公爵さま、私が本物です!

水川サキ

文字の大きさ
16 / 22

16、今日はお前たちが社会的に死ぬ日だ【グレン視点】

しおりを挟む

 会場の扉が開いて、グレンが登場すると、人々は戸惑いの声を上げた。

「え? どういうこと? 同じ人間がふたり?」
「双子か?」

 そんな人々の声など気にも留めず、グレンは偽物に近づき、じっと見下ろした。


「よくもまあ、俺の格好をして出てこれたものだなあ。バッカニア男爵とやら。いや、闇の呪術師ゲートと言ったほうがいいか? でも、そんな中途半端な変装では他の人間は騙せても、俺の伯父さんは騙せなかったようだね」

 グレンの言葉に男はガクガク震えながら床を見つめている。


 グレンが目星をつけた闇の呪術師について、セオドアが徹底的に調べた。
 すると、バッカニア男爵という人物が浮かび上がったのだ。

 男爵は魔法師を目指し、師匠に師事していたゲートという男。
 その師匠があまりにも厳しく、自分にいつも冷たく接するのに、弟子が手柄を立てるとすべて自分のものとして自慢していた。

 ゲートは師匠を憎み、ついに殺害してしまう。

 だが、師匠の跡を継いだゲートはあまりにも未熟で、行く先々から出来損ないと揶揄される。
 ゲートは怒り狂い、正当な魔法師で生きていくことをやめ、闇の呪術師となる。
 呪いであれば、魔法より簡単に物事を動かせる。
  
 こうして、ゲートは呪いの術により、闇の世界で成功したのだった。
 そして今日、破滅しようとしている。

 グレンとセオドアの策略によって。


「グレン、これは一体どういうことなんだ?」

 険しい顔つきで訊ねる伯父に向かって、グレンは笑って返す。

「見てのとおり、俺と偽ってこの会場に侵入した呪術師ですよ。わざわざ招待状まで偽装してね」

 グレンが本物の招待状を見せながら、偽物をちらりと見下ろした。


 もちろん、これはグレンが仕組んだことだ。
 グレンはナスカ伯爵の姿をしてゲートに接触し、パーティの日に魔法師グレンの姿になって出席しろと命令し、偽物の招待状を渡したのだ。

 違法煙草ヘドニラの密売とナスカ令嬢入れ替わりの件で脅せば簡単に言うことを聞いた。
 しかし、変装は完璧ではなかったようだ。

 正式な魔法師であるグレンと、中途半端な呪術師であるゲートには、魔力の差があり過ぎた。
 何せ、グレンがナスカ伯爵に変装していることを、仮にも魔力を持つゲートが見抜くことができなかったのだから。


「偽物はやはり本物にはなれないってことだ。なあ、ナスカ令嬢?」

 グレンが嫌みっぽい目を向けると、マギーが驚いてセオドアにくっついた。

「おっしゃっていることがわかりませんわ。公爵さま、私この人が怖いですわ!」

 泣きつくマギーに対し、セオドアはいたって冷静に答える。


「ナスカ令嬢、ひとつお聞きしたいことがあります」
「は、はい。何でしょう?」
「あなたは10年前、僕と結婚の約束をした日に、僕にある言葉を教えてくれた。君の好きな言葉だ。それを今、聞かせてはくれないか?」
「は?」
「僕は今、正式な婚約者となる君の口から、そのときの大切な言葉を教えてもらいたいんだ」

 マギーは呆気にとられて固まった。
 グレンはにやりと笑っている。
 セオドアは冷静にマギーを見つめている。

 公爵家の面々は黙って見守り、伯爵と夫人はなぜか焦っている。


「あ、あの……今、そのことは関係ないことでは?」
「いや、あるんだ。君がフローラであることの証明にもなるから」
「え? ちょっと、何をおっしゃっているのか、よくわからないのですが?」
「答えてください、令嬢」

 セオドアの強い口調に対し、マギーは軽く怯え、震えながら声を出す。


「え、えっと……し、将来は、子供をたくさん、作りましょ?」

 その返答に、セオドアの表情が険しくなる。
 マギーは困惑しながら嘆きの声を上げた。

「もう、そんな昔の話は覚えておりませんわ!」


 ヤケになって嘆きの声を上げるマギーに、周囲がひそひそと話し出す。

「どういうこと? ナスカ令嬢は約束を忘れたということ?」
「10年前のことなんか、覚えているもんか」
「いや、でも婚約者なら……」


 周囲がざわつく中、グレンは会場の扉の近くに控える侍従に合図を送り、扉を開けてもらった。
 そこには淡いブルーの生地に光り輝く宝石を散りばめたドレスを着たフローラの姿があった。
 金髪碧眼。ナスカ令嬢として立っているマギーよりもずっと、美しい金髪に、吸い込まれるほどの碧い瞳。


「私がお答えいたしますわ」

 フローラの凛とした声が会場内に響き、人々がまたざわめき出した。

「誰なんだ? あの令嬢は」
「ナスカ令嬢そっくりじゃないか」
「ナスカ令嬢より美しいわ」
「これは一体、どうなっているんだ?」


 グレンはにやりと笑いながら「本番メインステージはここからだ」と呟いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。 誤字訂正ありがとうございました。4話の助詞を修正しました。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

婚約解消したはずなのに、元婚約者が嫉妬心剥き出しで怖いのですが……

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のフローラと侯爵令息のカルロス。二人は恋愛感情から婚約をしたのだったが……。 カルロスは隣国の侯爵令嬢と婚約をするとのことで、フローラに別れて欲しいと告げる。 国益を考えれば確かに頷ける行為だ。フローラはカルロスとの婚約解消を受け入れることにした。 さて、悲しみのフローラは幼馴染のグラン伯爵令息と婚約を考える仲になっていくのだが……。 なぜかカルロスの妨害が入るのだった……えっ、どういうこと? フローラとグランは全く意味が分からず対処する羽目になってしまう。 「お願いだから、邪魔しないでもらえませんか?」

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

冷淡姫の恋心

玉響なつめ
恋愛
冷淡姫、そうあだ名される貴族令嬢のイリアネと、平民の生まれだがその実力から貴族家の養子になったアリオスは縁あって婚約した。 そんな二人にアリオスと同じように才能を見込まれて貴族家の養子になったというマリアンナの存在が加わり、一見仲良く過ごす彼らだが次第に貴族たちの慣習や矜持に翻弄される。 我慢すれば済む、それは本当に? 貴族らしくある、そればかりに目を向けていない? 不器用な二人と、そんな二人を振り回す周囲の人々が織りなすなんでもない日常。 ※カクヨム・小説家になろう・Talesにも載せています

処理中です...