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17、私が本物のフローラです
しおりを挟む婚約パーティを潰して伯爵家と呪術師の悪事を暴露する。
そんな計画をセオドアとグレンから聞いたフローラははじめのうちこそ躊躇していた。
公爵家に多大な迷惑をかけてしまうだろうから。
しかし、セオドアは自分が公爵としてすべての責任を取ると言った。
「どうしてそこまで、してくださるのですか?」
とフローラが訊ねると、セオドアは言った。
「ほんの少しの禍根も残ってはならない。徹底的に排除したいんだ。君との未来のために」
フローラは静かに涙を流した。
セオドアとの未来を、もう一度夢見ることができることの喜びを。
だから、今日。
フローラは覚悟を持って、マギーの晴れ舞台を潰しにやって来た。
パーティ会場に入ると、公爵家の人々と父と継母、そしてマギーの姿を見つめた。
セオドアがマギーに訊ねた10年前に送った言葉。
それを、フローラが答える。
しかし、口を開こうとしたらマギーに邪魔をされた。
「何なのよ、あんた! 誰か、その者を追い出して! 私の偽物よ!」
マギーの声はよく響いたが、フローラは冷静だ。
周囲はざわめき、セオドアはまったく聞き耳を持たない。
マギーは焦り、両親にすがりつく。
「ねえ、お母さま! 何とかしてよ。せっかくの私のパーティが、あの女に邪魔されてしまうわ! お父さまあっ! 黙っていないで何とか言って!」
マギーの訴えに伯爵は苛立ちを隠さず、怒鳴りつける。
「うるさい! お前はまったく役に立たない! この出来損ないが!」
マギーは父の言葉に驚愕し、母親に泣きついた。
母親はマギーをなだめるが、父に反論することができない。
周囲は皆、フローラに釘付けになっている。
すると、マギーのとなりにいたセオドアは、ゆっくりとフローラに向かって歩いていった。
マギーが慌てて手を伸ばす。
「ま、待って! 公爵さまっ! 私の旦那さま!」
セオドアは少しだけ振り返り、マギーを睨みつけて言い放つ。
「気安く俺に話しかけるな。偽物令嬢」
その恐ろしい形相に、周囲も驚き、マギーは口を開けたまま硬直した。
セオドアは真剣な表情でゆっくりと歩いていき、フローラの前に立った。
そして、彼は表情を緩めて次第に笑顔になる。
彼の優しい眼差しの先には、本物のフローラがいる。
「君の好きな言葉をここで聞いてもいいか? あのとき、俺に教えてくれた言葉を」
フローラはうなずいて、微笑みながら答える。
「外面をどんなに偽っても、その心だけは真実です。どれほど豪華な宝石を身につけても、どれほど美しく着飾っても、心の貧しさを隠すことはできません。その逆もしかり」
フローラは目に涙を浮かべながら、セオドアに笑いかける。
「どれほど貧しい姿になっていても、内面のオーラを隠すことはできません。たとえ、10年後にあなたが変わっていたとしても、私はあなたを必ず見つけるわ」
それを聞いたセオドアは破顔し、すぐさまフローラを抱き上げた。
「きゃあっ」とフローラが声を上げると同時に、周囲の人々が「わああっ!」と歓声を上げた。
そして、セオドアはフローラを抱きかかえたまま、両親と親族に向かって高らかに言い放った。
「私の妻となるフローラ・ナスカはここにいます。10年前に結婚の約束をしたフローラは、ここにいる彼女だ」
周囲は歓声と戸惑いの声が混じる。
「一体どういうことなんだ?」
「彼女が本物のナスカ令嬢だと?」
「じゃあ、あれは何者だ?」
人々の視線が真っ赤なドレスを着たマギーに集中する。
マギーは怒りの形相で声を荒らげた。
「ち、違うわ! フローラは私よ! 私がナスカ家の伯爵令嬢で、公爵さまの妻になるの! 公爵夫人になるのよおおっ!!!」
マギーの声に同情する者は誰ひとりおらず。
逆に、冷たい視線ばかりが集中した。
フローラは床にぺたりと座り込んだマギーを見下ろした。
そして、マギーが初めて伯爵家に来たときのことを思い出していた。
あの頃、母親を失ったばかりのフローラは家族が増えることが嬉しかった。
どんな理由があれども、妹ができるということが新鮮だった。
マギーとは血のつながりがある本当の姉妹。
仲良くしたかった。
町で見かける兄弟や姉妹のように、一緒に買い物をしたり、美味しいものを食べたり、女同士のおしゃべりをしたり。
そんな淡い夢を一瞬でも、抱いたのだった。
可哀想なマギー。
でも、あなたを許すことなどできないわ。
フローラは妹に対する同情心をすべて捨てた。
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