公爵さま、私が本物です!

水川サキ

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18、追い詰められる罪人たち

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「私が本物なのよおおおっ!!!」

 マギーの叫び声が会場内に響く中、周囲の視線がそちらへ向いているあいだにゲートは騎士たちに魔法で攻撃し、逃げ出した。


「申しわけございません、グレンさま!」
 と狼狽える騎士に、グレンは冷静に言う。

「ああ、いいんだ。逃げてもらうつもりだったから」
「は? はぁ……」

 グレンはセオドアに目配せして、自分はゲートを追いかける。
 そして、庭園の中を逃げ回っていたゲートに魔法で先回りし、彼の前に立った。


「フローラ・ナスカにかけられた術を解け」
「へんっ! あれは呪いの術だ。一度呪われた人間は二度と元には戻らない。術者であるこの俺を殺さない限り、永遠に呪いは続くだろう。へへへへっ! はははははっ!」

 高笑いをするゲートに対し、グレンは情もない声で冷たく言い放つ。


「じゃあ、死ね」

 ドンッと派手な音がして、砂煙が上がった。
 庭園にいる人々は何事かと音のするほうへ目を向けるが、そこには何もない。
 性格にはグレンの魔法で壁を作っていて、魔力を持たない人間からは見えないようになっている。


「く、くそっ!」

 ゲートは呪術を繰り出すが、グレンはすべて弾き返す。
 仕方なく、ゲートは逃げ出した。
 グレンは冷静に、彼のあとを追った。


 *


 一方、パーティ会場ではセオドアが伯爵に向かって、周囲にわかるように書状を掲げて見せていた。

「ナスカ伯爵、あなたの罪は禁忌呪術の行使と違法煙草ヘドニラの密売。そして、前伯爵夫人殺害の容疑です」

 これを聞いた伯爵は、顔から汗を噴き出した。
 となりにいる夫人は驚愕のあまり目を見開いて伯爵を見る。


「あ、あなた……前の奥さまは病気だって」
「病気だ! 何を根拠にそのような嘘を! リリアは私が看取ったのだぞ!」

 セオドアは伯爵を無視して続ける。


「ナスカ伯爵、あなたの殺人容疑は前伯爵夫人だけではないんですよ。もうひとり、殺害した人物がいるでしょう?」

 伯爵は顔面蒼白になり、目を見開いたまま絶句する。
 周囲がざわめく中、セオドアは淡々と続ける。


「あなたは、前伯爵夫人の元恋人であるアルレア侯爵家の長子も殺害した」

 周囲がどよめいた。


「どういうことだ?」
「アルレア侯爵家といえば……」
「たしか、雨の日に視察に出て崖から転落したって話じゃ……」
「その視察にナスカ伯爵も同行していたって聞いたわ」

 周囲の声に焦った伯爵が声を荒らげる。


「違うーっ! あれは私ではない! あいつだ! あの男が私を殺そうとしたんだ! だから」

 伯爵自ら当時の出来事を暴露してしまった。
 周囲はさらに疑惑の目を向ける。


「事故って話だったわよね」
「殺そうとした? どういうことだ?」

 伯爵は自分の立場が悪くなっていることを悟り、冷や汗をかきながら黙る。


 「そのことも含めて、洗いざらい話してもらう必要がありそうだ」

 セオドアが近づくと、伯爵はもう何を言っても無理だと思ったのか、開き直った態度で高らかに笑った。
 
 「あははははははは」

 伯爵の声がしんと静まった会場に響きわたる。異様な光景である。


「フローラ!」

 伯爵は偽りのフローラであるマギーではなく、本物のフローラに向かって叫んだ。


「お前は私の子ではないのだ! あの男が、リリアを孕ませたのだ! そうだ。私の前妻リリアは元恋人と不倫をしていたのだ! 私は被害者だ!」

 フローラは伯爵に顔を近づけて、じっと見上げる。
 伯爵は嫌悪の表情でフローラを見下ろした。
 フローラは静かに語りかける。


「お父さま、不本意ながら……私はお父さまの子で、間違いありません。私も、マギーも……」

 フローラは話している途中でガクッと膝が折れた。
 そのまま倒れそうになるフローラをセオドアが支える。


「フローラ、まだ呪いが解けていないんだ。無理しては……」
「平気、です……言わせて、ください……」

 真実を語ることを禁じる呪術である。
 これ以上話すと呪いに殺されてしまうかもしれない。
 それでも、フローラは自身の口から、今この場で話したかった。 


「私たちは、母親ではなく父親似です! 使用人さえ、私とマギーを見間違えたのですから」

 震え声で、精いっぱい、父である伯爵に訴える。


「わたしは……フローラです! お父さまと、お母さまの子であり……ナスカ伯爵家の令嬢です!」

 フローラは力いっぱい叫び、その場に崩れ落ちた。
 セオドアがフローラに寄り添い、声をかける。


 「よく言った。よく頑張った。君は自分の口で自分の名前を言ったんだよ」
 「公爵、さま……」

 フローラは再び、父である伯爵を見上げた。
 そこには憎悪のような嫌悪感あふれる顔がある。


 遠い昔、まだ母が生きていた頃。
 父と三人で出かけたり、食事をしたりしていた。
 そのときは笑顔だったはずだ。

 いつから家族は壊れてしまったのだろう。


 フローラはずっと父に振り向いてほしかった。
 どれほど冷たくされても、いつかまた笑顔を向けてくれるのではないかと。

 信じていた。
 信じたかった。
 

「お父さま……」

 フローラの必死の訴えは、父には届かなかった。


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