16 / 69
一線
しおりを挟む
「行く前に立ち寄るとは珍しいな」
「予習しておきたいからな」
朝から“ユズリハ邸”で過ごすハロルドは朝食を口に運ぶユズリハの前で教科書とノートを開いていた。
学校でからかわれると苛立ちのせいで前のように授業が入らないため先に勉強していくことにした。もともとそうしていたのだが、今回は念入りに。
「どうしたらお前みたいに感情を乱さずにいられるんだ?」
「他人の言葉など気にするから腹が立つのじゃ」
「面と向かってブスと言われたら原立たないか?」
「何も思わぬ」
「なんでだ? 言い返すこともしないのか?」
「せぬ」
本当に言い返さないのだろうと今なら信じられる。
自分だって来たくて来たわけではないと怒鳴り返すこともできたのに、ユズリハがしたのは謝ることだけ。
ハロルドがここでブスと言ったところでユズリハは気にしないだろう。
それがわからない。
「相手を変えようなどと思うことはおこがましく、相手に変わってもらおうと願うことは無駄なのじゃ」
「じゃあ我慢するのか?」
「我慢ではない。相手がそういう人間であると認めるだけでよい」
「わからない」
米を食べる箸を止めて顔に向けて円を描いてくる礼儀のなさに眉を寄せながら説明しろと促すハロルドに口の中の物を飲み込み、茶を飲んでから口を開いた。
「そなたがわらわにブスと言い放ったとする。わらわはそなたは相手にブスと言い放つ失礼な人間と思うまでのこと。そなたの美的感覚ではわらわはブスなのじゃろうが、万人がそう思うわけではないじゃろう。何についても同じこと。言われた直後に腹を立てるのはわかるが、たった一人の言葉で憤怒するなど無駄な時間と精神の使い方はしとうない。己の心と向き合えるのは己だけ。感情をどう操るかは己が次第じゃ」
「僕に怒らなかったのは時間の無駄だと思ったからか?」
「いや、それについてはそなたのは気持ちがわかるから受け止めただけのこと。まあ、文句の多い男とは思うておるが」
「文句……まあ、そうか……」
「故にそなたが文句を垂れ流そうとも、また文句言うておるぐらいにしか感じぬのじゃ」
それが達観していると言わずしてなんと言うのか。
十五歳にして他人に苛立たない方法を取得している人間と話していると自分がいかに小さい人間かよくわかる。
ハロルドにとってユズリハは嫌悪する相手ではなく見習わなければならない相手なのだと実感する。
「じゃあ僕はお前のことでからかわれたらどうすればいいんだ?」
「やかましいぞ! このドアホめが!と言ってやれ」
ダイゴロウの真似をしたユズリハの迫力に目を見開くハロルドを見てまた朝から大笑いする。
「驚いたか?」
「驚くに決まってるだろ!」
「はっはっはっはっはっはっ! 父上の真似をすれば誰でも驚く。我慢できぬときはそう言ってやれ。腹を立て続けるよりずっといい」
頭ではわかっている。うるさいと言えば周りが黙ることも言わなくなるだろうことも。ヘインズ家の人間を怒らせてタダで済むと思っている貴族はいないだろう。だが、子供はそこまで考えつかない。ハロルド・ヘインズは優等生だから怒らない、と思っている者がほとんどなのだ。だからからかう。
ハロルド自身、どこまで怒っていいのかわからない。ユズリハといると猫をかぶる必要がないから気が楽だ。でも、ユズリハを恋愛対象として見ているとか問われればノーと答える。
目の前で大口を開けて笑う様にも嫌悪感はなくなった。我ながら単純だと思いつつも、まだ全てを受けれられているわけではなかった。
「僕は……怖いんだ」
「誰でもそうじゃ。人に嫌われることは怖い。一人になることが怖い。受け入れられぬことも怖い」
「お前でもか?」
「ああ。じゃが、他人を変えられぬ以上は考えたとて詮無きこと。自分にとって一番良い方法を模索する他あるまい」
「自分にとって一番良い方法……」
それが見つかれば苦労はしない。
まだ通い始めたばかりの学校であっという間に変わってしまった自分を取り巻く状況。
まさか自分が笑い者になる日が来るとは想像したこともなかったのに、今は毎日笑い者として生きている。
「一つ、聞いてもよいか?」
「なんだ?」
ユズリハから質問など珍しいとペンを止めて顔を上げた。
「そなた、夫婦となる証明の書類に署名したか?」
「祖父が持ってきた書類か? あれにはサインしたけど」
「……そうか」
「書けって言われたから書いたけど、なんか問題でもあったのか?」
ウォルターの発言からハロルドの署名だとわかってはいたが、本人の口から聞きたくて聞いてしまった。
ウォルターや使用人が文字を真似て書いたわけではなくハロルドが書いたもの。
ユズリハの予想どおり、祖父に言われたから書いたというハロルドに首を振る。
「いや、父上があのような書類を用意していたこと、詫びようと思うてな」
「こっちでは珍しいことじゃない」
「そうか。ならよかった」
笑顔だが、少し引っかかるものがあった。
「お前はサインしたのか?」
「ああ、もちろんじゃ。あの書面は父上に送った」
「じゃあ……僕たちはもう夫婦ってことか?」
「そなたがそのような言い方をするとはな。どういう心変りじゃ?」
調子の良いやつと思われても仕方がない。だが、ユズリハの寛大さに自分がちっぽけに思え、見習わなければと思った途端に嫌悪が消えた。
どのみち結婚は避けられない。それなら夫婦であることを受け入れたほうが自分の気持ち的にも楽なのではないかと思ったのだ。
「お前に当たってばかりで悪かったなって……。僕はこれから変わっていく。幼稚だと言われないように、お前にできる限りの誠意を見せるつもりだ。だからお前も僕に──」
「無理はせんでよい」
「無理はしてない」
「わらわは何も望んではおらぬ。そなたが此処で暮らすことも、わらわの夫として生きることも、そなたが我慢をしたり気遣和なければと思うことも何も望んではおらぬのじゃ」
「僕の気持ちを無視するな!」
「わらわに期待はしてくれるな」
突き放すように言われた言葉がハロルドの胸に突き刺さる。
「なんだよそれ……。別に何も期待なんかしてない。お前に期待することなんて何もない。僕はただ、お前をちゃんと受け入れようと……」
「アーリーンを諦めてか?」
「それは……」
真っ直ぐ見つめられると緊張する。まるで重要な問題の解答を迫られているような気分になる。
アーリーンはからかうことはしない。いつも気まずそうに見てくるだけで微笑みかけてくれることもある。まだ諦める必要はない。
だが、今は少し状況が違っている。ユズリハとこの家で過ごす時間に嫌悪感がなく、むしろ自室にいるより気が楽なのだ。
此処にいれば祖父が訪ねてきたとしても緊張することはない。
その環境が心地良くて、悪くないと思えている今、ハロルドはユズリハを妻として受け入れようと考えていた。自分が望んでそうするということは、アーリーンにそれを事実として伝えなければならないということ。
アーリーンに愛人として傍にいてほしいと言うか、それともアーリーンを諦めるか。
愛人を本命として傍に置けばいいとユズリハは言った。ハロルドも先日までそうするつもりだった。しかし、今は少しその気持ちが薄れているだけにどうすべきかわからなくなっている。
「なんてな。冗談じゃ。そなたにそんなことを迫ろうなどと思うてはおらぬ。そなたの人生、そなたの好きにすればよい」
パッと笑顔に変わっていつもどおりの雰囲気を纏うユズリハを数秒見つめたあと、教科書をまとめて鞄の中に入れて立ち上がる。
「学校に行く」
「気をつけてな」
想像の中では何度も繰り返した光景。
仕事に行くと言っては妻が笑顔で見送ってくれる。
だがそれはユズリハではなくアーリーンで、もっと夫婦らしい見送りだった。
ユズリハにそこまで望むことはしないが、ハロルドは妙な寂しさを覚えていた。一線引かれているような、その線の先に踏み込もうとすると先手を打たれる……そんな感覚。
出会った日からずっと嫌悪を滲ませて邪険にしていたのは自分だ。ハッキリと言い続けてきたのも自分。今更なんだと思われても仕方のないことをしてきたのも事実。
ユズリハの対応は何もおかしなことではない。それも受け入れなければならないことだとわかっていても、あの笑顔の裏で何を考えているのだろうと気になってしまう。
「なあ」
玄関先で振り向くと箸を持ったままのユズリハが立っていた。
その姿を見ると笑ってしまう。
「どうした?」
なぜ笑っているんだと不思議そうな顔をするユズリハにハロルドは肩を揺らしながら首を振る。
「箸持ったまま見送りなんかするなよ。マナー違反だぞ」
「此処はわらわの敷地内。マナー違反はない」
「父親の前でも同じことが言えるのか?」
「……言うでないぞ」
気まずそうに呟くユズリハに声を上げて笑うとそのまま手を振って馬車が待つ門へと向かった。
「あの調子の良さには呆れるねぇ」
「人は考えを改めるもの。下心があれば否定もいいが、心から変化を誓う相手のそれを否定してはならぬ」
「俺はあの坊ちゃんは認められんがね。お前さんの対応に甘えるつもり満々だぞ」
「よいではないか。ウォルター・ヘインズが君臨する家で育ったのじゃ。気を抜く場所があったっていい」
「そのうちまたお前さんを罵倒してアーリーンを連呼するぞ」
「どうなるかわからぬ先のことなど考えても仕方あるまい。わらわはそなたのように千里眼持ちではないのでな」
手に持った箸をカチカチと鳴らしながら席へと戻って食事を再開するユズリハにとってハロルドがこの家にいる感覚は落ち着くようで落ち着かない、また逆も然りで、相手が渋々ではなく望んで来ているのであればと考えないわけではない。
だが、多くを期待してはいけない。それがユズリハの頭を占めていた。
「予習しておきたいからな」
朝から“ユズリハ邸”で過ごすハロルドは朝食を口に運ぶユズリハの前で教科書とノートを開いていた。
学校でからかわれると苛立ちのせいで前のように授業が入らないため先に勉強していくことにした。もともとそうしていたのだが、今回は念入りに。
「どうしたらお前みたいに感情を乱さずにいられるんだ?」
「他人の言葉など気にするから腹が立つのじゃ」
「面と向かってブスと言われたら原立たないか?」
「何も思わぬ」
「なんでだ? 言い返すこともしないのか?」
「せぬ」
本当に言い返さないのだろうと今なら信じられる。
自分だって来たくて来たわけではないと怒鳴り返すこともできたのに、ユズリハがしたのは謝ることだけ。
ハロルドがここでブスと言ったところでユズリハは気にしないだろう。
それがわからない。
「相手を変えようなどと思うことはおこがましく、相手に変わってもらおうと願うことは無駄なのじゃ」
「じゃあ我慢するのか?」
「我慢ではない。相手がそういう人間であると認めるだけでよい」
「わからない」
米を食べる箸を止めて顔に向けて円を描いてくる礼儀のなさに眉を寄せながら説明しろと促すハロルドに口の中の物を飲み込み、茶を飲んでから口を開いた。
「そなたがわらわにブスと言い放ったとする。わらわはそなたは相手にブスと言い放つ失礼な人間と思うまでのこと。そなたの美的感覚ではわらわはブスなのじゃろうが、万人がそう思うわけではないじゃろう。何についても同じこと。言われた直後に腹を立てるのはわかるが、たった一人の言葉で憤怒するなど無駄な時間と精神の使い方はしとうない。己の心と向き合えるのは己だけ。感情をどう操るかは己が次第じゃ」
「僕に怒らなかったのは時間の無駄だと思ったからか?」
「いや、それについてはそなたのは気持ちがわかるから受け止めただけのこと。まあ、文句の多い男とは思うておるが」
「文句……まあ、そうか……」
「故にそなたが文句を垂れ流そうとも、また文句言うておるぐらいにしか感じぬのじゃ」
それが達観していると言わずしてなんと言うのか。
十五歳にして他人に苛立たない方法を取得している人間と話していると自分がいかに小さい人間かよくわかる。
ハロルドにとってユズリハは嫌悪する相手ではなく見習わなければならない相手なのだと実感する。
「じゃあ僕はお前のことでからかわれたらどうすればいいんだ?」
「やかましいぞ! このドアホめが!と言ってやれ」
ダイゴロウの真似をしたユズリハの迫力に目を見開くハロルドを見てまた朝から大笑いする。
「驚いたか?」
「驚くに決まってるだろ!」
「はっはっはっはっはっはっ! 父上の真似をすれば誰でも驚く。我慢できぬときはそう言ってやれ。腹を立て続けるよりずっといい」
頭ではわかっている。うるさいと言えば周りが黙ることも言わなくなるだろうことも。ヘインズ家の人間を怒らせてタダで済むと思っている貴族はいないだろう。だが、子供はそこまで考えつかない。ハロルド・ヘインズは優等生だから怒らない、と思っている者がほとんどなのだ。だからからかう。
ハロルド自身、どこまで怒っていいのかわからない。ユズリハといると猫をかぶる必要がないから気が楽だ。でも、ユズリハを恋愛対象として見ているとか問われればノーと答える。
目の前で大口を開けて笑う様にも嫌悪感はなくなった。我ながら単純だと思いつつも、まだ全てを受けれられているわけではなかった。
「僕は……怖いんだ」
「誰でもそうじゃ。人に嫌われることは怖い。一人になることが怖い。受け入れられぬことも怖い」
「お前でもか?」
「ああ。じゃが、他人を変えられぬ以上は考えたとて詮無きこと。自分にとって一番良い方法を模索する他あるまい」
「自分にとって一番良い方法……」
それが見つかれば苦労はしない。
まだ通い始めたばかりの学校であっという間に変わってしまった自分を取り巻く状況。
まさか自分が笑い者になる日が来るとは想像したこともなかったのに、今は毎日笑い者として生きている。
「一つ、聞いてもよいか?」
「なんだ?」
ユズリハから質問など珍しいとペンを止めて顔を上げた。
「そなた、夫婦となる証明の書類に署名したか?」
「祖父が持ってきた書類か? あれにはサインしたけど」
「……そうか」
「書けって言われたから書いたけど、なんか問題でもあったのか?」
ウォルターの発言からハロルドの署名だとわかってはいたが、本人の口から聞きたくて聞いてしまった。
ウォルターや使用人が文字を真似て書いたわけではなくハロルドが書いたもの。
ユズリハの予想どおり、祖父に言われたから書いたというハロルドに首を振る。
「いや、父上があのような書類を用意していたこと、詫びようと思うてな」
「こっちでは珍しいことじゃない」
「そうか。ならよかった」
笑顔だが、少し引っかかるものがあった。
「お前はサインしたのか?」
「ああ、もちろんじゃ。あの書面は父上に送った」
「じゃあ……僕たちはもう夫婦ってことか?」
「そなたがそのような言い方をするとはな。どういう心変りじゃ?」
調子の良いやつと思われても仕方がない。だが、ユズリハの寛大さに自分がちっぽけに思え、見習わなければと思った途端に嫌悪が消えた。
どのみち結婚は避けられない。それなら夫婦であることを受け入れたほうが自分の気持ち的にも楽なのではないかと思ったのだ。
「お前に当たってばかりで悪かったなって……。僕はこれから変わっていく。幼稚だと言われないように、お前にできる限りの誠意を見せるつもりだ。だからお前も僕に──」
「無理はせんでよい」
「無理はしてない」
「わらわは何も望んではおらぬ。そなたが此処で暮らすことも、わらわの夫として生きることも、そなたが我慢をしたり気遣和なければと思うことも何も望んではおらぬのじゃ」
「僕の気持ちを無視するな!」
「わらわに期待はしてくれるな」
突き放すように言われた言葉がハロルドの胸に突き刺さる。
「なんだよそれ……。別に何も期待なんかしてない。お前に期待することなんて何もない。僕はただ、お前をちゃんと受け入れようと……」
「アーリーンを諦めてか?」
「それは……」
真っ直ぐ見つめられると緊張する。まるで重要な問題の解答を迫られているような気分になる。
アーリーンはからかうことはしない。いつも気まずそうに見てくるだけで微笑みかけてくれることもある。まだ諦める必要はない。
だが、今は少し状況が違っている。ユズリハとこの家で過ごす時間に嫌悪感がなく、むしろ自室にいるより気が楽なのだ。
此処にいれば祖父が訪ねてきたとしても緊張することはない。
その環境が心地良くて、悪くないと思えている今、ハロルドはユズリハを妻として受け入れようと考えていた。自分が望んでそうするということは、アーリーンにそれを事実として伝えなければならないということ。
アーリーンに愛人として傍にいてほしいと言うか、それともアーリーンを諦めるか。
愛人を本命として傍に置けばいいとユズリハは言った。ハロルドも先日までそうするつもりだった。しかし、今は少しその気持ちが薄れているだけにどうすべきかわからなくなっている。
「なんてな。冗談じゃ。そなたにそんなことを迫ろうなどと思うてはおらぬ。そなたの人生、そなたの好きにすればよい」
パッと笑顔に変わっていつもどおりの雰囲気を纏うユズリハを数秒見つめたあと、教科書をまとめて鞄の中に入れて立ち上がる。
「学校に行く」
「気をつけてな」
想像の中では何度も繰り返した光景。
仕事に行くと言っては妻が笑顔で見送ってくれる。
だがそれはユズリハではなくアーリーンで、もっと夫婦らしい見送りだった。
ユズリハにそこまで望むことはしないが、ハロルドは妙な寂しさを覚えていた。一線引かれているような、その線の先に踏み込もうとすると先手を打たれる……そんな感覚。
出会った日からずっと嫌悪を滲ませて邪険にしていたのは自分だ。ハッキリと言い続けてきたのも自分。今更なんだと思われても仕方のないことをしてきたのも事実。
ユズリハの対応は何もおかしなことではない。それも受け入れなければならないことだとわかっていても、あの笑顔の裏で何を考えているのだろうと気になってしまう。
「なあ」
玄関先で振り向くと箸を持ったままのユズリハが立っていた。
その姿を見ると笑ってしまう。
「どうした?」
なぜ笑っているんだと不思議そうな顔をするユズリハにハロルドは肩を揺らしながら首を振る。
「箸持ったまま見送りなんかするなよ。マナー違反だぞ」
「此処はわらわの敷地内。マナー違反はない」
「父親の前でも同じことが言えるのか?」
「……言うでないぞ」
気まずそうに呟くユズリハに声を上げて笑うとそのまま手を振って馬車が待つ門へと向かった。
「あの調子の良さには呆れるねぇ」
「人は考えを改めるもの。下心があれば否定もいいが、心から変化を誓う相手のそれを否定してはならぬ」
「俺はあの坊ちゃんは認められんがね。お前さんの対応に甘えるつもり満々だぞ」
「よいではないか。ウォルター・ヘインズが君臨する家で育ったのじゃ。気を抜く場所があったっていい」
「そのうちまたお前さんを罵倒してアーリーンを連呼するぞ」
「どうなるかわからぬ先のことなど考えても仕方あるまい。わらわはそなたのように千里眼持ちではないのでな」
手に持った箸をカチカチと鳴らしながら席へと戻って食事を再開するユズリハにとってハロルドがこの家にいる感覚は落ち着くようで落ち着かない、また逆も然りで、相手が渋々ではなく望んで来ているのであればと考えないわけではない。
だが、多くを期待してはいけない。それがユズリハの頭を占めていた。
12
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』
みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」
皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。
(これは"愛することのない"の亜種?)
前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。
エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。
それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。
速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──?
シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。
どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの?
※小説家になろう様でも掲載しています
※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました
※毎朝7時に更新していく予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる