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一章
生きたいきもち
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いったいどれほど叩かれたのだろうか。
月夜の頬は赤く腫れ、口が切れて血の味がし、腕も足も傷だらけになった。見えないところにも傷がある。
しかしながらこの傷は時間が経つと塞がっていく。一日も経たないうちに怪我は綺麗に治るのだ。それを知っているせいか、父は容赦なく月夜に暴力を振るう。
化け物だと罵りながら。
地下室に放り込まれた月夜は両親から罵倒された。
「お前のせいで干野川さまとの縁談がなくなってしまったわよ! なんということをしてくれたの?」
母は涙ながらに叫ぶ。
媛地家の財政がひっ迫していることは使用人たちの噂で月夜も知っていた。母はこの縁談に賭けていたのだろう。それが破談になり、衝撃と怒りで感情を制御できないようで、すべてを月夜にぶつけてくる。
「どうしてあたしの大事な結婚を邪魔するのよ!」
ふらつきながら起き上がろうとする月夜の身体を、暁未が泣きながら突き飛ばした。冷えた石畳に腰を打ち、月夜は横たわったまま自問する。
どうすればよかったのだろうか。
あのとき、どうすればこんなことにならなかっただろう。
何度考えてみても答えは見つからない。
「もういい。お前は遊郭に売り飛ばしてやる」
父は冷ややかな口調でそう告げた。
月夜は驚き、父を見上げる。だが、彼は汚いものを見るような目で月夜を見下ろした。
となりで暁未が涙ながらに嘲笑し、皮肉めいて言い放つ。
「そうよね。その無駄な美貌を男のために役立てられるんだもの。よかったじゃない?」
月夜は絶望のあまり、無理だとわかっていても母にすがりついた。
「お母さま、お助けください。私は……」
「お前を娘だと思ったことなど一度もないわ」
母は冷たくそう言って、月夜に背中を向けた。
「時を見計らって月夜は病死したと世間に公表する」
父の冷徹な決定に月夜は目の前が真っ白になった。必死に助けを懇願するも、父も母も姉もすでに月夜を見ることさえしなかった。
彼らが無言で去ったあと、月夜は泣きじゃくりながら亡き祖母に訴えた。
「おばあちゃん、どうしたらいい? 私はどうしたらいいの?」
小さな灯りの炎がゆらりと揺れる。だが、答えなどあるわけもなく、月夜は次第に声を上げる気力さえ失った。
ぼんやりしていると、くしゃくしゃになった紙きれが落ちていることに気づいた。近づいて拾ってみると、それはいつかの誕生日に届いた手紙だった。
『君の明日が幸福であることを祈っています』
美麗な字で丁寧に書かれた〈からす〉の文字だ。きちんと大切にしまっておいたはずなのに、父か誰かに見つかってくしゃくしゃにされてしまったのだろう。破られていないだけよかったと思う。
月夜は手紙のしわを伸ばしながら、堪えきれずに涙を流した。
「うっ……からすさん、私は……どうしたらいいの?」
もう生きていたくない。できればすぐにでも祖母のところへいきたい。
口には出さないものの、月夜はもう生きたいと思う気持ちを失っていた。
その日は疲れ果てたせいかどっぷりと気絶したように眠った。けれど、翌朝になって目覚めると、また絶望感に打ちひしがれる。
月夜の頬は赤く腫れ、口が切れて血の味がし、腕も足も傷だらけになった。見えないところにも傷がある。
しかしながらこの傷は時間が経つと塞がっていく。一日も経たないうちに怪我は綺麗に治るのだ。それを知っているせいか、父は容赦なく月夜に暴力を振るう。
化け物だと罵りながら。
地下室に放り込まれた月夜は両親から罵倒された。
「お前のせいで干野川さまとの縁談がなくなってしまったわよ! なんということをしてくれたの?」
母は涙ながらに叫ぶ。
媛地家の財政がひっ迫していることは使用人たちの噂で月夜も知っていた。母はこの縁談に賭けていたのだろう。それが破談になり、衝撃と怒りで感情を制御できないようで、すべてを月夜にぶつけてくる。
「どうしてあたしの大事な結婚を邪魔するのよ!」
ふらつきながら起き上がろうとする月夜の身体を、暁未が泣きながら突き飛ばした。冷えた石畳に腰を打ち、月夜は横たわったまま自問する。
どうすればよかったのだろうか。
あのとき、どうすればこんなことにならなかっただろう。
何度考えてみても答えは見つからない。
「もういい。お前は遊郭に売り飛ばしてやる」
父は冷ややかな口調でそう告げた。
月夜は驚き、父を見上げる。だが、彼は汚いものを見るような目で月夜を見下ろした。
となりで暁未が涙ながらに嘲笑し、皮肉めいて言い放つ。
「そうよね。その無駄な美貌を男のために役立てられるんだもの。よかったじゃない?」
月夜は絶望のあまり、無理だとわかっていても母にすがりついた。
「お母さま、お助けください。私は……」
「お前を娘だと思ったことなど一度もないわ」
母は冷たくそう言って、月夜に背中を向けた。
「時を見計らって月夜は病死したと世間に公表する」
父の冷徹な決定に月夜は目の前が真っ白になった。必死に助けを懇願するも、父も母も姉もすでに月夜を見ることさえしなかった。
彼らが無言で去ったあと、月夜は泣きじゃくりながら亡き祖母に訴えた。
「おばあちゃん、どうしたらいい? 私はどうしたらいいの?」
小さな灯りの炎がゆらりと揺れる。だが、答えなどあるわけもなく、月夜は次第に声を上げる気力さえ失った。
ぼんやりしていると、くしゃくしゃになった紙きれが落ちていることに気づいた。近づいて拾ってみると、それはいつかの誕生日に届いた手紙だった。
『君の明日が幸福であることを祈っています』
美麗な字で丁寧に書かれた〈からす〉の文字だ。きちんと大切にしまっておいたはずなのに、父か誰かに見つかってくしゃくしゃにされてしまったのだろう。破られていないだけよかったと思う。
月夜は手紙のしわを伸ばしながら、堪えきれずに涙を流した。
「うっ……からすさん、私は……どうしたらいいの?」
もう生きていたくない。できればすぐにでも祖母のところへいきたい。
口には出さないものの、月夜はもう生きたいと思う気持ちを失っていた。
その日は疲れ果てたせいかどっぷりと気絶したように眠った。けれど、翌朝になって目覚めると、また絶望感に打ちひしがれる。
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