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一章
うばわれたもの
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「痛っ……返して、お姉さま」
暁未は髪飾りを高く掲げて笑みを浮かべる。
「まあ、すごく綺麗。あなたには似合わないわよ」
「お姉さま、お願いです。返してください。それは……」
「そのよく知らない人からの贈り物なんでしょ? その人もよくやるわよね。おばあさまの知人か何か知らないけど、顔も知らない月夜に毎年贈り物をするなんて」
月夜が必死に手を伸ばすが、暁未はそれを簡単に振り払う。
「お願いです。それだけは、取り上げないでください」
「ふうん。そんなに大事なものなのね。でも、これとっても綺麗だからあたしが使ってあげる」
「お姉さま!」
「うるさいわね。あなたは人前に出ないんだから、こんなものつけたって意味ないでしょ。あたし、今度縁談があるの。ちょうどいいわ」
「やめて! お願い、それは本当に大切なものなの。他のものなら何でも差し上げますから、どうか……」
月夜は両手をついて土下座しながら暁未に訴える。
しかし、暁未はそんな月夜を見てあざ笑いながら背中を向けた。
月夜は必死のあまり暁未の着物を掴んで止めようとする。
「あたしに気安く触らないで!」
暁未は月夜を突き飛ばした。
月夜は机の角で背中を打ち、痛みに蹲る。しかし、そんなことよりも意識はすぐに暁未へ向いた。彼女が鼻歌を歌いながら髪飾りを自分の髪に当てているのを見ると、月夜は酷く気分が悪くなるのだ。
それだけは絶対に奪われたくない。
月夜は身体の奥から熱が込み上げてくるのを感じた。
「返して!」
月夜は姉を睨みつけ、彼女の背後に手を伸ばす。
それに気づいた暁未がとっさに振り払おうとしたが、月夜のほうが早かった。
「痛っ……!」
どくんっと胸の中で鼓動が高鳴る。 おぞましい感情が胸を締めつけ、月夜は軽く眩暈を感じた。 暁未が何か抗議しているようだが、その声は遠くに感じ、月夜の耳にはほとんど届かない。
ただ心臓の鼓動だけが、どくどくと頭に響いてくる。
月夜の瞳の色が紅く濃くなった瞬間、母が部屋を訪れた。
「何をやっているのですか!」
月夜は我に返り、母を見つめた。そこには鬼ような形相の怒りに満ちた母の顔がある。
月夜は一気に背筋が冷えていき、冷静になった。
暁未が泣くふりをしながら母に訴える。
「お母さま、月夜があたしの手を引っかいたの。見て、血が出ているわ。月夜はこれを見て笑ったのよ。恐ろしい子だわ」
「ち、違います。お姉さまが私の大事なものを奪ったから……」
慌てて言いわけをする月夜の前に、母が出てきて手を振り上げた。
ぱあんっと激しい音がして、月夜の頬が赤く染まる。
母は月夜を鋭く睨みつけ、雷のように怒声を浴びせた。
「なんということなの! 暁未は干野川家との縁談を控えているのよ。それなのに怪我をさせるなんてとんでもないことだわ。月夜、あなたは罰としてしばらく食事抜きにします」
月夜は腫れた頬を押さえながら恐る恐る母に願い出る。
「罰は受けます。だから、髪飾りだけは返してください」
母は暁未の持つ艶やかな金赤の髪飾りに目をやり、ふっと微笑を浮かべた。
「これはあなたには必要ないでしょう。暁未の見合いのときに使わせるわ」
月夜は雷鳴のような衝撃を受けた。
母に言われたら逆らえない。月夜はそれ以上何も言えなかった。
暁未は勝ち誇った表情で月夜を見やり、母のあとについて部屋を出ていく。
残された月夜は嗚咽を洩らしながら泣きじゃくった。
「ごめんなさい……からすさん、ごめんなさい。せっかく、いただいたのに……」
