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第6章 王宮生活<帰還編>
116、独白と依頼<前>
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「もちろん、見るよ……と、その前に」
クローネから差し出された王妃からの封書を、以前シルヴィス様がしたように、僕も裏側を確認したり、陽の光にかざしたりしてみた。
「どうされました?」
クローネは首を傾げて、僕に質問する。
「以前、王妃様からの……茶会の招待状を……シルヴィス様が……こうされて……いた……ので」
どうも王妃様の茶会に想起するものを聞くと、言葉が出にくくなってしまうようで、僕は思わず喉を押さえる。
「レンヤード様、大丈夫ですか?」
心配そうに僕を覗き込むクローネに、僕は手を振って大丈夫だと示した。
「ごめん……王妃様の茶会……の……話題になると……まだ……言葉が。
あっ……遅くなったけど……王様が……倒れ……られた時、セリム様と……駆け……つけて……くれて……ありがとう」
クローネは、随分と遅くなってしまった礼にも関わらず、にこやかに受け取ってくれる。
「いえいえ、別れ際のレンヤード様のお言葉に不自然さを覚えまして……兄にも伝えたところ、すぐにでも駆けつけた方がいいと言われました。
それにしても、王妃様の招待状をそれほどシルヴィス様が警戒されるとは、やはり王妃様が……」
クローネが話している途中にも関わらず、真実を伝えるのは今しかないと思い、無礼を承知で僕は口を挟んだ。
「本当は……僕に……出さ……れ……王様が……代わりに」
この真実をやっと言えた瞬間、また自分の喉が見えない手でキュッと絞られたように苦しくなり、僕はゴホゴホと前屈みになり咳き込む。
「無理なさらないでください、レンヤード様!」
僕はクローネの言葉に小さく頷くと、力なく笑みを浮かべ、じっと封書を見つめた。
いつものように一筋の光が唐突に派生し、封書の上を通り抜けると消える……今回はいつまでたっても空中に何も浮かばず、静かなままだった。
シルヴィス様の検分の仕方は真似しただけで、実際に何か仕掛けられているのかどうか僕にはサッパリ分からなかったが、いつものこの方法で何もないことが確認できたため、やっと僕は手紙の封を切る。
ザッと目を通し、一度静かに目を閉じた。
そして再び目を開け、今度は僕が手紙をクローネに差し出す。
「私が読んでもいいのですか?」
僕は大きく頷き、手紙の内容を思い返してみた。
王妃様から提案された内容は、大きく分けると3つだった。
1つめは、僕がもし王様を救命する祈祷を引き受けるならば、帰郷する際、僕の領地の近くにあり、個人の所有地とされているため普段立ち入りが禁止されている、キリルレイルの森と呼ばれている地域を縦断できるよう、許可証を発行すること。
2つめは、森を縦断するには土地勘が必要であることから、森に詳しくそして安全に通行できるよう、護衛としても役に立つ案内人を寄越す用意があること。
3つめは、もし僕の祈祷で王様の意識が回復したら、現在、他の者に管理を任せているキリルレイルの森の所有権を僕に譲るということ。
僕と同じようにサラッと目を通したクローネは、僕に手紙を返しながら、疑問を口にする。
「キリルレイルの森とは……そんなに価値がある場所なのですか?」
僕は小さく頷きながら、北に住んでいないと、あまり聞き慣れない森についてクローネに説明する。
「キリルレイルの森には珍しい品種や貴重な薬草が多く生え、また様々な食用植物や果物があると聞いていて、あの森を所有出来たら、領地は拡大するばかりか森の恵みでかなり潤うと思う。
だけどその反面、森はとても広大で……かなりの土地勘が必要であり、あくまでも噂の範囲だが、どこかの盗賊組織が、その森を活動拠点としているとも聞いているんだ。
北に領地がある者は王都を目指す際、通常はその森に沿うように作られている細い道を使うんだけど、そうすると王都まで大体14日ほどかかる。
しかし王妃様の申し出のように、もし森を縦断できるルートがあったのなら、日程が5日ほど短縮可能だとも言われていて、北の領民にとって、もしキリルレイルの森が個人領でなければ良かったのに……と何度も話題になっているんだ。
それにしても、まさかあの森の所有者が、王妃様だったなんて!」
初めて聞いた真実に、クローネに説明しながら、僕もひどく驚いてしまった。
「交換条件としては良いような……ですが盗賊組織があるとするならば、なかなか難しい土地でもありますね」
僕の説明を懸命に聞いていたクローネは、そう呟く。
僕もクローネの意見には賛成だ……が。
「僕は王様に、ここの王宮生活で辛い時にたくさん救ってもらった……その恩をまだ全部返しきれていない。
アルフ様……王様は、この王国の太陽だと僕は思っている。
だからこのまま何もせずに、太陽を沈ませる訳にはいかない……もし僕の力で王様の命が救われる可能性があるならば、一度、その可能性にかけてみたいと僕は思う。
それに僕の帰郷に反対されているシルヴィス様は、軍をお持ちだ。
シルヴィス様に追われて最終的に捕まるにしても、故郷に辿り着く前に捕まることだけはできれば避けたい。
ただでさえ、僕自身でできることはあまりにも少なく……故郷に帰りたいといつも頭では思っていても、領地を出たこともない僕は、自分1人では帰れない。
多少条件は悪くても、使えるものがあれば、何でも使いたいんだ。
だから王妃様との取引に僕は応じようと思う……それと……」
