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四章
歪んでいるもの
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冷たい雨が容赦なく叩きつける中、暁未からは凄まじい妖力と熱が放たれて、すぐにも呑まれてしまいそうになった。
それでも、月夜は静かに問いかけた。
「私が死ねばそれで満足? そのあとにお姉さまには何が残るの?」
「あたしがあなたの代わりに嫁ぐのよ。だってあたしは、強い妖力を持ったあやかしだもの」
「お姉さまは私になりたかったの? 私がうらやましいの?」
暁未の表情が歪んだ。
月夜は今までため込んできた感情を暁未にぶつける。
「私だってお姉さまがうらやましくてたまらなかった。いつも綺麗な着物や簪を身につけて自由に外を歩きまわって、学校に行って友だちに会って、お父さまとお母さまと一緒に食事をして。私はずっとそれがしたくてもできなかったのよ!」
暁未は眉根にしわを寄せて髪を逆立てながら怒鳴った。
「うるさい!」
そのたったひとことが雷鳴のように夜空を裂いた。月夜の身体はびりっと震え、一瞬呼吸が止まる。暁未の妖力の強大さを肌に感じ戦慄が走る。
暁未は声を荒らげながら月夜に迫りくる。
「あたしがどんな思いで生きてきたか、あんたにわかる? 高貴な家門に嫁ぐために受けてきた教育は血反吐を吐くような思いだったわ。少しの間違いも許されないのよ。お父さまもお母さまも気に入らなければすぐに打つの」
月夜は暁未の話を聞きながら表情を強張らせる。
「家族と食事ですって? いつもお父さまのご機嫌をうかがってばかりでお兄さまもあたしも料理の味なんか感じたことないわ」
暁未はぎりっと歯を食いしばりながら月夜を睨みつけて叫んだ。
「自由なんて、そんなものなかったわよ! あたしはずっと心を縛られて生きてきたんだから!」
暁未がどんっと力強く足を踏みつけると、地面が割れて反り曲がった。
その衝撃で月夜は転びそうになり、なんとか踏みとどまる。
「あなたはいいわよね。おばあさまにあんなに愛されて。おばあさまはあたしには近づきもしなかったわ」
月夜は暁未の切なげな表情を見て、その瞳の奥にある深い痛みを感じとった。心が締めつけられるような感覚に囚われ、彼女の苦しみが痛いほど伝わってくる。
今までずっと歪んでいるのは自分だと思っていた。おぞましい妖力を持っている自分がいるから正常な家族に亀裂を生んでいるのだと。
そして今は姉が歪んでいると思った。彼女が覚醒してしまったから。
けれど違う。歪んでいるのは媛地家という家族だ。
この家族はどこで間違ってしまったのだろう。
祖母の代だったら違ったのだろうか。いや、もしかしたら祖母も何も言えずに耐えていたのかもしれない。
「どうすれば、いいの? どうすれば……」
月夜には打つ手がなかった。
暁未を説得する言葉も見つからない。
それどころか胸の奥が締めつけられるような苦しみに、心が押し潰されそうになる。
足が震えて動けない。恐怖よりも深い悲しみと絶望感がじわじわと心を支配していく。
暁未を止められる術がない。
「だから、死んでね」
暁未は口角を上げて軽い口調でそう言った。
彼女の振り上げた大きな腕は月夜を一瞬で潰すことができるほどの威力がある。それは月夜自身にもわかった。しかし最後の抵抗を試みるべく、月夜は残った妖力を振りしぼる。
暁未の振り下ろした腕は月夜に当たるその瞬間、硬い鉄に直撃した。
それでも、月夜は静かに問いかけた。
「私が死ねばそれで満足? そのあとにお姉さまには何が残るの?」
「あたしがあなたの代わりに嫁ぐのよ。だってあたしは、強い妖力を持ったあやかしだもの」
「お姉さまは私になりたかったの? 私がうらやましいの?」
暁未の表情が歪んだ。
月夜は今までため込んできた感情を暁未にぶつける。
「私だってお姉さまがうらやましくてたまらなかった。いつも綺麗な着物や簪を身につけて自由に外を歩きまわって、学校に行って友だちに会って、お父さまとお母さまと一緒に食事をして。私はずっとそれがしたくてもできなかったのよ!」
暁未は眉根にしわを寄せて髪を逆立てながら怒鳴った。
「うるさい!」
そのたったひとことが雷鳴のように夜空を裂いた。月夜の身体はびりっと震え、一瞬呼吸が止まる。暁未の妖力の強大さを肌に感じ戦慄が走る。
暁未は声を荒らげながら月夜に迫りくる。
「あたしがどんな思いで生きてきたか、あんたにわかる? 高貴な家門に嫁ぐために受けてきた教育は血反吐を吐くような思いだったわ。少しの間違いも許されないのよ。お父さまもお母さまも気に入らなければすぐに打つの」
月夜は暁未の話を聞きながら表情を強張らせる。
「家族と食事ですって? いつもお父さまのご機嫌をうかがってばかりでお兄さまもあたしも料理の味なんか感じたことないわ」
暁未はぎりっと歯を食いしばりながら月夜を睨みつけて叫んだ。
「自由なんて、そんなものなかったわよ! あたしはずっと心を縛られて生きてきたんだから!」
暁未がどんっと力強く足を踏みつけると、地面が割れて反り曲がった。
その衝撃で月夜は転びそうになり、なんとか踏みとどまる。
「あなたはいいわよね。おばあさまにあんなに愛されて。おばあさまはあたしには近づきもしなかったわ」
月夜は暁未の切なげな表情を見て、その瞳の奥にある深い痛みを感じとった。心が締めつけられるような感覚に囚われ、彼女の苦しみが痛いほど伝わってくる。
今までずっと歪んでいるのは自分だと思っていた。おぞましい妖力を持っている自分がいるから正常な家族に亀裂を生んでいるのだと。
そして今は姉が歪んでいると思った。彼女が覚醒してしまったから。
けれど違う。歪んでいるのは媛地家という家族だ。
この家族はどこで間違ってしまったのだろう。
祖母の代だったら違ったのだろうか。いや、もしかしたら祖母も何も言えずに耐えていたのかもしれない。
「どうすれば、いいの? どうすれば……」
月夜には打つ手がなかった。
暁未を説得する言葉も見つからない。
それどころか胸の奥が締めつけられるような苦しみに、心が押し潰されそうになる。
足が震えて動けない。恐怖よりも深い悲しみと絶望感がじわじわと心を支配していく。
暁未を止められる術がない。
「だから、死んでね」
暁未は口角を上げて軽い口調でそう言った。
彼女の振り上げた大きな腕は月夜を一瞬で潰すことができるほどの威力がある。それは月夜自身にもわかった。しかし最後の抵抗を試みるべく、月夜は残った妖力を振りしぼる。
暁未の振り下ろした腕は月夜に当たるその瞬間、硬い鉄に直撃した。
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