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しおりを挟むサイラーはオスカーに話す。
「今回の婚約騒動の、お前の最大の問題は、リリア嬢を大切にしなかったことだ。だが、そういう言い方をしても、お前には伝わらないだろう。だから言い換える。リリア嬢に気に入られるように振る舞うべきだった。わかるか?」
「——は?なんですそれ?」
「やっぱりか。わかっていなさそうだな。
じゃあこれは?リリア嬢とお前は婚約していなかった。」
「え?」
「これはどうだ?お前は三男だからいつまでもここに居られない。」
「はい。だから、マリナル侯爵家に行くんですよね。」
「正確には、リリア嬢の婿として、侯爵家に入ることになっていた、だ。」
「——?何故過去形なんです?だつて、ここに居られないなら行くしかないじゃありませんか?」
「うん。わかった。いや、わならないが、お前が全くわかっていないことがわかった。——父上が頭を抱えるのもわかるな。さて。どうしたもんかな。」
そう言って、お茶をグイッと飲み干した。
「父上がしたように、まず一通り説明しようか。マリナル侯爵家は、後継に困ってはいないんだよ。リリア嬢に継がせるつもりなのかどうかは知らないが、レディとして彼女を侯爵家に残すつもりでいる。ここまでは良いか?」
「つまり、リリアは侯爵家の人間のままってことですね?」
「お。そうだ。だから、爵位や家督がなくとも婿入りしてくれる男を探していた。これもいいか?」
「はい。それにボクが選ばれたんですよね。」
「選ばれていない。」
「は?」
「ここにひとつ勘違いがあったんだな。その条件だと、婿入りするのは誰でも良いように聞こえるが、そうじゃない。リリア嬢が気に入った男なら誰でも良いということだ。そこにちょうど良く、政治的思惑でも一致するお前がそこに居た。だが、先に言った通り、リリア嬢の気持ちが大事なので、婚約を前提に、相性のお試し期間を設けていた。わかるか?」
「お試し期間……」
「そうだ。リリア嬢が気に入らなければ、この話はなくなる。リリア嬢とオスカーは、最初からそういう関係だったんだ。だから、マリナル侯爵家に入るためには、リリア嬢に気に入られなければいけなかった。」
「それなら、問題ないはずです。ボクはリリアに、気に入られていました。」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって。いつもと同じように、初対面で好感を持たれたと思います。」
「それからどうした?」
「それから?」
「最初に好感を持たれたからと言って、それはあくまでも最初の印象にすぎないだろう。」
「ボクの好みを早く覚えられるように教えてあげました。」
「好みを教えてあげた?何だそれは。」
「だって、ボクが侯爵家に行ってから、ボクに嫌わられたら、リリアが可哀想でしょう?だから、そうならないように、早くボクの好ましい女性になれるようにと、教育してあげたんです。」
「なんで、そうなる?」
サイラーもゲイル伯爵と同様頭を抱えてしまった。
「え、だって、ボクの妻になるのだから、夫婦はお互いが気に入らないとダメでしょう?リリアはもうボクを気に入ってるんだから、次はボクがリリアを気に入らないとと思って——。」
「だからお前の気にいる女性に変えようとしたのか?」
「そう!そうです!ボクの好みを知らないと、ボクの世話をするのも大変だろうし、リリアのためを思って、そうしたんです。」
「それは、リリアのためではなく、お前のためだろう?」
「え?」
「お前は自分の好みを教えようとした、と言ったが、なら、お前はリリア嬢の好みを知ろうとしたのか?」
「何故そんな必要が?だって、ボクを気に入られたいリリアが努力するべきなのではありませんか?」
「だから。お前は気に入られる努力はしないのか?」
「?なぜです?」
「——続きは明日にしよう。」
サイラーは、この弟を見捨てたくないと思っていた。リリア嬢に無礼を働いた、どうしようもない弟ではあるが、それでも可愛い弟だったのだ。話せば理解をして、改心するのではないかと期待していたのだ。でも、今、未知の生物と話しているような感覚に襲われて、匙を投げたくなっていた。
——いや。諦めてはいけない。
血の繋がった家族が諦めてしまったら、この道理を知らない可哀想な弟の未来はない。ギリギリまで、自分が努力しなくては。
そう思ったサイラーは、明日は話を切り替えようと思った。
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