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密着! 夏休み旅行!
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カフェオレの甘く、しかし確かにコーヒーの混ざった香りがふわりと鼻腔をくすぐる。ゆっくりとアイスカフェオレを一口飲み、生真面目さの宿る丁寧な手つきで元あった場所へとグラスを戻す。
……少し持ち上げ、また戻す。また持ち上げ、戻す。
持ち、戻し、持ち、戻し、持ち、戻し。
「……お客様。先ほどから二十分は繰り返しておられますが」
「待て。まだこの……完全に元の場所へと戻せていない!! クソ、なぜこのサークルからズレが発生するのだ……!!」
「オメーーが二十分もうだうだやってっから結露で新しくサークル出来てんだよ」
「ん?」
「何でもありません~」
──丁寧すぎる手つきである。
ちなみに可哀想なカフェオレはまだ一口ほんのりと飲まれただけだった。
店員としてはここまで気難しい上に訳の分からないことをしている客からは離れ、好きにさせておきたかったが。
試しにソッ、とこの場から離れてみる。一歩足を後退させれば、後ろにいた何者かにポン、と背中を押さえられた。
振り返れば可憐に微笑むひまりさん。その笑顔は女神もかくや、ラナンキュラスが今この一瞬で咲いたのかと思うほど華やかで愛らしい。
「宗介くん? お客様の対応、お願いね?」
「ハイ」
……そう。このように、ひまりさんが逃してくれないのだ。我が喫茶店アネラに集う人は必ず、誰かに聞いてもらわなければならない悩みを持っている。
それを聞き出すまで接客は続き、放棄すると怒られる。俺はひまりさんに怒られるのだけは避けたかった。
「きっ、貴様ァーーッッ!! 見捨てる気か!! このサークルに入らずカフェオレを二度飲めなくなったこの俺を!!!!!!!!!」
「もう飲めばいいだろ勝手によォ~~」
ついでに風紀委員長も逃してくれる気がないらしい。一話前までは持ってた尊敬の気持ちがパァだよ。デカい声を出すな店内で。奥の部屋にも猫ちゃんがいるんだぞ。
「一回戻さず普通に飲んでください。水滴は拭いておきますので……」
「なっ!?!? やめろ!! どこにこれを置くべきかの指標だぞこれは!!!!!!!」
「テーブルは全面置くために出来てんだ……ですよ~」
俺はどうやら接客業に向いていないらしい。喫茶アネラではやべー客がいなかったので気がついていなかった。どうしよう俺この客と今度旅行なんだよな。
「ほっ、本当に拭くだと!? 貴様今自分が何したかわかって──」
「中間バッシングだボケ!!」
「がぼがぼがぼ」
ええい話が進まん!
一旦ミルクとカフェインを摂取させる。手の中にあったグラスを奪い取り、無理やり口に垂れ流す。当然真面目な委員長は床を汚すまいと飲み始めるので一気に流し込んだ。氷はもう溶けていた。
「っげほ、げほ!! クッ……なんという即断即決、これでもう飲むものが無くなり、俺が迷う必要はないということか……」
「常人なら秒単位で思いつく策ですけどね」
まぁ常人ではないから二十分もカフェオレ一口で粘った訳だが。
「ふむ、まぁいい。では追加の注文だ、アイスカフェ・オ・レひとつ……今度こそ完璧に創り上げてみせる──俺のサークルを」
「お客様の頭蓋骨は電気ケトルであらせられますか?」
この期に及んでカフェオレを頼もうとするな。
呆れ果てたが客は客。注文を取りカウンターへ向かうと、予想していたらしいこうちゃんからアイスカフェオレが手渡された。
「ごめん……ああいう、奴だ……」
「ああ、関わり深いのか……それはまぁ、その……」
「会長とは、反りが合わず」
「世界中の人間と反りが合わないだろあれは」
なるほど、武藤様が毛嫌いする理由も薄々分かったかもしれない。出かけた先で常にこれされてれば俺もめちゃくちゃ邪険にする自信がある。
コルクのコースターも同時に貰い、また周囲をよく見渡せる席へと戻る。
「はい、お待たせいたしましたアイスカフェオレでーす」
「む!! これはコルクのコースター。水滴が浸透するからサークルが分かりやすく置きやすい。なかなか気が利く店なのだな!!」
そうなんだ。すげ~ありがとうこうちゃん。
感心していたら早速と言わんばかりにアイスカフェオレを口にし、そしてなんの問題もなくコースターの上へとグラスを置いた。
──正直拍手喝采をあげ、そのまま風紀委員長の腹に一撃喰らわせても良かったのだが俺は店員のため我慢せざるを得なかった。
仕方ない。本題に入るか……
「ときにお客様」
「む?」
む? じゃないよかわいこぶるな。かわいいな。真面目な人の気の抜けた口癖って時々めちゃくちゃ可愛い。俺はミーハーなので全方位刺さる。キレてはいるけど。
「この喫茶店は不思議なことに、何か強い悩み事──それも、誰かに相談しなければならないものを持つ人が集まる場所です」
「……俺に、悩み事があると」
「ええ、その通りです」
面妖な、と呟く男。否定はしていない。
一つ呼吸が挟まり、そうだな……と、誰に聞かせるつもりもないだろう逡巡の声が漏れていた。
「……元々、お前に相談しようと思っていたのだ」
「俺に?」
「そうだ。むしろ、お前にしか相談できない」
俺、何かこの人の歓心を買うようなことしたっけ。
首を傾げつつも、神妙に聞く。稀代のクソ変人客とはいえ、あの風紀委員長の相談だ。
風紀委員長といえば、この街を支配する最大勢力の族である『音曲噺』の総長──という噂があるくらいである。噂だけど。
ちなみに俺はイブキを配下につけたのでイブキが配下にしてた族のヘッドということになっているらしい。
余計なことをしてくれる。
(噂がホントなら、族の名をよこせ──とかかな)
治安維持に尽力してきたイブキ派が何処かのものになれば、町の治安は一気に崩れる……らしい。
(ま、流石に生徒会がそんな不良集団な訳ないか)
さて、では何を聞かれるのだろうか。一応気合いを入れ直し──
「お前が爛れた関係をあらゆる人種と持つほど性に卓越しているということはよく聞いている」
入れ直、なんだその話は。
「それを見込んで、どうか頼みがある!!」
鈍い音が響いた。風紀委員長が机に頭をこすりつけ、俺に頭を下げていたからである。
「いや、何そんな急──」
「俺は童貞だッッッッ!!!!!!!!!」
「はい!?」
「童貞卒業の方法を──ひいては女子と仲良くする方法を教えてください!!!!!!!!! 師匠!!!!!!!!!」
誰だこいつのこと族のヘッドとか言った奴!!!
……少し持ち上げ、また戻す。また持ち上げ、戻す。
持ち、戻し、持ち、戻し、持ち、戻し。
「……お客様。先ほどから二十分は繰り返しておられますが」
「待て。まだこの……完全に元の場所へと戻せていない!! クソ、なぜこのサークルからズレが発生するのだ……!!」
「オメーーが二十分もうだうだやってっから結露で新しくサークル出来てんだよ」
「ん?」
「何でもありません~」
──丁寧すぎる手つきである。
ちなみに可哀想なカフェオレはまだ一口ほんのりと飲まれただけだった。
店員としてはここまで気難しい上に訳の分からないことをしている客からは離れ、好きにさせておきたかったが。
試しにソッ、とこの場から離れてみる。一歩足を後退させれば、後ろにいた何者かにポン、と背中を押さえられた。
振り返れば可憐に微笑むひまりさん。その笑顔は女神もかくや、ラナンキュラスが今この一瞬で咲いたのかと思うほど華やかで愛らしい。
「宗介くん? お客様の対応、お願いね?」
「ハイ」
……そう。このように、ひまりさんが逃してくれないのだ。我が喫茶店アネラに集う人は必ず、誰かに聞いてもらわなければならない悩みを持っている。
それを聞き出すまで接客は続き、放棄すると怒られる。俺はひまりさんに怒られるのだけは避けたかった。
「きっ、貴様ァーーッッ!! 見捨てる気か!! このサークルに入らずカフェオレを二度飲めなくなったこの俺を!!!!!!!!!」
「もう飲めばいいだろ勝手によォ~~」
ついでに風紀委員長も逃してくれる気がないらしい。一話前までは持ってた尊敬の気持ちがパァだよ。デカい声を出すな店内で。奥の部屋にも猫ちゃんがいるんだぞ。
「一回戻さず普通に飲んでください。水滴は拭いておきますので……」
「なっ!?!? やめろ!! どこにこれを置くべきかの指標だぞこれは!!!!!!!」
「テーブルは全面置くために出来てんだ……ですよ~」
俺はどうやら接客業に向いていないらしい。喫茶アネラではやべー客がいなかったので気がついていなかった。どうしよう俺この客と今度旅行なんだよな。
「ほっ、本当に拭くだと!? 貴様今自分が何したかわかって──」
「中間バッシングだボケ!!」
「がぼがぼがぼ」
ええい話が進まん!
