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四章
ふりかかる狂気
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暁未は月夜が現れたことで標的をすぐさま変更した。
じっと怨みのこもった表情で、月夜を睨みつける。
「月夜、あんたのせいよ。すべてあんたが奪った。許さないわ!」
暁未は俊敏な動きで腕を振り、月夜を叩き潰しにきた。
月夜はぎりぎりで逃げて避けたが、床に空いた穴に足を引っかけて転んだ。
そこに暁未が覆いかぶさるようにして、月夜に拳を振り下ろそうとしていた。
「暁未、やめろーっ!」
突然光汰の声がして暁未がそちらに気を取られた瞬間に、月夜は急いで姉から這い出すようにして逃げた。
光汰は腹部に包帯を巻いた状態で、よろめきながら暁未に近づいてくる。その包帯には血が滲んでいて、生々しい怪我の様子がありありと浮きでて見えた。
「あら、お兄さま。生きていたの?」
暁未はまるで呆れたような、残念がるような顔をした。
光汰はゆっくりと様子をうかがいながら暁未に詰め寄る。
「暁未……お前の気持ちは、わからなくもない。俺だって、跡継ぎなのに何の力もない……正直、月夜がうらやましいと思ったこともある」
「何よ。かっこつけちゃって馬鹿みたい」
うすら笑いを浮かべる暁未に対し、光汰は真剣な表情で話す。
「暁未、お前はただ月夜に嫉妬しているだけだ。でも、よく考えてみろ。今まで教育を受けてきたお前のほうがよほど特別で、月夜は長いあいだずっと、お前のことをうらやましく思ってきたはずだ。でも、お前を殺そうなんて思ったことないぞ。きっと」
暁未はただ黙って光汰を見つめる。その表情は冷たく、何の感情もないように見える。
「言いたいことはそれだけ?」
「えっ……?」
暁未は拳を振り上げ、今度は光汰を叩き潰そうとした。
すると、そこに月夜が滑りこんで暁未の腕を振り払った。
「お姉さま!」
「あら、そっちから来てくれたの。手間が省けたわ」
暁未はふふっと笑い、月夜に手を伸ばした。
月夜は背後の兄に向かって叫ぶ。
「お兄さま、逃げて!」
「お前こそ逃げろ。暁未の狙いはお前だぞ」
月夜は少し顔を傾けて、光汰に向かってにっこり笑った。
「お兄さま、守ってくれてありがとう」
「月夜……?」
暁未の狙いは自分だと思い、月夜は庭に躍り出た。激しい雨が容赦なく叩きつける中、水たまりに足を取られそうになりながら走る。
暁未はすぐに追ってきた。
背後を振り返ると、自分を殺そうとする姉の姿がある。これまで優しくしてもらったことなどない。姉が部屋を訪れるときは嫌がらせをするときだけ。
月夜にとって暁未はいないほうがよかった存在で、実際に何度もそう思った。それなのに心のどこかではずっと、優しくしてほしいと願っていた。
月夜には一つ、かすかな記憶がある。
まだ覚醒する前、暁未は笑っていた。それは嘲笑でも冷笑でもなく、まっすぐで無垢な笑顔だった。あの記憶があるから、月夜はどうしても暁未を憎みきれずにいる。
足を取られ、泥水に滑ってべしゃりと転んだ。冷たい泥にまみれた身体を起こしながら、月夜は迫りくる暁未に向かって声を張り上げた。
「お姉さま、私は出ていきます。お姉さまの前から消えます。だから、どうか家を壊さないで。ここはお姉さまの居場所でしょう?」
「何を言っているの? お嫁に行くなんて許さないわ。幸せになるなんて許さない。あなたは出ていくのではなくてここで死ぬの」
暁未はにたりと笑いながらゆっくりと近づいてくる。
降りしきる雨に打たれ、滝のように流れ落ちていく彼女のその表情は、どこか泣いているように月夜には見える。けれど、暁未は紅い瞳を見開いて、笑みを浮かべたままだ。
それが余計に不気味で月夜はぞっと身震いがした。
月夜はどうにか立ち上がり、背筋を伸ばす。震える足を踏ん張って、まっすぐ暁未を見据えた。
じっと怨みのこもった表情で、月夜を睨みつける。
「月夜、あんたのせいよ。すべてあんたが奪った。許さないわ!」
暁未は俊敏な動きで腕を振り、月夜を叩き潰しにきた。
月夜はぎりぎりで逃げて避けたが、床に空いた穴に足を引っかけて転んだ。
そこに暁未が覆いかぶさるようにして、月夜に拳を振り下ろそうとしていた。
「暁未、やめろーっ!」
突然光汰の声がして暁未がそちらに気を取られた瞬間に、月夜は急いで姉から這い出すようにして逃げた。
光汰は腹部に包帯を巻いた状態で、よろめきながら暁未に近づいてくる。その包帯には血が滲んでいて、生々しい怪我の様子がありありと浮きでて見えた。
「あら、お兄さま。生きていたの?」
暁未はまるで呆れたような、残念がるような顔をした。
光汰はゆっくりと様子をうかがいながら暁未に詰め寄る。
「暁未……お前の気持ちは、わからなくもない。俺だって、跡継ぎなのに何の力もない……正直、月夜がうらやましいと思ったこともある」
「何よ。かっこつけちゃって馬鹿みたい」
うすら笑いを浮かべる暁未に対し、光汰は真剣な表情で話す。
「暁未、お前はただ月夜に嫉妬しているだけだ。でも、よく考えてみろ。今まで教育を受けてきたお前のほうがよほど特別で、月夜は長いあいだずっと、お前のことをうらやましく思ってきたはずだ。でも、お前を殺そうなんて思ったことないぞ。きっと」
暁未はただ黙って光汰を見つめる。その表情は冷たく、何の感情もないように見える。
「言いたいことはそれだけ?」
「えっ……?」
暁未は拳を振り上げ、今度は光汰を叩き潰そうとした。
すると、そこに月夜が滑りこんで暁未の腕を振り払った。
「お姉さま!」
「あら、そっちから来てくれたの。手間が省けたわ」
暁未はふふっと笑い、月夜に手を伸ばした。
月夜は背後の兄に向かって叫ぶ。
「お兄さま、逃げて!」
「お前こそ逃げろ。暁未の狙いはお前だぞ」
月夜は少し顔を傾けて、光汰に向かってにっこり笑った。
「お兄さま、守ってくれてありがとう」
「月夜……?」
暁未の狙いは自分だと思い、月夜は庭に躍り出た。激しい雨が容赦なく叩きつける中、水たまりに足を取られそうになりながら走る。
暁未はすぐに追ってきた。
背後を振り返ると、自分を殺そうとする姉の姿がある。これまで優しくしてもらったことなどない。姉が部屋を訪れるときは嫌がらせをするときだけ。
月夜にとって暁未はいないほうがよかった存在で、実際に何度もそう思った。それなのに心のどこかではずっと、優しくしてほしいと願っていた。
月夜には一つ、かすかな記憶がある。
まだ覚醒する前、暁未は笑っていた。それは嘲笑でも冷笑でもなく、まっすぐで無垢な笑顔だった。あの記憶があるから、月夜はどうしても暁未を憎みきれずにいる。
足を取られ、泥水に滑ってべしゃりと転んだ。冷たい泥にまみれた身体を起こしながら、月夜は迫りくる暁未に向かって声を張り上げた。
「お姉さま、私は出ていきます。お姉さまの前から消えます。だから、どうか家を壊さないで。ここはお姉さまの居場所でしょう?」
「何を言っているの? お嫁に行くなんて許さないわ。幸せになるなんて許さない。あなたは出ていくのではなくてここで死ぬの」
暁未はにたりと笑いながらゆっくりと近づいてくる。
降りしきる雨に打たれ、滝のように流れ落ちていく彼女のその表情は、どこか泣いているように月夜には見える。けれど、暁未は紅い瞳を見開いて、笑みを浮かべたままだ。
それが余計に不気味で月夜はぞっと身震いがした。
月夜はどうにか立ち上がり、背筋を伸ばす。震える足を踏ん張って、まっすぐ暁未を見据えた。
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