中の移動車へ戻る。その途中で紫輝が胸や腰あたりをパタパタと掌で探った。
「あれ?」楽屋にスマホを忘れたことに気付き「ごめん、ちょっと戻ってスマホ取ってくる」マネージャーとメンバーに声をかけると、
「俺も行こうか?」先を歩いていた所沢が振り返る。
「車の場所わかるんで大丈夫っすよ」
「そう? じゃあ先行くんで、気を付けてね」
「はい」
小走りにいま来た道を戻る。まだ残っていた撮影スタッフに軽く事情を説明して、バラしかけの簡易楽屋に入れてもらった。
座っていた椅子の上にぽつんと、紫輝のスマホが鎮座している。
「あったあった」
ジーパンのポケットに入れたとき、なんらかの拍子に滑り落ちたのだろう。
「すみません、ありました。ありがとうございます」
また落としたら嫌だな、と、ポケットには入れず手に持ったまま移動をする。
顔を合わせるスタッフに「お疲れ様です」と挨拶をしつつ小走りでビルを出ると、道向かいにいる数名の女性グループが紫輝に気付き沸き立った。
(やべっ)
少し離れたところにしか横断歩道はない。交通量も多くすぐに渡っては来れないが、声をかけられるのも時間の問題だ。
行きかう車体に隠れて、横目に見えた小道に入る。
後方を気にしつつ路地を抜けて大通りに出ると、目の前に突然、人影が現れた。
「ふぁっ」「うぉっ」
思わず両手を開き、顔の横に掲げる。
「「ごめんなさい!」」
自分の声に女性の声が重なった。
ホールドアップした紫輝の目の前に、驚き顔の女性が立っている。その姿を見た瞬間、紫輝に一種のひらめきが生まれた。
(えっ、いやっ、でもっ!)
一瞬の葛藤。しかし、ここで言わなければもうきっと、この先一生出会えない。
「あのっ! オレっ!」
意を決して呼びかけるが、いま来た道の向こうから「あれ前原くんだったよね」「えー、どっち行ったんだろ」先ほどのグループと思しき女性たちの声が聞こえた。
(タイミング~!)
ここで見つかると騒ぎになり、周りに迷惑をかけてしまう。
「ごめんなさい」
もう一度言って、数メートル先に停まっている移動車に向かう。
(いやいやいや! えっ?! オレ、なに言おうとした?! 言ってどうなる?!)
初対面の、道端でぶつかりそうになっただけの相手。しかし、紫輝はそれだけじゃない感情を抱いてしまった。この機会を逃したら、もう二度と会えないであろう相手に。
バンの後部座席を開けて車内に滑り込む。
(もし、万が一また会えたら、絶対チャンス掴もう)
恐らくとても低いであろう再会の機に、想いを託すことにした。
「おかえりー」
「あったの? スマホ」
「あったあった。あれ……?」と右手を見る。持っていたはずのスマホがない。「えっ? あれっ?」言いながら、胸や腰あたりをパタパタと掌で探る。
「えっ? うそでしょおじいちゃん」
紫輝の姿を見て、右嶋が引き気味に言う。
「いやいや、えっ? ウソウソ。落とした音しなかったじゃん」
「なにぃ?」騒ぎに気付き、後部座席で寝ていた左々木が起きる。
「おじいちゃんがさっき取ってきたスマホまた落としたんだって」
「おじいちゃんってやめて」右嶋の言葉を紫輝が否定する。
「えー? なにやってんの」と左々木。
「どこら辺まで持ってたの」と後藤。
「え? さっき、カワイイコとぶつかりそうになったときまで」
後部を振り返り、リアガラスから外を見る。
“カワイイコ”はあの場所にはもういない。
「どの辺?」黙って話を聞いていた所沢が、運転席から問いかける。
「あの、駅ビルと小さい店の間から出てきたあたり」
所沢は車内のメーターパネルで時間を確認して
「わかった。ちょっと待ってて」
車を降りて紫輝が言う場所まで小走りに向かう。
件の道のあたりをザッと見まわし、すぐ目の前の店先にいたスタッフと会話をしてから車内に戻る。
「落ちてなかったし、拾っても届けられてもないって」
「マジかー」
しかし、紫輝の希望が一つ残った。
(そうだといいな……)
一縷の望みを抱いたとき、
「ねーねー」
「カワイイコってどんなコー?」
右嶋と左々木が紫輝に問いかける。
「いや、どんなコって……」
「出しますよー」所沢がゆっくりと発車させる。
“カワイイコ”の顔を思い出そうとして、紫輝がハッとした。
「やべっ! 久我山さんっ! ちょっ、誰かスマホ貸して! オレ今日、夜、久我山さんとメシ行くのにスマホない!」
「えー? ジュース1本~」
「じゃあオレ2本~」
「オレ3本~」
「いや増えるのおかしいでしょ」
結局、隣に座っていた右嶋に借りて久我山に連絡を入れる。
その夜、紫輝は久我山の協力を得て、鹿乃江に再会する約束を取り付けた。