誰もいない部屋でひとり、月夜はただ謝罪の言葉を繰り返すだけだった。
暁未は髪飾りを高く掲げて笑みを浮かべる。
「まあ、すごく綺麗。あなたには似合わないわよ」
「お姉さま、お願いです。返してください。それは……」
「そのよく知らない人からの贈り物なんでしょ? その人もよくやるわよね。おばあさまの知人か何か知らないけど、顔も知らない月夜に毎年贈り物をするなんて」
月夜が必死に手を伸ばすが、暁未はそれを簡単に振り払う。
「お願いです。それだけは、取り上げないでください」
「ふうん。そんなに大事なものなのね。でも、これとっても綺麗だからあたしが使ってあげる」
「お姉さま!」
「うるさいわね。あなたは人前に出ないんだから、こんなものつけたって意味ないでしょ。あたし、今度縁談があるの。ちょうどいいわ」
「やめて! お願い、それは本当に大切なものなの。他のものなら何でも差し上げますから、どうか……」
月夜は両手をついて土下座しながら暁未に訴える。
しかし、暁未はそんな月夜を見てあざ笑いながら背中を向けた。
月夜は必死のあまり暁未の着物を掴んで止めようとする。
「あたしに気安く触らないで!」
暁未は月夜を突き飛ばした。
月夜は机の角で背中を打ち、痛みに蹲る。しかし、そんなことよりも意識はすぐに暁未へ向いた。彼女が鼻歌を歌いながら髪飾りを自分の髪に当てているのを見ると、月夜は酷く気分が悪くなるのだ。
それだけは絶対に奪われたくない。
月夜は身体の奥から熱が込み上げてくるのを感じた。
「返して!」
月夜は姉を睨みつけ、彼女の背後に手を伸ばす。
それに気づいた暁未がとっさに振り払おうとしたが、月夜のほうが早かった。
「痛っ……!」
どくんっと胸の中で鼓動が高鳴る。 おぞましい感情が胸を締めつけ、月夜は軽く眩暈を感じた。 暁未が何か抗議しているようだが、その声は遠くに感じ、月夜の耳にはほとんど届かない。
ただ心臓の鼓動だけが、どくどくと頭に響いてくる。
月夜の瞳の色が紅く濃くなった瞬間、母が部屋を訪れた。
「何をやっているのですか!」
月夜は我に返り、母を見つめた。そこには鬼ような形相の怒りに満ちた母の顔がある。
月夜は一気に背筋が冷えていき、冷静になった。
暁未が泣くふりをしながら母に訴える。
「お母さま、月夜があたしの手を引っかいたの。見て、血が出ているわ。月夜はこれを見て笑ったのよ。恐ろしい子だわ」
「ち、違います。お姉さまが私の大事なものを奪ったから……」
慌てて言いわけをする月夜の前に、母が出てきて手を振り上げた。
ぱあんっと激しい音がして、月夜の頬が赤く染まる。
母は月夜を鋭く睨みつけ、雷のように怒声を浴びせた。
「なんということなの! 暁未は干野川家との縁談を控えているのよ。それなのに怪我をさせるなんてとんでもないことだわ。月夜、あなたは罰としてしばらく食事抜きにします」
月夜は腫れた頬を押さえながら恐る恐る母に願い出る。
「罰は受けます。だから、髪飾りだけは返してください」
母は暁未の持つ艶やかな金赤の髪飾りに目をやり、ふっと微笑を浮かべた。
「これはあなたには必要ないでしょう。暁未の見合いのときに使わせるわ」
月夜は雷鳴のような衝撃を受けた。
母に言われたら逆らえない。月夜はそれ以上何も言えなかった。
暁未は勝ち誇った表情で月夜を見やり、母のあとについて部屋を出ていく。
残された月夜は嗚咽を洩らしながら泣きじゃくった。
「ごめんなさい……からすさん、ごめんなさい。せっかく、いただいたのに……」
誰もいない部屋でひとり、月夜はただ謝罪の言葉を繰り返すだけだった。
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