1 / 18
1
しおりを挟むオリヴィアはシャーロット王女の、付き人を務めている。本来なら、この地位はもっと爵位の高い女性が務めるものだが、運良く仕事を得ることができた。
仕事内容は、一言で言えば貴婦人になりきること。主人と一緒に時間を過ごし、話し相手となり、客をもてなすのを助け、しばしば社交行事に同行する。時には主人の足りない知識を補い、書類仕事を手伝う役割も担っていた。オリヴィアの場合、給金は王宮の予算から出ているが、主人は、シャーロット王女だ。
辺境に位置する、しがない貧乏伯爵の出で、父と母は既に鬼籍に入っている。現在は兄が伯爵として領地を収めており、オリヴィアには、いつでも戻って来いと言ってくれているが、既に妻子のいる兄に頼るのは何となく罪悪感を感じる。
何しろ貧乏伯爵家なので、持参金のアテもなく、戻ったところで、嫁入りもできないだろう。
中央貴族の叔母を頼って王立学院に通ったオリヴィアは、文官になれたら、と勉学に力を入れ、希望通り、王宮勤めの推薦を受けた。とは言っても、推薦を受けるのは学生だけではなく、その人数は少なくはない。が、それでも、推薦を受けたということ自体が実績となり職を得るのに有利となる。王宮でなくても職業夫人になれるだろうと安堵していた。
そこに、叔母の夫の、なんとかのなんとかの……とにかくどうにか親戚の、忘れた頃に少しお会いする程度の、同じく伯爵位の息子、レイルが王宮文官として務めていることを知り、ダメ元で尋ねたところ、内部からの推薦もつけてくれた。
これで確実に王宮文官になれるかという時に、王女の付き人が婚姻で退職するとのことで、ちょうど良い女性を探しているという。
全体的な女性の地位はまだまだ低い。例え選ばれなくとも、この選考にいくらか残るだけでも実績なるから履歴書を出してみたら、というレイルの勧めで、これもダメ元で出してみたのだが、運良く選んでもらえたのだ。
今の主人はシャーロットだが、オリヴィアは王宮に勤める人材なので、もしも、シャーロット王女が嫁入りなどで王宮から出ることになっても、ついて行くか、他部署に配属されるか、それは王宮の人事部の辞令に従う。
王宮に勤めれば、その年数に従って、職を辞した後も恩給が出る。この待遇にオリヴィアは大変満足している。
王女は16歳、私は18歳。この年齢差が選考に有利に働いたと、後から聞いた。運が良かった。運要素が強いため、多少の陰口もあるが、この運を引き寄せる努力をした自負も十分あるため、負け犬の遠吠えと、聞き流すことにしている。
もちろん、オリヴィアの幼馴染の伯爵子息レイルのおかげも、大いにあるだろう。
このレイルも三男で、婚姻を諦めているので、王宮文官として生きることを決めた口で、オリヴィアは、この頼れる遠い親戚のレイルに淡い憧れを抱くようになっていた。
思えば子供の頃から、好感を持っていたかもしれない。
そして、領地も爵位もないが、比較的自由に恋愛のできる立場である私達は、お互いの気持ちがあればと、ある程度のお金を貯めてから結婚しようと約束をしていた。
1,388
あなたにおすすめの小説
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。
アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。
隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。
学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。
訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる