「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第7章 喪失との対峙(たいじ)

128、砕けた夢<5>

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 ゴゴッウゥゴウゴウ~
 ザザッア~ザアザアザア~

 一瞬、風がさらに強くなったのかと身構えたが、どうやら音が違うようだ。
 しかも、少し生臭いニオイがする。

 異常はそれだけに留まらず、森の中を駆けていたはずなのに、20歩ほど先には木々が途切れているように見える。
 だが辺りは暗く、正確なところは分からない。

 五感がとらえた数々の異常に、頭の中で警告音が鳴り響き、ついに僕は一旦いったん足を止め、まずは荒い呼吸を整えた。
 しかし、後方から「オメガをさがせぇ~」という鋭い声を耳にし、ソロリ、ソロリと震える足を一歩ずつ前に繰り出す。
 恐怖で全てが麻痺まひする中、唯一できたことは、神へ救いを求めることだった。

 グーノー神よ!
 助けてください!!

 すると……あれだけ暴風が吹き荒れていたのに、ピタリと風が止む。
 それと共に、辺りが少しだけ明るくなった。
 僕は思わず、上を振りあおぐ。

 月だ!
 しかも満月!!

 厚い雲の間から現れた月による明かりは、真っ黒な前方を照らし出してくれたが、現れた光景に僕は絶句する。

 確かに何も見えないはずだ!
 その先に地面はなく崖で、その下には大きな川が横たわっていて……ザアザアという音は風ではなく、大きな岩にぶつかりつつも、流れを止めない激流の音だったのだ。
 真っ白になった頭の中で、告げられた御者の言葉を思い出す。

 確か……安全って言ってなかった?
 しかもこの場所……安全どころか、絶体絶命じゃないか!
 もしかして、わざと正反対のことを言ったのか?

 ここでようやく僕の頭の中で、疑問が一気に吹き出した。

 なぜリリーの兄、マークが馬車の横にいたのか?
 リリーの兄の紹介だというこの御者は、何者なのか?
 なぜ僕がオメガで、この場にいると知られているのか?!

 しかし残念ながら、その答えに至るまでの時間が、僕には許されていなかったようだ。

「いたぞ!あそこだ!」
「この連中より先に捕まえろぉ!」

 叫びの合間に剣が交わる金属音と、何か重たい物がドシンと地面に倒れる音が聞こえ続ける。

「コイツらは素人じゃない!」
「訓練されている……もしや軍の者か?
「気をつけろ……ぐはっ!」

 訓練された?
 軍の者?
 まさか!!

 漏れ聞こえた単語に、思わず後ろを振り返ると、何人かがこちらへ走ってくるのが見えた。

 先頭にいたのは、僕とリリーをジッと見つめていたあの山賊だった。

「ヒッヒッヒッ、逃げても無駄だ!
 この先は崖だ!
 下の川に落ちたら、流れが速いため救助が難しいどころか、どこまでも流され、力尽きて溺れ死ぬだけだ。

 こっちに来い!
 自分から来たら、逃げたことを許し、俺の女にしてやろう!
 なんでも王族に囲われていたオメガだとか……抱き潰して、飽きたら言い値で王族が買い取ってくれるなんて、最高の人質じゃないか!
 早く抱いてみたいものだな」

 この言葉に、僕は吐き気を覚えた。

 ヤツらに捕まったら、きっと目の前にいる1人だけじゃなく、仲間全員を相手することなり……ボロボロになったところで、とんでもない金額を王家に提示するに違いない
 そしてきっと……慈悲深いあの方たちなら、ヤツらの要求を受け入れるだろう

 僕の脳裏に、アルフ様やセリム様……最後に番である、シルヴィス様の顔がゆっくり浮かんで、ふっと消えていった。

「レン……ヤ……ド……」

 その時ふと胸を揺さぶれる、懐かしくも、ずっと恋焦がれた男の声が、僕の名を呼んだ気がした。

 故郷が近いせいか、1番会いたい者の声を最期に聞けるなんて……最高のプレゼントじゃないか!

 僕は目に力を込めると、さらに距離を詰めてきた山賊たちに命令した。

「止まれ!」

 僕の言葉通り、ピタッと山賊たちの足が止まる。

「あっ、足が……」
「動かせない!」
「なんだ?罠か?」

 どういう理由か僕にも分からないが、慈悲深いグーノー神だ……僕の願いを叶えてくれたに違いない

「お前たちの望み通りにはさせない」

 そう言い切った僕の言葉は、足止めされているにも関わらず、山賊たちにせせらわらわれる。

「確かにオレたちも動けないが、オマエの後ろは崖で、動けないのは同じ。
 それに国の軍隊がなぜかここに来ているが、ココを根城ねじろにしているオレたちの方が優勢だ!
 オマエが逃げたとしても、すぐにオレたちが捕まえるさ……最悪、死体でもいいんだからな!」

 月明かりだけでは、遠くで行われているであろう、軍と山賊との戦闘状況は分からない。
 だが山賊に、地の利があるのは確かなことだった。

 やはり軍隊が来ているのか……そんなコトができるのは、アルフ様?
 それともシルヴィス様?

 どちらにせよ、ここで山賊に捕まり、彼らに、さらなる迷惑はかけられない

「どうかな?
 この高さから飛び降りたら、死体はあがってこないじゃないのかな。
 地元なら有名な場所だ……ここは『あがらぬ崖』だと」

 そう僕は山賊に言い聞かせると、身を空中へ投げ出すため、ためらいなく前へ踏み出した。

「やめろ~ぉ!」
「何やってるんだ!!」

 へぇ~、山賊でもそんなに慌てた声を出せるんだ

 最期に笑えたことが、僕にとって救いになった。
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