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15、パーティの主役は私よ【マギー視点】
しおりを挟むアストリウス公爵家の大広間にて。
ナスカ伯爵家との婚約披露パーティが行われた。
上級貴族から下級貴族まで多くのゲストが招かれ、王宮からも祝いの品が送られた。
フローラに成り代わったマギーは薔薇の装飾が施された真っ赤なドレスに身を包み、高価な宝石をたくさんあしらったティアラとイヤリングを身につけて登場した。
次期公爵夫人となるマギーの姿に、ゲストの面々は歓喜にわいた。
マギーは満足げに微笑む。
そう、これよ。
私がほしかったもの。
地位と名誉と財産と、約束された未来。
マギーは父の浮気相手の子として生まれ、貧民街で育った。
妾だった母は父にとってただの遊び相手だった。
けれど、母は話術に長けており、見事に父の心をつかんだ。
父は本妻とその娘に対して愛情はないと言い切った。
そして、本妻が死んだあと、父は妾である母とマギーを家族として受け入れたのだ。
マギーは初めてフローラに会ったとき、心底憎らしかった。
何不自由なく生まれ育ったフローラは、眩しいほどのオーラに包まれていた。
それに対してマギーは、父からの援助があったとはいえ、金遣いの荒い母のせいで食べ物にも困るほどの貧乏暮らしを経験した。
許せなかった。
同じ父から生まれた娘でありながら、フローラと自分とではあまりにも境遇が違いすぎる。
だから、マギーは思った。
いつか、絶対にフローラの立場を奪ってやろうと。
そして、ついにその願いが叶った瞬間だった。
「公爵さま、ナスカ令嬢、このたびはおめでとうございます」
「本当にお似合いのおふたりですわ」
「令嬢は本当にお美しい」
「公爵家の益々のご発展をお祈りいたしますわ」
次々と貴族たちが挨拶に来て、マギーはセオドアのとなりでにっこりと笑顔で対応した。
セオドアへ顔を向けると、彼は穏やかに微笑んでいる。
完璧な容姿に穏やかな性格。
その上、王族の血を引く上級貴族。
これほどの男が自分の夫になるのだ。
ナスカ家を初めて訪れた日には予想もしなかったこと。
これほど人生が上手くいくとは思いもよらなかった。
最高よ!
私の人生はこれから輝かしいものになるんだわ。
フローラ、あなたは私の苦労を知ってこれからどん底の人生を歩むのよ。
大丈夫。心配しないで。
セオドアさまは私が幸せにしてさしあげるから。
マギーはにんまりと笑い、ゲストに挨拶をしてまわった。
パーティが滞りなく進んでいたところ、突如ゲストたちがざわめき出した。
不穏な空気が流れる様子を察したセオドアがマギーに言う。
「少し会場の外の様子を見てこよう」
「え? では、私も……」
「いや、君はここにいてくれ」
そう言われて、マギーはその場に残ることにした。
伯爵と夫人が駆けつける。
「一体、何の騒ぎなんだ?」
と伯爵が動揺した様子で訊ねると、夫人が答えた。
「何でも、不審者が侵入したらしいですわ」
「なんということだ。おめでたい席だというのに」
せっかく上手くいっているというのに何事なの?
とマギーはやきもきした。
ゲストたちがざわつく中、突然会場の扉が大っぴらに開かれた。
一同が一斉に目線を向けたそこには、剣を携えた騎士たちがずらりと並んでいた。
「我々は王宮直属の黒騎士団である。この会場に重罪を犯した罪人がひそんでいるので調べさせてもらう」
会場内は動揺に包まれる。
「罪人ですって?」
「一体、何事ですの?」
人々がざわめく中、騎士たちは一斉に会場内を囲んだ。
そして、ゲストの中からひとりの人物が捕らえられ、騎士たちに連れられて公爵の両親の前に差し出された。
その人物を見た公爵の父が狼狽えながら訊ねる。
「グレン、何をしているんだ? いや、違う。君は一体、何者だ?」
「ち、違う……俺は、違うんだ! ナスカ伯爵に命令されて……」
となりでそれを聞いていた伯爵は驚き慌てながら叫んだ。
「そんなことは知らん! 私はこの者のことも知らんぞ!」
「そ、そんな……あなたが魔法師の格好をして私にパーティに出席しろとおっしゃったのではないですか。そうしなければ違法煙草……」
「何を言っているのだ? この男は!」
伯爵が取り乱しながら大声を上げるので、マギーも夫人も驚愕の表情で黙る。
「あ、あなた……?」
と夫人が声をかける。
「これは一体、どういうことかね? ナスカ伯爵」
「こんな騒ぎを起こすなんて、公爵家に何か不満でもおありなのかしら?」
公爵家の面々は不信感を抱いた目で伯爵たちを見つめている。
「わ、私は何も知らん! この者の言ったことも、この者のことも知らんことだ!」
伯爵は慌てふためきながら周囲をきょろきょろ見まわしている。
そばで見ている夫人はふらりとよろけて侍従に支えられた。
マギーは、意味がわからずに放心状態だ。
何なの!?
私の幸せを邪魔するものは何!?
パーティの主役は私なのに!!!
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