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10 王の執務室
しおりを挟むそして、衛兵が左右に立っている執務室に通された。私は一応、侯爵家の娘で、それなりの教育を受けているはずなのだが、執務室と政務室の違いがわかっていなかったな、と、どうでも良いことを考えてしまうのは、先程のオスカーに恐怖を感じたことの逃避を試みているのだろう。
「そこに掛けてくれ。」
陛下が1人掛けソファに座り、私にも座るよう促したが、私は手紙と通信機を届けに来ただけで、話があるわけではない。咄嗟に断った。
「いいえ。エリザベス様より預かった物をお届けに来ただけですので、すぐに退出致します。」
「そう言わず。ここは安全です。許可なく誰も入って来ませんから、少し休んでいかれては?」
お付きの方が追い打ちをかけて勧めてくる。
「その通りだ。怖かっただろう。知らせは出しておこう。」
陛下が慮ってくれていることに気づき、ソファを借りることにした。
すぐに、お付きの方はドアの外の衛兵に何かを伝え、お付きの方とは別の男性がお茶を出してくれる。執事さんかしら。
「王ともなれば、秘匿性の高い事案を扱うことが基本ですらね。政務の事務行務は行務官が行いますから政務室で良いんですが、王はここで重要な事案の最終決定を行います。そんな大切な書類を盗み見られでもしたら大変でしょう。そういう可能性を排除するための、王専用の執務室です。先程の男性も流石にここへは入って来ません。防音ですから安心してください。」
「ああ……そうですか。なるほど?」
間抜けな返事をしてしまうが、お役目を忘れてはいけない。
「こちらを。エリザベス様からの手紙とお届け物です。」
と、隠しポケットの中から手紙と道具を取り出す。
すぐに、お付きの方が受け取り、陛下に渡しに行く。渡された陛下は手紙を読んでから、返事を書くので待ちなさいと、立ち上がり、執務机に移動した。
そうこうしているうちに、私の前のテーブルには、簡単なお菓子まで置かれている。
「どうぞ、おあがり下さい。このお茶は気分が落ち着きますよ。」
テーブルを挟んだ、向こう側のソファに座ったお付きの方に、そう勧められたが、食べられるわけがない。陛下の御前で、男性2人の前で、モサモサ食べられるほど、私の心臓は強靭ではない。しかも、執事らしい人は、何故か近くに立って、じっと私を睨んでいる気配がする。
けれども、出されたお茶を飲まないことは失礼にあたるので、お茶だけは頂こうと、ティーカップに口をつける。
「美味しい……。」
ふと漏れた本心。高級なお茶なのだろう。心が和むわ。しばしの癒しを堪能していると、上から声が降ってきた。
「弟が申し訳ないことをしましたね。」
思わず勢いよく執事らしい人を見上げると、そこには、ほんの少し苦笑いした執事らしい人、この人は、そう。よく見たら、オスカーのお兄様、ゲイル家の次男様だ。
「ええ—……?何故こちらにいらっしゃるのです?」
続けて言葉を発しようとした時に、陛下からお声がかかった。
「リリア嬢。少し話をしないか。」
「はい。陛下。」
「こちらへ来て窓の外を見てごらん。」
言われるまま、眼下に見える景色を眺める。
( ああ、良い景色だわ— )
そのくらいの感想しか出てこない。
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