31 / 138
第2章 王宮生活<準備編>
30、攻防戦の行方<前>
しおりを挟む
えっ?
髪をバッサリ切るって、そんなに驚くこと?
もちろん、人によって大切と思う価値観は違うけど、美の価値観に重きを置かない僕にとって、サラの反応に、却って驚いてしまった。
「ほっ……本当に……切ってしまわれるの……ですか?」
またしても、サラの「コイツ正気か?」オーラが僕に突き刺さるのを感じたが、鏡越しにサラを真っ直ぐ見つめながら、僕はコクンと頷いた。
「でっ……出来ません、私には無理です」
ブンブンと首を横に振り続けるサラを見ながら、僕は心の中でため息をついた。
やっぱりなぁ……そう言うだろうと思った
でも僕も前回のやり取りで学んだのだ。
もう1人の侍女、リリーが前回提案してくれた折衷案を、今回は僕が用意したのだ。
「嫌がるサラには申し訳ないんだけど、さすがに僕は、髪を結う技術がないから、自分で全てを出来ないんだ。
だから……考えたんだけど、こういうのはどうかな?
僕が希望する長さまでは、僕自身が切るから、あとは見苦しくない程度に、適当に揃えて欲しいんだ」
サラは僕の提案を聞き、しばらくじぃ~っと考え込んでいたが、やがて短いため息を一つ吐くと、少し潤んだ目で、鏡越しの僕の目を見つめ返してこう言った。
「そのようにご提案されても、この見事な御髪に鋏を入れるなんて……やっぱり私には出来ません。
レンヤード様こそ、どうして、この見事な長さをそのまま維持されないんですか?
とっても美しいですし、誰もがこの長さを維持することなんて出来ないですよ?
特に労働者階級には無理な長さなんです。
だからこそ長い髪は、上位階級の者にしか出来ない特権であり……私たち働く者にとっての憧れでもあります」
サラの想いを聞かされた僕が、今度はしばらく考え込んでしまった。
どうしよう?
このままでいた方がいいのかな?
でもなぁ……確かに少し恵まれていたけど、僕だって王族側から見たら、いち労働者に過ぎなかった
運命の悪戯みたいな流れで、いきなり王族って地位についてしまったけど、領地にいたあの頃の感覚を大切にしたいし、今はそれを取り戻すことこそ、たとえ姿形が変わってしまっても、自分が自分であることを、実感出来る気がする
心の中でそう考えをまとめた僕は、自分の希望を通す反面、サラの憧れである姿をしない代償として、髪型を整えてもらうのは諦めようと思った。
ただ、これだけは分かって欲しくて、僕はサラに告げる。
「皆んなの憧れの象徴としてあり続けるために、王族の身なりには『美しさ』が重要視されることが、サラの考えで分かったよ。
僕は民の中では領主という、少しだけ恵まれた地位にいたけれど、それでも今の王族という立場から見れば、いち地方の民に過ぎなかったと思う。
そして、その民の立場から言わせてもらうと『美しさ』では、お腹いっぱいにならないんだ。
食べることに精一杯の状況では『美しさ』の優先順位は低い。
幸い僕がいた頃の領地は、地に恵まれ、気候も温暖だったけど、領主として領民に飢えさせることがないよう、いつもそのことで頭が一杯だった。
だから僕は『美しさ』に最大の価値を置かないんだ。
それにサラみたいに、自分たちより上位にいる者に『憧れ』を抱いてくれるのは大変有難いけれど、そうでない人たち……自分たちより持っている者に対して『嫉妬』する人も同じくらい存在すると思う。
それゆえ上位にいる者たちは、ある程度の品位を保つために着飾ることも必要だとは思うけど、必要以上に飾らないことも大切だと思うんだ」
そう言って僕は鏡台から席を立つと、サラが震えて落としてしまった鋏をしゃがんで拾い上げた。
「王族としてこうあって欲しいという暗黙の期待があることは分かったけど、あまりにも今まで僕が生きてきた価値観と違い過ぎて……僕は戸惑っている。
立場が変わったから今までの価値観を捨てて、新たな価値観を受け入れるべきという考えがあるのも分かるけど……何の心の準備も、ましてや自分の望みでもなかった今の地位は、まるで夢の中にいるみたいだ。
突然放り込まれたこの状況を、現実として捉えるためにも、僕は昔の自分を捨てるのではなく、過去の自分の続きとして、今の自分を生きたい。
そのためにも、昔の価値観を大切にしたいんだ」
髪をバッサリ切るって、そんなに驚くこと?
