公爵さま、私が本物です!

水川サキ

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16、今日はお前たちが社会的に死ぬ日だ【グレン視点】

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 会場の扉が開いて、グレンが登場すると、人々は戸惑いの声を上げた。

「え? どういうこと? 同じ人間がふたり?」
「双子か?」

 そんな人々の声など気にも留めず、グレンは偽物に近づき、じっと見下ろした。


「よくもまあ、俺の格好をして出てこれたものだなあ。バッカニア男爵とやら。いや、闇の呪術師ゲートと言ったほうがいいか? でも、そんな中途半端な変装では他の人間は騙せても、俺の伯父さんは騙せなかったようだね」

 グレンの言葉に男はガクガク震えながら床を見つめている。


 グレンが目星をつけた闇の呪術師について、セオドアが徹底的に調べた。
 すると、バッカニア男爵という人物が浮かび上がったのだ。

 男爵は魔法師を目指し、師匠に師事していたゲートという男。
 その師匠があまりにも厳しく、自分にいつも冷たく接するのに、弟子が手柄を立てるとすべて自分のものとして自慢していた。

 ゲートは師匠を憎み、ついに殺害してしまう。

 だが、師匠の跡を継いだゲートはあまりにも未熟で、行く先々から出来損ないと揶揄される。
 ゲートは怒り狂い、正当な魔法師で生きていくことをやめ、闇の呪術師となる。
 呪いであれば、魔法より簡単に物事を動かせる。
  
 こうして、ゲートは呪いの術により、闇の世界で成功したのだった。
 そして今日、破滅しようとしている。

 グレンとセオドアの策略によって。


「グレン、これは一体どういうことなんだ?」

 険しい顔つきで訊ねる伯父に向かって、グレンは笑って返す。

「見てのとおり、俺と偽ってこの会場に侵入した呪術師ですよ。わざわざ招待状まで偽装してね」

 グレンが本物の招待状を見せながら、偽物をちらりと見下ろした。


 もちろん、これはグレンが仕組んだことだ。
 グレンはナスカ伯爵の姿をしてゲートに接触し、パーティの日に魔法師グレンの姿になって出席しろと命令し、偽物の招待状を渡したのだ。

 違法煙草ヘドニラの密売とナスカ令嬢入れ替わりの件で脅せば簡単に言うことを聞いた。
 しかし、変装は完璧ではなかったようだ。

 正式な魔法師であるグレンと、中途半端な呪術師であるゲートには、魔力の差があり過ぎた。
 何せ、グレンがナスカ伯爵に変装していることを、仮にも魔力を持つゲートが見抜くことができなかったのだから。


「偽物はやはり本物にはなれないってことだ。なあ、ナスカ令嬢?」

 グレンが嫌みっぽい目を向けると、マギーが驚いてセオドアにくっついた。

「おっしゃっていることがわかりませんわ。公爵さま、私この人が怖いですわ!」

 泣きつくマギーに対し、セオドアはいたって冷静に答える。


「ナスカ令嬢、ひとつお聞きしたいことがあります」
「は、はい。何でしょう?」
「あなたは10年前、僕と結婚の約束をした日に、僕にある言葉を教えてくれた。君の好きな言葉だ。それを今、聞かせてはくれないか?」
「は?」
「僕は今、正式な婚約者となる君の口から、そのときの大切な言葉を教えてもらいたいんだ」

 マギーは呆気にとられて固まった。
 グレンはにやりと笑っている。
 セオドアは冷静にマギーを見つめている。

 公爵家の面々は黙って見守り、伯爵と夫人はなぜか焦っている。


「あ、あの……今、そのことは関係ないことでは?」
「いや、あるんだ。君がフローラであることの証明にもなるから」
「え? ちょっと、何をおっしゃっているのか、よくわからないのですが?」
「答えてください、令嬢」

 セオドアの強い口調に対し、マギーは軽く怯え、震えながら声を出す。


「え、えっと……し、将来は、子供をたくさん、作りましょ?」

 その返答に、セオドアの表情が険しくなる。
 マギーは困惑しながら嘆きの声を上げた。

「もう、そんな昔の話は覚えておりませんわ!」


 ヤケになって嘆きの声を上げるマギーに、周囲がひそひそと話し出す。

「どういうこと? ナスカ令嬢は約束を忘れたということ?」
「10年前のことなんか、覚えているもんか」
「いや、でも婚約者なら……」


 周囲がざわつく中、グレンは会場の扉の近くに控える侍従に合図を送り、扉を開けてもらった。
 そこには淡いブルーの生地に光り輝く宝石を散りばめたドレスを着たフローラの姿があった。
 金髪碧眼。ナスカ令嬢として立っているマギーよりもずっと、美しい金髪に、吸い込まれるほどの碧い瞳。


「私がお答えいたしますわ」

 フローラの凛とした声が会場内に響き、人々がまたざわめき出した。

「誰なんだ? あの令嬢は」
「ナスカ令嬢そっくりじゃないか」
「ナスカ令嬢より美しいわ」
「これは一体、どうなっているんだ?」


 グレンはにやりと笑いながら「本番メインステージはここからだ」と呟いた。


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