62 / 69
Chapter.62
しおりを挟む
これまでは素直に受け入れることが恥ずかしかったが、紫輝のストレートな感情表現に触れるたび、薄く張った被膜がはがされていった。
まだまだ戸惑いは隠せないが、嬉しいことに変わりはない。しかしやはり、突然のまぶしさに対処できるほどの経験値はまだないようだ。
「結婚は?」唐突な後藤の質問に、
「いずれするよ?」紫輝が当然という顔で肯定した。
「えっ?」鹿乃江の反応に
「えっ?」紫輝が同じ言葉を繰り返す。
「つぐみのさんイヤみたいよ?」
「ややや。嫌ではないですよ?!」
「おぉー」左々木と右嶋の反応に、何故か後藤がニヤリと笑う。
「えっ? あっ?」慌てて隣を見ると、紫輝が苦笑していた。
「すみません、いつもこんな感じなんです」
「あぁ」
意外に冷静な紫輝の態度に、笑みを湛えたままクールダウンする。
当事者の二人を余所に、右嶋と左々木が「いずれ」「いずれ」と盛り上がっている。
「うるさいですよね、ごめんなさい」
「全然? 楽しいです」
「良かった」紫輝が笑顔になって「あんまり困らせないでよ」三人からかばうように鹿乃江の前に腕を伸ばした。
「ごめんって。お似合いだからつい」後藤が言って「みんななんか追加する?」メニューを開き、皆に見せた。
わいわいとメニューを眺めるフォク。鹿乃江も同じように視線を移すが、心ここにあらずだ。
正直、予想外の戸惑いに自分で少し驚いた。
結婚願望が強いわけではないが、どうしたって意識はする。
落ち込んではいないが、普段気付かない自分の一面に触れたような気がして、少し動揺している。
しかし、この先ずっと一緒にいるなら、いずれは通る道だ。
(いつか、伝えないと……)
躊躇の大元にある不安が頭をもたげる。
いま感じるべきではない緊張をほぐすために、腿の上に乗せた手を握り合わせる。その、いつもの鹿乃江の癖に気付いた紫輝が、自分の手を被せて握って指を解きほぐし、そして絡めた。
そっと盗み見た紫輝の横顔は、穏やかな微笑みを湛えている。
その表情から紫輝の言いたいことがわかって、指先だけで紫輝の手を握り返すと、鹿乃江はこっそり安堵の笑みを浮かべた。
紫輝は繋いだ手をそのまま自分の腿の上に移動させる。そのぬくもりが抱きしめられているときに感じるそれと同じで、張り詰めた気持ちが緩やかにほどけていく。
パシャリ。
唐突な機械音と同時にテーブルの下が一瞬光った。
「ラブラブじゃ~ん」左々木が後藤、右嶋に撮ったばかりの写真を見せる。そこには、繋いだ二人の手が写っていた。
「ちょっと盗撮!」指をさしてツッコむ紫輝に、
「あとで送るね」紫輝に向かって左々木が言う。
「それは、うん」
「えっ」
「鹿乃江さんにはオレがあとで送りますよ?」
「んっ?…うん」
戸惑いの笑顔を浮かべる鹿乃江とは対照的に、紫輝は満面の笑みを浮かべる。
「甘やかすのも程々にしないと、そのヒトつけあがりますよ?」それを見ていた後藤が、鼻にシワを寄せて苦々しく忠告した。
「人聞き悪いなオイ」
(メンバーさんといるときってこんな感じなんだなー)
二人きりのときと違うだろうことは予想できていたけど、テレビやライブ映像とはまた違った雰囲気に新鮮さを感じる。いつもより少し幼くて、そこがまた可愛い。
「あんまり甘やかさないように気を付けます」
笑いながら言った鹿乃江に「えぇっ」と驚く紫輝と、頷く後藤、右嶋、左々木。
「あれっ、オレだけ仲間はずれ?」
「感性が違うんじゃない?」右嶋のフォローに
「個性的ってことだよ」後藤が付け足す。
「そう? そうかな?」
素直な紫輝はそれを受けて、ヘヘッと笑った。
(純粋でかわいー)
鹿乃江がデレッとした笑顔になったのを見て、
「良かったね、紫輝くん」
後藤が嬉しそうに言って、左々木と右嶋がうんうんと頷いた。
「うん、ありがとう」
「もうワンワン泣いたりしないでね」
「ワンワンは泣いてない」
