王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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監禁! 最後の文化祭

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促されて図書委員会のエリアに来た俺たちは、それぞれ好きな本を手に取っていた。

一年教室の一室、お化け屋敷とは全然違った様子で、日の当たる室内で真ん中に本のサンプルがたくさん並んでいる。受付の人は暖かな陽気に眠っていたが、急がしいのだろう。

どうやら図書委員の一人一人が作った本を売っているらしい。何かのゲームの美少女キャラが写っている漫画から、どこかの食文化について研究した辞書レベルの本までさまざまだった。

「あれ、こうちゃんそれ買うの?」
「このゲーム、好き」
「これゲームなんだ!?」

こうちゃんの手にはずっしりとした分厚い本。箔押しに革製表紙の贅沢仕様で、聞いたことがない国の歴史研究書? みたいな物だった。どうして疑問系なのかというと、全編見たことのない文字だからである。

じゃあ何でその情報かとわかるかといえば、それを見た瞬間こうちゃんが嬉しそうに内容を口にしたからだ。

「作中に出てくる文字。おれも、よくは読めない……ただ、少し読んだ限り、文章の破綻、ない。凄いこと」
「へぇー、アイウエオ表とか発表されてるの?」
「……」
「えっ、じゃあ何? 言語表もなく解読して使いこなして一冊書いたってこと……? 歴史書を……?」

こうちゃん曰く、とあるシリーズのさらに一作品、その作品でも更に絞った一勢力の国家の歴史書らしい。当然その国家の文字を使っていて、他勢力の文字とは別のものと。

いや、差分を作った製作陣もすごいけど差分を見抜いて文字解読して習得したこの制作者もすごいな!?!? ファンメイドでできて良いクオリティじゃないぞ!?!?

「す、凄……! すごすぎない!? ファン垂涎ものじゃん! てか読めるこうちゃんも何?」
「書ける人間が、いるとは」
「てかそっかこれ手書きか! 手書きしか使えないもんね、フォント無いんだし…………手書き!? 綺麗すぎる……」

ものすごいものを手に入れている。こうちゃんは懐から財布を取り出し、わっさりと金を出した。止めたいところだがそこまで詳しく無い俺でもこのレア度はわかる。何としてでも手に入れたいだろう。なによりかかった労力ヤバすぎ。

「ほー、流石に凄いなそりゃ。今年の一年はこだわりの強いやつが多い」
「聞いてたんだ、って水瀬お前、結局その小説買うんだ」
「アイツが怪奇小説書いてたのも知らんかったし何より気になる。これ、要するに牢獄の外の描写とかもあるんだろ?」

おお、同じことを考えている。俺も手元に持った小説と地図に視線を落とした。こうちゃんの持っている臙脂の分厚い本の上にも同じ物が置いてある。

「俺はあとはこれかなー、恋愛小説。ボーイミーツガールの純な感じの」
「お前そういうの好きだったか?」
「花音さん……じゃない、知り合いが好きなんだよ。いっつも愚痴ってるもん」
「ああ……『男女の大運命一途キラキラ恋愛がみたーい!』……」
「うおびっくりした」
「似てるなー」

さらっと見た感じ、花音さんの好きそうな完全純愛大恋愛! 愛は世界を救う! みたいな胸キュン正道恋愛小説だったのでこちらも購入。趣味も可愛らしい人である。
花音さんの愚痴に毎日付き合わされている仲間であるこうちゃんは納得したように頷いた。
昔の少女漫画の方が好きだった、キラキラした恋愛がいい、過激でドロドロしがち……とかなんとか。

水瀬は花音さんを知らないので不思議そうにしていたが、こうちゃんの裏声に気を取られていた。わかる、急にでかい声出したからびっくりしたよな。

「すみません、ちょっと購入したいんですけど」

受付の、眠っているふわふわした少年を揺り起こす。気持ちよさそうなところ申し訳ないのだが、俺たちもどこで買えばいいのかわからないので……

揺り起こした途端がばっ! と起き上がった巻き毛の少年は、明らかに顔よりも大きな丸メガネの跡がついていた。ずり落ちそうになるメガネを押さえ、そばかすの散った頬をぽっと染める。

「あわ~、すみませぇん、眠ってしまいましたぁ~。昨日、よく眠れなくってぇ~」

のんびりとした口調は羊のようで、全体的な雰囲気も相まってふわふわしている。毛玉のついたニットを気にすることなく俺たちの手から本を受け取っていった。
表示価格通りにお金も出し──小銭を多めに、お釣りはないようピッタリと。それが一番嬉しいと陽キャくんが言っていた──本を受け取る。

「はぁい、ああ小銭ぴったり、嬉しいですねぇ。それにこの本、僕が書いたんですよ~」
「!?」
「え!? この歴史書を!?」
「はぁい~。地獄みたいな締切でしたぁ」

そりゃよく寝れんわ。あんな分厚い、数百ページにわたる辞書みたいな箔押し歴史書。しかも全部手書き文字だろ? 逆によく出て来れたなここに!!

「ほんとに、早割とか夢のまた夢、馬鹿の締め切り、落丁が一つ落丁が二つ、サンプルを見るたびに増えていく誤字上げるたびに生えてくる表現の間違い」
「お、お疲れ様~……」
「敬意」
「んな羊数えるみたいな……」
「うふふふふふふ~~~~」

闇堕ちしたサ○エさんみたいになった委員の子は、みんなで読んでみてくださいねぇと言語解読入門編のおまけをつけてくれた。ありがとうございます。健康を祈る……

「まぁ、ぼくが死にかけて~、少しでも多くの人に、このゲームの重厚さが伝わってくれれば~……物理的にでも」

物理的なんだ。
なんか凄いな、敬意を持って読ませてもらおう……

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