本心をこれからクローネに告げるため、ここで僕は小さく息を吐いた。
クローネから差し出された王妃からの封書を、以前シルヴィス様がしたように、僕も裏側を確認したり、陽の光にかざしたりしてみた。
「どうされました?」
クローネは首を傾げて、僕に質問する。
「以前、王妃様からの……茶会の招待状を……シルヴィス様が……こうされて……いた……ので」
どうも王妃様の茶会に想起するものを聞くと、言葉が出にくくなってしまうようで、僕は思わず喉を押さえる。
「レンヤード様、大丈夫ですか?」
心配そうに僕を覗き込むクローネに、僕は手を振って大丈夫だと示した。
「ごめん……王妃様の茶会……の……話題になると……まだ……言葉が。
あっ……遅くなったけど……王様が……倒れ……られた時、セリム様と……駆け……つけて……くれて……ありがとう」
クローネは、随分と遅くなってしまった礼にも関わらず、にこやかに受け取ってくれる。
「いえいえ、別れ際のレンヤード様のお言葉に不自然さを覚えまして……兄にも伝えたところ、すぐにでも駆けつけた方がいいと言われました。
それにしても、王妃様の招待状をそれほどシルヴィス様が警戒されるとは、やはり王妃様が……」
クローネが話している途中にも関わらず、真実を伝えるのは今しかないと思い、無礼を承知で僕は口を挟んだ。
「本当は……僕に……出さ……れ……王様が……代わりに」
この真実をやっと言えた瞬間、また自分の喉が見えない手でキュッと絞られたように苦しくなり、僕はゴホゴホと前屈みになり咳き込む。
「無理なさらないでください、レンヤード様!」
僕はクローネの言葉に小さく頷くと、力なく笑みを浮かべ、じっと封書を見つめた。
いつものように一筋の光が唐突に派生し、封書の上を通り抜けると消える……今回はいつまでたっても空中に何も浮かばず、静かなままだった。
シルヴィス様の検分の仕方は真似しただけで、実際に何か仕掛けられているのかどうか僕にはサッパリ分からなかったが、いつものこの方法で何もないことが確認できたため、やっと僕は手紙の封を切る。
ザッと目を通し、一度静かに目を閉じた。
そして再び目を開け、今度は僕が手紙をクローネに差し出す。
「私が読んでもいいのですか?」
僕は大きく頷き、手紙の内容を思い返してみた。
王妃様から提案された内容は、大きく分けると3つだった。
1つめは、僕がもし王様を救命する祈祷を引き受けるならば、帰郷する際、僕の領地の近くにあり、個人の所有地とされているため普段立ち入りが禁止されている、キリルレイルの森と呼ばれている地域を縦断できるよう、許可証を発行すること。
2つめは、森を縦断するには土地勘が必要であることから、森に詳しくそして安全に通行できるよう、護衛としても役に立つ案内人を寄越す用意があること。
3つめは、もし僕の祈祷で王様の意識が回復したら、現在、他の者に管理を任せているキリルレイルの森の所有権を僕に譲るということ。
僕と同じようにサラッと目を通したクローネは、僕に手紙を返しながら、疑問を口にする。
「キリルレイルの森とは……そんなに価値がある場所なのですか?」
僕は小さく頷きながら、北に住んでいないと、あまり聞き慣れない森についてクローネに説明する。
「キリルレイルの森には珍しい品種や貴重な薬草が多く生え、また様々な食用植物や果物があると聞いていて、あの森を所有出来たら、領地は拡大するばかりか森の恵みでかなり潤うと思う。
だけどその反面、森はとても広大で……かなりの土地勘が必要であり、あくまでも噂の範囲だが、どこかの盗賊組織が、その森を活動拠点としているとも聞いているんだ。
北に領地がある者は王都を目指す際、通常はその森に沿うように作られている細い道を使うんだけど、そうすると王都まで大体14日ほどかかる。
しかし王妃様の申し出のように、もし森を縦断できるルートがあったのなら、日程が5日ほど短縮可能だとも言われていて、北の領民にとって、もしキリルレイルの森が個人領でなければ良かったのに……と何度も話題になっているんだ。
それにしても、まさかあの森の所有者が、王妃様だったなんて!」
初めて聞いた真実に、クローネに説明しながら、僕もひどく驚いてしまった。
「交換条件としては良いような……ですが盗賊組織があるとするならば、なかなか難しい土地でもありますね」
僕の説明を懸命に聞いていたクローネは、そう呟く。
僕もクローネの意見には賛成だ……が。
「僕は王様に、ここの王宮生活で辛い時にたくさん救ってもらった……その恩をまだ全部返しきれていない。
アルフ様……王様は、この王国の太陽だと僕は思っている。
だからこのまま何もせずに、太陽を沈ませる訳にはいかない……もし僕の力で王様の命が救われる可能性があるならば、一度、その可能性にかけてみたいと僕は思う。
それに僕の帰郷に反対されているシルヴィス様は、軍をお持ちだ。
シルヴィス様に追われて最終的に捕まるにしても、故郷に辿り着く前に捕まることだけはできれば避けたい。
ただでさえ、僕自身でできることはあまりにも少なく……故郷に帰りたいといつも頭では思っていても、領地を出たこともない僕は、自分1人では帰れない。
多少条件は悪くても、使えるものがあれば、何でも使いたいんだ。
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本心をこれからクローネに告げるため、ここで僕は小さく息を吐いた。
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