王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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密着! 夏休み旅行!

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「ごめんごめんごめんごめん」
「許さん」
「あとでアイス買ってくるな、なにがいい?」
「ハピっこ……」

30分きっちり湯に浸かったイブキが、体を真っ赤にしてぐったりしている。迎えに来なかったので上がれなかったのだろう。のぼせてしまって……

「よい、しょっと」

脇の下と膝裏を持ち、ゆっくりと抱え上げる。ヒートショックを起こしたら良くないからね。あれヒートショックって言うんだっけ?
イブキは俺より身体が大きいのだが、それと俺が抱えきれないかは別問題だ。

「怪力すぎんか」
「小生意気言うなぁ」

体育祭で俺と接戦だったくせに。しっかり使うための筋肉がついているから、イブキの体は少し重い。よろけないように細心の注意を払いながら洗面所の方に出る。

「“揺れ”が無い……ゴリラ?」

ちなみにこの家、浴槽も広ければ洗面所も広い。何故か三畳くらいある。鏡の前に置いてある椅子に座らせた。地肌なのは……まぁ気にしないでもらって。

「はい、濡れタオル。冷たいぞ」
「ん」

ひんやりしたタオルを顔に当ててやる。イブキに渡して、俺は一旦リビングの方に引っ込む。

「どうした」
「イブキがのぼせてて……」
「脱水ありそうか? 冷蔵庫麦茶あんぞ」
「完全栄養ドリンクだ。もらってく!」

今はなにやらパソコンで生徒会業務をこなしているらしい武藤様が、ボールペンの尻部分でぺっと冷蔵庫を指す。見えちゃったんだけど武藤様って演説の原稿とか書く時に一旦アナログで構成考える人なんだ。丁寧だな。毎回黄色い悲鳴で話になってないのに。

(今度からちゃんと聞こう……)

壇上に立つ武藤様の美しさやカリスマにめろめろになってる場合ではない。推しが頑張っているのだから。

武藤様謹製の濃いめ麦茶をデカめのコップに注ぎ、ピャッと洗面所に戻った。

「ゆっくり飲めるか? ほら麦茶」
「おん……」

その図体に見合わず縮こまってくぴくぴと飲み始めるイブキは、のぼせも結構引いたようで先ほどよりは体も熱くない。
全部飲み終わったら服着せるか、流石に。

「ごめんな、これは俺が悪いわ。湯冷めしたらいけないから体拭くぞ」
「!?!? や、やめんか! 自分で出来るき!」
「そうか? じゃあ髪だけ」

やっぱ距離感異常だったか? でもこいつ昔イブキ派の人間に身体のお世話たいていさせてたよな。何で俺はダメなんだよ。ケアさせろや。
麦茶を飲み終わったイブキがガシガシと肌を擦る。

「お前自分で思ってるより敏感肌だから擦るとあとでよくないことになるぞ」
「あんたの言う“ようない”ってピンキリすぎてようわからん」
「爪伸びてた状態で農業させたのまだ怒ってんのか?」
「根に持つ」

俺はちゃんと良くないって言っただろ。
イブキは力があるので、旧校舎にいた短い間は畑仕事に出てもらったのだが、爪が伸びたまましようとするから止めたのだ。
『ようない、程度ならえいろいいだろ』と言って意気揚々と鍬を振るい、爪が割れたのだ。

「喧嘩で負うより痛かったがじゃ」
「こういう怪我ってじわじわと痛いよな。手つきが丁寧になってるけど、今回の良くない、はなんだと思った?」
「皮膚が剥ける」
「あっはは! そりゃ痛い」

喧嘩で負うより痛いというか、イブキが早々怪我しなくても良くなったから、体の痛み耐性が戻ってきているのだろう。と思ったが言わない。そんなこと言ったら弱なったとか訳の分からんことを言って怪我しに行くに決まっているので。

(実際、旧校舎のやつに手を出そうとする生徒は多いしな)

ここ最近は朝から晩まで獅童くんがあの辺りをちょろちょろしており、侵入者がいたら捕まえて進路指導室に朝までぶち込んでいる。その間に前科を精査すれば出るわでるわ。

虐げていい存在が取り上げられかけた時、人間は目も当てられないほど醜い焦り方をする。イブキは今までそんな連中から彼らを守る為に一人で喧嘩に明け暮れていたのだろう。

(……ま、うちにはワンちゃんもいるからな)

だんだん存在に慣れてきたあの四つん這い生徒たちは今日も四つん這いである。常人の走るスピードよりはるかに早く走るので体育教師が困惑していた。
夜の間はあの人たちを旧校舎付近の山に放っているので、獅童くんの休息も取れて安全なのだ。

ただ一つ困ったことは。

「……うん、タオルドライおっけー! ほらほら服着て。俺は──」

来客を知らせるチャイムが鳴った。こんな夜に呼び鈴を鳴らすなんて、俺の客しかいないだろう。

「ちょっと出てくる。アイスはハピっこで良い?」
「おん」

服を着はじめた──こいつ毎回靴下から履くけどなんか意図あんのかな──イブキに笑いかけ、爆速で玄関まで早歩き。ちなみに武藤様は微動だにしていない。一回このチャイムにことがあるからだろう。

ふぅ、とため息をつきいつもの仮面を被る。玄関の内鍵をガチャリと開けた。

「はーい」
「きゅうん……」

あーーーーやっぱりねーーーー
別の人であってくれれば良いと思ったが、まぁこの人(?)らだろうなーーーー
四つん這いになった体の大きい生徒が、もう一人ボロボロの誰かの首根っこを噛んでぐい、と見せつけてきた。

イブキ派の生徒ではない彼の傷をサッと検分すると、人間の噛み跡や引っ掻き跡が多数散見される。警備に見つかったのか。

何故か四つん這い六人衆は山歩きが引くほど上手い。山で彼らに見つかって逃げ切れる存在はいないだろう。

「さっき捕まえたの~? 誰かに手出そうとしてた感じ? ……ああほんとだ、懐の写真、これイブキ派の子だね。凶器も隠し持ってら。こりゃ~黒だ、拘束して、生徒会指導室にぶち込んでおいて~」
「わん!」
「朝になったら処分するから~」

こういう奴は、余罪を調べて然るべき処分を下さなければならない。まぁ、凶器を持ち込もうとした時点で停学は免れないのだが。こいつは調べれば退学くらいまで追い込めそうだな。

困ったこと──それは、四つん這い六人衆が生徒を捕まえた時、昼夜問わず褒められにくることである。
飼い主に狩りの成果を見せつけるかのように。

「うんうん、良くやったね! 優秀な子で、おれはうれしいよ~」
「わん! わんわん、きゅう~ん!」
「うれしいね~ほらハムあげるね~」
「わふっ!」

だんだん制服がボロくなっていく。この人はいつ人間の尊厳を取り戻すのだろう。獅童くんも若干引いてたぞ最近。『なんかほんまに生きがいになってきとるっぽいすね』とか言ってた。マジの自由意志でこれしてるの?

しかし、こんなところ他人に見られたら俺の人権も消失しちゃうよまったく──

「……田中宗介?」
「」

レギュレーションはAny %バグ使用可、最大手ゲーム『人生』・これにて俺の人権死亡!!!! お疲れ様でした!!!!
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