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密着! 夏休み旅行!
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というわけで、いつも通りイブキは丸洗いしなければならない。食べ終わった食器を洗って水切りカゴに置いていたイブキを風呂場から呼ぶ。
「イブキー! ほらおいで、風呂入るぞ」
「犬みたいに呼ぶんやめてくれんか」
お前が野生動物みたいに風呂を嫌わなくなったらな。洗い物は終わったらしく、お湯の確認をしていた俺の元へイブキがやってくる。
寝巻きの、肌触りのみを追求された簡素なスウェットだ。元々は制服で寝ようとしてたイブキを見て、武藤様と相談のもと買ってやった奴である。
「……うん、温かいな。そこにコップあるから飲んでからおいで」
「女子か」
「聞こえてるからな」
げ、と顔を顰めたイブキだが、素直に置いておいたスポーツ飲料は飲み込んだ。風呂って水分失うからな。
お湯の温度は四十度。我が実家はいつもこの温度だったので──温度調整のデフォルトが四十度だったからかもしれん──なんとなくこの温度になってしまう。
「ある程度浸かったらまたくるから」
「物好きなやっちゃのう……」
「だって磨けば磨くほど光るし……」
イブキは物凄い。
最初に来た時なんてどこからついてきたのか砂まみれ、風呂に入っていない男の匂いがしてなんか臭いし肌はガサガサで髪もゴワゴワ。
顔ばかりは確かに男前だが、それにしたって爪もなんか割れてるし(これは喧嘩をする上で仕方ないかも知れないが)、自分の手入れが壊滅的にできていなかった。
しかしどうやら代謝がいいらしく、磨けば磨くほど成果が如実に現れていた。ここ最近は旧校舎の面々からも「さらに美しくなった」と好評である。
「あっ、武藤様」
「その呼び方固定なんか」
「今更すぎない? 許容してよ、こっちはオタクなんだから」
「ふてぶてしいオタクもいたもんだな」
何なら敬語も使いたいほどだが、同居生活ももう三ヶ月を超えた。流石にタメ口も板についてきている。
「てか何してんの。宿題? うわ、英語宿題出んのか。やだな俺のクラス明日じゃん……」
「……前から思ってたが……」
ダイニングテーブルでいつも通り勉強する武藤様に絡みに行けば、なんとなく呆れた顔をされる。えっ何? ウザかった? 言ってよ~コミュ障は他人との距離感バグってるんだぞ。タメ口聞けるだけで距離を詰めてくるんだぞマジで……
「口調、何で変えてんだ」
「えっ」
「外だとお前、間の抜けた話し方だろ。気色悪ィ」
酷い言い草である。
「そんなこと言われても……てかあの口調結構好評なんですけど!」
「そんで嘘の噂が流れたらどうしようもねぇだろ」
「う、嘘って……」
「三ヶ月毎日律儀に帰宅するヤツがふらふら浮き名を流せるかよ」
「はい」
そりゃそうだ。武藤様、俺の噂についても覚えてくれてたのか。まぁでも俺二年の言動で最初嫌われてたしな──今は違うことを祈ってるけど
「おいおい、不安そうな顔すんなよオタク。今はおもしれー奴くらいは思ってんだぜ?」
「俺M-1とか出れないけど……ぼっちだし」
「誰が笑いの道を追求しろとか言ったよ。だとしてもやる気ないならやるな」
やる気がないとかではない。武藤様がお望みなら懸命に努力し二十年や三十年他人を笑わせることに尽力するつもりだ。
「芸人ってのは自分のことをおもしれーと勘違いできる奴だけ生き残るんだ」
何で武藤様こんな芸人に詳しいんだ。
そういえばこのひとこの前お笑い番組見て新人芸人にわちゃわちゃ言ってたな。好きなのかな。
「ウチの双子のうち桜の方が好きでな。影響されたんだよ」
「い、意外なチョイス。そういえば幼馴染なんだっけ……椿様も好きなの?」
「椿も様付けなのかよ。ちなみにあいつは特に好きでもない」
それっぽいっちゃぽいけど双子なのに武藤様の方が影響されてるんだ。なんか可愛いな。
双子というか、生徒会の執行部は基本幼馴染だ。
皆最上流階級の出身、俺のような親が成金だという家は本来口すらきけない、血筋のしっかりしたお家。
そんな方々もお笑いとか見るのか。ほんのりとテレビとか見ずに初詣や諸々の儀式をなんか行なってるんだと思った。何の儀式とかの構想はない。
「大晦日のあの……笑ったらしばかれる奴が無くなったのは納得がいかねぇ」
「悩み庶民的だな!」
ちょっとわかる。俺もあれが無くなった時はかなりショックを受けたし、いまだに復活を望んでしまう。
「あれ? でも、それこそお金と権力で何とかしちゃえば良くね? ダメなん?」
「フランクに金と権力を使うんじゃねぇ。あとなんかそういう……外圧によってできるのってなんか違う」
「ああ」
「お笑いは自由でなきゃいけねぇんだ」
思想ちょっと強めだな。言いたいことはわかるけど。苦笑すれば、熱く語ったのが恥ずかしかったのか少し頬を染めてじっとりと睨まれる。うわーーなんか可愛い顔するなこの人。狂わせられちゃうからやめてほしい。
「んだよ」
「いやいや、何でもないよ。強いていうなら武藤様の事が知れて嬉しいだけ」
「あ? オタクなら別に調べりゃわかる」
「武藤様の口から聞きたいんだよそういうことは」
わかんないかなぁ! 推しの口から語られる推しの推し、良すぎるので。そういうことを言ったらキモ……みたいな顔をされた。キモくはないが。
「てかいいのかよ、アイツは」
「えっ、ああ!!」
やばい、30分くらい経ってる。思ったより話し込んでるんだけど。今頃茹だってるかもしれん!
