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一章
わずかな楽しみ
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それからしばらく経ち、月夜がうとうとしていると部屋の外から使用人に声をかけられた。
「お嬢さま、大奥さまからお預かりのものがございます」
その声に月夜は飛び起きて、慌てて障子戸を開けた。
使用人はにこりともせず、ただ祖母の香月から届けるように言われたものを無言で月夜に手渡した。そして「失礼します」と言ってさっさと立ち去る。
使用人の愛想がないことはいつものことで、月夜は特に気にしていない。それよりも、受けとったものを早く開封したかった。
年に一度の贈り物で、月夜が人生で唯一楽しみにしている瞬間だ。
贈り物は二つある。
祖母からは新しい書物と筆。これでまた新しいことが学べる。
そして、もう一つの箱を見ると、月夜は笑みを浮かべながら急いでその箱を開けた。
そこには鮮やかな金赤の髪飾りがあった。
月夜は髪飾りを手に取り、それを掲げてじっくりと見つめた。それは蝋燭の灯りに照らされて、きらきらと輝いて見える。
「なんて綺麗。あ、そうだわ」
一緒に添えられている封筒を開封し、中から折りたたんである紙を取りだす。そこにはやはり、見慣れた美しい字が並んでいた。
誕生日の祝いの言葉とともに、月夜に似合う髪飾りを探したことが書かれてある。
そして、もうすぐ会えるだろうことも書かれてあった。
月夜は目を輝かせながら手紙の内容を何度も読み返した。文字を一つずつ撫でながら、じっくり喜びを噛みしめる。
そして、ふと思った。
〈からす〉は月夜の顔を知っているのだろうか。
月夜に似合う髪飾りということは、その容姿を知らなければできないことだ。しかし、月夜は家族と使用人以外の人間にほとんど会うことがない。
けれど、そんなことよりも、もっと気になることがある。
「もうすぐ……」
会えると書いてある。〈からす〉に会えるのだ。
月夜にとってこれほどない希望だった。
「あなたはどんな人なの?」
月夜は〈からす〉を思い、手紙を胸に当てて目を閉じる。
手紙の文面でしか知らないが、きっと明るい人だろう。優しくて笑顔が素敵な人。そんな印象を勝手に抱いている。
月夜は金赤の髪飾りを手に取り、鏡の前でかざしてみた。淡い色の髪にはその赤が映えるが、粗末な着物には似合わない。
けれど〈からす〉にもらった物というだけでたまらなく嬉しい。
「あら、なぁに? その髪飾り」
突然、姉の暁未が部屋を訪れて、月夜は慌てて髪飾りを隠した。しかしすでに遅く、暁未はずかずかと部屋に入り、月夜の腕を捻り上げて髪飾りを奪い取った。
「お嬢さま、大奥さまからお預かりのものがございます」
その声に月夜は飛び起きて、慌てて障子戸を開けた。
使用人はにこりともせず、ただ祖母の香月から届けるように言われたものを無言で月夜に手渡した。そして「失礼します」と言ってさっさと立ち去る。
使用人の愛想がないことはいつものことで、月夜は特に気にしていない。それよりも、受けとったものを早く開封したかった。
年に一度の贈り物で、月夜が人生で唯一楽しみにしている瞬間だ。
贈り物は二つある。
祖母からは新しい書物と筆。これでまた新しいことが学べる。
そして、もう一つの箱を見ると、月夜は笑みを浮かべながら急いでその箱を開けた。
そこには鮮やかな金赤の髪飾りがあった。
月夜は髪飾りを手に取り、それを掲げてじっくりと見つめた。それは蝋燭の灯りに照らされて、きらきらと輝いて見える。
「なんて綺麗。あ、そうだわ」
一緒に添えられている封筒を開封し、中から折りたたんである紙を取りだす。そこにはやはり、見慣れた美しい字が並んでいた。
誕生日の祝いの言葉とともに、月夜に似合う髪飾りを探したことが書かれてある。
そして、もうすぐ会えるだろうことも書かれてあった。
月夜は目を輝かせながら手紙の内容を何度も読み返した。文字を一つずつ撫でながら、じっくり喜びを噛みしめる。
そして、ふと思った。
〈からす〉は月夜の顔を知っているのだろうか。
月夜に似合う髪飾りということは、その容姿を知らなければできないことだ。しかし、月夜は家族と使用人以外の人間にほとんど会うことがない。
けれど、そんなことよりも、もっと気になることがある。
「もうすぐ……」
会えると書いてある。〈からす〉に会えるのだ。
月夜にとってこれほどない希望だった。
「あなたはどんな人なの?」
月夜は〈からす〉を思い、手紙を胸に当てて目を閉じる。
手紙の文面でしか知らないが、きっと明るい人だろう。優しくて笑顔が素敵な人。そんな印象を勝手に抱いている。
月夜は金赤の髪飾りを手に取り、鏡の前でかざしてみた。淡い色の髪にはその赤が映えるが、粗末な着物には似合わない。
けれど〈からす〉にもらった物というだけでたまらなく嬉しい。
「あら、なぁに? その髪飾り」
突然、姉の暁未が部屋を訪れて、月夜は慌てて髪飾りを隠した。しかしすでに遅く、暁未はずかずかと部屋に入り、月夜の腕を捻り上げて髪飾りを奪い取った。
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