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第6章 王宮生活<帰還編>
115、水面下での取引<後>
コンコンコン
突然の入室許可伺いの合図に、僕とクローネは顔を見合わせた。
「お客様にお茶をお持ちしました」
この声はマーサだ!
僕はクローネに頷いてみせると、クローネは扉へ入室許可の声をかける。
「どうぞ、入って」
「失礼します」
マーサは静かに入室して、まずはクローネにお茶の用意をすると、次に僕の目線を捉え、話し始めた。
「まぁ、やはりクローネ様と会われたら、レンヤード様の顔色が明るくなりましたね。
クローネ様のお人柄を信じて、ひとつ、レンヤード様に提案がございます。
よろしいでしょうか?」
何を提案されるのか全く検討がつかなかったが、これまでのマーサの献身から悪い提案ではないと判断し、僕はうんうんと頷き、肯定の意を返した。
「レンヤード様、もう少し体調が戻られ、状況が落ち着いたら、故郷へご静養に行かれませんか?」
僕とクローネは再び顔を見合わせた。
えぇっ!
このタイミングでどういうこと?
僕のひどく驚いた表情を見ると、マーサはフッと笑って、発言の意図を説明する。
「実は王命でございます」
「王命?
倒れられたアルヴィス王から?
それとも今、国王代理を務められているシルヴィス様から?」
僕がまだ、すんなり話すことが難しいことを察してか、代わりにクローネがマーサに問いかけた。
「アルヴィス王からでございます。
倒れられる少し前に、内密で命を受けました。
密命になったのは、シルヴィス様は絶対にレンヤード様を離しはしないだろう、とアルヴィス王が予想されたからでして……私も同じ考えです。
レンヤード様は慣れない王宮生活に少し疲れを感じており、また故郷に何か心残りがあるようだと、アルヴィス王からお聞きしました。
アルヴィス王にレンヤード様を追い出す意図は全くありませんが、もしレンヤード様が望む時には、例えレイラ様やシルヴィス様が反対されようとも、私だけはレンヤード様の味方になり、故郷に帰る手配を速やかに行うように、と命じられております。
具体的な方法は、神官長であるセリム様にも協力を仰いでいるので、セリム様に申し出るように、とも言われました」
アルフ様、僕の願いをきいてくれるどころか、こんな具体的に動いていたなんて…感謝してもしきれない!
僕は心の中で、アルフ様にお礼を言う。
「そうなのね、それならマーサ、早速、手伝ってちょうだい。
そして、兄上に相談しなければ!」
そうクローネは言うと、先ほどの僕の希望をマーサに伝え始めた。
生きる希望が湧いてきたその日から、僕も自身の体調を戻すために、努力を重ねる。
まずは食事量を増やし、起き上がる時間も長くしていき、やがて立てるようになると、歩く練習も始めた。
もちろん監視兼護衛にこの計画を知られる訳にはいかないので、全て寝室内で行い、一歩寝室の外に出ると、僕はこれまで通り、体調不良の振りをする。
時折りクローネは、見舞いと称して僕の寝室を訪れ、僕の回復具合を確認したり、セリム様とのやり取りや外での状況を僕に教えてくれた。
そんなある日、クローネからひとつの申し出を受ける。
「今日は、まず外の状況について、お話ししたいと思います。
王が倒れられてから、3ヶ月が経ちました。
残念ながら、王の意識は回復されておりません。
色んな分野から手を尽くしましたが、とうとう王の主治医から、医療面での治療限界宣言がされました。
国教会が取り組んでいる神力での治療も、皆が全力で行う分、疲弊も著しいようで、なかなか芳しくないそうです。
そんな中、少し前から、どこが出所なのか不明ですが、神の愛し子であるレンヤード様へ祈祷依頼してはどうか?という意見が段々と見受けられるようになりました」
「そうなんだ……」
なんとなく、そういう案が出るであろうことを予測していた僕は、思ったより落ち着いて聞く事ができた。
「幾度となくここ最近の有力案として、レンヤード様の祈祷が提案されましたが、事情を知る者たちがどんなに訴えようとも、国王代理であるシルヴィス様が激怒され、許可が出ることは決してありませんでした。
レンヤード様の負担が大き過ぎ、下手したら命を落とすと危険性があるから、と神官たちからの助言もあり、そのような危険な目に合わすことはできないと、シルヴィス様は、キッパリと跳ねつけられていらっしゃいます」
「あの、兄想いの……シルヴィス様が?」
僕は驚いて声を上げる。
アルフ様への祈祷依頼が僕へと来るとするならば、シルヴィス様からだ、と勝手に思っていたからだ。
「そうです。
例えどんな方が説得に訪れようと、全て拒絶されたそうです。
国王代理のシルヴィス様の許可が出ない以上、この案はなかったものとされていましたが、今回主治医の限界宣言が出たことで、王妃様が半狂乱になられました。
現在、王妃様も容疑者であり、王妃様自身は動けませんが、ここ王宮でアルヴィス王に次ぐ影響力はまだ失われておらず、私がレンヤード様を見舞っていることを知っておられたばかりか、レンヤード様のお望みもご存知でした」
そして、クローネは僕に1通の白い封筒を差し出した。
「何人かの代理人を経て、王妃様からレンヤード様宛ての手紙が、私の手元に届けられました。
ご覧になりますか?」
突然の入室許可伺いの合図に、僕とクローネは顔を見合わせた。
「お客様にお茶をお持ちしました」
この声はマーサだ!
僕はクローネに頷いてみせると、クローネは扉へ入室許可の声をかける。
「どうぞ、入って」
「失礼します」
マーサは静かに入室して、まずはクローネにお茶の用意をすると、次に僕の目線を捉え、話し始めた。
「まぁ、やはりクローネ様と会われたら、レンヤード様の顔色が明るくなりましたね。
クローネ様のお人柄を信じて、ひとつ、レンヤード様に提案がございます。
よろしいでしょうか?」
何を提案されるのか全く検討がつかなかったが、これまでのマーサの献身から悪い提案ではないと判断し、僕はうんうんと頷き、肯定の意を返した。
「レンヤード様、もう少し体調が戻られ、状況が落ち着いたら、故郷へご静養に行かれませんか?」
僕とクローネは再び顔を見合わせた。
えぇっ!
このタイミングでどういうこと?
僕のひどく驚いた表情を見ると、マーサはフッと笑って、発言の意図を説明する。
「実は王命でございます」
「王命?
倒れられたアルヴィス王から?
それとも今、国王代理を務められているシルヴィス様から?」
僕がまだ、すんなり話すことが難しいことを察してか、代わりにクローネがマーサに問いかけた。
「アルヴィス王からでございます。
倒れられる少し前に、内密で命を受けました。
密命になったのは、シルヴィス様は絶対にレンヤード様を離しはしないだろう、とアルヴィス王が予想されたからでして……私も同じ考えです。
レンヤード様は慣れない王宮生活に少し疲れを感じており、また故郷に何か心残りがあるようだと、アルヴィス王からお聞きしました。
アルヴィス王にレンヤード様を追い出す意図は全くありませんが、もしレンヤード様が望む時には、例えレイラ様やシルヴィス様が反対されようとも、私だけはレンヤード様の味方になり、故郷に帰る手配を速やかに行うように、と命じられております。
具体的な方法は、神官長であるセリム様にも協力を仰いでいるので、セリム様に申し出るように、とも言われました」
アルフ様、僕の願いをきいてくれるどころか、こんな具体的に動いていたなんて…感謝してもしきれない!
僕は心の中で、アルフ様にお礼を言う。
「そうなのね、それならマーサ、早速、手伝ってちょうだい。
そして、兄上に相談しなければ!」
そうクローネは言うと、先ほどの僕の希望をマーサに伝え始めた。
生きる希望が湧いてきたその日から、僕も自身の体調を戻すために、努力を重ねる。
まずは食事量を増やし、起き上がる時間も長くしていき、やがて立てるようになると、歩く練習も始めた。
もちろん監視兼護衛にこの計画を知られる訳にはいかないので、全て寝室内で行い、一歩寝室の外に出ると、僕はこれまで通り、体調不良の振りをする。
時折りクローネは、見舞いと称して僕の寝室を訪れ、僕の回復具合を確認したり、セリム様とのやり取りや外での状況を僕に教えてくれた。
そんなある日、クローネからひとつの申し出を受ける。
「今日は、まず外の状況について、お話ししたいと思います。
王が倒れられてから、3ヶ月が経ちました。
残念ながら、王の意識は回復されておりません。
色んな分野から手を尽くしましたが、とうとう王の主治医から、医療面での治療限界宣言がされました。
国教会が取り組んでいる神力での治療も、皆が全力で行う分、疲弊も著しいようで、なかなか芳しくないそうです。
そんな中、少し前から、どこが出所なのか不明ですが、神の愛し子であるレンヤード様へ祈祷依頼してはどうか?という意見が段々と見受けられるようになりました」
「そうなんだ……」
なんとなく、そういう案が出るであろうことを予測していた僕は、思ったより落ち着いて聞く事ができた。
「幾度となくここ最近の有力案として、レンヤード様の祈祷が提案されましたが、事情を知る者たちがどんなに訴えようとも、国王代理であるシルヴィス様が激怒され、許可が出ることは決してありませんでした。
レンヤード様の負担が大き過ぎ、下手したら命を落とすと危険性があるから、と神官たちからの助言もあり、そのような危険な目に合わすことはできないと、シルヴィス様は、キッパリと跳ねつけられていらっしゃいます」
「あの、兄想いの……シルヴィス様が?」
僕は驚いて声を上げる。
アルフ様への祈祷依頼が僕へと来るとするならば、シルヴィス様からだ、と勝手に思っていたからだ。
「そうです。
例えどんな方が説得に訪れようと、全て拒絶されたそうです。
国王代理のシルヴィス様の許可が出ない以上、この案はなかったものとされていましたが、今回主治医の限界宣言が出たことで、王妃様が半狂乱になられました。
現在、王妃様も容疑者であり、王妃様自身は動けませんが、ここ王宮でアルヴィス王に次ぐ影響力はまだ失われておらず、私がレンヤード様を見舞っていることを知っておられたばかりか、レンヤード様のお望みもご存知でした」
そして、クローネは僕に1通の白い封筒を差し出した。
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