「あれ?」楽屋にスマホを忘れたことに気付き「ごめん、ちょっと戻ってスマホ取ってくる」マネージャーとメンバーに声をかけると、
「俺も行こうか?」先を歩いていた所沢が振り返る。
「車の場所わかるんで大丈夫っすよ」
「そう? じゃあ先行くんで、気を付けてね」
「はい」
小走りにいま来た道を戻る。まだ残っていた撮影スタッフに軽く事情を説明して、バラしかけの簡易楽屋に入れてもらった。
座っていた椅子の上にぽつんと、紫輝のスマホが鎮座している。
「あったあった」
ジーパンのポケットに入れたとき、なんらかの拍子に滑り落ちたのだろう。
「すみません、ありました。ありがとうございます」
また落としたら嫌だな、と、ポケットには入れず手に持ったまま移動をする。
顔を合わせるスタッフに「お疲れ様です」と挨拶をしつつ小走りでビルを出ると、道向かいにいる数名の女性グループが紫輝に気付き沸き立った。
(やべっ)
少し離れたところにしか横断歩道はない。交通量も多くすぐに渡っては来れないが、声をかけられるのも時間の問題だ。
行きかう車体に隠れて、横目に見えた小道に入る。
後方を気にしつつ路地を抜けて大通りに出ると、目の前に突然、人影が現れた。
「ふぁっ」「うぉっ」
思わず両手を開き、顔の横に掲げる。
「「ごめんなさい!」」
自分の声に女性の声が重なった。
ホールドアップした紫輝の目の前に、驚き顔の女性が立っている。その姿を見た瞬間、紫輝に一種のひらめきが生まれた。
(えっ、いやっ、でもっ!)
一瞬の葛藤。しかし、ここで言わなければもうきっと、この先一生出会えない。
「あのっ! オレっ!」
意を決して呼びかけるが、いま来た道の向こうから「あれ前原くんだったよね」「えー、どっち行ったんだろ」先ほどのグループと思しき女性たちの声が聞こえた。
(タイミング~!)
ここで見つかると騒ぎになり、周りに迷惑をかけてしまう。
「ごめんなさい」
もう一度言って、数メートル先に停まっている移動車に向かう。
(いやいやいや! えっ?! オレ、なに言おうとした?! 言ってどうなる?!)
初対面の、道端でぶつかりそうになっただけの相手。しかし、紫輝はそれだけじゃない感情を抱いてしまった。この機会を逃したら、もう二度と会えないであろう相手に。
バンの後部座席を開けて車内に滑り込む。
(もし、万が一また会えたら、絶対チャンス掴もう)
恐らくとても低いであろう再会の機に、想いを託すことにした。
「おかえりー」
「あったの? スマホ」
「あったあった。あれ……?」と右手を見る。持っていたはずのスマホがない。「えっ? あれっ?」言いながら、胸や腰あたりをパタパタと掌で探る。
「えっ? うそでしょおじいちゃん」
紫輝の姿を見て、右嶋が引き気味に言う。
「いやいや、えっ? ウソウソ。落とした音しなかったじゃん」
「なにぃ?」騒ぎに気付き、後部座席で寝ていた左々木が起きる。
「おじいちゃんがさっき取ってきたスマホまた落としたんだって」
「おじいちゃんってやめて」右嶋の言葉を紫輝が否定する。
「えー? なにやってんの」と左々木。
「どこら辺まで持ってたの」と後藤。
「え? さっき、カワイイコとぶつかりそうになったときまで」
後部を振り返り、リアガラスから外を見る。
“カワイイコ”はあの場所にはもういない。
「どの辺?」黙って話を聞いていた所沢が、運転席から問いかける。
「あの、駅ビルと小さい店の間から出てきたあたり」
所沢は車内のメーターパネルで時間を確認して
「わかった。ちょっと待ってて」
車を降りて紫輝が言う場所まで小走りに向かう。
件の道のあたりをザッと見まわし、すぐ目の前の店先にいたスタッフと会話をしてから車内に戻る。
「落ちてなかったし、拾っても届けられてもないって」
「マジかー」
しかし、紫輝の希望が一つ残った。
(そうだといいな……)
一縷の望みを抱いたとき、
「ねーねー」
「カワイイコってどんなコー?」
右嶋と左々木が紫輝に問いかける。
「いや、どんなコって……」
「出しますよー」所沢がゆっくりと発車させる。
“カワイイコ”の顔を思い出そうとして、紫輝がハッとした。
「やべっ! 久我山さんっ! ちょっ、誰かスマホ貸して! オレ今日、夜、久我山さんとメシ行くのにスマホない!」
「えー? ジュース1本~」
「じゃあオレ2本~」
「オレ3本~」
「いや増えるのおかしいでしょ」
結局、隣に座っていた右嶋に借りて久我山に連絡を入れる。
その夜、紫輝は久我山の協力を得て、鹿乃江に再会する約束を取り付けた。
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