右嶋に話を蒸し返されて、紫輝は不服そうに反論した。
まだまだ戸惑いは隠せないが、嬉しいことに変わりはない。しかしやはり、突然のまぶしさに対処できるほどの経験値はまだないようだ。
「結婚は?」唐突な後藤の質問に、
「いずれするよ?」紫輝が当然という顔で肯定した。
「えっ?」鹿乃江の反応に
「えっ?」紫輝が同じ言葉を繰り返す。
「つぐみのさんイヤみたいよ?」
「ややや。嫌ではないですよ?!」
「おぉー」左々木と右嶋の反応に、何故か後藤がニヤリと笑う。
「えっ? あっ?」慌てて隣を見ると、紫輝が苦笑していた。
「すみません、いつもこんな感じなんです」
「あぁ」
意外に冷静な紫輝の態度に、笑みを湛えたままクールダウンする。
当事者の二人を余所に、右嶋と左々木が「いずれ」「いずれ」と盛り上がっている。
「うるさいですよね、ごめんなさい」
「全然? 楽しいです」
「良かった」紫輝が笑顔になって「あんまり困らせないでよ」三人からかばうように鹿乃江の前に腕を伸ばした。
「ごめんって。お似合いだからつい」後藤が言って「みんななんか追加する?」メニューを開き、皆に見せた。
わいわいとメニューを眺めるフォク。鹿乃江も同じように視線を移すが、心ここにあらずだ。
正直、予想外の戸惑いに自分で少し驚いた。
結婚願望が強いわけではないが、どうしたって意識はする。
落ち込んではいないが、普段気付かない自分の一面に触れたような気がして、少し動揺している。
しかし、この先ずっと一緒にいるなら、いずれは通る道だ。
(いつか、伝えないと……)
躊躇の大元にある不安が頭をもたげる。
いま感じるべきではない緊張をほぐすために、腿の上に乗せた手を握り合わせる。その、いつもの鹿乃江の癖に気付いた紫輝が、自分の手を被せて握って指を解きほぐし、そして絡めた。
そっと盗み見た紫輝の横顔は、穏やかな微笑みを湛えている。
その表情から紫輝の言いたいことがわかって、指先だけで紫輝の手を握り返すと、鹿乃江はこっそり安堵の笑みを浮かべた。
紫輝は繋いだ手をそのまま自分の腿の上に移動させる。そのぬくもりが抱きしめられているときに感じるそれと同じで、張り詰めた気持ちが緩やかにほどけていく。
パシャリ。
唐突な機械音と同時にテーブルの下が一瞬光った。
「ラブラブじゃ~ん」左々木が後藤、右嶋に撮ったばかりの写真を見せる。そこには、繋いだ二人の手が写っていた。
「ちょっと盗撮!」指をさしてツッコむ紫輝に、
「あとで送るね」紫輝に向かって左々木が言う。
「それは、うん」
「えっ」
「鹿乃江さんにはオレがあとで送りますよ?」
「んっ?…うん」
戸惑いの笑顔を浮かべる鹿乃江とは対照的に、紫輝は満面の笑みを浮かべる。
「甘やかすのも程々にしないと、そのヒトつけあがりますよ?」それを見ていた後藤が、鼻にシワを寄せて苦々しく忠告した。
「人聞き悪いなオイ」
(メンバーさんといるときってこんな感じなんだなー)
二人きりのときと違うだろうことは予想できていたけど、テレビやライブ映像とはまた違った雰囲気に新鮮さを感じる。いつもより少し幼くて、そこがまた可愛い。
「あんまり甘やかさないように気を付けます」
笑いながら言った鹿乃江に「えぇっ」と驚く紫輝と、頷く後藤、右嶋、左々木。
「あれっ、オレだけ仲間はずれ?」
「感性が違うんじゃない?」右嶋のフォローに
「個性的ってことだよ」後藤が付け足す。
「そう? そうかな?」
素直な紫輝はそれを受けて、ヘヘッと笑った。
(純粋でかわいー)
鹿乃江がデレッとした笑顔になったのを見て、
「良かったね、紫輝くん」
後藤が嬉しそうに言って、左々木と右嶋がうんうんと頷いた。
「うん、ありがとう」
「もうワンワン泣いたりしないでね」
「ワンワンは泣いてない」
右嶋に話を蒸し返されて、紫輝は不服そうに反論した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる