烏の王と宵の花嫁

水川サキ

文字の大きさ
53 / 69
四章

狂った家族

しおりを挟む
 月夜はぞっとしてすぐさま部屋から逃げだした。
 当然暁未は追いかけてきたが、月夜は必死に廊下を走った。

 とにかく両親へ伝えなければと思い、急いで彼らの部屋へ向かったが、突如ぴたりと静止した。そこにはおぞましい光景が広がっていたのだ。
 使用人たちが怪我を負って倒れている。強烈な稲光が庭を走り、その明かりで倒れている者たちが血まみれになっているのがわかった。

 生きているのか死んでいるのかわからない。月夜は足がすくんで震えた。
 雷鳴が轟く中、背後からゆっくり近づいてきた暁未は、微笑を浮かべながら言った。


「あたしの邪魔をするから、みーんな寝てもらったの」
「おねぇ、さま……」

 尋常じゃない。月夜は覚醒しても見境なく人を襲ったりしなかった。けれど、暁未は違う。
 月夜が逃げるように走ると、暁未も駆け足で追いかけてきた。

「逃がさないわよ、月夜」

 暁未は屋敷の障子や襖を破壊しながら月夜を追う。
 その騒ぎに次々と使用人たちが起きてきて、暁未を見るなり悲鳴を上げながら逃げだした。


「いったい何事です?」
「どうしたんだ?」

 両親が騒ぎに気づいて起きてきたが、すでに屋敷の中は暁未に破壊され、大騒動になっていた。

 暁未がぴたりと静止して、両親ににっこり笑顔を向ける。
 しかし両親は恐怖に怯え、母にいたっては大声で暁未を罵倒したのだった。


「いやあっ! 化け物よ!」

 母のその声に暁未はぴくりと真顔になり、目を瞠った。
 暁未はゆっくりと両親に近づいていくが、彼らは驚愕の表情で逃げようとする。

「お母さま? どうなさったの? あたしはちゃんと月夜と同じ身体になったのよ」

 慌てふためく両親に、暁未は首を傾げながら問う。


「あたし、いい子でしょ? ねえ、お父さま。お父さまの言うとおり淑やかな令嬢になったのよ。褒めてちょうだいよ。ねえ、昔みたいに頭を撫でて賢い子だって言ってよ」

 暁未は父の眼前まで迫り、ぐいっと顔を上げてまっすぐ見上げた。
 父は驚愕のあまり硬直し、手足が震えている。


「だから、嫌なんだ……だから、この家の血筋は……せっかくお前たちを人間として育ててやったのに……何なんだ、これは」

 父はぼそぼそと言い洩らす。それを聞いた暁未は顔色を変えて困惑しながら誰にでもなく問うた。

「どうして? 寝る間も惜しんで勉強したのに、先生に叩かれても耐えたのに……やっと月夜と同じあやかしになれたのに、なぜ誰も認めてくれないの?」

 父は気持ち悪いものでも見るように暁未を凝視する。
 暁未は泣きそうな顔ですがりつく。


「ねえ、お父さま!」
「黙れ! お前などもう娘ではない!」

 拒絶されたことに驚いた暁未はしばし放心状態になった。暁未がちらりと父のとなりへ目を向けると、母はびくりと震え、思いきり目をそらした。

 暁未の表情は赤く染まり、髪の毛が逆立つ。怒りで震え、それが周囲に殺気を振りまいた。
 びりびりとした気迫を放ちながら両親へ近づく暁未の前に突如月夜が割って入った。


「お姉さま、だめ! その力を使ったら、お父さまとお母さまが死んでしまう」

 暁未から放たれる気迫は、月夜が護身のために光汰に噛みついたときよりもはるかに強大な力だ。それを月夜はわずかに残った妖力で感じとっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼様に生贄として捧げられたはずが、なぜか溺愛花嫁生活を送っています!?

小達出みかん
キャラ文芸
両親を亡くし、叔父一家に冷遇されていた澪子は、ある日鬼に生贄として差し出される。 だが鬼は、澪子に手を出さないばかりか、壊れ物を扱うように大事に接する。美味しいごはんに贅沢な衣装、そして蕩けるような閨事…。真意の分からぬ彼からの溺愛に澪子は困惑するが、それもそのはず、鬼は澪子の命を助けるために、何度もこの時空を繰り返していた――。 『あなたに生きていてほしい、私の愛しい妻よ』 繰り返される『やりなおし』の中で、鬼は澪子を救えるのか? ◇程度にかかわらず、濡れ場と判断したシーンはサブタイトルに※がついています ◇後半からヒーロー視点に切り替わって溺愛のネタバレがはじまります

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。 それは愛のない政略結婚―― 人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。 後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

雪嶺後宮と、狼王の花嫁

由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。 巫女として献上された少女セツナは、 封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。 人と妖、政と信仰の狭間で、 彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。 雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

処理中です...