王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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密着! 夏休み旅行!

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祭りといえば夜からだと思われがちだが、水明祭は昼頃くらいから開幕する。駐車場誘導のために何人かがはけていき、スタッフでない人が入ってくるので分かった。

「とはいえ一番盛り上がるのは夜だけど」
「ああ、神事があると言っていたな」

金魚(ピースケ?)と戯れていた真道がこちらを向く。真道の面は耳の辺りに花柄があしらわれていた。似合っていなくて面白いが、指摘して外されると困るので何も言わないでおく。

「金魚かわいいー! ねぇママあれやりたい!」
「ダメよ、そう言ってお世話しないじゃない!」

親子の喧嘩している声が聞こえてきて笑いが漏れる。どこの子供も親を困らせるものだ。逆にこう言う喧嘩をする親子は、金魚を大切にするつもりがあるので好感が持てる。

いや、別に金魚売り専門の人ではないけど。ああいう家って親御さんが生き物を飼う責任を分かってる人だから、いざ飼って子供に放置されてもお母さんがお世話するよな。

「懐かしいな、刑部を思い出す」
「えっ、副会長を……!?」
「屋台のハムスターを見て欲しがっていたのだが、お前は生き物を飼う責任を取れるのかと叱ればギャン泣きされてな……本当に子供は不可解だ……」

保護者みたいなことを言うガキだな。深いため息をつく真道に、俺は椅子を揺らしつつ笑う。何歳かはわからないが、多分その歳だったら副会長の反応の方が当たり前だ。

「瑛一は猫についていってよく迷子になって泣くし、そしたら俺が怒られるんだ! 酷い話だろう」
「わはは! そりゃ酷い。真道も偉いじゃんな」

猫についていく武藤様、想像できないけどめちゃくちゃ可愛いな。メルヘンすぎるだろ。

真道の口から語られる“瑛一”はいつも、愛おしく可愛らしく純粋な、厄介ものの天使みたいな子だ。真道にとっては今の武藤様もそうなのだろう。
俺は兄なのでわかるが、手のかかる可愛い子は青年になってもオッサンになってもずっと可愛い子なのだ。

「……真道はさぁ」
「ん?」

遠くの親子に会釈して、何やら機嫌が良さそうにしている真道に声をかけた。
なんだか近くから祭囃子の音が聞こえると思ったら、屋台の隣に設置されたスピーカーから鳴っている。

「俺が武藤様のそばにいるの、嫌なんだよな。多分」
「……難しいな」
「はぁ?」

ちょっと前までめちゃくちゃ警戒してたじゃん。いや、いまの真道があの時と同じとは流石に思ってはいないけど……

「お前に対して信用がないわけではない。むしろその逆だ。カスの勝ち方はするし子供相手に大人げないし喧嘩っ早いが、お前自身は悪い人間ではないと思っている」

いつも真っ直ぐ人の目を見る男は、なぜかふいっと俺から目を逸らした。

「……それに、愛情深い。子供を世話してきたからだろうが、許容範囲が広く……安心する」

モゴモゴと並べられた言葉は、俺が言われたことのないものだった。誰だ、その聖人みたいなやつ。俺か。真道から見た俺ってこうってこと?
俺はそんなに立派な人間じゃないのだが、真道は思ったことしか言わないので本心だろう。

「お前が瑛一に悪影響を及ぼすとは今更思わんな。あれは少し小狡さが足りないから……逆に苦労すると思う。変なことを思いついてウキウキした顔で実行してくるだろう?」
「そんなことは…………えーっと……」
「いや気にするな。あいつは昔からそうだ。思い込んだらまっすぐな上、当たり前のように他人を巻き込むからな」

下を向いてずれたらしいメガネをまた掛け直していた。面の上からかけるからである。どうなってるんだそれは。

風紀委員長といえばこの黒縁眼鏡だが、黒髪アップバングに垂れ目太い釣眉という外見に似合わない。昨日風呂で見た。
こういっては申し訳ないが、真道は外見だけでいえばちょっと軟派な男を演出できるポテンシャルを秘めている。

「お前はよく分かってんだなぁ、武藤様のこと」
「さぁな。俺はアイツよりよほど狡賢いが、アイツは俺よりよほど要領が悪いから……」

なんだか俺の知っているものとは逆である。武藤様より真道の方がずるくて、真道より武藤様の方が要領が悪いって、昔の俺ならなんの冗談だと笑っていただろう。

だって真道は正々堂々ある風紀委員長の鑑、ずるいところなんて一つもない。武藤様は才能に溢れたカリスマ、要領が悪いなんてあるわけない。と。

「ふ。カスの勝ち方も知らんくせにずる賢いとはな、片腹痛いぜ」
「カスの勝ち方は別に知らなくてもいいだろう……ははは! だが、お前に比べれば俺は嘘が下手くそらしい」

楽しそうに笑うやつだ。この男の楽しそうな笑い声なんて、俺は聞いたことがなかった。子供のように肩を揺らすから、俺も楽しい気持ちになった。だってほら、俺の言葉で人が喜ぶと嬉しくない? 嬉しいよね? コミュ障ってそういう経験なきに等しいから。

ああっ脳内の水瀬が『調子に乗るなよ、うんこ』とか言ってる。最近会ってないから水瀬の正論精度が下がってるな。帰ったら喋ろう。

去年はメッセージアプリで通話をひたすら強請っていたが、今年は俺も進化するのである。見てろよ水瀬。

「……だが、複雑だ」
「?」
「俺はお前が、瑛一に良い影響を与えてくれると思う。俺はアイツらを愛しているから、それは多分、至上の幸福だ」

愛してる、ときたか。
そういう感情がないのは分かっている。俺だってみつるに恋愛感情なんて絶対に向けない。でも、勝手に心臓が疼いた。
やっぱり俺の汚い本性は変わりやしない。真道がこんなに褒めてくれるのだって、俺がこれを隠しているからだ。

この感情を知って仕舞えば、きっと二度とは会わせてもらえない。
そうして自己嫌悪に放り込まれていたから、真道が言葉を発する瞬間への反応が遅れた。

「──俺だって、お前にそばにいて欲しいのに」
「えっ」

狐面の奥、アザレアの瞳が子供のようにゆるまって、切なそうに細められる──ような気がした。
その色には心当たりがある。
俺は鈍感じゃない。その感情はよく知っている。

金色の瞳に反射した自分が、同じ熱を湛えていた。

「真ど、」
「おお! お客さんか? ルールを説明するぞ!」

不自然に明るい声が場を切り裂いた。これ以上は触れてくれるなと拒絶されたのだと気がつく。

(な、なんで……)

触れるなと言われたら触れられない。身動きが取れなくなったまま、本格的に祭りが始まる。

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