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しおりを挟む内宮で伯爵位の娘というのは、大層目立つらしい。身の程知らずという目で見られていることは知っている。と、同時に、男性には格好の餌のようで、頻繁に声がかかる。爵位の低い、資産もない、婚約者もいない(と、思われている)女など、上手くいけば遊び相手にできる、具合のいい相手ということだろう。
「可愛いね。熱心に働く君をいつも見ていたよ」
「お褒めは有り難くいただきます。でも、私は守護対象ではありませんので、見守って頂くわけには参りませんわ。お仕事の邪魔をしてしまって申し訳ありません。」
「休みはいつ?良いところへ連れて行ってあげるよ。」
「お誘いは嬉しいのですが、休みは決まっておりませんのでお約束はできませんわ。」
「いつも質素な君を飾りたいから受け取って欲しい。」
「私などにつけられては、この装飾品が可哀想です。相応しいお方の元へ行きたがる声が聞こえますわ。」
と、サラッと躱す術を身につけられたのは収穫だと思っている。
「まったく。みんな騙されているよなあ。」
「あら、ウィリアム殿下。ごきげんよう。」
「ああやっていつも男を手玉に取ってるわけだ。お前、なんて言われてるか知ってる?そこそこ綺麗で頭も良い。だぜ。性格を知らないって幸せだよな。」
「うるさいですわ。殿下も私などに構われないで民を構って差し上げでくださいな。」
「お前の中では俺もあいつらと同じ括りなの?」
わざとらしくがっかりしてみせるウィリアムに、冷たくあしらう、このやり取りを楽しんでいることを悟られないように、表情と声を引き締める。
「当然ですわ。さあさあ、お行きください。」
たまには夜会に出席する。もちろんシャーロットの付き添いの立場なので、楽しんではいないけれど。
シャーロットとウィリアムがファーストダンスを披露している。2人は良くお似合いだ。年齢差もちょうど良いし、いつか結ばれるのかもしれない。
彼らと私の間に年齢差はないのだが、何故か2人は弟と妹のように思えて、微笑ましく思っていた。
ふいに声をかけられた。
「レディ、よろしければ一曲お相手願えますか?」
ダンスのお誘いだ。確かこの方は、若い女性に人気の有力株だったはず。
理由なくダンスのお誘いを断るのは失礼にあたるけるども、私の最初の相手は決まっている。口約束だけで正式に婚約しているわけではないから、最初に誰の手を取ろうが構わないのだけれど、これは密かな私のルール。
「光栄ですが、麗しい花達が後ろでお待ちのようですわ。どうか、こんな雑草に惑わされないで。」
そう言って立ち去ると、レイルに会えた。ダンスをしながら、軽く雑談をして、最後に、
「体が空いたら会いに行くよ。」
「ええ、私も手紙を書くわ。」
と、別れた。
秘めている恋みたいで心が満たされる。
と、そこへウィリアムとシャーロットがやってきた。
「今の誰だよ。」
開口一番でこう言うウィリアム。こういうやり取りが楽しいと思っているのは事実だが、時と場合は選んで欲しいと思う。
「殿下に気にしていただくようなことではありませんわ。シャーロット様、お疲れ様でした。他の方と踊られてはいけませんよ。ウィリアム殿下、誘われる前にシャーロット様を席にお連れください。お飲み物を席にお待ちしますわ。」
「ええ、お願いね。」
「あ、俺が取ってくるよ。お前が送ってやってくれ。」
まあ。なんてお優しい。シャーロット様を大事にしているのね。と微笑ましい気持ちで、
「わかりました。ではお願い致しますね。」
と、王族の席へ送り届けた。
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