もちろん、人によって大切と思う価値観は違うけど、美の価値観に重きを置かない僕にとって、サラの反応に、却って驚いてしまった。
「ほっ……本当に……切ってしまわれるの……ですか?」
またしても、サラの「コイツ正気か?」オーラが僕に突き刺さるのを感じたが、鏡越しにサラを真っ直ぐ見つめながら、僕はコクンと頷いた。
「でっ……出来ません、私には無理です」
ブンブンと首を横に振り続けるサラを見ながら、僕は心の中でため息をついた。
やっぱりなぁ……そう言うだろうと思った
でも僕も前回のやり取りで学んだのだ。
もう1人の侍女、リリーが前回提案してくれた折衷案を、今回は僕が用意したのだ。
「嫌がるサラには申し訳ないんだけど、さすがに僕は、髪を結う技術がないから、自分で全てを出来ないんだ。
だから……考えたんだけど、こういうのはどうかな?
僕が希望する長さまでは、僕自身が切るから、あとは見苦しくない程度に、適当に揃えて欲しいんだ」
サラは僕の提案を聞き、しばらくじぃ~っと考え込んでいたが、やがて短いため息を一つ吐くと、少し潤んだ目で、鏡越しの僕の目を見つめ返してこう言った。
「そのようにご提案されても、この見事な御髪に鋏を入れるなんて……やっぱり私には出来ません。
レンヤード様こそ、どうして、この見事な長さをそのまま維持されないんですか?
とっても美しいですし、誰もがこの長さを維持することなんて出来ないですよ?
特に労働者階級には無理な長さなんです。
だからこそ長い髪は、上位階級の者にしか出来ない特権であり……私たち働く者にとっての憧れでもあります」
サラの想いを聞かされた僕が、今度はしばらく考え込んでしまった。
どうしよう?
このままでいた方がいいのかな?
でもなぁ……確かに少し恵まれていたけど、僕だって王族側から見たら、いち労働者に過ぎなかった
運命の悪戯みたいな流れで、いきなり王族って地位についてしまったけど、領地にいたあの頃の感覚を大切にしたいし、今はそれを取り戻すことこそ、たとえ姿形が変わってしまっても、自分が自分であることを、実感出来る気がする
心の中でそう考えをまとめた僕は、自分の希望を通す反面、サラの憧れである姿をしない代償として、髪型を整えてもらうのは諦めようと思った。
ただ、これだけは分かって欲しくて、僕はサラに告げる。
「皆んなの憧れの象徴としてあり続けるために、王族の身なりには『美しさ』が重要視されることが、サラの考えで分かったよ。
僕は民の中では領主という、少しだけ恵まれた地位にいたけれど、それでも今の王族という立場から見れば、いち地方の民に過ぎなかったと思う。
そして、その民の立場から言わせてもらうと『美しさ』では、お腹いっぱいにならないんだ。
食べることに精一杯の状況では『美しさ』の優先順位は低い。
幸い僕がいた頃の領地は、地に恵まれ、気候も温暖だったけど、領主として領民に飢えさせることがないよう、いつもそのことで頭が一杯だった。
だから僕は『美しさ』に最大の価値を置かないんだ。
それにサラみたいに、自分たちより上位にいる者に『憧れ』を抱いてくれるのは大変有難いけれど、そうでない人たち……自分たちより持っている者に対して『嫉妬』する人も同じくらい存在すると思う。
それゆえ上位にいる者たちは、ある程度の品位を保つために着飾ることも必要だとは思うけど、必要以上に飾らないことも大切だと思うんだ」
そう言って僕は鏡台から席を立つと、サラが震えて落としてしまった鋏をしゃがんで拾い上げた。
「王族としてこうあって欲しいという暗黙の期待があることは分かったけど、あまりにも今まで僕が生きてきた価値観と違い過ぎて……僕は戸惑っている。
立場が変わったから今までの価値観を捨てて、新たな価値観を受け入れるべきという考えがあるのも分かるけど……何の心の準備も、ましてや自分の望みでもなかった今の地位は、まるで夢の中にいるみたいだ。
突然放り込まれたこの状況を、現実として捉えるためにも、僕は昔の自分を捨てるのではなく、過去の自分の続きとして、今の自分を生きたい。
そのためにも、昔の価値観を大切にしたいんだ」
205
あなたにおすすめの小説
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
間違えられた番様は、消えました。
夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる