王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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激動! 体育祭!

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どうせ濡れてしまったのだから、と中庭で軽く水を浴びることにした。著名なガーデンデザイナーの作ったという中庭は、中央に噴水が置かれ四季折々の景色を楽しめる。地面はなんかすごいよくわからんけどおしゃれな模様が石畳によってつくられている。

「ふぅー、べたべたー」

噴水の水はいつだって新しいものが供給され、綺麗だ。軽く顔と髪を洗い流し、周囲に誰もいないのを確認して服ごと水に飛び込んだ。

冷たくて気持ちいい。今日は初夏にしては気温が高く夏の様相を呈していて、昼にかけてさらに上がるらしい。水浴び程度なら風邪も引かんだろう。

体のベタつきを落とし、ざばんと噴水から上がる。この中庭は今日誰も用事がなく、訪れることはない。

庭園につけられたガゼボに移動し、カバンの中に入れておいたタオル──昔持ってきてたのをそのまま入れてた──を取り出して体を拭き、上を脱ぐ。

「はっ……しょぉい!!!!」

いっけね、くしゃみくしゃみ。
体操服の上部分を脱いだまま力を入れて絞る。いやぁ、こんなところ誰かに見られたら──

「いけん、遅刻や! グラウンドはこっちでおうちゅー……の……」
「え」

人権剥奪デッドエンドです田中宗介の転生先にご期待ください。
ひょっこりと現れたイブキに思わず固まる。開会式の時いないと思ったら!!

「そっ、なんっ……」
「す、すけべ!!」

あーもう混乱で訳のわからんことを口走ってしまった。別に減るものではないのだし、ここで着替えてた俺の方が悪いんだが。
濡れた体操服を引き寄せて体を隠す俺に、相変わらずの学ランを着たイブキががちんと固まる。おっ?

「わっ、わしゃなんちゃあ見ちょらん! うそじゃ、ちっくと見た。すぐ忘れる! それで許いてくれ!」
「えっ?」
「店員サンも不用心やろう! 男は狼言うがやき、そがな場所で着替えると、危ない目に遭うんやないか」

何だこの童貞マシマシの反応。コッテリ系ラーメンか? 童貞マシマシウブさマシマシなのか?
イブキは慌てて顔を手で覆っており、その割に指の隙間からチラチラとこちらを伺っている。耳も首も真っ赤っかだ。
別に着替えの最中くらい見られようとどうでも良いんだが。男同士だし。

(まぁでもここで着替えてたのバレたら怒られそうだからなー)

「じゃあ人来たら教えてください」
「は!? まだ着替えるがか!?」

当たり前だろ競技の時間迫ってんだから。
濡れた体操服を絞って畳む。体を軽くタオルで拭いて、武藤様が渡してくれたジャージを頭から被った。
さすがは武藤様、良い素材を使っている。素肌にジャージの割にあんまり違和感とかチクチク感がない。

「店員サン、この学校やったのか」

気付いてなくてあんな煽ったん?
イブキの呆然とした声にため息を吐く。

「そォですよ。喫茶店はバイトです。ちょっと、もう目逸らさなくて良いですけど」
「わ、悪い。なんか上手う見れいで」

ビニール袋に濡れた体操服を無理やり詰め込んで鞄を持つも、イブキはその場から動かず顔だけ向こうのほうに逸らしていた。
こいつまさか童貞だな?
だとしたら花音さんたちへの距離感詰めも悲しき童貞仕草ってことか

「童貞じゃないけども。あんたが綺麗な顔しゆーき、悪いことして気分になるだけやき、誤解せんでほしい」

童貞ではなかった。この面では俺こいつに負けてるのめちゃくちゃ腹立つな。

「ふーん? ま、勝手にすれば良いですけど。それで? 用事あったんじゃないんですか?」
「や、グラウンドに」
「反対方向ですよ」

俺の顔が悪い部類ではないのは重々承知の上である。なにしろミスコン常勝人間の姉とそっくりなのだから。

首まで真っ赤にしているイブキに近付き頬を突くと、目をギュッと閉じて後退してしまった。

多分いつもはここまで意識しないのだろうが、今回ばかりは着替えている最中に来たという負目があってこれなのだろう。愉快痛快である。

「男は狼って言うんなら、貴方が教えてくれても良いんですよ? イブキさん」
「っな、意味わかって言いゆーのか!」
「ウソに決まってるでしょ。冗談通じないな」
「な、な~~!!」

肩をすくめる。そろそろ競技が始まる、イブキに構っている暇などないのだ。
俺はイブキの脇をすり抜け運動場に向かおうとして、一瞬足を止める。

「まぁ、重々承知しておきますよ。ってね」

そんで、知らないお前によくよく教え込んでやろう。動物の躾は得意じゃないけど、人間の躾は痛みが必要らしいし。

少し振り返れば、イブキのゴワゴワした黒い髪が静かに初夏の風へ靡いていた。
表情を確認することもなく、俺は視界から男の姿を外す。だって、どんな顔をしていようと関係がないのだし。
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