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第2章 王宮生活<準備編>
31、攻防戦の行方<後>
サラは僕の考えをじっと聞いてくれていたが、まだ身体を震わせながら、声を絞り出してこう言った。
「レンヤード様は、史上最強と言われるシルヴィス様の番なんですよ。
あのシルヴィス様です。
レンヤード様は伏せっていたので知らないかもしれませんが、結婚されたと発表されても、シルヴィス様は、まだ絶大な人気がおありです。
最強のアルファであるシルヴィス様の隣には、やはり同じくらいお美しい方が並ぶのが相応しい。
だから……だからこそ、私の全ての技術を駆使し、レンヤード様を磨いてまいりました」
僕は拾った鋏を手に、また静かに鏡台前に座り直した。
「そうだったんだね。
本当にサラの技術は素晴らしくて……泥がついた野菜……だった僕がここまで磨かれたよ。
心から感謝している。
確かにまだ僕は目の当たりにしたことがないけど、シルヴィス様の人気は、弟のライがよく話してくれていたから、なんとなく想像はつくかな。
シルヴィス様やシルヴィス様を慕ってくれている人たちをガッカリさせちゃうかもしれないけど……ごめん、これは僕の内面の問題なんだ。
だから、僕が決める」
そう言い終えた僕は、躊躇いもなく、自分の髪を短く切っていく。
ザクっ、ザクっ、ザクっ
静かな室内に僕が髪を切る音と、切られた髪はかなりの長さだったため、重量を伴いながら、バサリ、バサリと滝のように落ち、まるで湖のように、僕の足元に拡がった。
サラは目を見開いたまま、身動きひとつできない。
僕は、自分の希望の長さの短髪になると、静かに鏡台の上に鋏を置いた。
顔を少し左右に動かして、新しい髪型を鏡で確認してみる。
うん、思ったよりいい
頭だけなく、心までも軽くなったようで、目覚めてからのズッシリとした混乱もろとも、長い髪とともに削ぎ落とされたような気がした。
自分で服についた髪の毛を手で払っていると、それまで黙って控えていたリリーが僕の背後までやってきて、声をかけてくれた。
「サラの無礼な言動をお許しください、レンヤード様。
あの……その……サラも仕えるべき主の1人としてシルヴィス様を慕っており……やや職務に熱心になり過ぎていたようです」
「リリー!!」
サラが慌てた声で、リリーの名を呼ぶ。
リリーの苦心された遠回しの表現とサラの慌てた様子を見て、鈍感な僕はようやく理解できた。
もしかして……サラはシルヴィス様を慕っている?
小さな含み笑いを浮かべているリリーに僕は目配せして正解を求めると、リリーは小さく頷くとともに、僕の髪型を見ると僅かに目を見張った。
「随分と、お切りになられましたね。
ただ、短いからこそ、少し整えたほうが良さそうです。
サラはこの通り動揺しておりますので……サラには及びませんが、代わりに私が髪を整えさせてもらっても、よろしいでしょうか?」
願ってもないリリーの申し出に、僕は勢いよく首を縦に振った。
「ぜひ、お願いするよ」
「かしこまりました。
サラ、あとは私がやるから、あなたは下がっていなさい」
冷静なリリーの提案に、サラはすぐに首を横に振った。
「いいえ、いいえ、大丈夫です!」
そんなサラの主張は、先輩のリリーには通用しなかった。
「無理よ。
いいから、下がっていなさい」
「はい」
2度も言われて、さすがのサラも拒否できなかったようだ。
唇をキツく噛み締めながら、足早に退室していった。
「ようやく静かになりましたね。
では、さっさと整えてしまいましょう」
リリーの言葉に、僕は深く頷いた。
リリーに髪型を整えてもらって思ったことは、リリーはサラに劣らず、いや、それ以上の腕前だった。
「すごい!リリー!!
この髪型、気に入ったよ」
鏡の中の僕は、色は違っているから多少の違和感があるものの、よく見知っている以前の僕だった。
「ありがとうございます。
短い髪もお似合いですね。
それとレンヤード様、切られた髪はどうされますか?」
微かな笑みを浮かべたリリーに聞かれた僕は、1つの答えしか持っていなかった。
「捨てるんじゃないの?」
僕の答えを聞いたリリーは、恐れながら……と前置きしてから、僕には思い浮かばなかった提案をしてくれた。
「これだけ見事な髪色と長さだと、売れると思いますが……」
「えっ?!売れるの?!
ちなみに何に使われるの?」
驚きと興味が湧いて、逆に僕がリリーに問いかけた。
「ドレスの色によっては地毛の髪色が合わない時がありますので、その時にカツラをかぶる時がございます。
あとは……ご病気で髪が失われた方なども同じくカツラを利用されています。
そういった目的のカツラを作るために、長い毛髪は売れるのです」
分かりやすく例を出して説明してくれたリリーに、僕もさらにお願いしてみた。
「じゃあ、もし売れるなら売って、そのお金を孤児院に寄付出来るかな?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、それもお願いするよ」
僕の依頼を受けたリリーは、散らばった髪を手早く片付けると、僕に一礼してから退室した。
1人になった僕は、改めて鏡の中の自分を見つめて……1つ頷く。
ようやく過去と現在の自分が繋がり、新たな世界へ飛び込める覚悟が出来たような気がした。
「レンヤード様は、史上最強と言われるシルヴィス様の番なんですよ。
あのシルヴィス様です。
レンヤード様は伏せっていたので知らないかもしれませんが、結婚されたと発表されても、シルヴィス様は、まだ絶大な人気がおありです。
最強のアルファであるシルヴィス様の隣には、やはり同じくらいお美しい方が並ぶのが相応しい。
だから……だからこそ、私の全ての技術を駆使し、レンヤード様を磨いてまいりました」
僕は拾った鋏を手に、また静かに鏡台前に座り直した。
「そうだったんだね。
本当にサラの技術は素晴らしくて……泥がついた野菜……だった僕がここまで磨かれたよ。
心から感謝している。
確かにまだ僕は目の当たりにしたことがないけど、シルヴィス様の人気は、弟のライがよく話してくれていたから、なんとなく想像はつくかな。
シルヴィス様やシルヴィス様を慕ってくれている人たちをガッカリさせちゃうかもしれないけど……ごめん、これは僕の内面の問題なんだ。
だから、僕が決める」
そう言い終えた僕は、躊躇いもなく、自分の髪を短く切っていく。
ザクっ、ザクっ、ザクっ
静かな室内に僕が髪を切る音と、切られた髪はかなりの長さだったため、重量を伴いながら、バサリ、バサリと滝のように落ち、まるで湖のように、僕の足元に拡がった。
サラは目を見開いたまま、身動きひとつできない。
僕は、自分の希望の長さの短髪になると、静かに鏡台の上に鋏を置いた。
顔を少し左右に動かして、新しい髪型を鏡で確認してみる。
うん、思ったよりいい
頭だけなく、心までも軽くなったようで、目覚めてからのズッシリとした混乱もろとも、長い髪とともに削ぎ落とされたような気がした。
自分で服についた髪の毛を手で払っていると、それまで黙って控えていたリリーが僕の背後までやってきて、声をかけてくれた。
「サラの無礼な言動をお許しください、レンヤード様。
あの……その……サラも仕えるべき主の1人としてシルヴィス様を慕っており……やや職務に熱心になり過ぎていたようです」
「リリー!!」
サラが慌てた声で、リリーの名を呼ぶ。
リリーの苦心された遠回しの表現とサラの慌てた様子を見て、鈍感な僕はようやく理解できた。
もしかして……サラはシルヴィス様を慕っている?
小さな含み笑いを浮かべているリリーに僕は目配せして正解を求めると、リリーは小さく頷くとともに、僕の髪型を見ると僅かに目を見張った。
「随分と、お切りになられましたね。
ただ、短いからこそ、少し整えたほうが良さそうです。
サラはこの通り動揺しておりますので……サラには及びませんが、代わりに私が髪を整えさせてもらっても、よろしいでしょうか?」
願ってもないリリーの申し出に、僕は勢いよく首を縦に振った。
「ぜひ、お願いするよ」
「かしこまりました。
サラ、あとは私がやるから、あなたは下がっていなさい」
冷静なリリーの提案に、サラはすぐに首を横に振った。
「いいえ、いいえ、大丈夫です!」
そんなサラの主張は、先輩のリリーには通用しなかった。
「無理よ。
いいから、下がっていなさい」
「はい」
2度も言われて、さすがのサラも拒否できなかったようだ。
唇をキツく噛み締めながら、足早に退室していった。
「ようやく静かになりましたね。
では、さっさと整えてしまいましょう」
リリーの言葉に、僕は深く頷いた。
リリーに髪型を整えてもらって思ったことは、リリーはサラに劣らず、いや、それ以上の腕前だった。
「すごい!リリー!!
この髪型、気に入ったよ」
鏡の中の僕は、色は違っているから多少の違和感があるものの、よく見知っている以前の僕だった。
「ありがとうございます。
短い髪もお似合いですね。
それとレンヤード様、切られた髪はどうされますか?」
微かな笑みを浮かべたリリーに聞かれた僕は、1つの答えしか持っていなかった。
「捨てるんじゃないの?」
僕の答えを聞いたリリーは、恐れながら……と前置きしてから、僕には思い浮かばなかった提案をしてくれた。
「これだけ見事な髪色と長さだと、売れると思いますが……」
「えっ?!売れるの?!
ちなみに何に使われるの?」
驚きと興味が湧いて、逆に僕がリリーに問いかけた。
「ドレスの色によっては地毛の髪色が合わない時がありますので、その時にカツラをかぶる時がございます。
あとは……ご病気で髪が失われた方なども同じくカツラを利用されています。
そういった目的のカツラを作るために、長い毛髪は売れるのです」
分かりやすく例を出して説明してくれたリリーに、僕もさらにお願いしてみた。
「じゃあ、もし売れるなら売って、そのお金を孤児院に寄付出来るかな?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、それもお願いするよ」
僕の依頼を受けたリリーは、散らばった髪を手早く片付けると、僕に一礼してから退室した。
1人になった僕は、改めて鏡の中の自分を見つめて……1つ頷く。
ようやく過去と現在の自分が繋がり、新たな世界へ飛び込める覚悟が出来たような気がした。
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