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…友達も悪くないかもな
しおりを挟む早川というあのイケメンは、本当に毎日メッセージを送ってきた。
内容はとてもくだらない。
野良猫を見つけただの、新しい服をゲットしただの、サークルで飲み会があっただの…
基本的に早川が一方的に送ってくるだけで、俺からは特に返事をしない。たまーに気が向いた時だけ、返信する。どんな短文でも、たった2~3文字の返信だったとしても、早川は大層喜んで、はしゃぎっぷりが文面に滲み出たメッセージが返ってくる。それを読むたび、俺の心はじんわり温められるように感じた。
仕事と睡眠だけだった俺の生活の中で、早川とのやりとりは、ちょっとした息抜きになっていた。
…友達も悪くないかもな。
なんて思っていた時。
早川からメッセージが届いた。珍しく疑問文。
〈土曜日仕事ですか?〉
〈午前だけ〉
〈じゃぁ土曜の午後、俺にください〉
約束の土曜日。
やはり昼までには終わらず、会社を出ると辺りは真っ暗だった。
「伊織さん!」
「お前、」
俺を見つけるなり走り寄ってくる早川に瞠目する。
「行けなくなったって連絡したよな」
「でも、俺が会いたかった。から、来た」
心底嬉しそうに笑う、犬みたいなヤツ。
「伊織さん、お腹すいてる?」
「…あぁ」
「じゃ、いこ!」
ニカッと笑い早川が手を握る。
その手の温度にハッとする。
お前どれだけ待ってたんだよ。
手、冷たすぎ。
「…1杯くらいなら、奢ってやる」
小さな呟きだったけど、早川はサッと振り返った。
眩しい笑顔。
少し、愛しさを感じた。
早川に連れられて来た店は、個人経営の小洒落たベーカリー。
広めのイートインスペースが併設されていて、夜はキャンドルが飾り付けられ、ワインとパン、料理が提供されるらしい。
俺の家の近くなのに、こんな店があるなんて全く知らなかった。
「早川って、こういう店好きなの?」
「好きっていうか、バイト先!」
なるほど、見た目のイメージには合う。
こんなイケメンがいるパン屋なら、連日女性客が絶えないだろう。
「前のバイト先は、髪の色変えたらダメって言われちゃった」
「へえ」
「この近くの、本屋」
「ああ。俺も行ったことある」
「知ってるよ」
「え?」
パッと笑う早川は、夏の強い日の中に咲く、ひまわりを連想させる。
それより知ってるって?
聞き返そうとするも、目の前にメニュー表が差し出される。
「ね、伊織さん、好きなの選んで。」
柔らかく微笑む様は、一転して、深海に射す一縷の陽の光のような、優しく儚い印象を受ける。
「お前のオススメで。」
「任せて。」
メニューに視線を落とす早川。キャンドルのゆらめく光で、頬に長いまつ毛の影が落ちる。
店の雰囲気のせいだろうか、メニュー表を滑る指がなんだか艶かしくて、思わず目を逸らしてしまった。
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