一旦ミルクとカフェインを摂取させる。手の中にあったグラスを奪い取り、無理やり口に垂れ流す。当然真面目な委員長は床を汚すまいと飲み始めるので一気に流し込んだ。氷はもう溶けていた。
「っげほ、げほ!! クッ……なんという即断即決、これでもう飲むものが無くなり、俺が迷う必要はないということか……」
「常人なら秒単位で思いつく策ですけどね」
まぁ常人ではないから二十分もカフェオレ一口で粘った訳だが。
「ふむ、まぁいい。では追加の注文だ、アイスカフェ・オ・レひとつ……今度こそ完璧に創り上げてみせる──俺のサークルを」
「お客様の頭蓋骨は電気ケトルであらせられますか?」
この期に及んでカフェオレを頼もうとするな。
呆れ果てたが客は客。注文を取りカウンターへ向かうと、予想していたらしいこうちゃんからアイスカフェオレが手渡された。
「ごめん……ああいう、奴だ……」
「ああ、関わり深いのか……それはまぁ、その……」
「会長とは、反りが合わず」
「世界中の人間と反りが合わないだろあれは」
なるほど、武藤様が毛嫌いする理由も薄々分かったかもしれない。出かけた先で常にこれされてれば俺もめちゃくちゃ邪険にする自信がある。
コルクのコースターも同時に貰い、また周囲をよく見渡せる席へと戻る。
「はい、お待たせいたしましたアイスカフェオレでーす」
「む!! これはコルクのコースター。水滴が浸透するからサークルが分かりやすく置きやすい。なかなか気が利く店なのだな!!」
そうなんだ。すげ~ありがとうこうちゃん。
感心していたら早速と言わんばかりにアイスカフェオレを口にし、そしてなんの問題もなくコースターの上へとグラスを置いた。
──正直拍手喝采をあげ、そのまま風紀委員長の腹に一撃喰らわせても良かったのだが俺は店員のため我慢せざるを得なかった。
仕方ない。本題に入るか……
「ときにお客様」
「む?」
む? じゃないよかわいこぶるな。かわいいな。真面目な人の気の抜けた口癖って時々めちゃくちゃ可愛い。俺はミーハーなので全方位刺さる。キレてはいるけど。
「この喫茶店は不思議なことに、何か強い悩み事──それも、誰かに相談しなければならないものを持つ人が集まる場所です」
「……俺に、悩み事があると」
「ええ、その通りです」
面妖な、と呟く男。否定はしていない。
一つ呼吸が挟まり、そうだな……と、誰に聞かせるつもりもないだろう逡巡の声が漏れていた。
「……元々、お前に相談しようと思っていたのだ」
「俺に?」
「そうだ。むしろ、お前にしか相談できない」
俺、何かこの人の歓心を買うようなことしたっけ。
首を傾げつつも、神妙に聞く。稀代のクソ変人客とはいえ、あの風紀委員長の相談だ。
風紀委員長といえば、この街を支配する最大勢力の族である『音曲噺』の総長──という噂があるくらいである。噂だけど。
ちなみに俺はイブキを配下につけたのでイブキが配下にしてた族のヘッドということになっているらしい。
余計なことをしてくれる。
(噂がホントなら、族の名をよこせ──とかかな)
治安維持に尽力してきたイブキ派が何処かのものになれば、町の治安は一気に崩れる……らしい。
(ま、流石に生徒会がそんな不良集団な訳ないか)
さて、では何を聞かれるのだろうか。一応気合いを入れ直し──
「お前が爛れた関係をあらゆる人種と持つほど性に卓越しているということはよく聞いている」
入れ直、なんだその話は。
「それを見込んで、どうか頼みがある!!」
鈍い音が響いた。風紀委員長が机に頭をこすりつけ、俺に頭を下げていたからである。
「いや、何そんな急──」
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