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四章
おいしいシチュー
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中庭の木が風に揺れて雨がぽつぽつ落ちてくる。急に冷えた風が吹き、月夜の肌を刺すように撫でた。もうじき桜が咲くというのにやけに寒く感じる。
夕方になると雨は土砂降りに変わり、庭の池が溢れるほどになっていた。
日が暮れてしばらくすると、月夜の部屋に使用人が出来上がった料理を持ってきた。ふわっと湯気の立つ温かいシチューだ。大きな肉の塊があって香ばしい匂いが漂っている。
シチューとともにパンが添えられていた。そういえばこれが初めて家で食べる洋食となる。
「いただきます」
月夜は銀のスプーンを手に持ちシチューをすくった。
ひと口食べると濃厚なソースの味がまさに夜会で食べたものと一緒だった。ただ一つ違うのは、こちらは出来立てで温かいのでより一層美味しく感じられる。
「美味しい。すごいわ。どうやって作ったの?」
「はい。近くに仏蘭西からいらしたお方が住まわれています。そのお宅の料理人からシチューに使うソースをたまに分けていただくのです」
「そうだったの」
月夜は今までこの家で洋食を食べたことがないので、おそらく高貴な客人が訪れる際に料理として出しているのだろう。
まさか自分が口にできる日が来るとは思いもしなかった。
「とても美味しかったわ。ありがとう」
月夜はすべてシチューを平らげて、笑顔でお礼を言った。
すると使用人は少し驚いた顔をしたあと、口もとを緩めて微笑んだ。
「お嬢さまにそう言っていただけて嬉しいです」
「これならお薬も苦じゃないと思う」
「本当によかったです。これでお嬢さまもみなさまと同じ生活ができるのですね」
今まで月夜にあまり関わろうとしなかった使用人が笑いかけてくれている。それが月夜には複雑だった。
「あなたたちも私を化け物だと思っていたのね」
すると使用人は慌てて首を横に振った。
「とんでもないです。私たちはお嬢さまに話しかけないようにと旦那さまから厳しく言われていたのです。正直、哀れでなりませんでした。まだ子供なのに周囲から冷たくされて、どれほどおつらかったことか……けれど、命令とはいえ私たちもお助けすることができず申し訳ありませんでした」
使用人は正座をしたまま深々と頭を下げた。
父からの命令なら当然逆らうことなど許されなかっただろう。そのことを思うと月夜は何も言葉が出なかった。
使用人たちにいじめられていたわけではないから恨む気持ちなどない。けれどその胸中は複雑だ。
「ごちそうさま。もし、よかったら明日も洋食を作ってもらえないかしら?」
「はい、喜んで! お嬢さまが嫁がれる日まで、精一杯お仕えいたします」
予想外の反応に月夜は少し戸惑ってしまったが、それでも使用人の優しい言葉は心に深く沁み込んだ。
夕方になると雨は土砂降りに変わり、庭の池が溢れるほどになっていた。
日が暮れてしばらくすると、月夜の部屋に使用人が出来上がった料理を持ってきた。ふわっと湯気の立つ温かいシチューだ。大きな肉の塊があって香ばしい匂いが漂っている。
シチューとともにパンが添えられていた。そういえばこれが初めて家で食べる洋食となる。
「いただきます」
月夜は銀のスプーンを手に持ちシチューをすくった。
ひと口食べると濃厚なソースの味がまさに夜会で食べたものと一緒だった。ただ一つ違うのは、こちらは出来立てで温かいのでより一層美味しく感じられる。
「美味しい。すごいわ。どうやって作ったの?」
「はい。近くに仏蘭西からいらしたお方が住まわれています。そのお宅の料理人からシチューに使うソースをたまに分けていただくのです」
「そうだったの」
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まさか自分が口にできる日が来るとは思いもしなかった。
「とても美味しかったわ。ありがとう」
月夜はすべてシチューを平らげて、笑顔でお礼を言った。
すると使用人は少し驚いた顔をしたあと、口もとを緩めて微笑んだ。
「お嬢さまにそう言っていただけて嬉しいです」
「これならお薬も苦じゃないと思う」
「本当によかったです。これでお嬢さまもみなさまと同じ生活ができるのですね」
今まで月夜にあまり関わろうとしなかった使用人が笑いかけてくれている。それが月夜には複雑だった。
「あなたたちも私を化け物だと思っていたのね」
すると使用人は慌てて首を横に振った。
「とんでもないです。私たちはお嬢さまに話しかけないようにと旦那さまから厳しく言われていたのです。正直、哀れでなりませんでした。まだ子供なのに周囲から冷たくされて、どれほどおつらかったことか……けれど、命令とはいえ私たちもお助けすることができず申し訳ありませんでした」
使用人は正座をしたまま深々と頭を下げた。
父からの命令なら当然逆らうことなど許されなかっただろう。そのことを思うと月夜は何も言葉が出なかった。
使用人たちにいじめられていたわけではないから恨む気持ちなどない。けれどその胸中は複雑だ。
「ごちそうさま。もし、よかったら明日も洋食を作ってもらえないかしら?」
「はい、喜んで! お嬢さまが嫁がれる日まで、精一杯お仕えいたします」
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