「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第6章 王宮生活<帰還編>

117、独白と依頼<後>

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「一番の理由は、この王宮から一度離れて、ゆっくり自分の気持ちを見つめ直したいんだ。
 自分で決めてシルヴィス様とつがったけど……本当にそれで良かったのか……今はその答えが分からない。

 きっとどこかで聞いたことがあるかもしれないけど、僕は元々、シルヴィス様と番うつもりなんて全くなくて……互いの命を失う危険性を回避する手段のために、番ったというのが事実なんだ。
 本来のシルヴィス様の婚約者は、僕の弟だったし、僕にも婚約者がいたしね。

 しかも、とつぐつもりで王都に出てきた訳ではなかったし、番った後遺症で長期間体調を崩すとは本当に予想外で……僕の心はあの日から置き去りのまま、ずっとスッキリしない気持ちを抱えている。
 そしてお互いの命の危機が解消された今、シルヴィス様ときちんと向き合えない自分がいることも確かで……アルフ様に見抜かれていたように、自分の未来に王宮生活あるなんて、全く予測もしていなかったから、正直、息苦しさを感じるんだ。

 もう何年も経っているから、故郷に帰っても、僕の居場所はないとは思うけど、僕の弟は僕とシルヴィス様が番ったせいで、体調を崩して静養しており、婚約者だった彼は、トラブルに巻き込まれた僕をかばったせいで、命に関わるほどの怪我を負ってしまった。
 2人のその後がずっと気掛かりで、今では心の重石となってしまっている。

 別に直接顔を合わせなくてもいいんだ……特に弟は『運命の番』というだけで、弟にとって最愛のシルヴィス様を結果的には僕が奪ったことになってしまい、恨まれているしね。
 ただ弟と僕の婚約者だった彼の無事が分かり……欲を言うなら物陰からでも、ひと目、元気な姿が見れたら……それだけで僕は勝手ながら満足できると思う。

 この願いが叶って、ようやく僕は今の状況を受け入れ、前に進める気がする……だから頼む、クローネ、僕を帰郷させてくれ」

 僕は想いを語った勢いのまま、クローネに頭を下げた。
 しかしクローネから、すぐに反応はない。

「頭を上げてください、レンヤード様」

 長い沈黙ののち、クローネが静かにそう言ったので、僕は恐る恐る顔を上げると、突然、クローネに思い切り抱きしめられた。

「ク……クローネ?なぜ?」

 僕は驚いて、クローネに尋ねてしまったが、クローネは僕に抱きついたまま、やっと答えをくれる。

「私はあらかじめ王家にとつぐと決まっていましたが、準備や心づもりをしても、やはり王宮で生きていくのは大変です。
 それを突然、こちらに連れて来られて、表面のきらびやかさにおごることなく、逆に失望して自暴自棄にもならず、それどころか立派に活躍されているレンヤード様に、王様や皆が手を差し述べるのは、とても自然なことだと私は思いました。

 ですが今回、シルヴィス様が王様の祈祷に強固に反対されている大きな理由は、レンヤード様のお命に関わるような負担があるからです。
 いくら帰郷に関する好条件が王妃様より提示されており、レンヤード様のお気持ちも固まっているとはいえ、命と引き換えになるかもしれぬ祈祷、本当に引き受けるおつもりですか?」

 クローネは相変わらず僕に抱きついたまま顔は見せない……ただその身体からだは小刻みに震えていた。
 僕はクローネの細い身体をそっと抱きしめ返しながら、自分の気持ちを伝える。

「もう心に決めたんだ。
 ただ祈祷の際、セリム様が側にいてくれたなら、心強いと思う。
 そして……生きて故郷に帰れるならそれが一番だけど、もし万が一、祈祷して命が途絶えることになったら、尚更なおさら、僕の身体だけでも故郷に運んでくれないかな?」

 更なるお願いをしたせいかクローネからの返事はなく、代わりに押し殺したようなクローネの嗚咽おえつだけが、部屋に響き渡った。

「ゴメン、変なこと頼んで」

 僕は震え続けるクローネの背中を、何度も撫でる。
 僕の胸からそっとクローネは顔を上げると、両目から涙を流しながらも、僕の目をしっかりと見つめた。

「もう……決められたのですね。
 はい……その願い……最初のお約束通り、必ず叶えます」
「ありがとう……クローネ」

 僕はもう一度、クローネを強く抱きしめた。

 その後もクローネは、僕の願いを叶えるべく、セリム様への相談や王妃様との交渉に、言葉通り奔走ほんそうしてくれた。
 それぞれの立場での希望を考慮した結果、王の教会でアルフ様回復の祈祷をセリム様がり行うこととし、その際、僕が秘密に立ち会うことが決まった。
 セリム様の名前だからか、あっさりとシルヴィス様の許可もおり……僕の祈祷がアルフ様にすぐ効果があるかどうかは分からないが、祈祷が終わったらすぐに王妃様が手配してくれた、キリルレイルの森に詳しい人物と共に、僕の故郷へ向かう手筈てはずも順調に整えられていった。

 そして、アルフ様を祈祷する日を、とうとう僕は迎えることとなる。
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