「イブキー! ほらおいで、風呂入るぞ」
「犬みたいに呼ぶんやめてくれんか」
お前が野生動物みたいに風呂を嫌わなくなったらな。洗い物は終わったらしく、お湯の確認をしていた俺の元へイブキがやってくる。
寝巻きの、肌触りのみを追求された簡素なスウェットだ。元々は制服で寝ようとしてたイブキを見て、武藤様と相談のもと買ってやった奴である。
「……うん、温かいな。そこにコップあるから飲んでからおいで」
「女子か」
「聞こえてるからな」
げ、と顔を顰めたイブキだが、素直に置いておいたスポーツ飲料は飲み込んだ。風呂って水分失うからな。
お湯の温度は四十度。我が実家はいつもこの温度だったので──温度調整のデフォルトが四十度だったからかもしれん──なんとなくこの温度になってしまう。
「ある程度浸かったらまたくるから」
「物好きなやっちゃのう……」
「だって磨けば磨くほど光るし……」
イブキは物凄い。
最初に来た時なんてどこからついてきたのか砂まみれ、風呂に入っていない男の匂いがしてなんか臭いし肌はガサガサで髪もゴワゴワ。
顔ばかりは確かに男前だが、それにしたって爪もなんか割れてるし(これは喧嘩をする上で仕方ないかも知れないが)、自分の手入れが壊滅的にできていなかった。
しかしどうやら代謝がいいらしく、磨けば磨くほど成果が如実に現れていた。ここ最近は旧校舎の面々からも「さらに美しくなった」と好評である。
「あっ、武藤様」
「その呼び方固定なんか」
「今更すぎない? 許容してよ、こっちはオタクなんだから」
「ふてぶてしいオタクもいたもんだな」
何なら敬語も使いたいほどだが、同居生活ももう三ヶ月を超えた。流石にタメ口も板についてきている。
「てか何してんの。宿題? うわ、英語宿題出んのか。やだな俺のクラス明日じゃん……」
「……前から思ってたが……」
ダイニングテーブルでいつも通り勉強する武藤様に絡みに行けば、なんとなく呆れた顔をされる。えっ何? ウザかった? 言ってよ~コミュ障は他人との距離感バグってるんだぞ。タメ口聞けるだけで距離を詰めてくるんだぞマジで……
「口調、何で変えてんだ」
「えっ」
「外だとお前、間の抜けた話し方だろ。気色悪ィ」
酷い言い草である。
「そんなこと言われても……てかあの口調結構好評なんですけど!」
「そんで嘘の噂が流れたらどうしようもねぇだろ」
「う、嘘って……」
「三ヶ月毎日律儀に帰宅するヤツがふらふら浮き名を流せるかよ」
「はい」
そりゃそうだ。武藤様、俺の噂についても覚えてくれてたのか。まぁでも俺二年の言動で最初嫌われてたしな──今は違うことを祈ってるけど
「おいおい、不安そうな顔すんなよオタク。今はおもしれー奴くらいは思ってんだぜ?」
「俺M-1とか出れないけど……ぼっちだし」
「誰が笑いの道を追求しろとか言ったよ。だとしてもやる気ないならやるな」
やる気がないとかではない。武藤様がお望みなら懸命に努力し二十年や三十年他人を笑わせることに尽力するつもりだ。
「芸人ってのは自分のことをおもしれーと勘違いできる奴だけ生き残るんだ」
何で武藤様こんな芸人に詳しいんだ。
そういえばこのひとこの前お笑い番組見て新人芸人にわちゃわちゃ言ってたな。好きなのかな。
「ウチの双子のうち桜の方が好きでな。影響されたんだよ」
「い、意外なチョイス。そういえば幼馴染なんだっけ……椿様も好きなの?」
「椿も様付けなのかよ。ちなみにあいつは特に好きでもない」
それっぽいっちゃぽいけど双子なのに武藤様の方が影響されてるんだ。なんか可愛いな。
双子というか、生徒会の執行部は基本幼馴染だ。
皆最上流階級の出身、俺のような親が成金だという家は本来口すらきけない、血筋のしっかりしたお家。
そんな方々もお笑いとか見るのか。ほんのりとテレビとか見ずに初詣や諸々の儀式をなんか行なってるんだと思った。何の儀式とかの構想はない。
「大晦日のあの……笑ったらしばかれる奴が無くなったのは納得がいかねぇ」
「悩み庶民的だな!」
ちょっとわかる。俺もあれが無くなった時はかなりショックを受けたし、いまだに復活を望んでしまう。
「あれ? でも、それこそお金と権力で何とかしちゃえば良くね? ダメなん?」
「フランクに金と権力を使うんじゃねぇ。あとなんかそういう……外圧によってできるのってなんか違う」
「ああ」
「お笑いは自由でなきゃいけねぇんだ」
思想ちょっと強めだな。言いたいことはわかるけど。苦笑すれば、熱く語ったのが恥ずかしかったのか少し頬を染めてじっとりと睨まれる。うわーーなんか可愛い顔するなこの人。狂わせられちゃうからやめてほしい。
「んだよ」
「いやいや、何でもないよ。強いていうなら武藤様の事が知れて嬉しいだけ」
「あ? オタクなら別に調べりゃわかる」
「武藤様の口から聞きたいんだよそういうことは」
わかんないかなぁ! 推しの口から語られる推しの推し、良すぎるので。そういうことを言ったらキモ……みたいな顔をされた。キモくはないが。
「てかいいのかよ、アイツは」
「えっ、ああ!!」
やばい、30分くらい経ってる。思ったより話し込んでるんだけど。今頃茹だってるかもしれん!
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