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第7章 喪失との対峙(たいじ)
127、砕けた夢<4>
ザワワワッ~ザワザワッ~
ビューッ~ビュビュビュビュ~
相変わらず風は強い。
時折り突風が吹き荒れ、気を抜くと身体ごと風に攫われそうだ。
辺りは暗いので視界まで奪われたくなくて、自然と目の前に手をかざしながら黙って歩き続ける。
「レンヤード様、大丈夫ですか?」
進んで僕の前を歩く方が大変なのに、僕への気遣いを忘れず、定間隔で声をかけてくれるリリーに、僕は心から感謝した。
「大丈夫だよ!
気遣ってくれてありがとう。
それより、今日のご飯は何かなぁ?」
領地ごとに特産品が違うため、同じ料理名でも使用される食材や味付けは全く違う。
けっして華美ではなかったが、心込めて作ってくれた、教会でいただく食事は、あまり前向きとはいえないこの旅の中で、僕たちの身も、心も温めてくれた。
「この旅でいただいた、どの食事も美味しかったですよね」
笑いを含んで明るく答えてくれたリリーだったが、突如として、その声音が硬いものへと変わる。
「一度止まりましょう、レンヤード様」
リリーの忠告に、浮上していた気分も一瞬で消えた。
ガサリ、ガサリと気配を隠そうともせず、まるで僕たちに聞かせるように、暴風で木から落ちた葉を踏み締める音が聞こえる。
「前方から……かなりの人数です」
身じろぎもせず、周囲の集音作業に徹していたリリーから、静かに告げられた。
やはり出たか!
昏い諦念が僕の胸を塞ぐと同時に、月明かりに照らされ、前方からふわりふわりといくつもの影が浮かび上がってくる。
ガサッザッザッザザッ
ガザガザッガザッザザッ
見渡す限り何十人もおり、人垣ができていた。
対するこちらは……僕とリリーだけ。
相手は状況的に有利だと確信しているようで、誰1人顔を隠そうともせず、皆一様に、ニヤニヤとしていた。
全員が剣帯し、背も高く、体格が良い。
少し薄汚れているものの、身なりからこの地を拠点とする山賊か?
いくらリリーが武術の心得があるといっても、女性でこの人数を倒すのは難しいだろうし……僕はハッタリだけは利かせられるが、実戦の戦闘能力は、ほぼない
冷静に考えれば考えるほど、僕たちは目まいがするほど、不利な立場だった。
「半信半疑だったが、どうやらアノ情報は正しかったようだ」
最前列の男の1人が、僕たちの顔を交互にジィッと見つめながら、ニィ~ッと口角を釣り上げる。
情報?
男の言葉に意識が反応したが、リリーからの呼びかけに、僕の注意対象が切り替わった。
「レンヤード様、ここは私が食い止めます!
来た道をお戻りに!
御者に助けを求めてください」
僕も一緒に闘う!!
そうすぐに返せるほど、自分に実力があればどれほど良かったことか!
現状残念ながら、そこまでの戦闘能力は僕にはない……
力になるどころか、むしろ足手まといでしかない自分の実力に、何回味わっても慣れない鈍い痛みが僕の胸を貫き、リリーへの返事が一瞬遅れた。
「早く!」
動こうとしない僕に、リリーは尖った声で督促する。
「わっ……わかった!」
リリーの声で我に返った僕は、無力という重い鉛を無理矢理飲み込んで返事をし、クルリと身を翻して、歯を食いしばりながら、来た道を全速力で引き返した。
「追え!
1人逃げたぞぉ~!!」
山賊たちが騒ぎ出し、僕の背中から大勢の足音が続くのが聞こえたが、大声でさらに言われた内容に、僕は動揺を隠せず、グラリと右に身体が傾く。
「捕まえろぉ~!
アイツはオメガだ!
捕まえたら抱いてもいいが、殺すな!
なんでも王族にそのオメガを売ったら、高く買い取ってくれるそうだぁ~!」
なんてことだ!
山賊は通りすがりの旅人を狙った訳ではなく、僕のことを知った上で、待ち構えていたのだ!
衝撃の事実に足まで止まりそうになるけれど、捕まったら最後、王家に迷惑がかかるので、僕は必死に走った。
ハッハッハッと大量に空気を取り入れながら走り続けると、やがて僕たちが乗っていた馬車が見え、その傍らには御者と、なぜかリリーの兄、マークが立っている。
平常時なら、別れたはずのリリーの兄マークがなぜここにいる?と、疑問が浮かぶのだが、この時はリリーと別れて孤立無援の中、見知った顔が1人増えたことで、純粋に僕は嬉しいと思ってしまい……2人との距離が段々と近づくにつれ、僕は大声で助けを求めた。
「助けてください!
山賊に追われています!
リリーも後方で1人戦っています!」
「何!リリーが!!
俺は助けに行く!」
マークはそう言うと、すぐさま僕とすれ違い、走っていく。
御者はマークの姿を見送りながら、僕から向かって左方向を指差すと、叫んで教えてくれた。
「ここは私に任せて、こちらの道へ行け!
安全なはずだ!」
余裕がない僕は無言のまま、指し示された左方向に曲がる。
その先は森の中に続いていて、背の高い草がわずかに倒れて獣道になっていた。
退路がない僕は、草むらをかき分けながら、迷いなく飛び込む。
「待て~!逃すなぁ~!
わぁ!なんだ!お前たち!!」
キーン!カキーン!ガッ!
ブンッ!ザシュッ!ガキィーン!
「「うわぁ!ああぁぁぁ~っ!」」
「お前たちが山賊か!」
「「誰だぁ~!何者だぁ~!」」
「倒せ~ぇ!」
急に剣同士が激しく交わる金属音と、立て続けに上がる野太い悲鳴が響き渡る。
何が起こっている?
振り向きたいが逃げる速度を落としたくない僕は、疑問も何もかも振り捨てて、もつれそうになる手足を必死に動かし続けた。
ビューッ~ビュビュビュビュ~
相変わらず風は強い。
時折り突風が吹き荒れ、気を抜くと身体ごと風に攫われそうだ。
辺りは暗いので視界まで奪われたくなくて、自然と目の前に手をかざしながら黙って歩き続ける。
「レンヤード様、大丈夫ですか?」
進んで僕の前を歩く方が大変なのに、僕への気遣いを忘れず、定間隔で声をかけてくれるリリーに、僕は心から感謝した。
「大丈夫だよ!
気遣ってくれてありがとう。
それより、今日のご飯は何かなぁ?」
領地ごとに特産品が違うため、同じ料理名でも使用される食材や味付けは全く違う。
けっして華美ではなかったが、心込めて作ってくれた、教会でいただく食事は、あまり前向きとはいえないこの旅の中で、僕たちの身も、心も温めてくれた。
「この旅でいただいた、どの食事も美味しかったですよね」
笑いを含んで明るく答えてくれたリリーだったが、突如として、その声音が硬いものへと変わる。
「一度止まりましょう、レンヤード様」
リリーの忠告に、浮上していた気分も一瞬で消えた。
ガサリ、ガサリと気配を隠そうともせず、まるで僕たちに聞かせるように、暴風で木から落ちた葉を踏み締める音が聞こえる。
「前方から……かなりの人数です」
身じろぎもせず、周囲の集音作業に徹していたリリーから、静かに告げられた。
やはり出たか!
昏い諦念が僕の胸を塞ぐと同時に、月明かりに照らされ、前方からふわりふわりといくつもの影が浮かび上がってくる。
ガサッザッザッザザッ
ガザガザッガザッザザッ
見渡す限り何十人もおり、人垣ができていた。
対するこちらは……僕とリリーだけ。
相手は状況的に有利だと確信しているようで、誰1人顔を隠そうともせず、皆一様に、ニヤニヤとしていた。
全員が剣帯し、背も高く、体格が良い。
少し薄汚れているものの、身なりからこの地を拠点とする山賊か?
いくらリリーが武術の心得があるといっても、女性でこの人数を倒すのは難しいだろうし……僕はハッタリだけは利かせられるが、実戦の戦闘能力は、ほぼない
冷静に考えれば考えるほど、僕たちは目まいがするほど、不利な立場だった。
「半信半疑だったが、どうやらアノ情報は正しかったようだ」
最前列の男の1人が、僕たちの顔を交互にジィッと見つめながら、ニィ~ッと口角を釣り上げる。
情報?
男の言葉に意識が反応したが、リリーからの呼びかけに、僕の注意対象が切り替わった。
「レンヤード様、ここは私が食い止めます!
来た道をお戻りに!
御者に助けを求めてください」
僕も一緒に闘う!!
そうすぐに返せるほど、自分に実力があればどれほど良かったことか!
現状残念ながら、そこまでの戦闘能力は僕にはない……
力になるどころか、むしろ足手まといでしかない自分の実力に、何回味わっても慣れない鈍い痛みが僕の胸を貫き、リリーへの返事が一瞬遅れた。
「早く!」
動こうとしない僕に、リリーは尖った声で督促する。
「わっ……わかった!」
リリーの声で我に返った僕は、無力という重い鉛を無理矢理飲み込んで返事をし、クルリと身を翻して、歯を食いしばりながら、来た道を全速力で引き返した。
「追え!
1人逃げたぞぉ~!!」
山賊たちが騒ぎ出し、僕の背中から大勢の足音が続くのが聞こえたが、大声でさらに言われた内容に、僕は動揺を隠せず、グラリと右に身体が傾く。
「捕まえろぉ~!
アイツはオメガだ!
捕まえたら抱いてもいいが、殺すな!
なんでも王族にそのオメガを売ったら、高く買い取ってくれるそうだぁ~!」
なんてことだ!
山賊は通りすがりの旅人を狙った訳ではなく、僕のことを知った上で、待ち構えていたのだ!
衝撃の事実に足まで止まりそうになるけれど、捕まったら最後、王家に迷惑がかかるので、僕は必死に走った。
ハッハッハッと大量に空気を取り入れながら走り続けると、やがて僕たちが乗っていた馬車が見え、その傍らには御者と、なぜかリリーの兄、マークが立っている。
平常時なら、別れたはずのリリーの兄マークがなぜここにいる?と、疑問が浮かぶのだが、この時はリリーと別れて孤立無援の中、見知った顔が1人増えたことで、純粋に僕は嬉しいと思ってしまい……2人との距離が段々と近づくにつれ、僕は大声で助けを求めた。
「助けてください!
山賊に追われています!
リリーも後方で1人戦っています!」
「何!リリーが!!
俺は助けに行く!」
マークはそう言うと、すぐさま僕とすれ違い、走っていく。
御者はマークの姿を見送りながら、僕から向かって左方向を指差すと、叫んで教えてくれた。
「ここは私に任せて、こちらの道へ行け!
安全なはずだ!」
余裕がない僕は無言のまま、指し示された左方向に曲がる。
その先は森の中に続いていて、背の高い草がわずかに倒れて獣道になっていた。
退路がない僕は、草むらをかき分けながら、迷いなく飛び込む。
「待て~!逃すなぁ~!
わぁ!なんだ!お前たち!!」
キーン!カキーン!ガッ!
ブンッ!ザシュッ!ガキィーン!
「「うわぁ!ああぁぁぁ~っ!」」
「お前たちが山賊か!」
「「誰だぁ~!何者だぁ~!」」
「倒せ~ぇ!」
急に剣同士が激しく交わる金属音と、立て続けに上がる野太い悲鳴が響き渡る。
何が起こっている?
振り向きたいが逃げる速度を落としたくない僕は、疑問も何もかも振り捨てて、もつれそうになる手足を必死に動かし続けた。
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