侍女は婚約が内定している俺様属性の男と縁を切りたい。

彩柚月

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 帰りの馬車の中で、サイラーが
 「たくさん歩いて疲れていませんか?」
 と聞いてくれたので、
 「疲れました。でもこれだけら歩いたら、食べた分は消費してますよね?」
 と返した。

 「初デートの思い出はウォーキングになりそうですね。」
 「まあ!サイラー様がたくさん食べさせるからです。」
 
 「ははっ。初デートの思い出がウォーキングでは少し寂しいので、寄り道をしても構いませんか?」
 「ええ。遅くならなければ、構いません。」

 「では、もう少しだけ時間をください。」
 サイラーはそう言って、御者に何やら伝える。

 しばらく走って着いたのは、街が一望できる丘で、街の反対側は夕陽が綺麗に見える有名スポットだった。丘とは言っても、キチンと整備されており、歩くのに不便はない。所々にベンチなども設置されている。

 残念ながら夕陽を見るには早い時間なので、人の姿はほとんどない。街が見える方向のベンチにサイラーがハンカチをひいて、座ることを促されたのでリリアは素直に従う。

 朝早く来たらこの方向で朝焼けが見られるのね。と思っていると、サイラーが不意に言う。

 「本当はね。もっと時間をかけるべきたとわかっているんです。」
 「はい?」

 「ゆっくり貴女の心を溶かして、関係を進めていく。そうしたいと思っていました。でも、私はそこまで余裕のある男ではないようです。」
 「何のお話ですか?」
 
 「今朝、貴女に言われた言葉が気になって仕方ありません。誤解されているのかと。」
 そう言って困ったような顔でリリアを見た。

 「え、あれは、ほんの少し、そう思っただけで、」
 ——本心ではなかった
 と、続ける前に、サイラーは言葉を被せてきた。

 「そう思われることは心外です。もちろん、定型分として褒めることはありますが、あくまでも社交辞令です。何しろ、私は、女性には縁がなかったのですから。」

 「え…そう、ですか。すみません。——でも、そんな風には見えませんけれど。手慣れている風に見えます。私を子供扱いされていますよね?」

 「子供扱いだなんて……申し訳ありません。私も、初めてのことですので、どうリリアに接すれば良いのかわからなくて、いっぱいいっぱいで、そんな風に思わせてしまったのだと思います。」

 「とてもそんな風には…いつも大人の余裕かと思っていました。」
 「良かったです。5歳も年上なのだから余裕を見せて安心させなくてはと、大人の振りをしていたので。」
 「振り、ですか?」
 「振り、です。」

 少し間を開けてからサイラーは続ける。

 「申し訳ありません。本当の私は、余裕など全くないのです。大切に扱いたかったし、嫌われないように必死に取り繕っていました。——リリアに私との時間を楽しいと思っていただきたかったのです。」

 サイラーはふーっと息を吐いてから、

 「最初に下心があると言ってしまったので、引っ込みがつかなくなっていたのです。何を言っても信じてもらえないのではないかと思って、時間をかけるつもりでした。でも、誤解されたとあっては、気持ちがいてしまって。——だから、今、言わせていただきます。」

 と、リリアを真っ直ぐ見つめて、

 「リリア。私は貴女を、女性として、好ましく思っています。」
 
 「え、」

 「貴女に恋をしている。と、言いました。」

 「えぇ—……。」
 
 

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